第2部 救出要請
更新再開します。
2000年2月19日午前9時
大日本帝國北海道昭和新山中腹
洞爺湖を一望出来る昭和新山の中腹に、一軒家が建っていた。木造家屋で有る為、周囲の風景に見事に溶け込んでいた。
1階台所
台所のテーブルには朝食が並べられていた。1人の女性は椅子に座り新聞を読んでいたが、もう1人の女性は………
味噌汁を運んで来た。
「はい、カナちゃんお待たせ。今日は豆腐とワカメの味噌汁よ。」
「ありがとう、ノヴァちゃん。」
ノヴァと呼ばれた女性は味噌汁を並べた。カナと呼ばれた女性はそれに応えるように、新聞を畳んでテーブルに置いた。
「「いただきます。」」
2人はそう言うと、朝食を食べ始めた。
「ノヴァちゃん、箸の使い方上手になったわね。」
「フフフ、もうナイフとフォークより箸の方が良いわね。」
「初めて会った時は、フォークで御飯食べたもんね。」
「もう!!カナちゃん、昔の事を思い出させないでよ。」
「かぁ〜わ〜い〜い。」
「!?」
ノヴァは顔を真っ赤にさせた。
「フフフ、昨日も可愛かったしね。」
「……昨日は激しかった。」
「今からする?」
カナはノヴァの隣に座ると、耳元で囁いた。
「今から?」
「そう。」
2人は見つめ合うと、口付けを………
出来なかった。
外から聞こえる騒音に、2人のムードは打ち壊された。カナが窓の外を見ると、春嵐輸送ヘリコプターが着陸しようとしていた。
「誰か来るって聞いてた?」
「いいえ。けど、普通のお客さんじゃないわね。」
ノヴァの質問に、カナが答えた。確かに普通のお客さんじゃない。空軍の火龍戦闘機が3機、護衛として警戒飛行をしていた。
「誰かしら、私とカナちゃんの愛の時間を邪魔するなんて。」
「確かにね。」
そんな話を続けていると、春嵐輸送ヘリコプターが着陸した。そこから降りて来たのは………
「TTZS長官!?」
ノヴァがすっとんきょうな声をあげた。
「連合艦隊司令長官も!?」
ノヴァは気絶しかけた。それをカナは支えると春嵐輸送ヘリコプターから最後に降りてきた人物を睨んだ。
「理沙。」
3人はこっちに歩いて来た。カナはノヴァの頬を軽く叩いた。
「大丈夫?」
「大丈夫よ。」
ノヴァは背筋をシャンと伸ばした。
「応接間に通さないとね。」
「確かに。」
2人は味噌汁を流し込むと、準備を始めた。
1階応接間
応接間に3人を迎え入れたカナとノヴァは、コーヒーを持ってくると向かい合うようにソファーに座った。
「伝説の女BIGMOTHERに会えるなんてね。嬉しいわ。」
安田江里香司令長官はコーヒーを一口飲みながら言った。
「ありがとうございます。しかし何故、3人が来たのですか?」
カナはノヴァの髪を擦りながら聞いた。
「花奈絵さん、貴女の助けがいるのです。」
「花奈絵………久し振りに聞いたわね。」
「しっかりして下さい!!」
海軍特殊奇襲部隊群総長佐渡理沙大佐はそう言うと溜め息を吐いた。カナはそんな事を気にせずに、安田司令長官に質問した。
「何があったんですか?よっぽどの事が起こったと思いますが?」
「それは、星野TTZS長官に聞いてみて。」
話を振られた星野TTZS長官は書類を取り出すと話し始めた。
「本名内山花奈絵。元大日本帝國海軍特殊奇襲部隊群第1部隊隊長、最終階級中佐。両親は1995年の阪神淡路大震災で死亡。1991年湾岸戦争でイラク軍の核爆弾製造工場を単独で破壊、BIGMOTHERの称号を受け継ぐ。その後アフガニスタン・ハンガリー・ソ連に単独潜入、破壊工作を実行。1997年に九尾狐を除隊。その除隊後、イラク軍の核爆弾製造工場で助けた、元大英帝国陸軍特殊空挺部隊第1部隊隊員ノヴァ少佐と結婚。ノヴァ少佐は結婚後、大日本帝國国籍を入手内山ノヴァと名前を変えるが、お互い初心を忘れない為ノヴァ・カナと呼び合っている。」
「やっぱりTTZSは凄いですね。何でもお見通し。」
「私の事まで……」
2人は驚いて見つめ合った。
「助けを求める事になりましたから、慌てて調べたんですけどね。」
「成る程。で、要件は何ですか?」
「実はですね、私達の所の諜報員がソ連に捕まったみたいなんです。」
「「諜報員が捕まった!?」」
カナとノヴァは驚きの声をあげた。
「そうです。名前は奥菜恵、第1情報部欧州課所属。これまでに数々の情報を仕入れてきた優秀な部下です。帝國の危機を裏で解決出来たのも、彼女のお陰です。」
「成る程。しかしスパイは捕まればそれで終わりじゃないの。大日本帝國はスパイまで助けるの?」
「確かに通常は助けませんが、今回ばかりは恵ちゃんは重大な情報を掴んだのです。」
「重大な情報?」
カナが首を傾げた。
「入手出来ればソ連は崩壊し、WTOは解体されるでしょう。」
不敵な笑みを浮かべた星野TTZS長官に、ノヴァは脅えたようにカナに抱き付いた。
「分かりました。わざわざ此処までTTZS長官・連合艦隊司令長官・九尾狐総長が来てくれたのですから。救出作戦を行いましょう。」
「ありがとう……」
「ただし、条件が1つ有ります。」
星野TTZS長官が握手を求めようとしたが、カナはそれを制した。
「条件?」
「はい。ノヴァと2人で行きます。」
「私達は2人で1人です。身も心両方のね。」
そう言うとノヴァはカナにキスをした。
「しかし……」
「良いでしょう。BIGMOTHERがそう言ってるんだから。」
「花奈絵さんが言ってるんですから、大丈夫でしょう。」
安田司令長官と佐渡総長が賛同した為、星野TTZS長官は反対出来なかった。
「それじゃあ、行きましょう。詳しい説明をしてもらいたいですから。」
カナの言葉に全員が立ち上がった。BIGMOTHERの戦いが再び始まるのであった。
午前10時15分
帝都東京首相官邸2階執務室
『中東で火の粉が散ってから1日経った。帝國政府は第三種警戒体制を発令し、エジプトがイスラエルへの更なる侵攻を抑止した。しかし此れでは湾岸戦争終結後、1995年に創設した緊急展開軍が全く意味を成さない。綾崎総理は非介入はしない、と宣言したがその間にエジプトがイスラエルに侵攻すればどうするのか?エジプトがイスラエルに絶対に侵攻しないとの、自信が有るのだろうか?何故地中海の戦略潜水艦から巡航ミサイル攻撃をしないのか?キプロス島の空軍と海軍の爆撃機は何故出撃しないのか?大鳳空母打撃群は何故、トラック島に引き返したのか?綾崎総理の安全保障政策は、全く間違っている。最大の矛を引き揚げたのが間違いである。帝國の総理は何故ここまで対応が遅いのであろうか。帝國の元首で有る麻理亜女帝陛下は、何故綾崎総理に大日本帝國軍の出撃を命じないのか?国家国民を守るのが、軍の役目である。此処は連合艦隊常置300周年記念観艦式を中止してでも、中東を平定させるべきである。綾崎総理の誠実な対応を求める。』
2000年2月19日
帝國新聞社説より抜粋
綾崎総理は朝刊を読み終えると、机に置いた。鈴木新聞を筆頭に全国紙を読んだ綾崎総理だが、その顔は非常に厳しい表情であった。
「帝國新聞だけね、即時介入を言ってるのは。」
綾崎総理はコーヒーを一口飲んだ。しかしコーヒーカップを持つ手は怒りで震えていた。
「緊急展開軍の意味が無い。安全保障政策は間違ってる。………ふざけるな!!」
ガチャン!!
怒りに任せて投げ付けたコーヒーカップは、壁に激突し粉々に砕け散った。
「ふざけた事を。観艦式が終われば、盛大に介入してあげるわよ。第三次世界大戦が勃発しようとね。」
綾崎総理はそう言うと、盛大に笑った。
同時刻
栃木県宇都宮市宇都宮陸軍基地
宇都宮陸軍基地は緊急展開軍として有名な、10式旅団戦闘群の本拠地である。
『10式旅団戦闘群が編成された経緯は、湾岸戦争に遡る。湾岸戦争に於いて大日本帝國陸軍は大規模重装備機械化部隊の展開に、多くの時間を費やした。確かに富嶽輸送機を空軍は保有しており、戦力投射数は侮れない物であった。しかし大規模重装備機械化部隊は、召集に時間が掛かり緊急時に於ける輸送・展開力に数々の課題が発生した。かといって当時の緊急展開部隊である空挺部隊では、装備が貧弱で戦術的な運用には機甲師団の支援が必要になってしまう。結果的に湾岸戦争は海軍連合艦隊空母打撃群と第7艦隊の圧倒的支援、強襲揚陸艦の輸送能力の高さ、陸戦隊による海岸線・空港の早期制圧、空軍の富嶽輸送機による輸送、この連携により陸軍はイラクへの侵攻に成功し、見事に勝利する事が出来た。しかし湾岸戦争に勝利したが、緊急展開部隊に対する課題は残された。そこで1992年に以下のような基本方針が決定された。
・重装備の軽量装甲車輌
・戦闘勃発地域に96時間以内で展開可能
・司令部情報を共有可能で、緊急時には独自に戦術情報網から収集した情報に基づいて、作戦が行える情報強化部隊
その後暫定的に、旅団戦闘群の第1段階として8個旅団戦闘群を編成。車輌選定には、1個歩兵分隊を搭載可能で、高機動な装甲車輌とした。開発には鈴木自動車が選定され、1995年に8輪装甲車輌を10式装甲車として制式採用。此れにより10式旅団戦闘群が誕生したのであった。』
浜野景子著
『10式旅団戦闘群誕生物語』より抜粋
基地司令部2階旅団長室
「参謀総長も面白いわね。」
10式旅団戦闘群の旅団長である叶典子大佐は、受話器を置くと一言呟いた。
「内容は何だったんですか?」
10式旅団戦闘群第8装甲連隊連隊長平田葵中佐が尋ねた。
「今回の中東事変で、私達の出番は残念ながら無いって。」
「それだけを参謀総長直々に、連絡してきたのですか?」
平田中佐は驚きの声をあげた。
「それが1つ目。だけど帝國政府は今回の中東事変が、ただの国境での小競り合いで終わるとは思っていないみたいよ。」
「そうでしょうね。」
「2月22日に行われる国連安保理で話し合われるけど、そこで決まっても西側諸国も参加する予備参加で紛糾するわ。」
「するでしょうね。」
「それでゴタゴタが続いたら、6ヶ国協議を帝國政府は提案するみたいよ。」
「6ヶ国協議ですか?」
「そう。大日本帝國・大英帝国・エジプト・イスラエル・ソ連・シリアの6ヶ国ね。」
叶大佐は煙草に火を着けると、一息吸った。
「ソ連は一応、この事態に帝國と協力して解決したいって言ってるけど、これを契機に第三次世界大戦ってのも有り得るからね。」
「第三次世界大戦ですか!?」
平田中佐は唖然とした。たかが国境紛争から第三次世界大戦へと発展するのだから当然であろう。
「参謀総長が言ってたけどね、綾崎総理は第三次世界大戦が勃発するって前提で話を進めてるみたい。」
「第三次世界大戦勃発が前提ですか?」
「そう。3月1日まで大日本帝國は介入しないから、それまでエジプトは戦力を整えられるわ。さっきも言ったけど、安保理・6ヶ国協議は結局何も出来なくて、エジプトのイスラエルへの再侵攻で世界が動くわ。大日本帝國はエジプトに宣戦布告して、大東亜共栄圏各国東側諸国も宣戦布告。此れにソ連や西側諸国が宣戦布告、マジノラインと中華・満州ラインをどうにか破壊して侵攻してくるわ。まあ私達が飛び込む戦場は、エジプトとイスラエルの戦いでしょうけどね。」
あくまで私の予想だけどね、と叶大佐は付け加えると紫煙を吐き出した。
「政治で解決出来れば、私達も楽なんですがね。」
「そらそうよ。軍人が活躍するのは、最悪の場合だからね。」
2人は今一度、政治解決を望むのであった。