表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/52

意思表示

「それではお話致します。」


サラ曹長はそう言うと、説明を始めた。



「日付が変わって少しの事でした。私達は休憩の為に、監視棟に向かってたんです。するとこの子が国境道のエジプト側から、こっちに向かう民間人を見付けたんです。」

「それが貴女ですね?」


篠崎中佐がアーシア上等兵に質問した。


「そうです。するとその民間人は『助けて下さい』って抱き付いてきたんです。」

「『助けて下さい』と言いながら?」

「そうです。」


アーシア上等兵は力強く頷いた。


「私はこの子に保護するように言ったんです。そしてこの子が民間人に近付くと、その民間人は腰に手をまわしました。」

「そして?」

「私は離れるように言いました。」

「でも、いきなりの事で混乱しました。そして、」


アーシア上等兵はそう言って立ち上がると、ズボンを下げて太股を篠崎中佐に見せた。


「撃たれたの。」

「そうです。弾は貫通しましたが。」

「それに違う部下は拳銃を取り出して射殺しました。」

「なるほど。」


篠崎中佐は手帳に状況を書いていく。


「するとエジプト軍が撃ってきて、その部下は射殺されました。罠と気付いた私は撤退命令を出して、この子を抱えて私も逃げました。」

「連合軍司令部情報集中室が傍受した通信は、エジプト軍側の解釈だったのね。」

「そうなります。私達はこの子が撃たれたので、射殺しただけです。」

「エジプト軍は民間人を利用した。その民間人は多分、死刑囚だったんでしょう。どちみち殺すなら、罠に利用すれば一石二鳥だからね。」

「そうなります。」


サラ曹長が頷いた。


「ありがとう。2人の証言は本国に送って、国連安保理での証拠に使わせてもらうわ。」


篠崎中佐は2人に礼を言った。









午後0時30分

首相官邸地下1階危機管理室


危機管理室には篠崎中佐が聞いた情報が届けられていた。


「整理しますと、エジプトの死刑囚を利用した罠にイスラエルが引っ掛かったと言う事です。それにより両国は戦闘に発展した、そういう事です。」


杉原軍務大臣はそう言うと、席に着いた。


「エジプトめ、姑息な真似を!!」

「まあまあ、落ち着いて下さい。」


怒りを顕にする森井内務大臣を松浦外務大臣が宥めた。


「そう言うも何も、エジプトはブラックウォーターと手を組んで、イスラエルに喧嘩を売ったんですよ!?ふざけた奴等は叩き潰すだけです!!」

「これ以上帝國に歯向かう奴等を野放しには出来ません。」


岸大東亜大臣も森井内務大臣に賛同を示した。


「依田軍令部総長、大鳳空母打撃群に命令は下しましたか?」

「はい。大至急、帰国するように命令しました。」


綾崎総理の言葉に依田軍令部総長は答えた。


「帰国させたのですか?」


保坂大蔵大臣が驚きの声をあげた。他の大臣達も驚きを隠せない。


「あら。言ってなかったっけ?」

「聞いてませんよ!!」


杉原軍務大臣が顔を真っ赤にしながら立ち上がった。


「なら説明するわ、座って。」

「……分かりました。」


杉原軍務大臣が座った事を確かめて、綾崎総理は説明を始めた。









午前10時30分

タイ・リンガ泊地北東50キロ海域



現在この海域を世界最強の打撃力を有する、戦闘集団が30ノットの速力で航行していた。その更に中心には中小国を壊滅させる事の出来る破壊力を有する要塞が君臨していた。

この戦闘集団こそ大日本帝國の力の象徴、空母打撃群である。





大鳳空母打撃群旗艦原子力空母大鳳戦闘指揮所



「けど、何で帰国なんでしょうか?」


艦長の佐藤明奈大佐が呟いた。



「何か思い付いたのかしらね。」

「けど帰国ならなんでトラックなんでしょうか?」


司令長官の篠原仁美少将の言葉に参謀長の杉本恵准将が疑問を投げ掛けた。


「確かにそうですよね。トラックは秋津洲空母打撃群の本拠地ですからね。」

「そうなのよ、そこなの。秋津洲の本拠地に行く理由が分からないの。日本海の防衛をこれ以上上げる必要は無いのに。」

「参謀長、日本海と中東ならやっぱり、日本海の方が大事何ですかね。」「友達の庭に獣が入って来て荒らされたから、自分の庭に獣が入って来ないように見張りを増やそう。こういう考えでしょ。」

「なるほど。」

「長官もそう思いますか?」


杉本参謀長は篠原長官に尋ねた。


「多分ね。その考えは間違ってないでしょう。けど、それにもう1つ理由があると思うわ。」

「と言いますと?」


佐藤艦長が尋ねた。


「あの子達よ。」


篠原長官はそう言うと微笑んだ。









午後1時

危機管理室


「ソ連輸送船がエジプトに!?」


保坂大蔵大臣が驚きの声をあげた。


「第1情報部欧州課諜報員からの情報です。先月中旬にソ連輸送船が、ポルトガルのヴィアナドカステロから出港しました。そして現在、その輸送船はアメリカ連邦のロサンゼルスに停泊しています。」

「それを聞いた私は、泳がせる事にしたの。それで今はロサンゼルスにいるでしょ?だから、」

「大鳳空母打撃群を派遣して、未だ搭載している九尾狐にその輸送船を制圧させる。」

「そう言う事。」

「なるほど。」


杉原軍務大臣が納得したように頷いた。


「分かったでしょ?帰国させた理由が。」

「良く分かりました。しかし、中東はどうするのですか?」


七瀬通商産業大臣が質問した。


「3月1日の『連合艦隊常置300年記念観艦式』まで介入しません。」


大日本帝國の政府方針は決定された。









午前5時


イスラエル上空8000メートル



『こちら雷風。敵は2機で首都方面に進撃中。何が目的が分からないけど、とにかく全機撃墜を目指すように。』

「了解!!」


紅龍のパイロットであるペチカ大尉は気を引き締めた。


「少尉、気を引き締めるのよ。」

『了解!!』


アザリク少尉の元気な声が無線から聞こえた。


「頼もしいわね。」


ペチカ大尉はそう言うと、スロットルレバーを押した。紅龍は瞬時に最大速度のマッハ2・2にまで加速された。


彼女達の乗る紅龍は大日本帝國空軍が開発した輸出専用の戦闘機である。開発理由は東側諸国・大東亜共栄圏諸国の要望によるものであった。その要望とは『火龍の費用が高過ぎて、必要数を揃えられない。』と言う内容であり、国防の為なら金を惜しまないイスラエルが音頭を採って大日本帝國に連名で要望したのであった。そこで大日本帝國帝國議会は協議を行った。そして1つの結論に至ったのである。『火龍が高価ならそれより安価な戦闘機を開発すれば良い。』そんな単純明解な結論を出した帝國議会は早速、帝國空軍に開発を指示した。時に1980年の事であった。これから10年後に完成したのが紅龍戦闘機である。小型・軽量・安価で非常に扱いやすい機体となっている。小型である為火龍戦闘機と同等の、機動性を有する戦闘機となった。しかも値段は紅龍戦闘機3機で火龍戦闘機1機分まで下がった。これにより紅龍の輸出は即座に帝國議会で了承された。そして現在に至るのであった。






「少尉、貴女は右の敵をお願い。」

『了承。』


ペチカ大尉は敵機とすれ違うとアザリク少尉に命令した。


「敵も必死ね。」


ペチカ大尉は強烈なGに耐えつつ、急旋回した。空中戦に於いては何時の時代でも、背後に廻るのが一番である。敵もペチカ大尉の背後に廻ろうと必死で旋回する。


「負けないわよ。」


ペチカ大尉はスロットルレバーを引きながら右旋回をした。スピードを出しすぎると、敵の旋回円より大きくなってしまう。そこでスピードを落としながら旋回すると、敵の旋回円の内側入る。ペチカ大尉はそれを狙ったのである。


「ロックオン!!」


ペチカ大尉はそう言うと、ミサイル発射ボタンを押した。紅龍から五月雨中距離対空ミサイルが発射された。

狙われたMiG−23はチャフを放出する。ところがチャフには1つだけ決定的な欠点があった。それは、敵のレーダーの波長に合ったチャフ(フィルムやワイヤーの長さを調節して波長に合わせる)でないと、時には全く機能を果たさない事があるのだ。そしてこの時のチャフがそうだった。エジプト空軍はイスラエル空軍の航空機については全く調査していなかった。

その代償をMiG−23は自らの命で払う事になったのであった。




ドグワァァァァン!!!!





「楽なもんね。」


ペチカ大尉はそう言うと深呼吸をした。戦闘により上昇した血圧を抑える為に、深呼吸をするのがペチカ大尉の戦闘後の儀式となっていた。


『大尉、聞こえますか?返事して下さい。』


無線からアザリク少尉の声が聞こえた。ペチカ大尉はスイッチを切り替えて答えた。


「聞こえるわよ。」

『どうやら終わったみたいですね。』

「そうね。」

『それじゃ、帰りますか。』

「えぇ、帰りましょう。」


2機は基地への帰途に着いた。









午後1時15分

危機管理室


ここへ重大な情報が届けられた。その重大な情報は映像で、危機管理室の大型液晶モニターに映し出されていた。




『大英帝国政府は全軍に対してアタックフェーズ3を発令致しました。これは友人であるイスラエルを支援するべく発令したものです。エジプトは今すぐに剣を納める事をオススメします。そして第2艦隊と第4艦隊をスエズへの派遣命令を下しました。』

『首相!!それは介入する意思表示ですか!?』

『宣戦布告となるのでしょうか?』

『この第2艦隊と第4艦隊のスエズ派遣は、大日本帝國海軍連合艦隊常置300年記念観艦式に出席する為です。スエズ派遣は『通過』が大きな目的ですね。』



「もう良いわ。」


綾崎総理の言葉に映像は消された。


「大英帝国は早くも決断しましたね。」


杉原軍務大臣が呟いた。


「リアもやってくれたわね。」

「と言いますと?」


保坂大蔵大臣が綾崎総理に質問した。



「もうすぐ来るわよ。」

「?」


森井内務大臣が首を傾げた。


「総理!!緊急事態です!!」


10秒もしない内に、コンピューターと睨めっこしていた情報官が叫んだ。



「大英帝国のアタックフェーズ3発令を受けて、サウジアラビア・ヨルダン・シリア・レバノンが警戒レベル3を発令しました!!」

「……最悪だ。」


杉原軍務大臣が肩を落としながら呟いた。


「続報です。トルコ・ソ連・イラン・イラクも警戒レベルを上げました。」


イランは大日本帝國と比較的友好関係にあり、イラクは湾岸戦争敗戦後に大日本帝國の巻き返し政策の一環で経済支援を行った事により、友好関係を築いていた。


「総理、このまま私達が3月1日まで非介入を決め込みますと、世界の火薬庫が爆発してしまいます。」

「………」

「総理!!第三種警戒体制の発令を進言します!!」


綾崎総理は口を閉じたまま答えない。杉原軍務大臣以下、閣僚達は待っている。第三種警戒体制は緊急事態に対しての発令となっている。これに更なる緊急事態が発生すれば第二種警戒体制となり、準戦時体制に突入する。こうなれば大日本帝國軍最高司令官の総理大臣の命令1つで、第一種警戒体制・戦争となる。


実に9年ぶりとなる第三種警戒体制発令の進言である。このような短期間で再び第三種警戒体制が発令されるようになるのは、大日本帝國史上初となる。



「第三種警戒体制を発令する理由は?」

「3月1日までの保険です。我が国がこの日まで非介入を宣言しますと、必ず火薬庫は爆発します。そこで第三種警戒体制を発令して『何かあれば3月1日以前でも介入する』と付け加えれば火薬庫の導火線を切る事が出来ます。」

「……分かったわ。第三種警戒体制発令に反対の人は?」


綾崎総理が最終的に全員の意思確認をする。



全員が無言で首を横に振った。



「決定よ。大日本帝國全軍に対して第三種警戒体制を発令するわ!!」




大日本帝國は保険を掛けたのであった。



大日本帝國は世界の火薬庫が爆発しないように、第三種警戒体制を発令しました。

これに世界はどう受けとめるのか?


大鳳空母打撃群を派遣してのソ連輸送船制圧計画も同時進行します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ