御前会議
2000年3月4日午前11時
ソビエト連邦首都モスクワ大日本帝國大使館1階応接室
「ようこそ。」
カナとノヴァはシベリア鉄道を乗り継ぎ、モスクワに辿り着いた。その2人を迎えたのは大使の河西千佳と鈴木商店東欧方面本社代表取締役高梨朋恵であった。
「大使と代表取締役直々のお出迎えありがとうございます。」
「いえいえ、とんでも無いです。」
カナの言葉に河西大使は謙遜の言葉を述べた。その中でノヴァは部屋を見渡し呟いた。
「大日本帝國大使館はやっぱり豪華ですね。」
「そうなんです。弊社の鈴木建設による工事です。」
高梨代表取締役はニコニコしながら答えた。誰しも自分の会社を誉められるのは嬉しい。
「その中で話が出来るのは嬉しいです。」
「それでは早速話し合いといきましょう。どうぞ、お座り下さい。」
河西大使の言葉にカナとノヴァはソファーに座った。
「今回救出すべき奥菜恵諜報員はソ連に関する情報を入手しKGBに捕まりました。」
「最後に目撃されたのはモスクワ市内のホテル『モートピア』です。」
河西大使と高梨代表取締役が写真をそれぞれ置きながら答えた。河西大使と高梨代表取締役はそれぞれ先に大使館に居るTTZS諜報員から話を聞いている為に説明が出来る。直接諜報員が話をすれば1回で済むのだが、彼女達も先輩である奥菜恵諜報員を助ける為に今この瞬間も活動を続けている。
「ソ連を崩壊させ、WTOも解体させられる情報。本当にそんな情報があるの?」
カナは写真を手に取りながら呟いた。
「それは確かに微妙ですがWTOも一枚岩では無いのは確かです。」
河西大使がカナの言葉に自信を持って答えた。
WTOが一枚岩で無い理由、それはイタリアが爆弾であった。『アメリカ連邦』がまだ『アメリカ合衆国』の時、西側の主要国はソ連・ドイツ・イタリアであった。しかしアメリカ合衆国で共産革命が起きアメリカ連邦になると主要国は、ソ連・ドイツ・アメリカとなった。イタリアに言わせれば「立場が無い」のである。その為に同じ西側と言えどもアメリカとイタリアは非常に関係が冷えきっている。大日本帝國は其処を狙い1952年からイタリアで東側への寝返り工作を行っている。それは歴代TTZS長官が最優先で取り組むべき課題として受け継がれている。
だがTTOとて安泰では無い。大東亜共栄圏が東亜細亜で有る中で、TTOとして一致団結する必要が有るのである。更にフランスが時たま暴走する事があり、大日本帝國が事態の収拾に追われる事があった。お互いに一枚岩では無いが、未来志向の点ではTTOに分があった。
「それを確実にする為の情報があったのでしょう。とにかく奥菜恵諜報員を助ける必要があります。それに全てが掛かっています。」
高梨代表取締役の言葉にカナとノヴァは大きく頷いた。
午後3時
大日本帝國帝都東京帝居2階
遂に御前会議が開かれた。御前会議こそが大日本帝國の最高意思決定機関となる。ここで決定されれば閣議決定され、帝國議会で可決成立するのである。
「只今より御前会議を始めます。」
宮内大臣の言葉で御前会議が始まった。
昨日行われた緊急の帝國安全保障会議で綾崎総理は、途中退席し帝居へ向かった。そこで麻理亜女帝陛下と謁見し話をした訳だが、そこで2人は『対エジプト開戦』を確認した。クーデターが起こり特使を殺害したエジプトに最早交渉の余地無しと判断し、軍事行動により叩きのめす事を確認したのである。相手がヤル気満々ならこっちが『平和』を念仏のように唱えているだけでは意味が無い。大層な御題目を掲げる暇が有るなら、戦う準備をする方が良いのである。最早大日本帝國は外交交渉での解決を破棄したのだ。
「それでは綾崎総理、お願いします。」
「分かりました。」
宮内大臣に指名され綾崎総理は立ち上がった。
「それでは発言させて頂きます。昨日エジプトで起きましたクーデターとそれに伴うトルコイスタンブールでの6ヶ国協議中の特使暗殺。これはエジプトが確実に外交交渉を破棄したと受け止めれます。エジプト政府は我々が外交交渉で解決しようとした事態を戦争状態にしたのであります。これを我々は黙って見過ごす程、能天気ではありません。そもそもイスラエルに最初に攻撃したのはエジプトです。この事態を作り出した張本人が再び事態を悪化させようとしているのです。大日本帝國は同盟国の安全を保障する義務があります。それに基づき、エジプトへの侵攻・開戦を決定して頂きたい。大東亜共栄圏各国、中華帝國及びTTO加盟国には昨日の電話会談で了承済みです。」
そう言うと綾崎総理は席に着いた。
出席者達はそれを黙って聞いていた。最早採決を採る必要は無いが、それが必要なのである。宮内大臣は口を開いた。
「それでは採決に移ります。来る3月15日を以て開戦する事に反対の方はいらっしゃいますでしょうか?」
宮内大臣の言葉に室内は静まり返ったままであった。
「反対無し。陛下、以上で宜しいでしょうか?」
「許可する。」
宮内大臣の言葉に麻理亜女帝陛下は一言呟いた。
「女帝陛下の御許可が下りました。開戦は決定されました。」
宮内大臣の言葉に出席者は全員立ち上がり、麻理亜女帝陛下に頭を下げた。
午後5時
首相官邸1階記者会見会場
「大日本帝國内閣総理大臣が入られます。」
秘書官の言葉に記者達は立ち上がった。そこへ綾崎総理が颯爽と現れた。
「急にお呼び立てしてごめんなさいね。時間がないから早速本題に入るわね。大日本帝國軍最高司令官である女帝陛下の命令で、海軍連合艦隊第7艦隊・大鳳空母打撃群・瑞鳳空母打撃群・天鳳空母打撃群・皇鳳空母打撃群を中東に派遣致します。以上、終わり。」
綾崎総理はそれだけ言うと記者会見会場を出ていった。残された記者達も慌てて飛び出した。
午後6時
『大日本帝國海軍連合艦隊を派遣。』
この情報は世界中に広がり、大東亜共栄圏各国と中華帝國・TTO加盟国は直ぐ様反応した。連合艦隊常置300周年記念観艦式に参加後寄港していた海軍を、連合艦隊と同時に出撃させ中東に派遣すると宣言した。そして連合艦隊の派遣と同時に大日本帝國軍全軍に極秘命令が下った。
『ニイタカヤマノボレ0315』である。
御前会議では更に大本営の設置が3月14日と決定した。大日本帝國としては中東事変を短期決戦で解決させる考えであった。
つまりこの中東事変が直接第三次世界大戦に繋がらない訳です。
プロローグもまた修正します。