今後の話と転生者の内緒事
死ぬ!
オレはこのまま死ねる!
「あの、お母様、そろそろ……」
「もうちょっと……ね?」
そんな物欲しげな可愛い顔して実の娘におねだりしないでください、お願いします。
中身は男なんですから、そんな風に頼まれたら断れないんだよ。
今の状況を説明すると、母親がベッドの端に腰を掛け、オレを太腿の上に乗せて、後ろから腕を回してオレのお腹をギューッと支えている。
まぁ、客観的に言うとオレは母親に抱っこされているのだ。主観的に言っても同じだけど。
ついでに、頭なでなで付き。
「うふふ、ユリィちゃんの涙ながらのお願いだなんて、可愛かったわぁ……」
うーわー、恥ずかしぃー、恥ずかしすぎるっ!
もうオレの恥死量はオーバーだよ!
「さて……マリナ、ユリア、そのままでいいから、僕の話を聞いて欲しい」
「なにかしら、あなた?」
「うう……?」
そのままで! まだこの恥ずかしい体勢のままでいろとっ!!
オレの眼差しによる必死の訴えは、父親まで届かなかったようだ。
うん、抱っこしたりされたりで、照れるような両親じゃないのは知ってたさ。
オレが恥ずかしがっているだなんて、父親には想定外なんだろう。
「ロイズさんとシズネさんも聞いてください。僕としては、今ユリアが告白してくれた内容を、この場にいるものだけの秘密にしたいと思います。
特に、ユリアが【幻獣の加護】持ちであることが広まると、色々と面倒なことになりそうですから」
「その意見にオレも賛成だ。
子供なので養子に、未婚の女性だから婚約者にと、【幻獣の加護】持ちというだけで、お嬢様を求める家は多いだろうからな」
場がほどよく和んだところで、父親が提案をして、即座にロイズさんがうなづいた。
「……そうなのですか? 普通は相手の出身とか家柄とか気にしないのですか?」
「家柄を気にするからだ。身内に【幻獣の加護】持ちがいるというのは、それだけで名誉なことなんだよ。
さっき、シズネさんが説明してくれたように【幻獣の加護】持ちというのは希少で、最近じゃ、精霊どころか眠れる神様の寵愛を受けたんだと見なす風潮もある。
どのくらいすごいかと言うと、【幻獣の加護】持ちという理由だけで、王家に嫁ぐことができた農民出身の女性がいたくらいだ」
それって、結構すごいことなのでは?
他人事なら、すごいシンデレラストーリーだな、ですむけれど。
今後の自分に直接関わってくる内容の例え話だ。今更ながら、ちょっと【幻獣の加護】の影響力を甘く見ていたことを実感する。
「補足すると、バーレンシアの本家はそれなりの地位にあって、この国では相当に名の知られている家です。
しかし、僕とマリナはバーレンシア男爵家と言っても、傍流になります。ユリアが【幻獣の加護】持ちであることを誇るよりも、断りきれない養子縁組や縁談を持ちかけられないように動くべきでしょう。
少なくとも、ユリアが成人するまでの十年は、公表は控えたほうがいいと考えます。シズネさんも秘密を守って頂けますか?」
「ああ、〈小さい月の精霊〉の名の下に口外しないと誓うよ」
シズネさんが精霊信仰における誓約の文言を唱える。父親の顔がホッと緩み、再び引き締めてから、オレのほうを向いた。
「ユリア、ああ、えっと、ユリアではなく転生前の名前で呼んだほうが?」
そして、オレに声をかけると同時に、言い淀んで、オレに訊いてくる。
前世の名前か……それは、いまさら、だな。
「いえ、今の私はユリアですから……良ければ、今まで通りユリアの名前で呼んでください」
「ありがとう……。それでね、ユリア……君には、君の力を、君自身のために使って欲しいんだ。
たとえ、僕やマリナが何かを頼んだとしても、君は自分の意志できちんと決断して欲しい……ユリアなら、それができるだろう?」
オレは、父親の問い掛けに、少し戸惑ってしまった。
けど、冷静に考えれば……今のオレは……。
「さっき聞いた分だけでもユリアの能力による影響は計り知れない。
例えば、「宝魔石をほぼ無制限に作れる」と言ってたね? それだけで国に対して、軍事的、経済的な混乱を招きかねないんだ」
危険因子になりうる、と言えよう。
現在、宝魔石は、古い遺跡や自然界でごく稀にみつかることがあるだけらしい。需要に対して供給が全く追いついていない。
宝魔石一個の値段で、だいたい四人家族の平民が数年ほど働かずに暮らせるほどの価値があるそうだ。数千万円クラスと言える。
多くの魔術師が宝魔石がないと魔術が使えないということは、逆に言えば、宝魔石さえあれば好きなだけ魔術師を増やせるということになる。
魔術師が増やせるということは、魔術を使える医者を増やしたり、農業や漁業などの第一次産業の効率を上げて、国力を増加せることもできる。
もちろん、もっとも直接的に軍事力が増強されるだろう。
火薬がなくて、銃も爆弾のない世界で、オレだけが火薬を作り出せたらどうなるか? と言えばわかりやすいだろうか。
魔術師は、戦場において一人で兵士百人分の働きをする兵器になりえるらしい。
宝魔石だけに限ったことではない。
オレの記憶の中には、前世の世界の『発明』が詰まっている。
そして、発明というものは、それだけで、財力にも武力にもなる。
例えば、この世界でマルチ商法を行ったらどうなるだろうか?
前世では、とっくの昔に違法とされた商売である。そして、ほとんどの人がその危険性を認知していた。
この世界においては、禁止どころか、まだ発見されてもいないだろう。
もちろん、そんな悪い発明だけでなく、予防接種に代表されるような人命を救う発明だって多くある。
「もし、気になったことがあれば、今でなくてもいいから、遠慮なくここにいる誰かに相談して欲しい。
僕はユリアの父親だし、ロイズさんやシズネさんだって、ユリアのことが好きなんだから」
父親の言葉に、ロイズさんとシズネさんも、オレの方を見てうなずいてくれる。
オレの表情から、こっちが心細くなっていることを悟ったのだろう。先に手を差し伸べられてしまった。
ああ、やばい。また涙が出そうだ。ぎゅっと目を瞑って涙をこらえる。
少し涙腺が緩んでいるもかもしれない。
「ところで、他に僕たちに話しておきたいこととか、内緒にしていることはあるかい?」
何かあったっけ?
「えーと、あ!」
「な、何かな?」
じっと考えている時に、思いつくと、思わず叫んじゃうことあるよね?
そのせいで、父親が少しビクッとしてしまったのは申し訳ないと思うけど。
「村の子供達に勉強を教えています。その、前世では小さい子供が勉強するのが当たり前の環境だったので、つい」
「まぁ……魔術とかを教えているわけじゃないんだよね? それなら、問題はなさそうかな」
父親があからさまにホッとした様子になる。いや、もうそんな特大の隠し事なんて有りませんから。
「あとは、大したことじゃないと思いますけど。剣術を学びたいですとか、お風呂を造ってほしいですとか、書斎の本を自由に読みたいですとか、ジルは霊獣ですとか、さっきからこの体勢が実は恥ずかしいとか」
他に思いついたことをつらつらと上げてみる。ほとんど、今後して欲しいことばかりだけど。
「ん……? ジルがなんだって?」
「え? ジルはプラチナウルフなので、ちょっと珍しいですよね?」
そういえば飼うのに反対される可能性をちょっと考えて、あえて言ってなかったっけ。
ゲームでもそうだったから、この世界でも霊獣は珍しいと思う。
「え?」
「あらあら」
「ははは……」
「あたしはもう慣れてきたよ。そういうもんだと思って、諦めたほうが楽だね」
父親が焦り、母親は朗らかに笑い、ロイズさんは乾いた声で笑い、シズネさんにはなんか酷いこと言われた気がする。
……ジルの件で、もう一悶着あったけど、詳細は割愛する。




