動く西側
2000年1月9日午前9時
この日遂に、西側陣営が演習を開始した。
ソ連領非武装地帯より50キロ手前陸軍野営本部
「現在の状況は?」
「全軍が前進を始め、実戦さながらの演習を行っています。」
「よし。東側に実力の差を見せてやるのよ。」
ソビエト陸軍第17軍団司令官アルピナ・ムーシー中将は笑いながら、地図を見つめた。
そこには、赤い旗で各部隊が示されていた。
その数は、中華・満州ラインを挟んだ東側を遥かに凌ぐ数であった。
非武装地帯目前
「突撃〜!!」
第17軍団第248歩兵師団師団長アンヌ・エーヴァ大佐が叫ぶ。
「進め進め!!」
アンヌ大佐はAK74を撃ちながら、走る。
「大佐殿、目標は遠いですよ?」
「何言ってるの、当たってるわ。狙撃兵、見て。」
アンヌ大佐の言葉に、狙撃兵はSVDのスコープに目をあてる。
「当たってます!!窓際の人形に10個の穴が開いてます!!」
狙撃兵は興奮しながら、叫んだ。
なおソ連軍は、非武装地帯に大日本帝國と満州国・中華帝國の許可を得て、ビルを建てている。
演習においては、歩兵師団の射撃・突撃用と、機甲師団・ヘリコプター師団の攻撃用に分けて、攻撃する。
「ね、言ったでしょ。」
「凄いです。」
部下は驚きの声をあげる。
「まあ良いわ。みんな、突撃よ!!」
「「「「「了解!!」」」」」
部下達は、スコーピオンやRPGで攻撃を続ける。
「あのビルから、制圧するわよ!!」
アンヌ大佐の言葉で、突撃を開始する。
「攻撃開始!!」
第17軍団第40機甲師団師団長キャロ・ランバース大佐の命令で、機甲師団は攻撃を開始する。
第40機甲師団は、T−90U戦車とチョールヌイオリョール戦車を主力とする。
これに2S19ムスタ−S自走榴弾砲と9K58スメルチ300ミリ多連装ロケットシステム・TOS−1220ミリロケットシステムも有する。
「圧倒的ね。ソビエト陸軍が東側に負けるはずはないわ。このチョールヌイオリョールとT−90Uを倒せる戦車は東側には無いわ。」
キャロ大佐はそう言うと、砲塔を叩いた。
悔しいが、キャロ大佐の言うとおりである。
チョールヌイオリョールはドイツ第三帝國のレオポルト2と並んで、世界最強の戦車である。
ソビエト陸軍の誇るチョールヌイオリョールは、125ミリ滑空砲を装備し、カークトゥスと呼ばれるブロック防御システムを備えている。
残念な事に戦車、陸軍においては西側陣営が優位に立っている。
もちろん、東側陣営も大日本帝國の90式戦車や大英帝國のチャレンジャー2戦車・フランスのルクレール戦車も西側陣営に追い付いてきてはいるが、性能では西側陣営に劣る。
そこで東側陣営は、ヘリコプターや攻撃機の開発に力を入れている。
それが大日本帝國の誇る、雷光戦闘ヘリコプターであり、飛燕攻撃機である。
「全車停止、一斉射撃用意!!」
キャロ大佐の命令が、全車に飛ぶ。
「全車、射撃準備完了!!」
「攻撃開始!!」
ソビエト陸軍機甲師団による一斉射撃が始まった。
これはソビエト陸軍の常套手段である。
攻撃地点に到達すると、横1列になり一斉射撃を加える。
一見単純な作戦に思われるが、これが侮れない。
点で攻撃するのでは無く、面で攻撃するのである。
しかもこれが、微妙に前進しながら攻撃を加えるので、全てを破壊し尽くす。
これに、Ka52チョールナヤアクラとMi28ヘインドの対戦車ヘリコプターも攻撃を加える。
標的のビルは見る間に崩壊していく。
「砲撃止め!!全車後退!!」
再び、キャロ大佐の命令が飛ぶ。
「イスカンデル発射!!」
キャロ大佐の命令で、イスカンデルが発射された。
イスカンデル−E弾道ミサイルシステムは、戦域制圧を目的とした自走弾道ミサイルである。
そのため弾頭は通常弾である。
これが合計8発発射された。
午後12時
首相官邸閣議室では、緊急の帝國安全保障会議が召集された。
「演習とは予想してたけど、腹が立つわね。」
綾崎若菜総理は、歯軋りしながら言った。
「ソ連だけでなく、ドイツ・イタリアも演習を行いました。飛翔が捉えた映像をご覧ください。」
杉原真奈美軍務大臣はそう言うと、リモコンを操作した。
大型液晶モニターに映像が映し出された。
「ご覧ください、完全に実戦を想定した演習です。この一斉射撃はソビエト陸軍が侵攻作戦の時に行う、常套手段です。しかも最後には、イスカンデルを発射しています。弾道ミサイルまで演習に使用しました。これはもしかするかも知れませんよ。」
杉原軍務大臣は席に着いた。
そこで映像が切り替わり、マジノラインが映し出された。
その映像もドイツ・イタリアが一斉射撃を加える所が映し出されていた。
陸軍参謀総長の的山紀香大将が立ち上がり、説明を始めた。
「これがレオポルト2です。チョールヌイオリョールと並んで、世界最強の戦車です。こちらがC−1アリエテです。イタリアの誇る国産戦車です。その他に、PzH2000155ミリ自走榴弾砲・パルマリア155ミリ自走榴弾砲・LARS110ミリ多連装ロケット発射機・FIROS122ミリ多連装ロケットシステムが確認されました。」
「見る限りだと、空軍も参加してるみたいだけど?」
松浦千恵美外務大臣が質問した。
空軍統合総長の永倉綾子大将が大型液晶モニターの前に立ち、説明を始めた。
「これがトーネードADV戦闘機です。そしてこちらがトルネードIDS攻撃機です。両機種とも、ドイツ・イタリアの共同開発機となっています。これにソ連から生産を認められた、Su−27とSu−24も参加しています。」
「空軍なら負けないでしょ?」
七瀬優通商産業大臣が質問する。
「確かに空軍では負けません。大英帝國・フランス・オランダ・スペイン・トルコが共同開発した戦闘機、ユーロファイタータイフーンは欧州最強です。それに我が空軍の誇る世界最強の制空戦闘機、火龍戦闘機も保有しています。まあこれは、性能が一段階低いですが。しかし、これでもユーロファイタータイフーンよりも高性能です。空軍で、陸軍の侵攻を止めれるはずです。」
永倉統合総長はそう言うと、席に着いた。
「海軍は?」
保坂美優大蔵大臣が質問した。
海軍軍令部総長の依田香織大将は、座ったまま答えた。
「西側の海軍とは、比較になりません。西側海軍で唯一脅威となるのは、弾道ミサイル原潜だけです。こればかりには、警戒を強めないといけません。」
「確かに。帝都が核攻撃を受けるわけにはいかないからね。」
森井夏穂内務大臣が言った。
「まあとにかく、陸軍が騒いでるだけだから脅威では無いわね。けどもしもの時に備えて、準備だけはしといてください。帝國の興廃がかかってるからね。皆さん、よろしくお願いします。」
綾崎総理の言葉で、帝國安全保障会議は終わった。