国連への見切り
2000年2月29日午前11時
大日本帝國大阪都国際連合本部ビル食堂
食堂(大英帝国等英語圏ではレストランと呼ぶ)。は本部ビルに1ヶ所しか無く、1階の大部分をこの食堂が占めている。この1つの食堂で世界中の料理が味わえるようになっている。
有原大使は探していたノワール大使を見つけ声をかけた。
「相席いいかしら?」
「これは有原大使。どうぞどうぞ。」
「ありがとう。」
有原大使はノワール大使の許可を貰い席に着くと、給仕がやってきた。
「何時もので宜しいですか?」
「ええ。」
「畏まりました。」
有原大使の注文に給仕は笑みを浮かべながら厨房へ下がった。
「ノワール大使、何を?」「私は天麩羅定食を頂いております。」
「もしかしてその海老は。」
「好物ですので最後の楽しみに残しています。」
「やっぱりそうですか。私もです。」
「有原大使もですか?」
「はい。」
有原大使の言葉にノワール大使は笑った。
「好きなものは最後の楽しみにするのが一番です。」「そうね。」
「はい。」
「……」
「有原大使。」
「!?何かしら?」
ノワール大使が急に真面目な顔で話し掛けて来た為、有原大使は少し驚いて返事をした。
「まだ総会まで1時間もあります。それなのに有原大使は私の所までご足労いただきました。それには何か大きな理由があるのではないのでしょうか?」
「……貴女から切り出してくれて有り難いわ。」
「いえいえ。」
「単刀直入に言うわ。帝國政府は国連での今回の中東事変解決を諦めたわ。」
「!?」
今度はノワール大使が驚いた。大日本帝國政府が国連での解決を諦めたと言うのである。これを聞いたノワール大使の頭には直ぐ様『軍事介入』と言う単語が浮かび上がった。
「と言う事は貴国政府は軍事……」
「大丈夫。軍事介入を決めた訳じゃないわ。」
「安心しました。」
ノワール大使はそう答えると湯飲みのお茶を飲み干した。
「軍事介入では無いと仰いましたが、では国連を諦めてどうします?」
「6ヵ国協議を帝國政府は提案するわ。」
「6ヵ国協議ですか?」
「我が国と貴女の国、イスラエル・エジプト・シリア、そして大英帝国。この6ヵ国で対応を話し合う。これが一番解決する為の近道だわ。」
「成る程。確かに国連総会よりも当事国と関係国だけですので小さく会議が行えます。」
「その通り。是非この提案を受け入れて頂戴。」
有原大使はそう言うと立ち上がり、ノワール大使に対して頭を下げた。
「!?そんな有原大使、頭を上げてください。」
「返事はどちら?」
「……確かに早期解決には的確な提案だと思います。本国に報告して返事をします。」
「ありがとう。」
有原大使はそう言いながら再び席に着いた。
丁度そこへ給仕が料理を持って来た。
「お待たせしました。刺身定食でございます。」
「ありがとう。」
「ごゆっくりどうぞ。」
給仕は有原大使の前に定食を置くと下がった。
「それではお互いの発展を祈りまして。」
「乾杯。」
有原大使とノワール大使は乾杯をし、再び昼食を食べ始めた。
同時刻
帝都東京市ヶ谷軍務省4階大臣執務室
杉原軍務大臣の所へ吉原麻里子事務次官が訪れた。
「大臣、これからですが。」
「……」
「大臣?」
杉原軍務大臣は目を瞑り、今迄の事態を振り返っていた。
新年早々に西側諸国が起こした軍事演習は東側諸国の大きな衝撃を与えた。それにより生じた微妙な対立は東西冷戦の熱戦への変化を匂わせた。そしてそれは的中し11日前にエジプトが突如としてイスラエルに侵攻を開始した。国家の威信に掛けイスラエルはエジプトの侵攻を退けた。しかしエジプトは今尚大部隊を国境沿いに配備している。その事を話し合う国連安保理は結局何も決められなかった。ソ連は当初協力して解決をしようと提案してきた。内部抗争によるツァーリボンバー流出もあり、大日本帝國はソ連が本気でエジプトの再侵攻を阻止しようとしていると判断した。だが実際には天照が調べた通りソ連はエジプト軍部とアラブの光に軍事支援を行い、この事態を長期に渡り混乱させようとしていた。そこで杉原軍務大臣は綾崎総理と麻理亜女帝陛下を訊ねた。そしてソ連の思惑通りにさせない為、国連総会で結論が出そうにないとして有原大使にノワール大使へ6ヵ国協議を要請させたのである。大日本帝國はソ連に時間を与える事をせずにどうにかしてエジプトへの軍事支援を止めさせたかった。
「貴女はどう思う?」
「どうと申されますと……」
吉原事務次官は杉原軍務大臣の言葉に詰まった。
「何でもいいわ。明日の観艦式が終われば何が起こると思う?」
「……多分に推測を含みますが、観艦式後に世界は大きく変わると思います。」「と言うと?」
「冷戦構造の崩壊です。」「大きく出たわね。」
杉原軍務大臣は驚いた。
同時刻
ソビエト連邦首都モスクワクレムリン宮殿執務室
プーチン女帝は資料と睨めっこを続けていた。
「明日の観艦式を境に世界は変わる。特に3月3日からね。」
不敵な笑みを見せながらプーチン女帝は資料を見ていた。
3月3日にエジプトでクーデターが起こるのを知っているのは、プーチン女帝とナージャ国防大臣・チェルシーKGB議長・武器商人アンナとなる。そして皮肉な事に大日本帝國は6ヵ国協議を3月3日開催を予定していた。
「失礼します、同志大元帥お呼びでしょうか?」
ナージャ国防大臣が執務室に入って来た。
「待っていたわ元帥。」
「はい。必要とあれば何時でもお呼び下さい。」
「座って。」
「失礼します。」
ナージャ国防大臣はそう言うと席に着いた。
「元帥、エジプトのクーデターは成功する?」
「軍部とアラブの光がクーデターを実行します。軍がクーデターを行うので、残る警察力では何も出来ません。」
「もし仮にクーデターが成功したら、イスラエルはどう動くかしら?」
「クーデターが成功し急進軍事政権が出来ればイスラエルが採る道は2つです。エジプトが侵攻するのを待って反撃をする。そしてもう1つがイスラエルがエジプトに侵攻する。この2つです。」
ナージャ国防大臣はプーチン女帝の質問に冷静に答えた。
「それに大日本帝國はどう動くかしら。」
「明日で観艦式は終わりますので、大日本帝國は問題無く介入してくると思います。大日本帝國としては大東亜共栄圏設立100周年記念式典まで介入は控えたいと思われます。」
「だけど優先順位は観艦式でそれが終われば介入も出来やすいんじゃない?観艦式は連合艦隊全艦が出るんだから、それまでに介入するのは難しいから。けど記念式典は首脳が東京に集まれば良いわけでしょ?」
「確かに兵力を使う観艦式では介入するわけにはいきません。しかし記念式典も介入すれば規模を小さくしなければならなくなります。」
「そうかしら。あの大日本帝國が開戦したからと言って行事を自粛したり規模を縮小させた事は無いわよ。」
「……」
プーチン女帝の言葉にナージャ国防大臣は言葉に詰まった。
確かに大日本帝國は戦争等に於いて行事を自粛や規模を縮小した事は無い。『全国高校野球大会』は1912年から毎年続いている。何があっても戦争は国外でやることで、経済が戦争に注がれても生活は出来る限り悪化させないようにする。それが行事を自粛したり規模を縮小しない理由になる。
「まあ話より実際に、3月3日を待ちましょう。」
「はい。」
ナージャ国防大臣はプーチン女帝に頭を下げた。