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戦火拡大

大英帝国帝都ロンドン首相官邸


大英帝国は18日の午前0時30分を過ぎたばかりであった。第79代首相リアドラグネールは官邸の寝室で当然ながら寝ていた。



「首相!!緊急事態です!!」


秘書官が寝室に飛び込んで来た。リア首相は寝起きがとにかく悪い。上半身だけを起こすと、目を擦った。


「……どうしたの?」

「イスラエルとエジプトの国境道で衝突です。」

「状況は!?」


リア首相は眠気が吹っ飛ぶのを感じた。まさにその報告は、衝撃的な内容であった。


「イスラエル・エジプト両軍共に、援軍を派遣しました。国境道を中心に戦線は拡大の一途です。」

「分かったわ。今すぐ関係閣僚を集めて、対応を協議するわよ。」

「了解いたしました。」


秘書官はそう答えると、寝室を飛び出して行った。


「ややこしくなるわよ。」


リア首相はそう呟きながらネグリジェを脱ぐと着替え始めた。








ソビエト社会主義共和国連邦首都モスクワクレムリン宮殿


プーチン女帝は午前2時30分にも関わらず、既に執務を行っていた。『睡眠は2時間で十分。』と常日頃言っており、彼女にとってはその2時間でさえも無駄だと考えている。そんな仕事熱心なプーチン女帝の執務室に、秘書官が血相を変えて飛び込んで来た。


「同志大元帥、中東で緊急事態発生です。」

「中東?」


プーチン女帝は万年筆を机の上に置きながら答えた。


「はい。」

「まさかイスラエルが中東戦争を起こしたの?」


プーチン女帝は1967年の第二次中東戦争が頭に浮かんだ。エジプト・シリア・ヨルダンが形成した『イスラエル包囲網』を打破する為、イスラエルが電撃侵攻を行った戦争だ。


「違います。」

「違う?イスラエルが侵攻したんじゃないの?」

「はい。未確認情報ですが、エジプトがイスラエルに侵攻したと。」

「…………」


プーチン女帝は静かに目を閉じた。秘書官はそれを見ると、素早く身構えた。過去の経験から、この後ぶちギレる事が分かるからだ。


「今すぐエジプト大使を呼びなさい!!何なら、逮捕しても良いわ!!」

「わ、分かりました!!」


秘書官はそう答えると、執務室を出ていこうとした。


「待ちなさい。」

「はい?」


ドアを開こうとした秘書官を、プーチン女帝が呼び止めた。


「日本の大使も呼びなさい。」

「日本のですか!?」


秘書官は驚いた。敵国の大使を呼べと言うのだ。そりゃ驚くだろう。


「ピラミッドと砂漠だけの国が、イスラエルに侵攻したなら日本大使も呼ぶのが普通でしょ。エジプトは信用出来ないけど、日本なら出来るわ。」

「分かりました。」


秘書官はそう答えると、今度こそ執務室を出ていった。プーチン女帝は秘書官が出ていくと、深い溜め息を吐いた。


「やれやれ、エジプトのせいで戦争計画が台無しよ。」


プーチン女帝はそう言うと、机の引き出しから一束の書類を取り出した。


「これは必要無くなったわね。またプランの練り直しだわ。」


そう言うとライターを取り出して火を点けると、ゴミ箱へ投げ入れた。




その書類には『第三次世界大戦開戦プラン』と書かれていた。










エジプト首都カイロ首領官邸



午前2時30分を過ぎた執務室に3人の軍トップが訪れた。


「夜分遅く失礼します。」


3人を代表して、陸軍本部長ロース大将が口火を切った。


「気にしない気にしない。これくらい頑張るわよ。」


第64代首領ナターシャは3人にソファーを指差しながら答えた。


「で、状況は?」

「8個師団を援軍として派遣しました。1時間以内に敵と激突します。国境道での戦闘も、私達が圧倒しております。」

「良い感じよ。」

「ありがとうございます。」

「それじゃ、海軍は?」


海軍本部長アリル大将が説明を始めた。


「ダハブ海軍基地から第2艦隊を出撃させました。アカバ湾封鎖は予定通り、午前4時には完了する見込みです。」

「第1艦隊は?」

「流石に止めています。トルコが介入してくる恐れもあります。」

「確かにね。それは止めておかないと。」


アリル海軍本部長の話が終わり、空軍本部長のスカール大将が話し始めた。


「空軍も航空部隊を出撃させました。シナイ半島周辺の航空部隊は到着しましたが、主力部隊はスエズ運河を迂回しなければいけないので、戦場到達が遅れています。」

「スエズ運河国有化が出来なかった欠点が露呈したわね。」

「仕方ないです。『スエズ運河管理公社』の株式は大英帝国と大日本帝國が保有してますからね。国有化を宣言しますと、2ヵ国が侵攻してくるかも知れません。それこそ祖国が崩壊します。」

「仕方ない……か。」


ナターシャ首領は深い溜め息を吐いた。エジプトはそんな状況を打破するべく、イスラエルとの開戦を決意したのである。


「まあ良いわ。それもこの戦争で国有化させるわよ。ロース大将。」

「はい。」


ロース大将は直立して、ナターシャ首領に向き直った。


「越境も許可するわ。とにかくイスラエル侵攻の橋頭堡を築くのよ。海軍・空軍も同様。3軍の総力を結集して、戦うのよ!!」

「「「了解!!」」」


3人はナターシャ首領に敬礼をした。

エジプト3軍は総力を結集して、イスラエルへ侵攻するのであった。









イスラエル首都エルサレム首相官邸


地下1階のコマンドルームでは、関係閣僚が集まり協議を行っていた。


「ど、どうなんですか、状況は?」


第22代首相シルヴィアクリステルが弱々しい声で聞いた。


「現在4個師団を援軍として派遣しましたが、到着まで時間が必要です。」

「空軍も同様です。主力は未だに出撃させれる状況ではありません。」


陸軍総司令官エミリ大将と空軍総司令官オリジン大将が、シルヴィア首相に答えた。なお、イスラエルには海軍は存在しない。答は明解、強大な海軍戦力を保有する大日本帝國が同盟国であるからだ。そして大日本帝國海軍連合艦隊の空母打撃群が必ずスエズ運河を通行する。それがエジプト等に対する、無言の圧力となっていたのだ。1991年にはすぐ近くのイラクが、大日本帝國海軍連合艦隊の空母打撃群に叩かれた。イスラエルやエジプトは空母打撃群の破壊力をこれでもかと言う程見せられたのだ。それにも関わらずエジプトは侵攻してきた。それは何故なのか?


「エジプトが攻めてきた理由は分かったの?」


シルヴィア首相が呟いた。


「分かりません。しかし、敵が私達の国を占領しようとしているのは明白です。国境道での戦闘は押され気味です。最悪の場合敵の越境を許し、橋頭堡を築かれる恐れがあります。」

「なりません!!」

「「!?」」


シルヴィア首相の言葉に2人は驚いた。何せ首相が大声で怒った事は無いのだ。その姿を初めてみた彼女達は、不覚にも震え上がった。それほど怒ったシルヴィア首相は恐ろしかったのである。


「祖国を守る軍人がそんな弱気でどうするんですか!!何なら私が陣頭指揮を執りましょうか!?」

「も、申し訳ありません。」

「私達が頑張りますので、首相はお待ち下さい。」


2人の軍トップは、頭を下げた。


「分かりました。頑張ってくださいね。」


シルヴィア首相は一転して笑顔で答えた。2人は必ず敵を撃退する事を胸の中で誓った。









国境道イスラエル防衛線


「全く。こうも簡単に負けるとはね。」


サラエイプリル曹長は、塹壕の中で呟いた。


「確かにそうですね。機甲中隊が壊滅ですからね。」


アーシアネイル上等兵が答えた。防衛線に配備されていた機甲中隊は、エジプト空軍の空襲により壊滅した。残された希望は、援軍の4個師団と空軍である。


「こんな状況だからね。」


サラ曹長は再び呟いた。


「確かにえげつないですね。自走砲の砲撃も激しさを増すばかりですし。」

「こんな状況でこれ以上戦うのは無理ね。」

「はい。」


アーシア上等兵はそう答えると、双眼鏡を覗いた。


「敵は既に師団規模に発展してますね。たいしたもんです。これに戦いを挑むのは自殺行為です。」

「こうなれば、撤退するしかないわね。」


サラ曹長の言葉にアーシア上等兵は慌てて振り向いた。



「しかしそれは……」

「無理ね。敵は越境するみたいよ。それなら一部でも越境させて、迎え撃ったら良いわ。」

「……どうですかね。」

「敵を迎え撃つのよ?それなら……」

「隊長!!」


2人が振り向くと通信機を背負った通信兵が、中腰で駆け寄ってきた。


「どうしたの?」

「援軍である4個師団が到着します!!」

「時間は?」

「1時間以内です!!」

「決まったわ。貴女は少佐にそれを伝えて。」

「了解!!」


通信兵は再び、中腰で走って行った。


「撤退するわよ。」

「分かりました。」


アーシア上等兵も遂にそう答えた。





シルヴィア首相の考えとは裏腹に、イスラエル軍の防衛線は更に後退するのであった。



中東で火の気が散っただけで、こんなに世界が揺れる事になるとは。

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