極東艦隊司令部にて
2000年1月11日
午前9時
ソビエト連邦ウラジオストク
ここはソビエト海軍極東艦隊の本拠地である。
東側陣営の盟主大日本帝國に1番近い拠点にも関わらず、極東艦隊に配備されている大型艦はキーロフ級4番艦ユーリアンドロポフだけである。
その他に配備されているのは、ソブレメンヌイ級とウダロイ級だけである。
主力のソヴィエツキーソユーズ級・アドミラルクズネツォフ級・スターリングラード級・キエフ級は全て、黒海艦隊と北洋艦隊に配備されている。
タイフーン級も極東艦隊には配備されていない。
極東艦隊司令部は、ウラジオストク港を見下ろす高台にある。
極東艦隊司令部長官室
「本当に?」
「はい。統合参謀本部総長直々の連絡です。黒海艦隊からソヴィエツカヤロシアとマキシムゴーリキー・ミロリュビエツが私達の極東艦隊に配備されます。」
「これでGFに太刀打ち出来るかな?。」
極東艦隊司令長官のメルエリフィルチ中将と参謀長のルーベラウ少将は溜め息を吐いた。
2人は極東艦隊に異動させられてから、戦力強化を要請していた。
それが遂に受け入れられたのだ。
「まあ太刀打ちと言っても、空襲と艦砲射撃を各1回行えれば良いです。」
「そうね。GFに1番近い拠点だからね。私の艦隊は開戦となれば1週間で壊滅するわ。」
「しかし、同志中将……」
メルエリ長官は、手をかかげた。
「よして。大日本帝國海軍GFと戦うのよ?こんな極東の艦隊なんか、支援もこないわよ。捨て石よ。」
メルエリ長官はそう言うと、椅子に座った。
「………確かに同志中将の言われる通りですね。こんな離れた所に支援に来るはずが無いですね。」
「フフフ、まあ良いわ。こんな悲惨な事ばかり考えていたら、部下のやる気にも影響が出るわ。唯一の救いは徴兵制が廃止されて、職業軍人だけになったって事ね。」
「そうですね。プーチン女帝陛下のご英断でした。」
「そうよ。」
メルエリ長官は棚からウォッカを取り出した。
そしてグラスに注いだ。
「まあ、固い話しはちょっと忘れて。」
「頂きます。」
ルーベ参謀長はそれを受け取った。
「ちょっと休憩よ。乾杯。」
2人はウォッカを飲んだ。
30分後
「さてと。開戦となった時の戦略を考えましょうか。」
「分かりました。」
ルーベ参謀長は、地図を机の上に広げた。
「先程お伝えしましたが、新しく3艦が極東艦隊に配備されます。フォールト戦艦ソヴィエツキーソユーズ級4番艦ソヴィエツカヤロシア。正規空母アドミラルクズネツォフ級3番艦マキシムゴーリキー。原子力弾道ミサイル潜水艦タイフーン級4番艦ミロリュビエツ。この3艦です。これで現在私達の極東艦隊旗艦原子力フォールト巡洋艦キーロフ級4番艦ユーリアンドロポフと合わせれば、少しばかりはGFに太刀打ち出来ると思います。」
フォールトと言うのは、大日本帝國が開発したイージスシステムのような物である。
東西両陣営が艦隊防空システムとして開発したのは非常に面白い。
なお、イージスシステムを搭載しているのは大日本帝國と大英帝國。
フォールトシステムを搭載しているのはソビエト連邦とアメリカ連邦。
西側の盟主ソビエト連邦が陸軍国家であるのに、フォールトシステムを開発したのも面白い事である。
「けど3艦増えただけで、太刀打ち出来るかしら。ソヴィエツカヤロシアの主砲は40センチよ?GFのヤマト級は51センチ。アメリカ連邦のモンタナ級もヤマト級に1撃で轟沈されたわ。いえ、もしかするとヤマト級が出るまでもなく、タイホウ級の艦載機攻撃でやられるかもね。」
メルエリ長官は再び、ウォッカを飲んだ。
「確かに同志中将の言う通りですが、やれる事はやれると思います。」
「少しならね。ミロリュビエツでトマホーク攻撃を行えるかな。けどあれでしょ?大日本帝國は、世界中の海底に『海底敷設型聴音機』を巡らしてるんでしょ?」
「そうです、同志中将。大日本帝國はその海底敷設型聴音機で潜水艦のみならず、水上艦船の航行まで把握しています。それに偵察衛星『ヒショウ』でセンチ単位で地上を監視しています。当然、新しく配備される3艦も察知されているでしょう。」
「まあ仕方ないわ。その海底敷設型聴音機の敷設に、反対しなかった我が国自信にも責任はあるわ。」
「はい。」
「さてと。もう終わりよ。今日は飲みに行きましょう。」
「分かりました。」
2人は長官室を出ていった。
午後3時
大日本帝國北海道にある千歳空軍基地。
ここには帝國空軍で2番目の規模を誇る、第2航空団が置かれている。
その第2航空団の主力は帝國空軍の誇る世界最強の制空戦闘機火龍である。
また火龍は第4・5世代戦闘機でもある。
この火龍戦闘機が配備されたのは、1975年。
この火龍戦闘機が開発された経緯は、1965年のTTO軍事演習から始まる。
当時帝國空軍はジェット機登場以来、高出力による高速化・ミサイル万能主義による大型化・機動力軽視、これによる戦闘爆撃機の配備が進められた。
しかしこの方針は、1965年のTTO軍事演習によってご破算となった。
大英帝國が装備した小型戦闘機に対し、帝國空軍の刃龍戦闘機は苦戦を強いられた。
空対空ミサイルも命中率は低く、格闘戦に入ると大型化・戦闘爆撃機化した帝國空軍戦闘機は、軽量小型の大英帝國戦闘機に翻弄された。
この軍事演習に加え、ソ連空軍の次世代高性能戦闘機の存在が明らかになり、大日本帝國はいかなる戦闘機も空中戦で圧倒する制空戦闘機の開発を決意した。
それが火龍なのである。
1971年に試作機が初飛行。
火龍は、チタニウム合金を始めとする新素材による機体構造、新型ターボファンエンジン2基による高出力と、三角形式の広い翼面積が支える低翼面荷重による高機動性能、新型火器管制装置、超音速巡航能力による最強の戦闘機として誕生した。
そして1975年から、実戦配備についている。
また火龍戦闘機は、ワンランク性能が低い物を東側諸国に輸出している。
火龍戦闘機の性能は高く、1979年のイスラエル駐留の帝國空軍が第三次中東戦争でシリア空軍のMig21を10機撃墜したのを皮切りに、実戦でも最強戦闘機の名に恥じない実績を誇った。
世界各地の紛争や湾岸戦争などで、輝かしい戦果を誇る。
しかも実戦配備から25年経過しているが、1機も撃墜されていない。
帝國空軍は更に、次期第5世代戦闘機炎龍を開発中である。
千歳空軍基地司令部
司令部の待機室では、火龍戦闘機隊の隊員達がくつろいでいた。
自室ではなく、待機室にいる理由は単純明解。
領空侵犯機に対する、緊急発進に備えてである。
「何も心配しなくて良いわよ。1回目の警告に従わなかったら、警告射撃をする。それでも従わなかったら、撃墜するだけよ。」
「そうよ。簡単よ。」
「で、ですが………。」
千歳空軍基地第2航空団火龍戦闘機隊隊長青山恭子中佐と相沢花大尉が新垣知佳少尉を励ましている。
「心配し過ぎよ、ねぇ隊長?」
「そうよ。だけど初体験だからね。」
「……はい。」
「けど隊長、初体験って。」
「まあ良いじゃない。分かりやすいでしょ。ね。」
「まあそうですけど。ところで知佳ちゃん。」
相沢大尉は新垣少尉に向き直った。
「はい?」
「自分の乗る火龍。この性能は頭に叩き込んでるわね?」
「全長20メートル、全幅14メートル、最大速度マッハ2・5、巡航速度マッハ1・3。………。」
「うん?」
「これくらいしか、知りません。」
青山中佐と相沢大尉は呆然とする。
「知佳ちゃん、本気?」
青山中佐の言葉に、新垣少尉はただ頷く。
「………はい。」
「まあ良いわ。教えてあげる。花ちゃん。」
「分かりました。」
相沢大尉は立ち上がると、本棚から資料を取り出した。
「それじゃあ、説明するわよ。」
「はい。」
青山中佐と相沢大尉による、新垣少尉への教育が始まった。
火龍戦闘機は要は、F−15です。