シベリア鉄道殺人事件
午後3時
大日本帝國帝都東京首相官邸総理執務室
駐仏大使暗殺により、関係閣僚による会議が開かれた。
「………星野。」
「は、はい!!」
今まで見た事の無い綾崎若菜総理の目付きに、星野明日香TTZS長官は震えている。
「ふざけてるの?」
「い、いえ。」
「じゃあ何故分からなかったの?」
「し、し……」
「はっきり言いなさい!!」
綾崎総理は、そう言いながら立ち上がった。
「し、知っていました。」
星野長官は叫んだ。
「知っていました?」
綾崎総理の目付きが鋭くなる。
杉原真奈美軍務大臣と松浦千恵美外務大臣は、緊張した面持ちで見つめている。
「し、知っていましたは間違いです。正確にはそれらしい情報がありました。」
星野長官はそう答えると、アタッシェケースから書類を取り出した。
その手は恐怖からか、震えていた。
「ソビエト連邦の内部争いに関する資料です。」
杉原軍務大臣と松浦外務大臣も書類に目を通す。
「ソ連は現在、GRU(参謀本部情報総局)とプーチン女帝・KGB(国家保安委員会)・軍の仲が、非常に冷えきっています。」
「そうなの。」
「その情報を掴んだ時に、この事件が飛び込んで来たんです。」
「………」
星野長官は綾崎総理の返事を待つ。
「なるほどね。」
綾崎総理は書類を机に置きながら言った。
「一言で言えば、GRUが暴走した。理由はソビエト連邦と言う国家の責任にして、プーチン女帝を政権から叩き潰す。こう言う事ね?」
「そ、そうです。」
星野長官は答えた。
「これではいくら世界に冠たる、TTZSでも察知出来ません。星野長官に責任は無いのでは?」
杉原軍務大臣が怖ず怖ずと言った。
「そうね。今回は仕方ないわよ。また頑張りなさい。」
綾崎総理は星野長官に言った。
「ありがとうございます。」
星野長官の目が僅かに潤んでいた。
「でも次は気を付けるのよ。次はね。」
「は、はい!!」
星野長官は綾崎総理の背後に、黒いオーラを見た。
(今度こそ、失敗は許されない。)
星野長官は心の中で、そう誓うのであった。
しかし星野長官の誓いも虚しく、第2の暗殺事件が起きたのである。
2000年2月15日午後1時
ソビエト連邦シベリア鉄道
イルクーツク駅を出発し、車両は次の駅へ向かった。
1号車
車掌長室
イザベラ車掌長は仕事も一段落し、昼食前に新聞を読んでいた。
『駐仏大使暗殺事件から3日経過した。大日本帝國政府は、事件の真相は未だに掴めていないと発表している。ただ、西側諸国を疑っているのは確かだろう。大日本帝國は世界一の諜報機関、TTZSを有している。この機関が情報を掴むのも、時間の問題だろう。もちろん私達の祖国、大ソビエトのKGBも、情報収集を開始しているだろう。このような暗殺事件が引き金となり、第三次世界大戦が勃発しない事を祈るばかりである。』
ソビエト日報社会面
「確かにこんな事で、第三次世界大戦にならないでほしいわね。」
イザベラ車掌長はそう言いながら、ミネラルウォーターを飲んだ。
「私だって、平和に暮らしたいからね。」
そう言って昼食を食べようとした時、ミランダ専務車掌が慌ただしく車掌長室に入ってきた。
「イザベラさん、大変です!!」
「どうしたんですか?冷静に言ってください。」
イザベラ車掌長は冷静に聞いた。
「ひ、人が死んでいます!!」
「人が死んでる?」
「はい。」
ミランダ専務車掌も冷静に答えた。
「何処でですか?」
「特別車両です。」
「特別車両………」
イザベラ車掌長はそう言うと、腕を組んで何かを思い出そうとした。
「大日本帝國のトヨタ自動車社長が乗ってるじゃない!!」
イザベラ車掌長がそう叫びながら、立ち上がった。
「ミランダさんは、鉄道医師のクリスチーヌさんを、呼んできて下さい。私は先に、特別車両に行きます。」
「分かりました。」
2人は車掌長室を飛び出していった。
特別車両(13号車)
シベリア鉄道を走る車両は、14両編制である。
先頭は機関車であり、その後続に13両の車両が続く。
その1番後ろの車両が特別車両である。
これは金持ちのVIP専用で、今回はトヨタ自動車社長が乗っていた。
特別車両に駆け付けたイザベラ車掌長は、入り口のドアを開けた。
入り口は何も変わっていない。
イザベラ車掌長はシャワールームに入ってみた。
しかし、そこにもいなかった。
そこでイザベラ車掌長は、寝室に入った。
「なっ!!」
ベッドの上に死体があった。
1体は全身が血だらけで、もう1体も血が付いていた。
「トヨタ自動車の社長と、秘書………」
イザベラ車掌長はそう呟いた。
そこへミランダ専務車掌とクリスチーヌ鉄道医師が入ってきた。
「イザベラさん。」
「クリスチーヌさん、こちらを。」
クリスチーヌ鉄道医師は、ベッドに近付き、死体を見た。
「2人とも、死んでますね。」
「そうね。」
イザベラ車掌長とミランダ専務車掌は、深い溜め息を吐いた。
「完全に死んでますね。」
クリスチーヌ鉄道医師は、そう言った。
「社長さんの方は、心臓に1発。身体中に6発、合計7発が撃たれています。」
「秘書さんの方は、これと言った外傷は無いです。しかし、近くにあった10円玉を口に入れたところ、錆がきれいになりました。これから判断すると、青酸中毒死だと思われます。」
クリスチーヌ鉄道医師の言葉に、イザベラ車掌長とミランダ専務車掌は再び、深い溜め息を吐いた。
「これは何でしょうか?」
ミランダ専務車掌が、机の上を指差した。
そこには9ミリマカロフ弾が1発置かれていた。
「なぜマカロフ弾が?」
「さあ?」
イザベラ車掌長とクリスチーヌ鉄道医師は、首を傾げた。
「何か理由はあるのでしょうか?」
ミランダ専務車掌の言葉に、2人は顔を見合わせた。
3人は、駐仏大使暗殺の詳細を知らない。
その詳細を知っていれば、3人の対応は変わっただろう。
次回予告
ソビエト連邦のKGBが遂に一連の暗殺事件の真相を掴んだ。プーチン女帝は綾崎総理と電話会談を行い、事後処理について話し合うのだが………