第2部 闇市討伐
2000年2月9日
タジキスタン・パミール高原郊外
「大尉、どうですか?」
岩に身を隠しながら神崎成子少尉は、隣で双眼鏡を覗いている女性に声をかけた。
女性、桜木亜美大尉が覗く双眼鏡の先には、殺風景な荒野が広がっていた。
この殺風景な荒野に今日は多数の大型テントが設置されている。
そのテントには上は戦車から下は拳銃まで、様々な兵器が並べられていた。
俗に闇市(海外ではブラックマーケットと呼ばれている)の様相を呈していた。
「やるわね。流石はアンナ商会。東西の最新兵器が並んでるわ。」
アンナ商会とはタジキスタンの武器商人、ペトロスカヤ・アンナを中心とする組織の通称である。
この背後には、ソビエト連邦が存在すると言われている。
さて、何故いきなりこうなったかと言うと。
事の発端は、先月20日からである。
TTZSが闇市開催の情報を掴んだのである。
闇市は近年台頭し始めた国際テロ組織に対しての販売が主なため、これを断固として阻止する必要がある。
しかもこの作戦を成功させれば、テロ組織の戦力増強を阻止出来るし、ソビエト連邦の重要な外貨獲得も阻止出来る。
そこで九尾狐を投入し、闇市討伐を行うのである。
「少尉、準備は良い?」
「準備万端。全て計画通りです。」
双眼鏡を腰の小物袋にしまうと、桜木大尉は88式自動小銃を手に取り言った。
「作戦開始よ。」
ペトロスカヤ・アンナは常連客を見付け、声をかけた。
「ニコール様、いつもご贔屓にしていただき、誠にありがとうございます。」
「アンナさん。跪け!!さあ、どうぞ。」
ニコール女史は、アンナに男の背中に座るように言った。
「今日はまた違ったペットですね?」
「フフッ、そうでしょ?まえの糞は死んだから、違うのをね。そうだ!!アンナさんも1匹如何かしら?」
「いえいえ、私は結構です。ペットのしつけが大変ですから。」
「そうよね。この糞も、なかなか言う事を聞かないから近いうちに、処分するわ。」
「それが宜しいです。なんなら、その処分する為の拳銃は如何ですか?」
「フフフ、相変わらず商売上手ね。」
「いえいえ。」
「まあ良いわ。5つ貰うわ。」
「ありがとうございます。」
アンナは男の背中から立ち上がり、ニコール女史に頭を下げた。
ニコール女史。
ソビエト連邦の男売春組織の黒幕である。
ニコール女史の考えでは、もはや男は人間では無い。
「それではこちらへ。」
アンナはニコール女史と一緒に、銃火器が展示されているテントに歩きはじめた。
そこで突然、ソ連製の装甲車4輌が爆発した。
「何!?何なの!?」
アンナは叫んだ。
マーケットのあちこちでも、爆発は続く。
明らかに攻撃であった。
「アンナ様!!」
アンナの部下で、ナンバー2のエレノアが走って来た。
「エレノア、何があったの?」
「敵の攻撃です!!アンナ様は、ニコール様とお逃げ下さい。」
「アンナさん、滑走路に私のプライベートジェットがあるわ。急ぎましょ。」
「分かりました。エレノア、後は頼んだわよ。」
「お任せください。」
エレノアは2人の車を見送った。
どうやら敵は、マーケットへの攻撃に集中しているようだ。
これなら2人は無事に、逃げられるだろう。
エレノアは肩に掛けていたAKMを構えると、部下にライフルの安全装置を外すように命令した。
「彩名ちゃん、あっちの戦車も壊して。」
「了解!!」
闇市の商品を吹き飛ばしたのは、無反動砲だった。
桜木大尉と神崎少尉の行動を、加藤真紀少尉と酒井彩名少尉が99式無反動砲で支援するのである。
「彩名ちゃん、どう?」
「戦車は吹き飛びました。近くの燃料と弾薬も誘爆しています。」
「分かったわ。引き続き、攻撃を続行するわ。」
「了解!!」
加藤少尉と酒井少尉は、再び無反動砲攻撃を開始するのであった。
無反動砲攻撃が続く中、銃撃戦が始まった。
警備兵はこれまで商売敵との抗争は経験してきたが、正規軍とは当然ながら初めてだ。
相手が同じマフィアなら無敵の彼女達だが、職業軍人相手では話が違う。
桜木大尉と神崎少尉は1斉射ごとに、位置を変えるため、警備兵達は混乱していた。
火点も把握出来ず、相手の数も分からないのだ。
「どこにいるのよ!!」
「撃つのよ!!」
ついには発狂し、あたりかまわず乱射する者も出てきた。
その為、味方や大切なゲストが次々と倒れていった。
それにはニコール女史の、ペットも含まれていた。
「落ち着きなさい!!冷静になるのよ!!」
エレノアが怒鳴る。
これにより警備兵達も、パニックから回復していった。
しかしパニックから回復するのが遅すぎた。
貴重な商品は破壊され、バズーカはこっちにまで攻撃を始めた。
「良い?敵の居そうな所を撃つのよ。とにかく、乱射はしない事。」
エレノアは指示を出した。
元ソ連陸軍少尉だけある。
しかし残念な事に、撃つ所撃つ所が桜木大尉と神崎少尉が、移動した後であるのだ。
否応なしにエレノアの部下は倒れていく。
「敵の指揮官は元軍人ね。」
桜木大尉は、敵の立ち直り方から分析して、結論を出した。
「けど所詮は、マフィアよ。私達職業軍人相手に、勝てるはずがないわ。」
そう言いながら、88式自動小銃に新しい弾倉を装填する。
「早いとこ、終わらせるわよ。」
桜木大尉はそう言うと、再び攻撃を始めた。
女性の頭を桜木大尉が放った銃弾が、吹き飛ばした。
これにより、敵の抵抗は終わった。
「撃たないで!!降伏するわ!!」
生き残った5人の警備兵は、小銃を地面に置くと手を上げた。
エレノアは混乱に紛れて、マーケットから離れた。
そしてバイクに乗ると、滑走路へと向かって行った。
「大尉、任務完了ですね。」
神崎少尉が、桜木大尉に言った。
「そうね。皆も無事だから、任務完了。家に帰るわよ。」
「「「了解!!」」」
3人の女性は嬉しそうに、返事をした。
その後、桜木大尉達はトラックでホローグと言う街へ移動。
そこから空路で、アフガニスタンの首都カブール・パキスタンの街グワーダルに移動。
そこから春嵐輸送ヘリコプターに乗り、アラビア海に遊弋している、大鳳に帰還した。
大鳳空母打撃群は丁度、世界1周航海に出ていたため、回収部隊として2日前からアラビア海に待機していた。
大鳳長官室
食事と入浴を済ませた桜木大尉は、大鳳の長官室にいた。
そこには大鳳空母打撃群司令長官の篠原仁美少将と参謀長の杉本恵准将、大鳳艦長佐藤明奈大佐が待っていた。
「やっぱりこの艦は凄いです。立ち寄ったどの街より、大鳳の方が福利厚生が整っています。」
「もちろんよ。大日本帝國海軍は世界で1番、乗員の福利厚生に気をつけているわ。」
佐藤艦長が胸を張りながら答えた。
「まあそれは置いといて、闇市討伐作戦お疲れさま。」
篠原長官が労いの言葉をかける。
「ありがとうございます。」
桜木大尉は頭を下げた。
「けど残念な事に、数人逃げたみたいよ。」
篠原長官の言葉に、佐藤艦長が衛星写真を桜木大尉に渡した。
「双発ジェットとレシプロ機が1機ずつね。ソ連方面に向かってるわ。」
篠原長官の言葉に、桜木大尉は考え込む。
「双発ジェットは多分、アンナが乗っているでしょう。レシプロ機には警備兵の指揮官が乗っていると思われます。」
「そう。まあ良いわ。今回の目的は闇市討伐だったからね。桜木大尉。帰国までゆっくりしてね。」
篠原長官が言った。
「分かりました。ありがとうございます。」
桜木大尉は頭を下げた。
次回はどうなるか?