親ガチャ、ハズレです。
都内の高校に在学するタダオ、由美、明日香。
放課後に三人がたたずみ会話している。
教室の一番後ろの席でポチポチとスマホゲームをやるタダオ。
隣席の由美と明日香がそれを眺めながら、雑談をしている。
タダオは無言でガチャを回す。煌びやかな演出で期待感を煽られるが、
その刹那、しょーもないザ・雑魚キャラが排出される。
タダオ「クソッ、またハズレかよ。」
由美「だっさ。こいつ今日もハズレだってよ明日香www」
人生でハズレくじを引いたと思ったことは誰にもあるだろう。
なんでアイツだけいつもツイているんだ?
街ですれ違う人々すべてを、妬むような目でみてしまうこともある。
タダオの家は大手自動車工場の下請け工場。
自動車の部品を作っている。今日もその工場で、
借金取りがタダオの父親をを問い詰めている。
借金取り
「今月の支払いもまだなんだけど?お宅、700万円も借金あってさ、
どう払ってくつもり?」
タダオの父「もうちょっとだけ、待ってください・・・。必ず必ず返しますから。」
ドンッと壁を強打して脅す借金取り。そして、タダオの頭を乱暴に撫でる。
借金取り「どうせ、稼いでも酒かギャンブルに消えんだろ?児童相談所行きにならないといいねえ。ボウヤも将来が心配だねえ。」
その手を振り払い階段を駆け上がり部屋に籠るタダオ。
ヤクザは工場の作業場をめちゃくちゃに破壊していき、
すいませんすいませんと父親の哀願する声が反響する。
由美はシングルマザーの母親に育てられた。
いつでも母親の機嫌は最悪。
由美の母「由美ィ、酒のおかわり早くしろつってんだろ?」
由美「はい、お待たせ。」
由美の母がグラスを割る音
由美の母「お前、焼酎濃いめって何度言えばわかんだよっ。物覚え悪いね!」
由美「お母さんが飲みすぎないようにわざと薄くしてんのよ。」
由美の母「酒くらいちゃんと作って渡せ。金稼げもしないくせに。役立たずがっ。」
今日も由美とタダオが教室で気だるそうに、
ポチポチとスマホゲームをしながら、愚痴をこぼしあい傷を舐め合っている。
由美「昨日もウチのお母さん、呑んだくれてさ、焼酎が薄いとかってブチ切れててさ本当に困っちゃう。」
タダオ「うちも、まーた借金取りきててさ、これから、どう返済してこうと思ってるんだか?。俺、大学行けるかもわかんねーわ。お互い、Fランクの親持つときっついよな。」
由美「ほんとそれな。」
タダオ「ところで、お前ん家はいーよな。明日香。」
突然話しかけられたクラス一の美少女明日香がドギマギする。
明日香「え、、、なんで?」
タダオ「お父さん、あの世界的インターネット企業、ヤッホーの社長だろ?完全当たりのSSRの親じゃん。」
明日香「そんなこと、全然ないよ。」
窓に視線を移し虚ろな目をする明日香。
タダオ「羨ましいよ実際。悩みなんてないだろ?親が社長で、偏差値も全国でトップクラス。おまけに顔も超美人。」
由美「マジで、裏山だわー。アナウンサーとかになってプロ野球選手と結婚しちゃったりしてね。」
明日香「もう、やめてよ。」
タダオ「容姿も、性別も、学歴も、親も、ぜんぶ運ゲーのはずなのに、こんな不公平あるかね?俺も全部Sランクの家庭に生まれたかったわ。」
別の日、ファーストフードで、コーラとポテトのみをオーダーしながら
長時間居座って、三人揃って戦争のスマホゲームに興じる。
実は三人は全国ランキングのベストテンに入るほどのランカーである。
タダオ「チッ。相変わらずこのハンバーガー屋、ワイファイ安定しねーな。ワイファイのためだけに金払ってんのに。。」
由美「男がぐちぐち文句言わないの」
タダオ「はいはい。ところでさ、昨日の韓国ギルドとの
バトルはマジで激アツだったよな。」
由美「ま、ランキング圧倒的一位の明日香がいたからギリギリ勝てたようなもんだけどね。プレイも財力も桁違い。」
タダオ「明日香は世界中見渡しても、あのゲームの中では無敵だからなー。」
明日香「そんなことないよ。」
タダオ「いや、由美が集中砲火食らった後、反撃のC4爆弾三十連投はマジで鬼。韓国ギルドはあれで完全終戦って感じだったわ。」
明日香「つい、カッとなってやっちゃった。てへへ。」
由美「ところでタダオ。親、借金まみれなのくせに、ゲームするお金あるんだね笑」
タダオ「ま、俺、機械系とかネット系とか詳しいからさ。それでヲタクたちに、
秘密の品を作ってネットで売って小遣い稼いでるんだ。」
由美「ふーん。どうせ如何わしいこと何かしてんでしょ?転売ヤーとか?高額なお金をふっかけたり。で、そのお金をゲームに大量に貢いでるわけね。廃課金くん。親子の血は争えないじゃーん。」
タダオ「こんぐらい、いいだろ?人生で唯一の楽しみなんだから。」
また、とある別の日。ダムダムダムとバスケットボールが弾む音。
体育館でバスケのの授業がが行われている。
由美「あー、体育だるいわー。動きたくない。全然やる気でない」
タダオ「お前、運動神経ゼロだからな笑。」
由美「うっさい。私は知能指数が高いから脳に栄養行ってるの。あーあ、ゲームみたいに課金したら、ジャンプ力とかスピードとかパラメータ上がんないかな。」
タダオ「俺は割とバスケ楽しいよ。女の子のおっぱいの揺れとか見れるし。ああ、絶景かな。絶景かな。」
由美「うわっ、こいつキモッ。」
明日香「ふふっ。本当バカ。」
ひとしきり基礎練習を終えたのち。男女混合の五対五に別れて、ゲームをすることに。
明日香とタダオはたまたま同じチームになる。
敵チームにはバスケ部キャプテンでゴリラのような体の男。手加減一切なしのガチ勢。
明日香「よーし、やるからには勝ちますか。私、足めっちゃ速いしね。ぶっちぎりでシュート決めちゃうぞ。」
タダオ「お、おう。ただ向こうのチームにあのゴリラがいるぞ。」
明日香「パワー対スピードって感じね。でも漫画だとゴリラは大体パワー馬鹿だから、スピードに勝る方が勝つわ。」
明日香の活躍と敵チームのゴリラの活躍で試合は白熱した展開でラスト五分を迎える。
ロスタイムに入り、シュートがリングからこぼれる。
こぼれ球のリバウンドを取ろうと、両チームのメンバーたちが蟻のように群がる。
バスケ部ゴリラ「フンッ。」
所詮は体育の授業なのに、ムキになるゴリラ男。豪快なリバウンド時に、ズダーンと激しく突き飛ばされる明日香。
明日香「ううっ。」
足を激しく挫いてしまい倒れこむ。ピピーっとホイッスルを鳴らす体育教師。
タダオ「おいこら、ゴリラ。体育でなにムキになってんだよ。明日香、大丈夫か?」
そばにいたタダオがそばに駆け寄りコートの外へと連れて行く。
明日香のジャージを膝までめくると、そこに突然、痛々しい青黒い痣が無数に現れる。
タダオ「お、お前なんだこれ?」
明日香「・・・。」
タダオ「え??なんだこれ。でも、ぜったい捻挫じゃないよな?すごい痣。誰かに蹴られたとかなのか?」
明日香「・・・。」
タダオはなにかを思いつき、明日香のジャージの上着を腕までめくってみる。
明日香「や、やめて。」
すると腕にも同様の青黒い痣がたくさん現れる。
タダオ「これさ、、どういうこと?」
明日香「本当になんでもないの。誰にも言わないでお願い。」
しばし言葉を失い無言になってしまうタダオ。
だがどうすることもできずに、一呼吸置いて返事をする。
タダオ「わ、わかったよ。」
とある別の日の英語の授業。
みんなでリーディングの教科書を揃って音読している。
そこに担任教師が突然、
息を切らして駆け込んでくる。
担任「授業中すみません。
由美、お前のお母さんが、ちょっと大変なことに。」
どよめく教室内。
クラスで大ごとになるのを避けて、由美に耳打ちして内容を伝える担任教師。
担任「と、いうことなんだ。すぐに家に帰りなさい。」
頷いて急いで教室を後にする由美。
顔を見合わせるタダオと明日香。
警察官では警察が由美のお母さんに事情聴取をしている。
由美の母はめんどくさそうに取り調べに応じている。
由美「お母さんっ。」
由美の母「なんでもないわよ。」
由美「なんでもないわけないでしょっ。じゃなきゃこんなとこ来る理由ないっ。」
由美の母「酔っ払って運転して、ちょっと通りすがりのおじいちゃんを擦っちゃっただけさ。
それで、怖くなって逃げただけだろっ。」
由美が大粒の涙を浮かべながら泣き崩れる。
由美「もう、もう、お酒飲みすぎないでって、何百回いったらわかんの?お母さん。犯罪だよ犯罪。少なくとも一年は刑務所って刑事さん言ってた。私、これから受験とかもあるのにどうすればいいのよ。」
由美の母「勝手にすればいいだろ。夜のバイトでもして稼げばいいさ。そもそも、酔っ払ってその時の男とやってデキちゃっただけさ。お前なんて産まなきゃよかったよ。」
由美「そうやって、現実から逃げてばっかいるから、男にも逃げられるんだよっ。」
母親は、由美を思いっきりビンタして絶叫する。
それを制止する警官。由美は打ちひしがれて家路についた
おきまりのファーストフードで、コーラとポテトを食べながら、
タダオと明日香が由美の心配をしている。
タダオ「大丈夫かな?由美。」
明日香「さっきLINEきて、お母さんが飲酒運転のひき逃げで捕まったって返信きた。でも、相手は一応無事みたい。」
タダオ「アイツも俺のうちと一緒で、
親がどうしようもねえド畜生だから、苦労するよなあ。」
明日香「お母さんが逮捕されたりしたら、学校、辞めちゃうのかもしれないね。」
タダオ「そんなことにならないように。絶対俺たちで、なんとかしねえとな。」
明日香「うん。」
タダオ「ところであのさ。別の話でさ、すっげえ聞き辛いんだけど、一つ聞いていいか。」
明日香「なに?」
タダオ「あの、体育の時みた痣ってさ。もしかして。。。」
明日香「ごめんそれは、、、話したくない。」
タダオ「いや、こっちこそ、ごめん。。」
由美の母親が、警察の事情聴取などの諸々を受けて、
一週間ぶりに由美が登校してくる朝。
由美「おはよう。」
タダオ「おっす。久しぶり。思ったより元気そうだな。安心した。」
由美「心配かけたね。飲酒運転でひき逃げなんて芸能人とかがニュースでやったのを見るくらいしかなかったけど、まさかうちのお母さんがやるなんて。。。」
明日香「お母さんのことは、ひと段落した?」
由美「刑期はつくみたいで。私はおばさんの家に預けられるみたい。でも、まあ卒業までだし、遠くはなるけど電車で通えるから。」
タダオ「そっか。じゃあ卒業までおばさんが面倒見てくれるって感じか。」
由美「そうなりそう。」
タダオ「マジでいい迷惑だな。」
由美「正直、早く成人して、大人になりたいよ。もう親から離れて、自分で稼いで、自分一人で自由に生きて行きたい。」
明日香「それか、ディズニーランドみたいな夢の国に永住できたらいいよね。私も時々全部全部忘れたくなる時あるんだ。」
由美「明日香が?嘘でしょ。何もかも持ってるじゃん。でもいいねー、ディズニー。確かにあそこは全部忘れられるなあ。帰る時いっつも虚しくなるけど。現実に戻されて。」
キーンコーンカーンコーンと始業のベルが鳴る。
タダオの家には、今日も借金取りが父親に金をせびりに来ている。
無視して階段を上がるタダオ。
ヤクザの怒号と自宅の室内を蹴り上げて散らかされる音が鳴り響く。
それらを塞ぐようにユーチューブでボーカロイドの音楽を爆音で再生する。
うっせえうっせえうっせえわの歌詞とメロディーが流れる。
タダオは、3人のグループLINEに
1行だけ書き込んで眠りにつく。
「こないだ話したディズニーランド、本当に三人で行くのどうかな?」
OKと文字の入ったファンシーなラインスタンプが
すぐに二人から帰ってくる。微笑んで眠りにつくタダオ。
時は過ぎ、ディズニーランド当日。
三人ともカチューシャをつけて、ポップコーンなどを食べながら、
思う存分にディズニーを楽しんでいる。
由美「やっぱ、断然ディズニーはシーのがいいよね。」
明日香「さいっこう。なにもかも忘れられるーっ。よし次はあれ乗ろう。」
タダオ「俺、タワーオブテラーはマジで無理。無理。」
「いいから、行くよー。」
結局、抵抗むなしく女子二人に連れられ、
タワー・オブ・テラーに乗せられるタダオ。
タワー・オブ・テラーを降りた後の、
写真販売のコーナーにものすごい引きつったタダオの変顔が写っている。
由美「ウケる。ムンクよりすごい、叫び顔だわ。もはやアート。」
明日香「はーい、これ今晩インスタストーリーにアップしまーす。」
タダオ「やめろおおお。」
明日香「本っ当楽しい。ここで一生暮らせらいいのにな。」
日常を全て忘れてはしゃぎまわる三人。
ひとしきり遊んだ頃、急な夕立で
土砂降りの雨になりカフェに入る。
タダオ「うわー、急にすっげえ雨降ってきたな。びっしょびしょだわ」
お決まりのスマホゲームの話から始まり、雨が止むまで雑談を続けるする三人。
由美「ねえ、由美のお父さんって家では、どんな人?テレビとかニュースではよく見るけど。」
明日香「急になに?」
由美「ほら、お母さん逮捕されてさ。うちの親って
なんでこんななんだろう?とか。神様不公平じゃね?とか。
ああ、明日香のうちの親はいいよなーとか考えちゃってさ。
他の家は、どんな風な親子なんだろ?とかいっぱい考えたりして。」
タダオ「そういえば、一回も明日香の家行ったことないな。今度招待してくれよ。
でもまあ、高級な会社とか乗って、家族揃って仲睦まじく
フレンチの高級ディナーに出かけたりするような感じなんだろ?くうー、このこの羨ましいね。」
すると突然、無言になり、
涙を流し始める明日香。次第に鳴き声が大きくなり嗚咽へと変わる。
由美「ど、どうしたの?」
タダオ「ご、ごめん。金持ちであることをからかった感じになっちゃって。。」
明日香「ううん、そうじゃないの。」
タダオ「お前、何か悩みとかあんのか?話せよ。」
タダオの顔をじっと見つめる明日香。
明日香「わ、わたし・・・毎日毎日、死にたい死にたい死にたい。って思ってる。お父さんに虐待されてるの。
逃げたいの、お父さんから。でも、家族が壊れたりするの怖いし。」
そういって袖をめくると
痛々しくて青黒い痣がたくさん出現する
思わず目を背ける由美...
タダオ「あの体育の時に見た痣、
父親だったのか。てっきり学校の女子の誰かにいじめられてんのかと思ってた。」
無言になりまた大粒の涙を流す明日香。
明日香「ありがとう、もう帰ろ。」
三人はその後、掛け合う言葉を見つけられずに、電車に乗って家路に着いた。
別の日、めずらしく由美がタダオと二人きりでカラオケに誘う。
受付を済ませて入室する。
由美「さーて、何歌おっかな。」
タダオ「珍しいな。お前が俺だけを誘うなんて。もしかしてこっそり、俺に惚れてるのか?」
由美「バカ!このあいだの明日香のことの作戦会議よ。話しにくい内容だから、他人に内容が聞こえない個室にしたの。」
タダオ「だから二人っきりなのか。」
由美「当たり前でしょ。でも、正直、ビビったよね」
タダオ「ああ。」
由美「何か私たちにできることあるかな。お父さんが暴力をやめてくれる手段。
そもそもなんで、明日香みたいないい子に。」
タダオ「その子がいい子か悪い子かなんてカンケーねーんだろ。ただ、俺はもっと貧乏な親とかが金とか暮らしに困って虐待とかってするイメージでいたわ。」
由美「そうだね。」
タダオ「最初にさ、明日香の痣を見たの、体育の時でさ。どう見ても只事じゃない感じだったから。いじめでも受けてんのかなと思ったけど。どうも違うし。で、昨日原因を聞いてからずっと考えてて、明日香の気持ち次第だけど、俺、一個作戦を考えたんだ。」
由美「もう少し明日香に、くわしい話聞いてみたいね。話してくれるかな。」
タダオ「だな。で、明日香がその気なら俺の作戦を伝える。」
由美「よーし、じゃあ歌って帰ろう。うっせえ、うっせえ、うっせえわを歌おう。」
この日もタダオの家では、
ヤクザが父親から借金を取り立てている。
借金取り「おらあ、早く金払えよ。」
タダオの父「来月、来月こそ絶対払いますから」
借金取り「てめえ、何回そのセリフ言ってんだよ。金返す気ねえだろ?ぶっ殺すぞ。」
タダオ「すみません。毎日毎日、声が大きくて響くし、近所迷惑なので、やめてもらえませんか?」
借金取り「ああ?てめえの父親が金払わねえのが悪いんだろが。大体、金がねえクセしてその子供のお前もスマホゲームなんかポチポチやってんじゃねーよ。クソガキが。」
タダオからスマホを奪い。踏み潰してバリバリにしてしまう。激昂するタダオ。
タダオ「我慢の限界なんだよ。クソヤクザ。」
借金取りがタダオを殴る蹴るなどでボコボコにする。ただ激昂が収まらないタダオ。
タダオ「テメエ、こ、殺してやる。」
タダオは工場内に転がっているマイナスドライバーを手に取り、ヤクザを刺し殺そうと飛びかかる。
その瞬間タダオの父親が素手でそれを止めて鮮血が飛び散る。
タダオ「な、なんで、父さん」
タダオの父「ごめんな。」
そう言ってゆっくり自分の手のひらに突き刺さったマイナスドライバーをゆっくりと抜き、
それを握りしめて、タダオの父が今度はヤクザに突進して刺し殺す。
ヤクザ「ぎゃあああああああああああ。」
タダオ「も、もう、やめて父さん。」
タダオの父「こ、殺しちまった。。
も、もう終わりだ。仕方なかったんだ。
ごめんな。ごめんな。こんな父親で。」
タダオの絶叫がこだまする。
タダオ「うわあああああ畜生。
このヤクザもどうしようもねえけど、
父ちゃんも、なんで、なんでギャンブルとか酒やめらんねえんだよ。いくら母さんと離婚したからって、現実からにずっと逃げてんじゃねえよ。」
タダオの父「父さんの人生は、かあさんと離婚した時終わったんだ。もうダメなんだ。」
しばらくして警察が来て、逮捕され連行されるタダオの父。
児童相談所でうなだれながら、淡々と説明を受けるタダオ。
児相職員「タダオくん、ここは様々な事情で、
家庭で生活できなくなった子供達を保護する施設です。」
タダオ「はい。」
児相職員「通常は十八歳までの保護ですが、この施設は特例で二十二歳までここにとどまることもできます。
心配はしなくていいですからね。」
タダオ「ありがとうございます。高校卒業まであと数ヶ月。そのあとは自分でバイトでもしてなんとかします。
自立したいんで。」
そう言って相談所を後にするタダオ。
学校の裏庭、人気のない裏庭で、
スマホゲームをしながら語り合う3人。
タダオ「てわけで、俺も親から卒業することになりました。」
由美「私の何倍もハードな目にあったね。」
明日香「タダオ、大丈夫?」
タダオ「大丈夫ではないけどな。あんな父親でも父親は父親だし。」
タダオが幼少期を懐かしそうに回想する。
「子供の頃とかは、親戚の田舎にカブトムシ取りに連れて行ってくれたりして、いい父親だったんだよな。心底は憎めないし。まだ動揺してる。」
明日香「親はどんな親でも、親なんだよね。」
タダオ「けど、これからは、自分で生きていくんだっていう覚悟は固まった。しばらくは児童相談所の施設にお世話になるけど。」
由美「急にイケメンに見えてきた笑」
タダオ「ところで、お前はどうなんだ明日香。ディズニーで話してくれたこと、もう少し聞かせてくれないか。」
由美「そうだよ。私たち力になるよ。家族じゃないけど、家族の血よりゲームの中で繋がった絆の方が強いことだってあるかもよ。私たちおんなじギルドで、おんなじ戦争まで戦った仲間じゃん。」
明日香は周囲を見渡して、由美にしか聞こえないような声で小さく告白した。
明日香「あの、虐待されてるって言ったけど、暴力だけじゃなくて。性的な虐待も受けてるの。小学生の頃からずっと。」
由美は驚きのあまり、タダオには何も言えずにいた。
タダオ「なんだよ由美にだけ。まあでもさ、
俺、一つ作戦があるんだわ。ただ、この作戦を実行すべきなのかは正直わからない。」
明日香「・・・お、教えて。」
タダオ「ああ、でも、明日香には相当な覚悟がいるよ。虐待されている自分自身も世の中に晒されて相当傷つくし、親を売ることにはなるけどそれでもいい?お父さんは地位も名誉も家族も、すべて失うことになるよ。」
由美「どんな方法でも、もう構わなくない?」
明日香「う、うん、逃げたい」
タダオ「これを使うんだ」
一台の特別なスマホを明日香に差し出す。
タダオ「これは超小型カメラのついたスマホケースで、スマホを寝かせた状態でも、撮影と録音ができる盗撮マニア専用のやつなんだ。これを明日香の部屋の机にでも置いて、証拠を撮影すれば、百パーセント、バレない。」
由美「サイテー。なんでそんなもん、あんたが持ってんの?どういう趣味?キモッ。」
タダオ「ゲームに課金するための小遣い稼ぎに、こういうグッズ作って、ネットで盗撮マニアに売ってんだよ。今、めちゃくちゃ需要あるから高く売れんだよな。」
明日香「バレないかな・・・」
タダオ「スマホはただ置かれているようにしか見えないから、相手も警戒は絶対にしない。大丈夫保証する。今まで売ってきて一度も失敗のクレームないから。そして撮影・録音した証拠を、ゴシップ週刊誌の記者に渡して、ヤッホーのネットニュースに流すんだ。大企業の社長だから、あっという間に広がるぞ。」
由美「なんかすごい想像もつかない大騒ぎになりそう。本当にやっちゃっていいのかな。明日香、後悔しない?」
タダオ「やるしかねえだろ。自由になるには。未成年には逃げ場がねえんだよ。自活する金もないし。
だから、逃げ場をつくるしかねえんだ。」
明日香「・・・。」
明日香は俯いたまま小さく頷いた。
二子玉川にある明日香の豪邸。立派な門構え。
超多忙な明日香の父が、三ヶ月ぶりに帰宅したある日の食卓。
白を基調としてまとめられたリビング。食卓には品の良い食器と料理が並ぶ。
明日香の父「二ヶ月かぶりに、家族全員が揃った食事だな。美味そうじゃないか。」
明日香の母「あなた、全然家に帰ってこないんだから。仕事人間にもほどがあるわよ。」
明日香の父「株主総会が近くてな。株主たちへの対応も含めて、今大事な時期なんだ。本当にすまない。」
明日香の母「明日香、もうすぐ卒業式なのよ。」
明日香の父「そうか、いよいよ大学生になるのか。早いもんだな。卒業旅行も兼ねて、どこか親子水入らずで、海外旅行でも行けるといいな。な、明日香?」
明日香「う、うん。」
明日香の母「どうせまた仕事でキャンセルとかになるんじゃないの?まあ、期待しないで待ってますよ。ねえ明日香。」
明日香の父「株主総会が終わったら、きちんと時間はとるよ。約束だ。」
明日香の母「わかったわ、約束ね。明日香も楽しみにしてるんだから必ずよ。」
明日香の父「ああ。じゃあ明日も早いから、お風呂に入ることにする。」
明日香は食事を済ませ、自分の部屋に戻り
ベッドに横になる。位置とアングルを確認し、スマホを勉強机の上に置く。
明日香の父「明日香、ちょっといいか?」
明日香の部屋に父がそっと現れる。そして、部屋に入るなり、父は明日香に覆いかぶさった。
明日香「イヤ。やめて。」
抵抗する明日香の腹や足に暴行を加えると、
大人しくなる明日香。
明日香の父「久しぶりだな、明日香。ちょっと仕事が忙しくてな。三ヶ月ぶりぐらいかな。
どれどれ、どれぐらい大きくなったかな?」
そう言うと、
明日香の胸や下半身をねちっこく
これまで何度も何度もしてきたように
いやらしく触った。
明日香の幼い頃からの
虐待の記憶がフラッシュバックする。
(小学校の頃は意味もわからず、ただされるがままだった。やがて、父の行為が性的虐待だときづき抵抗すると暴力を加えられた。しかも、周囲にバレないように必ず顔は避けられていた。どうすればいいか誰にも相談できなかった。何より、家族が壊れるのが怖かった。)
そして、明日香は心の中で思っていた。
「今日で終わる。すべて終わる。」
そう心の中で何度も何ども唱え、
唇を噛みしめて、ただじっと、
じっと耐えていた。
○学校の教室
由美「おはよう、明日香。」
明日香「おはよう。」
タダオの席に行き、
証拠を録画録音したデータを渡す。
涙ぐむ明日香。
タダオ「絶対これで終わらそう。証拠のデータ、聞いてみてもいいかな?」
明日香「う、うん。」
イヤホンを付け、動画再生ボンタンを押すタダオ。
性的虐待まで受けていることを知らないタダオはびっくりしてすぐに再生を止めてしまう。
タダオ「こ、これ。。。」
明日香「ごめん、男子だから言いづらかったけど、そう言うことなの。小学生の頃からずっと。暴力だけじゃなく性的虐待も受けてきたの。」
由美「クソすぎる。」
明日香「・・・」
タダオ「よ、よし、ネットで調べた週刊誌の記者にツイッターでメッセージしておいたから、このデータを転送するぞ。もう後には引き返せないけど、いいかな明日香。」
静かに強い意志を讃えて頷く明日香。
翌日の学校の教室では、ヤッホーの社長の明日香への性的虐待がSNSで大ニュースになり、
もちろんクラス中でも話題になっている。
教室にはタダオと由美のみ。
明日香は登校していない。
由美「報道陣やマスコミが明日香の家に殺到していて、家から出れないみたい。LINEで返信はくるけど。」
タダオ「こんだけ大ごとになると、果たしてこの方法が、正解だったのかわからないな。」
由美「小学生の頃から続いてた虐待だから、
明日香も覚悟を決めて踏み切ったと思うし、
私たちを信じてやったんじゃないかな。だから多分、後悔はないんだと思う。そう信じたい。」
担任教師が入ってくる。
まるで何事もなかったかのように授業を始める。
「おい、静かにしろ。授業始めるぞ」
二人は小声で続けて話す。
タダオ「もうすぐ卒業式だな。」
由美「明日香、卒業式来れるかな?」
タダオ「俺たち三人とも、高校生活からも、親からも卒業することになっちまったな。」
由美「そうだね。」
桜が舞い散る季節があっという間にやってきた。
明日香は一度も投稿することはなかった。本人もそこまでの覚悟はしていただろう。
3人は揃って、顔を合わせることなく、卒業式の日を迎える。
制服姿の高校生が、親と一緒に写真を撮ったりしている。
タダオと由美は、それをただ羨ましそうにぼんやりと見ている。
由美「ついに、卒業だね」
タダオ「ああ。」
由美「本当なら、親がいて、ちゃんと門出を祝ってくれるんだけど、私たちには、もうその親自体がいないね。」
タダオ「卒業、したんだよ。自分たちで。」
由美「明日香、今日来るかなあ?」
タダオ「どうだろうな。」
卒業式前のホームルーム。
明日香は来ないまま、
体育館で卒業式が始まろうとしている。
間も無く開始というその時、
明明日香が息を切らして体育館に入ってくる。
由美「明日香!」
ざわめく生徒たち。ヒソヒソと明日香の噂話をする。
タダオは大声で叫ぶ。
タダオ「気にすんな!明日香。俺たち二人がついてる。」
こくんと頷く明日香。静かに着席する。
卒業式の合唱が流れ始め、式が始まる。
卒業式が無事に終わり、校門の前。
親子で楽しそうに写真撮影をする他の生徒たちを横目に
三人が揃って高校生活を振り返りつつ話している。
由美「しかし、最近は本当にいろいろあったねー。三人とも皮肉にも、親から卒業しちゃったし。
タダオはこれからどうすんの?」
タダオ「別にまだ何も考えてない。バイトでもして金貯めて、大学入ろうかな。親の縛りがなくなったから何にせよ自由だ。けど、不公平だよな。親なんてガチャみテーなもんなのに。なんで俺たちこんなハズレばっかり。」
由美「こういうのどう?」
タダオ「どういうのだよ。」
由美「この際、三人で東大目指すの。よくない?私と明日香は地頭いいし、タダオをスパルタでしごけばイケる気がするの。で、いいとこ就職して、誰にも依存しないでいいくら金稼ぎまくるの。」
タダオ「無理。って思ったけど。今どうせゼロ地点のリセマラ状態だし、一発逆転狙ってみるのもアリかもな。」
明日香「タダオも本当は頭いいと思うよ。じゃなきゃゲームであんなランク取れないから。」
タダオ「世間的に見れば俺たちの親ガチャは、大ハズレだったかもしれない。自分たちだけ、なんでこんな目にあうんだ?と正直思う。街ですれ違う奴らみんな、運よくハッピーに見えて憎悪の目を向けてしまう時だって。。。ある。
でも、でも、この後の人生は、俺は攻略不可じゃない。そう信じてる。運を超える努力で、運命を変えるんだ。」
明日香「うん。」
タダオ「どうしようもないFランクの親に育てられても、諦めずにSランクに這い上がったやつは、本当に偉大なやつになれる気がする気がするよ。」
三人「よーし、やるぞおおおおお。東大攻略。」
タダオが何かを思いつく。
タダオ「あ、東大の猛勉強の前に、一回だけ戦争ゲームのガチャ回していいかな?今日こそ、俺の神引きを見せてやるっ。」
由美「どうせ、いつものハズレじゃない?」
タダオ「うるせーーー」
微笑みながら、親のいない三人だけの
卒業写真を撮影する。
タダオはこっそりスマホゲームのガチャガチャを回し、
ゆっくりと一回転しきらびやかな演出が始まる。
END