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ロイズさんにお父様のことを相談する

 昨晩は不思議そうにするフェルをはぐらかしながら、いくつかのことを聞き出せた。


 どうやらフェルから見た私は「黒い髪と瞳をした彫りの浅い性別が分かりにくい顔」らしい。

 性別がわかりにくいというのは、良く言いすぎた。幼い少年っぽいそうだ。髪が短いせいもあるとは言っていた。


 彫りが浅いというと、前世で欧米系の国の人から見た日本人の印象というのを思い出す。

 やはり前世の姿が関係していると見ていいだろう。

 髪型や体格は、今の身体と一致しているらしい。前世の特徴が混じり合っているような感じだった。


 確かに私は前世を「隠している」とも言えなくもない。

 もしかすると、それが理由でフェルの能力が私に通じにくかったのでは? という予想もした。

 前世という最大の隠し事を見破っているために、フェルの能力が他の隠し事を暴けず、結果として通じないという可能性だ。

 そうなるとフェルの能力が通じない条件は「異世界からの転生者」となるが……検証するにも判断材料が足りなすぎる。というよりも、ほぼ不可能だろう。レアケースすぎる。


 私がルーン魔術で姿を隠しているところを見つかったのは、フェルの能力が私の使っていた姿隠しのルーン魔術よりも威力の強い魔法なのだろう。

 どうやら、魔法のルールとして、魔術よりも魔導の方が魔力の使われる効率がよく、結果として効果が高くなる傾向にあるようだ。

 加護持ちが優遇される理由の一つでもある。


 フェルの能力のことを考えていて気づいたのだが、魔導は魔法の一種である以上、その働きには魔力が介在していると考えられる。

 そこで実際に「瞳に映した相手」というのは、どこまで適用されるのだろうか?

 視線を物理的や魔術的なフィルターを通したらどうなるか? 今度、試してみたい。

 どこかゲームの攻略をしてるようなワクワクが止まらない。


 フェルのことはさておいて、お父様とお祖父様の件について今後どうしようか。

 シズネさんにも期待されたことだし、やはり動こうと思う。


 とりあえずは、できることは情報収集か……最終的には、お父様やお祖父様の真意が気になる。

 お父様やお祖父様、もしくはお祖父様の屋敷に古くから勤めている人に話を聞いた方が早いだろうか。

 ただ、あまり馴染みのない人と話すとしても、私の外見年齢みためが問題になりそうだし……せめて、十五歳になっていて、成人していれば、選べる選択肢も多いんだけど。


「お嬢様」

「あ、はい、なんでしょうか?」

「何か気になることでもあるのか? 剣の動きに迷いがあるが」

「うっ、ごめんなさい」


 王都の新しい屋敷の裏庭を使って、ウェイステッド村のお屋敷でやっていたのと同様に、ロイズさんとの朝稽古は続けさせてもらっている。

 それなのに今朝は、素振りをしながら、つらつらと考え事していたせいで、気持ちが上の空になっていた。それが思いっきりバレたようだ。

 ううっ、ロイズさんの視線が痛い。

 私が全面的に悪いので、謝る言葉以外は何も出ない。


「剣術の稽古は、慣れてきた頃が一番危険だ。今日はここまでにしておこう」

「わかりました。ありがとうございました」


 一礼をして、稽古に使った用具を横に片付け、用意していたタオルで汗をぬぐって、水筒から水分を補給する。

 早朝とはいえ、気温は高く、剣を少し振るっただけでも滴り落ちるほどの汗をかいていた。

 以前、稽古に夢中になって水分を取り忘れていたら、倒れそうになってしまった。

 それから、稽古中には水筒の用意を欠かさないようにしている。


「それで何を考えてたんだ?」

「ええと、お父様とお祖父様のことを少し……先日、シズネさんから、お父様の産みのお母様であるケネアお祖母様の話を聞いて」


 その言葉に、ロイズさんが少し眉をひそめた。

 私は、その感情に気づかなかったことにして、そのまま言葉を続ける。


「ロイズさんは、お父様のことは昔から知っているのですよね?」

「そうだな。かれこれ二十年近い付き合いになるか? 一時期、俺がバーレンシア侯爵の警護担当になってお屋敷に通っていたのが知り合うきっかけだな」

「それじゃあ……昔、お父様とお祖父様の間に何があったのか、知っていますか?

 シズネさんが、ロイズさんなら知っているかもと教えてくれたのですが」


 ロイズさんは右手で顎をなでながら、「んー」と何かを思い出すように空中を眺める。


「そうだな。残念ながら、俺も詳しくはわからない。ただ、成人してすぐにケインが軍に入りたい、と俺を頼ってきてな。本人の意思が堅かったし、バーレンシア侯爵からも本人の自由にさせて欲しいと言われて、そのようになったんだ」


 ロイズさんは、芝生に座ると、私にも適当に座るように言う。

 そして、軍では色々なことがあったな、とぽつりぽつりと昔話をしてくれた。

 直接お父様とお祖父様との問題を解決するような話ではなかったが、昔のお父様の人となりを知ることができた。

 ハンスさんやグイルさん、他にも知らない人の名前がいくつも出てくる。

 お父様は、人望があるというか、昔から人に好かれるタイプだったようだ。


「そして、俺が軍を辞める時に、部下として拾ってもらったという感じだな。まったく、人生何があるか分からないな」

「ええ、若いお嫁さんをもらったり、ね?」

「ぶっ。お嬢様…………」

「お茶目な冗談ですよ。しかし、う~ん……」


 お父様が十五歳の頃に何かあったのか?

 こうなると、直接聞いた方が早いかな……どこかにお父様を古くから知っている人はいれば、その人に聞くんだけど。


「……そうだな。お嬢様、良かったら、事情に詳しそうな人に連絡を取ってみようか?」

「おおっ? ロイズさん、お願いできますか?」

「了解。それじゃあ、連絡が取れたら知らせる」

「ありがとうございます」

「いやいや、まぁ、頑張ってくれ」


 それは年下の少女ではなく、同じチームの仲間に告げるようなはげましの言葉。

 シズネさんもそうだったけど、ロイズさんも私に期待をしてくれているんだろうか。


「あ、そうだ。新しいルーン魔術を試してみたいのですが、今晩、夕食の後にちょっとお願いできませんか?」

「うん、今じゃなくて夜がいいのか?」

「ええ、もう朝ごはんになりますし、今回試したいルーン魔術は、きっと夜のほうが都合いいので」

「ふむ、お嬢様がそう言うなら、わかった」


 五年前の告白した日から、たまにではあるが、ロイズさんを相手に、対人を対象とするルーン魔術の検証や訓練に付き合ってもらっている。

 今回もその一環で、新しいルーン魔術を試してみるつもりだ。今回は成人男性であることが必要なので、ロイズさんにお願いすることにした。

 お父様でもいいのだけど、今はちょっと難しい感じだからな。

 それから、シズネさんにも、伯父様夫婦の件で協力してもらおうかと考えている。そのためにも、色々と調べておかないといけないかな。


「おジョーサマ! ごはん、できた!」


 裏庭にジルが私を呼ぶ声が響いた。そちらの方を見ると、ジルが嬉しそうに両腕を万歳の格好で、大きく振りながら、私へアピールしている。

 その少し後ろから、アイラさんもついてきていた。

 二人は、お揃いのメイド服を着ている。


「ジルちゃん、そこは『朝食の準備が整っております』よ?」

「朝食のジュンビがトトのってます!」

「少し惜しいけど、よくできました」

「えへへー」


 アイラさんに褒められて、ジルがはにかむように笑う。

 王都に到着してしばらくして、ジルの社会勉強の一環でアイラさんの手伝いをすることになった。メイド見習いみたいな感じだ。

 ジルは今までの言動から、ちょっとおバカな印象が強いが、物覚えは悪くないし、度が過ぎたワガママを言ったりすることはない。

 オオカミの常識で動くことが多く、人としての振る舞い方を知らないだけだ。

 言ってみて、やってみて、教えてみれば、徐々に問題のある言動は減ってきた。

 母親とアイラさんの尽力もあって、今では、庭掃除をしたり、簡単な料理や洗濯の手伝いをしたり、屋敷の家事に対して立派な戦力となっている。

 それに対抗意識を燃やしたのがリリアだ。

 面白いことに、オオカミ姿だったときのジルには嫉妬心を見せなかったのに、人型になれるようになった途端、ライバルとして認定したようだ。言葉が通じる様になったというのも大きいのかもしれない。

 リックを巻き込んで、リリアも家のお手伝いに積極的になっている。ジルの存在が、良い影響を与えているようだ。


「それじゃあ、ご飯に行きましょうか」

「そうだな」


 なお、新しいルーン魔術の検証は、だいたい成功だった、と思う。

 翌朝、ロイズさんから小さく「また今度、頼むかもしれない」と言われたし、アイラさんがすごく上機嫌だったからな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] いよいよ書籍版第一巻の発売日が迫ってきましたね♪今回の更新お疲れ様です☆(^_^)v おぉ、ジルも成長しているんですね(`・ω・´) アイラが産休の頃には立派なメイドになれるのかな?(´…
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