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帝國最高機密

2000年2月28日午前10時

大日本帝國帝都東京霞ヶ関軍務省地階中央電算室


此処は軍務省のみならず大日本帝國の国家機密が存在する部屋である。エレベーターに表示されない階で、全ての階のボタンを押し尚且つ閉まるのボタンを10秒押すと、地階に行くことが出来る。因みに大日本帝國に於ける機密情報の分け方は『部内秘』『秘』『極秘』『軍極秘』『軍機』『国家機密』の順になる。そして更にその情報を見る事が出来るのはそれぞれに『帝國機密階級』が分けられている。第1種〜第10種まで分けられており、第10種帝國機密階級が最高機密の国家機密まで知る事が出来る。因みに第10種帝國機密階級は女帝陛下と総理大臣、軍務大臣・TTZS長官そして一部人間しか与えられていない機密階級である。第9種帝國機密階級までは順当に公務員であれば勝手に与えられる。

そんな特別な人間しか知る事の出来ない物がこの中央電算室には存在する。それは公表されれば世界中が騒然とするに違いない代物だからである。





「お久し振り、天照。」

『お久し振りです。杉原軍務大臣。』


杉原軍務大臣の挨拶に巨大な電算機が返事をした。

そうこの中央電算室に存在する大日本帝國国家機密とは世界最高性能を誇る世界唯一の『量子電算機』の事である。量子電算機天照は軍務省とTTZSが共同開発した世界最高性能の電算機である。世界中のあらゆる電算機に侵入出来、あらゆる暗号を解読可能。気象・株価・世界情勢等を9割9分で予想可能。世間には公表されず第10種帝國機密階級を有する人間しか存在を知らない。気象・株価を予想出来る事から分かるように当初は気象庁と通商産業省が共同開発していた。それが1970年から始まり80年代まで続いた。それを中曽根軍拡により軍務省とTTZSが引き継ぎ1997年に完成した。軍事費から特別会計予算を大量に投入し、大日本帝國の威信に掛けて開発された。その計画はかつての核兵器開発に匹敵する開発計画であった。



「天照、単刀直入に聞くわ。」

『何なりと。』

「エジプトの再侵攻はある?」

『あります。』


杉原軍務大臣の言葉に天照は即答した。

天照は量子電算機であり尚且つ人工知能も有する世界唯一の電算機である。それ故に天照の予想は当たり過ぎる為によっぽどの事が無い限り天照に頼らないように帝國政府はしている。天照もその事を良く理解しておりそのよっぽどの事に対処出来るよう常に情報収集を行っている。


「あるの?」

『はい。』

「詳しく説明して頂戴。」



天照は杉原軍務大臣に説明する為、大型液晶画面に映像を映した。


『ご覧下さい。こちらはソ連からエジプトへ流れた武器の総数です。』


天照は表を映し出した。それには右肩上がりに増大する武器の流れが表示されていた。それも此処数日での量である。


「何これ?」

『闇市討伐で取り逃がしたアンナ商会代表のアンナが総力を挙げてエジプトへ武器の輸出を行っています。』

「今更エジプトを助けるの?」

『違います。』

「違う?何が違うの?」


杉原軍務大臣は腕を組みながら椅子に座った。天照は再び映像を切り替えた。


『エジプト政権では無く、[アラブの光]にです。』

「アラブの光に!?」


天照の言葉に杉原軍務大臣は驚きのあまり椅子から転げ落ちた。


『大丈夫ですか?』

「大丈夫よ。」

『アラブの光です。』

「アラブの光……極右団体が何故。」

『アラブの光は1977年に結成された極右団体です。愛国心が強すぎ、近年はテロ活動に関与しているとも言われます。エジプト政府からも危険団体と認定され取り締まりが行われていました。そのアラブの光にソ連はアンナ商会を利用し軍事援助を行っています。イスラエルへの侵攻が失敗した事によりナターシャ首領は再侵攻を躊躇っています。ですが軍部は再侵攻を求めており、対立が深まっています。それをソ連は利用しアラブの光と軍部にクーデターを起こさせようとしている模様です。』

「……成る程。」

『帝國は3月1日の連合艦隊常置300周年記念観艦式まで介入しないと発表しました。その為ソ連はそれを利用したのです。』

「やられた。観艦式を優先するべきじゃ無かったかしら?」

『それは一概に言える物ではありません。即時介入していたとしても結局はソ連と激突していました。』

「そうね。冷戦に於ける両陣営の盟主が直接ぶつかったら第三次世界大戦になるからね。分かったわ、ありがとう。」

『いえ、こちらこそ。』

「それじゃまたね。」



杉原軍務大臣はそう言うと中央電算室を後にした。







同時刻

イスラエル首都エンサレム首相官邸地下1階コマンドルーム


シルヴィア首相は大型液晶モニターを見つめていた。つい先程まで総理府諜報特務局…通称モサド…長官とエジプトへの対処を話し合っていた。モサドは大日本帝國のTTZSも一目置くほどの組織である。周辺を敵に囲まれたイスラエルは諜報活動の成否が、国家の存亡に直結する死活問題であった。その為イスラエルが諜報機関の強化を行うのは必然的であり、それを怠る事は許されなかった。モサドは1949年に設立されイスラエルを代表する諜報機関に成長する。1954年にモサドは長官以下幹部が大日本帝國を訪問しTTZSとの連携に成功した。TTZSとモサド間の直通連絡網の構築もこの時完成された。モサドはこの連携により最新の盗聴器・探知機・撮影機を手にした。

モサドがその名を世界に轟かせた作戦は『ミグ21強奪作戦』である。この作戦(注1)をモサドは完璧に成功させイスラエルと言う国家を存亡させた。モサド長官が報告した内容、それは天照が報告した内容と同じであった。



「ソ連がアラブの光に軍事援助を……」


シルヴィア首相はモサド長官の言った内容を思い返していた。

ソ連がアラブの光に対して大量の武器支援を行っている事、ナターシャ首領が実は再侵攻を躊躇っており軍部と対立が深まっている事、それを利用しアラブの光と軍部にクーデターを起こさせようとしている事。モサドは事細かに掴んでいた。


「そうなると動き始めないと。」


シルヴィア首相は意を決したように席を立ち、コマンドルームを後にした。







午後1時

ソビエト連邦首都モスクワクレムリン宮殿執務室


プーチン女帝陛下はチェルシーKGB議長と2人だけで話をしていた。


「議長、アラブの光はどうなっている。」

「アラブの光への支援は順調です。予定武器数の90%に達しています。武装蜂起は3月3日です。」

「宜しい。」


チェルシーKGB議長の言葉にプーチン女帝は大きく頷いた。

今の話で大事な内容があった。アラブの光と軍部のクーデターが3月3日に行われるとの事である。


「此れでクーデターとなればイスラエルも決断するでしょう。」

「そう思われます。イスラエル首相シルヴィアは先のエジプト侵攻を防げなかった事、反撃が迅速に行え無かった事を野党に厳しく追及されています。国民の支持率も急落しシルヴィア内閣は思い切った決断を迫られています。それがこのクーデターでその決断を下すでしょう。」

「そうね。」


プーチン女帝はチェルシーKGB議長の言葉に大きく頷いた。







午後2時

大日本帝國帝都東京霞ヶ関国会議事堂本会議場


帝國議会に於いて皇紀2660年度予算案の採決が行われようとしていた。中東での小競り合いにより修正が行われた為、例年より若干遅れての採決となった。例年予算案は各省庁との折衝を行う上で修正が行われるのだが、今予算案は大幅な修正が行われた。修正は軍事費増大が大きく、その代わりに公共事業費や特別会計に於ける各独立法人への予算が減らされた。軍事費は再び総予算の6割を占める事となったのである。



「先程の投票の結果をご報告致します。投票総数677、賛成675、反対2、棄権3、賛成多数により今皇紀2660年度予算案は可決成立いたしました。」



衆議院議長の言葉に議員達は拍手をし、綾崎総理と保坂大蔵大臣は立ち上がり議員達に一礼した。





午後2時30分

首相官邸地下1階危機管理室


来年度予算案可決成立と言う大きな山を越えた為、ようやく中東への対処が集中して行えるようになった。



「総理、エジプトの件ですが。」

「何か分かった?」

「アラブの光と軍事の動きが異様です。」


第10種帝國機密階級を有していない閣僚の為、綾崎総理と杉原軍務大臣・星野TTZS長官は今現在芝居を行っている。


「ソ連はエジプトへ軍事援助を行っています。しかもそれはエジプトでは無く、先程言ったアラブの光と軍部へ行っています。ナターシャ首領はイスラエルへの再侵攻を躊躇っており、軍部と対立が深まっています。これをソ連は利用しアラブの光と軍部に軍事援助を行い、武装蜂起を行わせようとしているようです。そして再びイスラエルへ侵攻させようとしているようです。」


星野TTZS長官の言葉に閣僚達は驚きの表情を浮かべた。


「そして更にイスラエルに於いてもシルヴィア首相は大きな問題を抱えています。国内世論はエジプト侵攻を阻止できなかった事、被害を拡大出来なかった事への批判が大きく支持率が急落しています。野党の批判も激しくもしエジプトでクーデターが起き、急進政権が出来ればシルヴィア首相は攻撃を決定するかも知れません。」

「……」


閣僚達は綾崎総理へ目を向けた。目を瞑り話を聞いていた綾崎総理は意を決したように立ち上がった。


「ちょっとシルヴィアと話してくるわ。」


そう言うと綾崎総理は危機管理室を後にした。

残された閣僚達はただただその後ろ姿を見るしかなかった。





地下3階電話室


綾崎総理は担当官を手で制すとイスラエル直通電話の前に座った。


「シルヴィア首相を。」


綾崎総理は受話器を取って開口一番に言うとイスラエルの担当官は何も言わずにシルヴィア首相を呼びに行った。

数分後シルヴィア首相が出て来た。


『お待たせしました。』

「お久し振りシルヴィア。」

『お久し振りです若菜総理。ご用件は?』

「エジプトでクーデターが起こったら国内世論に任せて侵攻するのかしら?」

『!?それは……』

「良いのよ。隠さなくて。」

『……そう考えました。』「貴女の所のモサドもアラブの光と軍部への軍事援助を掴んだでしょ。」

『はい。よくご存じで。』「TTZSと国家安全保障局があるのよ。」

『規模が違いますね。』

「それは良いの。侵攻についてだけど良く考えなさい。」

『えっ!?それじゃ…』

「また何時かね。」


綾崎総理はそう言うと受話器を置いた。






(注1)この作戦

『ミグ21強奪作戦』

モサドの名声を決定的にしたのが1966年のミグ21戦闘機強奪作戦である。この作戦は1本の電話から始まった。「ミグ21を1000万円で買って貰いたい。」電話の主はパリのイスラエル大使館にこう告げた。女の姪はイラク空軍の操縦士であり、金銭的報酬と親族のイスラエルへの亡命を条件に、演習中にミグごとイスラエルに亡命すると言った。モサドは大英帝国の会社員を装ってバグダッドに潜入し、女と交渉を進めた。イラクから直接イスラエルに飛ぶと、シリア・ヨルダンという敵国の領空を通らないといけない為、イラク北部から一旦トルコに飛びそこから地中海を通ってイスラエルに入る事が計画された。大日本帝國軍はトルコに基地を持つ為、モサドはTTZSに協力を要請した。大日本帝國としてもソ連製の戦闘機情報は喉から手が出るほど欲しかった為、モサドと手を組むことを快諾した。モサドの部隊はイラク北部に住むクルド人と連携し、女の親族を根こそぎトルコに入国させた。作戦の成功が姪の操縦士に告げられた。次の演習に於いて女の操縦するイラク空軍のミグ21が全速でトルコ領内へと飛び去っていった。この作戦の成果は余りにも大きかった。翌67年に第二次中東戦争が勃発した時点で、イスラエルは中東各国に配備されていたミグ21の性能を丸裸にしていたからである。

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