反撃の反撃
午前2時45分
国境道イスラエル防衛線に、援軍の4個師団が駆け付けた。
その援軍の先遣隊としてエジプト陸軍機甲大隊と激突したのが、イスラエル陸軍第2歩兵師団第5機甲旅団第9装甲連隊第13戦車大隊であった。
この第13戦車大隊には国産最新鋭戦車である、メルカバMk4が48輌配備されていた。このメルカバが開発された経緯を説明するには、第三次中東戦争終結まで遡らなければならない。1979年に第三次中東戦争が大日本帝國・イスラエルの勝利に終わってから半年。大日本帝國はイスラエルに1つの提案と1つの許可を行った。『戦車の国産開発』と『ライセンス生産の許可』である。この理由は3度にわたる戦争に、大日本帝國が危機を感じたからである。その危機と言うのが、イスラエル封鎖である。イスラエルは国防軍が装備する兵器の9割を大日本帝國からの輸入品で占められていた。こうなるともしもの時に…イスラエル封鎖…輸入出来なくなり、戦争どころではなくなる。過去3度は、両国の迅速な対応で封鎖と言う最悪の事態は逃れられたが、4度目はどうなるか分からない。そこで大日本帝國はイスラエルに上記2つを提案したのである。
ライセンス生産許可は大日本帝國帝國議会でもすんなり認められた。しかし国産戦車の開発は困難を極めた。開発当初は走攻守均等の戦車として行われていたが、急遽防御性能強化型に変更された。人命重視・最強の防御力を極限まで極めた結果である。そしてその結果1990年に誕生したのが、メルカバMk4である。試作型3タイプの集大成として完成し、最強の防御力を誇るメルカバMk4の初陣が今回の戦闘である。カタログデータだけでは分からない結果が出るのが実戦である。メルカバMk4の実力は如何に?
第13戦車大隊大隊長車車内
「全車に通達。進撃速度そのまま、弾種徹甲弾。攻撃開始!!」
第13戦車大隊大隊長クリス少佐の命令が下された。すると彼女の乗車するメルカバが発砲した。発射したそれは先進運動エネルギー徹甲弾である。俗にAKEと呼ばれる代物だ。
「少佐、陸軍総司令部から連絡です。大日本帝國がZKSのエジプトへの送信を停止したそうです。」
「さすがは大日本帝國。最初の一手を打ったわね。私達も頑張るわよ。」
「了解!!」
「発射!!」
クリス少佐と戦車長ヘレナ曹長の話を聞いていた砲手長が再び引き金を引いた。操縦士は巧みに、メルカバを操っていた。
「敵先頭群撃破!!」
ヘレナ曹長が喜びの声をあげた。
「後続の味方も次々と敵を撃破しています。私達の反撃に敵は手も足も出ていませんね。」
ヘレナ曹長は心底嬉しそうにクリス少佐に言った。
「敵のT−80Uは旧式だからね。勝って当然、私達の反撃が始まるわよ。」
「はい。」
2人は笑顔であった。しかし次の瞬間、2人を悪夢が襲い掛かった。
ドグヮヮヮヮヮヮン!!
突如として、後続の味方4輌が爆発四散した。
「どうしたの!?」
ヘレナ曹長は驚きの声をあげる。最強の防御力を誇るメルカバが、爆発四散したのである。T−80Uの砲撃にしては威力が有り過ぎる。
「敵は一体……」
「!?前方をご覧下さい!!」
操縦士の言葉に、クリス少佐とヘレナ曹長はモニターを見た。
「………冗談でしょ?」
「アメリカの………なんでアメリカのジュリアンがいるの?」
彼女達が言えたのは、そこまでであった。激しい衝撃と突き刺さるような閃光に彼女達の意識は飲み込まれ、二度と蘇る事の無い闇に突き落とされた。
ソ連首都モスクワ 某ホテル室内
1人の女性がシャワールームから出てきた。バスローブも着けず、生まれたままの姿である。そして自分の服から携帯電話を取り出すと、#と*を交互に3回押して耳に当てた。
「もしもし。」
当然ながら女性の声である。
「1人目の掃除完了。」
彼女はそれだけ言うと、携帯電話を切った。相手もそれは承知である。そして携帯電話を戻すと、冷蔵庫から缶ビールを取り出して来てソファーに座った。
「殺す前に、もう少し遊ぶんだったわね。」
彼女はそう言うと、ビールを一口飲んだ。
ベッドには全裸の女性が横たわっており、その首には紐があった。
午前3時15分国境道イスラエル防衛線
4個師団の援軍が到着し、怒涛の反撃を開始したのがイスラエル軍であった。今まで押されっぱなしで、これと言った戦果をあげていなかったが、此処に至って遂に敵の戦車部隊を叩く事に成功した。これに士気を高めたイスラエル軍であったが、思わぬ敵が待ち受けていたのであった。
「発射!!」
サラエイプリル曹長の命名で、アーシアネイル上等兵達部下が、99式無反動砲(ライセンス生産品)を発射した。
「やった!!」
アーシア上等兵が喜びの声をあげる。彼女の発射した砲弾が敵の戦車を撃破したのである。
「良くやったわ。」
「ありがとうございます。」
サラ曹長が労いの言葉をかけた。
「しかしまさかアメリカ軍がいるとは思いませんでした。」
「そうね。アメリカ軍が出てくるとはね。」
2人は塹壕に身を縮めながら話始めた。
「そのジュリアンのせいで、第13戦車大隊が壊滅しました。」
「仕方ないわよ。M1A2ジュリアンは私達のメルカバより強力だからね。やっぱり西側は戦車開発が進んでるわ。」
「確かにそうですね。」
アーシア上等兵は頷きながら答えた。
「戦車部隊が戦っている間に、私達はさっきみたいに側面からジュリアンを撃破するわよ。」
「了解!!」
サラ曹長達は、99式無反動砲を片手に移動を始めた。
エルサレム日英異連合軍総司令部作戦室
作戦室で待機していた将官達に待ち望んだ情報が届いた。
「ご覧下さい。こちらが紫電が送ってきた映像です。」
大日本帝國空軍ベストヘム基地第15航空団総司令の菊地怜中将が後ろの大型液晶モニターを指差した。
「ご覧のように、エジプト軍の再攻勢が始まっています。一時はイスラエル軍が反撃しましたが、その反撃にエジプト軍は反撃を開始した事になります。」
「!?ちょっと待って下さい、そこに映ってるのは?」
連合軍副司令官のイザベルモンロー中将が尋ねた。
「アメリカ軍のM1A2ジュリアン戦車です。」
菊地中将の言葉に、作戦室は騒然とした。アメリカが早くも介入を始めたのである。
「ご心配なく。」
菊地中将がそう言うと、映像は拡大されジュリアン戦車の上部が見えた。
「これは。」
大日本帝國陸軍第8方面軍参謀長石川真理子少将が呟いた。
「そうです。アメリカ連邦の民間軍事会社(PMC)、『ブラックウォーター』の傭兵部隊です。」
「アメリカも落ちぶれたもんね。軍事作戦に、PMCを投入するとは。」
イザベル副司令官が笑いながら言った。
「いえ、頭の良い考えです。」
「どう言う事ですか?」
石川参謀長の言葉に、イザベル副司令官は尋ねた。
「PMC兵なら、アメリカは正規軍を派遣せずとも介入出来ます。負けても民間が勝手にやった、と逃れられます。勝ったら儲け物です。」
「確かに。」
イザベル副司令官もようやく分かったみたいだ。
「しかしこうなってくると、大変な事態になってきますね。」
菊地総司令はそう呟いた。そう、菊地総司令の言うとおりに、事態は混迷の度合いを強めていくのであったのだ。
国境道イスラエル防衛線
「発射!!」
サラ曹長の怒声が響き渡った。ジュリアン戦車は、次々と血祭りにあげられていく。しかし、その一方でメルカバ戦車は囮として、ジュリアン戦車以上に撃破されていた。
「曹長このままですと、被害が大き過ぎます。」
「仕方ないわ。これしか方法はないんだから。」
「分かりました。心を鬼にして頑張ります。」
「その意気よ。」
2人は再び、99式無反動砲を構えた。
戦いは激しさを増していった。