第1部 国連総会
第3章で事態は大きく動き第4章で開戦となります。
午前10時30分大阪都国連本部ビル大総合会議室
九尾狐によるツァーリボンバー奪還作戦から数時間後、国連本部では緊急の国連総会が開かれた。緊急の安保理は結局何も決められず時間だけを浪費するだけであった。それによりブラジル等の第三陣営側が国連事務局に緊急特別総会の開催を提案。緊急特別総会は安保理に於いて結論が出るのに時間が掛かると思われる事に対して、国連加盟国の半数が賛同し緊急特別総会の開催を提案すればその事案を一気に総会が話し合う事が出来る制度となっている。過去に1度だけしか提案されていない制度でもある。その唯一提案された時の事案は1983年に起こった『満州航空機撃墜事件』である。この時も責任の所在で東西両陣営は激しく対立し、安保理では結論が出なかった。そこでブラジルが提案したのが緊急特別総会の召集である。今回もブラジルはこの緊急特別総会で東西両陣営の対立を回避させようと必死であった。
「それでは第172回緊急特別総会を開催致します。」
国連事務総長百瀬由佳中華帝國大使の言葉により総会が始まった。
午後1時
各国政府へ一斉に大日本帝國大使が訪れた。その理由はツァーリボンバー奪還を成功させた事であった。
『各国政府を訪ねた大日本帝國大使はツァーリボンバー奪還について語った。ソ連政府にもエジプト政府にも大日本帝國大使は訪れた。西側陣営政府へ訪れた大使は奪還を伝え、一方的に喋ると帰っていった。東側陣営政府には奪還を伝え、更に質問にも答えた。このツァーリボンバー奪還により大日本帝國にとっては悩みの種が1つ無くなった。しかし中東の戦火は燻っている。それをどのように解決するのか帝國政府は未だに見つけられなかった。』大内美枝著
『もう一度習う日本史〜第三次世界大戦編〜』
同時刻
帝都東京新宿区鈴木新聞本社12階政治部
「国連の状況は!!」
「現在も各国大使が解決を望むしか言っていません!!」
テレビの国連総会中継を見ていた部下が答えた。それを聞いた政治部部長はイラつきながら煙草を取り出した。
「部長!!昨日から禁煙ですよ。」
「ったく。分かってるわよ。」
政治部部長中里優衣はそう言うと煙草を投げ捨てた。それを部下が拾い、中里部長の机に置いた。
「大島から連絡は?」
「まだです。」
「私からするわ。」
そう言うと中里部長は携帯電話を取り出した。
国連本部ビル2階記者控え室
ここは国連取材の記者の控え室となっている。世界中の記者が取材に来るため2階は全て丸々記者控え室であり、ありとあらゆる機材が置かれていた。
ピーピー
「誰からよ。」
大島香苗記者は着信音を聞いてカバンから携帯電話を取り出した。携帯電話は1980年初頭から普及が進み、現在は国民の2人に1人が所有していると推計されている。
「部長か……」
大島記者は画面に表示された名前に憂鬱そうな表情を浮かべると通話ボタンを押した。
「はい、大島……」
「今何してるの!?」
「っ……今は控え室に居ます。」
大島記者は中里部長の声の煩さに顔をしかめながら答えた。携帯電話も僅かに耳から離した。
「控え室!?貴女ね、それでも記者!?大使以外にも話聞ける人いるでしょう!!そんな控え室で遊んでないで早く取材しなさい!!」
「はいはい、分かりましたから切りますよ。」
「ちょ!!大島!!まだ話が……」
大島記者は宣告通り電話を切った。
「怒られる以上のネタ見付けないと。」
そう言いつつも大島記者は弁当を食べ始めた。
午後3時
国境道イスラエル防衛線
大日本帝國の政治的介入により現在エジプトとイスラエルは、国境道で睨み合いを続けてはいるが戦闘には発展せずにいる。この地が再び侵攻されないようにイスラエル軍は着々と防御線を構築している。しかし国連でその国境道を非武装地帯とする案が話し合われている為、イスラエル軍は完璧な防御線では無く即席の無いよりはマシと言える物を構築した。
サラ曹長とアーシア上等兵は水筒の水を飲みながら立ち話をしていた。
「曹長、これからどうなりますかね。」
「国連が何処まで出来るかよね。」
「国連ですか。」
「大日本帝國が本気で解決しよう思うなら国連を余り重視しないと思うけど。」「では大日本帝國は。」
「そんな事は無いでしょう。連合艦隊の300周年観艦式があるからでしょ。」
サラ曹長はそう言うと水筒を片付けた。
「けど誰も戦争なんかしたく無いはずよ。」
「そうですよね。」
「エジプトがあんな事をしなければ、今頃はゆっくり出来たのにね。」
「残念です。」
アーシア上等兵はゆっくりと呟くと目をつぶった。
午後3時30分
首都エルサレム軍事特別区日英異連合軍総司令部作戦室
大日本帝國陸軍第8方面軍司令長官にして連合軍総司令官の早坂中将が本国から緊急帰国した。
「諸君、休暇届けは受け取らないわよ。」
早坂中将は開口一番に言い切った。それを聞いた将官達は苦笑いを浮かべただけであった。緊張を和らげるのに失敗した早坂中将は話題を直ぐ様変えた。
「副司令官、状況は?」
「現在イスラエル軍とエジプト軍は睨み合いを続けています。」
早坂総司令官の言葉にイザベル副司令官は説明を始めた。
「こちらが菊地中将の部隊が捉えた航空映像となります。」
イザベル副司令官はそう言うと指を鳴らした。すると情報士官が大型液晶画面に映像が流された。
「イスラエル軍は現在防衛線を構築しております。ですが国連で非武装地帯を設ける案が話し合われている為、撤去が容易な簡単な防衛線となっています。それに対してエジプト軍は部隊を集結させており一触即発の事態となっています。ですが大日本帝國政府の声明によりこの状態はある程度続くと思われます。」
「総司令官、今後の対応は如何致しますか?」
石川参謀長の言葉に早坂総司令官は一言言い切った。
「対応はただ一つ、連合艦隊常置300周年記念観艦式まで現状を維持させる。」
「ですがそれが出来ますでしょうか?」
モルテ大英帝国陸軍第4軍団参謀長が尋ねた。
「出来る。エジプトはツァーリボンバーと言う切り札を失った今、新たに戦線を拡大させる理由が無い。もしかしたら希望的観測も含むが、この紛争が紛争で終結するかもしれない。個人的には終結する事を切に願うものである。」
早坂総司令官の言葉に誰もが頷いた。確かにエジプトはツァーリボンバーと言う切り札を失った。これにより戦線を拡大させる理由が無い。これを最大限に活用し、イスラエル優位での終結を導かなければならない。
「ですがエジプトには未だにアメリカ連邦のブラックウォーターがいます。それを活用すればエジプトは行けると考えるのでは無いでしょうか?」
菊地総司令の言葉に早坂総司令官は頷いた。
「敵は確かに切り札を失った。だが敵はこれから何をしてくるか分からない。死を覚悟で攻撃を仕掛けてくるかもしれない。かつてアメリカ連邦が敗戦直前に行った特攻のように。」
「確かにその可能性もありますね。」
「そう。前言は理想論である。軍人である以上、戦争は何時でも覚悟しなければならない。」
早坂総司令官の言葉に全員が沈黙した。太平洋戦争でアメリカ連邦が行った自爆攻撃は大日本帝國を驚かせた。最初は急降下爆撃で引き上げが遅れたのかと考えたが、急降下の最中に爆撃をしていなかったうえ急降下の速度も速かった。しかもそれが数十機と続いた為、大日本帝國は漸く自爆攻撃だと判断した。その自爆攻撃は終戦まで続き、連合艦隊に対して少なくない被害を与えた。停戦から10年後の1955年にワシントンモニュメントの隣に特攻隊への慰霊碑を建立し、自らの命を呈して攻撃を果たした1万2000人分の桜の苗木を贈呈した。慰霊碑も桜の木も現在もアメリカ連邦首都ワシントンにある。
「諸君、敵は何をしてくるか解らない。覚悟して事にあたるように。」
早坂総司令官はそう言うと席を立った。それにイザベル副司令官ら全員が立ち上がり、敬礼をする。答礼を早坂総司令官はするとその場を後にした。