連邦女帝の思惑
プロローグを一部修正しました。
終戦5周年記念式典を2007年に変更しました。
此れにより第三次世界大戦は早めに終わります。
午後0時
ワシントンDCホワイトハウス
かつてはアメリカ合衆国大統領が生活する住まいであった。しかし『アメリカ革命』勃発によりルーズベルト大統領は暗殺され、ハル国務長官が最高人民議会議長として君臨する『アメリカ連邦』が建国されたのである。此れは大日本帝國にとっては大きな痛手であった。アメリカ合衆国は大日本帝國のお陰で独立出来たと、認識しており両国の関係は非常に良好であった。『日米安全保障条約』を両国は締結しており、相互防衛が明記されていた。特にアメリカ合衆国は国力が大日本帝國に比べ桁違いに弱いが、『万難を排して国家存亡の危機になっても万が一の時には大日本帝國を助けに行く』と公言していた。
大日本帝國は日本海の反対側に、重要な同盟国を失ったのである。
執務室
一言で『女帝』と言っても大日本帝國とソビエト連邦・アメリカ連邦では全く意味が違う。大日本帝國での女帝陛下は確かに国家の最高権力者であるが、政等は女帝陛下の代理である内閣総理大臣が行う。
一方ソビエト連邦やアメリカ連邦では女帝陛下が国家の最高権力者であると同時に、政等も全て行うのである。此れにより世界各国は大日本帝國流にするか、ソビエト連邦流(アメリカ連邦もソ連を真似たに過ぎない)にするかの2通りしか無い為、はっきりと2つに分かれていた。だが東西両陣営で綺麗に分かれており、第三陣営諸国も大日本帝國流を採用していた。
「さてさて、此れからどうするかな。」
クロエア女帝はお気に入りのワインを飲みながら呟いた。
「エジプトが意外にショボかったから、ブラックウォーターも意味が無くなったわね。となると、このまま睨み合いになるかな。」
「まぁそれも致し方無いと思います。エジプトの国力だけでイスラエルが占領出来る訳がありません。あの国の背後には大日本帝國が存在します。それも垣間見ると、エジプト単独での侵攻は無理があります。」
「それは分かっているわよ。当然よ。あんな小娘が統治する弱小国が占領出来る訳が無いわ。大日本帝國が即介入を表明しなかっただけマシだわ。まあその代わりに第三種警戒体制を宣言したけどね。」
「それでエジプトは生き延びました。ですがそれも何時まで保つか分かりません。」
クロエア女帝の話し相手として呼ばれた、モロン統合参謀本部議長は落ち着いて答えた。『統合参謀本部議長』とはアメリカ連邦軍である、陸軍・海軍・空軍・海兵隊を統括する統合参謀本部のトップである。四軍の上位組織として、統合的な運用を目的として創設された。
更に詳しい組織図を説明すると以下のようになる。
国防長官
┃
統合参謀本部議長
┃
┏━┳━━┻━┳━┓
海 陸 空 海
軍 軍 軍 兵
総 総 総 隊
司 司 司 総
令 令 令 司
官 官 官 令 官
しかし統合参謀本部、そして議長は明確な命令権を有しておらず、たんに指揮系統の統合として創設されたに過ぎない。各軍は各総司令官が指揮する為、統合参謀本部議長は所謂名誉職的な意味合いが強い。事実モロン統合参謀本部議長はアメリカ連邦軍唯一の『元帥』となっている。だが文民である国防長官に次いでの国防省ナンバー2の立場であり、制服組の頂点に君臨する事に変わりはない。『統合参謀本部議長』は確かに名誉職的な意味合いが強いが、輝かしい功績を残さないと就任出来ない軍人の最高位なのである。
「エジプトが今回行った行為は、まさに自業自得の自滅行為と断言出来るわ。」「はい。」
「けどね、それを逆に利用すれば冷戦構造を打ち破る大戦を引き起こす事が可能よ。」
「と、言いますと?」
モロン統合参謀本部議長(以後、モロン元帥と記す)は、この女帝の能力を見定めるように尋ねた。モロン元帥にとってはクロエア女帝と言えども年下の小娘としか思っていない。表面上は忠誠を誓っているが、内心は小娘の戯れ言としか受け取っていない。アメリカ連邦においては真に忠誠を誓うのは祖国だけだと、モロン元帥は考えている。国民の大多数のようにクロエア女帝に対して尊敬の念を抱く事と言うことは、モロン元帥にとっては全くもって思いもしない事である。クロエア女帝に忠誠を誓う位なら、自殺したほうがマシ。カトリック教徒であるにも関わらず、モロン元帥はそう考えていた。それ程クロエア女帝に対する忠誠心は低かった。
「大日本帝國の介入に対して私達も軍を派遣するの。そうすればあっちも必然的に大軍を派遣しなければならなくなるから、結果的に大戦に発展するのよ。」
「成る程、流石はクロエア女帝陛下。見事なご慧眼です。」
モロン元帥は口では称讃しつつ、心の中では呆れていた。
「ありがとう。」
クロエア女帝は上機嫌でワインを飲んだ。
「でもその前に国連安保理が開かれるから、それでまた事態が動くかもしれないから良く考えないといけないわよ。」
「了解致しました。」
モロン元帥は再び無表情で答えた。
「もう良いわよ、帰っても。」
「ありがとうございます、それでは失礼します。」
モロン元帥は立ち上がると敬礼をして執務室を出ていった。
「……クソババアが。」
クロエア女帝はそう罵るとワインをビンごとらっぱ飲みした。彼女はとっくにモロン元帥が自分を嘗めている事をとっくに知っていた。それを承知のうえでホワイトハウスに招待したのである。幾ら私怨はあるとはいえ、モロン元帥は統合参謀本部議長というアメリカ連邦4軍の総帥である。その相手と今後の戦略を話し合うのは重要と考え、今回の会談をセッティングしたのだ。しかしその結果はあまり良い結果とは言えなかった。
クロエア女帝は今後、モロン統合参謀本部議長を相手にしない事を心の中で決めた。
次回何も思い付かなければ、国連安保理に進みます。