元服
1565今川館
母である瀬名姫の実家の関口氏のことなど考えてもわからない謎は多いが、今川氏真は母瀬名姫ではなくて北条氏から来たお早の方を愛していることは一目瞭然であり、今後氏真とお早の方は共に京都に移住することとなっている。
落ち目の今川家において武田家と徳川家に両端から攻められてお早の方が裸足で逃げて北条氏康を激怒させたのは有名な話である。
権力を握っていたはずの寿桂尼は、肩の荷が降りたのか認知症を発症して俺のことを彦五郎、義元殿などと人生が最高だった頃の記憶に囚われている。
元服にあたり俺は今川氏真から今川家の通字の氏の字を取り入れることや、俺にそっくりな義元を名乗ることを提案されたが、三河平定を考えている俺は、今は今川元康を名乗ることにしたのである。
元服の儀の前に俺は服部半蔵と藤林長門守に命じて今川家臣団からあるものを極秘に回収させていた。
そして父である今川氏真が烏帽子親になり元服の儀式が執り行われ俺は目出たく今川彦五郎元康として今川家の当主となった為、まず意識改革を行うことにした。
武田家が武田信玄から武田勝頼になった時に弱体化したように、今川家も今川義元から今川氏真になった際に弱体化したが、家臣団や今川家が弱くなったわけでなく結束や信頼が弱くなったから滅んだのである。
「皆の者、今ここに極秘に回収した今川家を裏切って他家のものと通じていた証拠の密書がここにある。心当たりがある者は名乗りでよ」
青ざめる者、震え出す者、大汗を流す者など多数いたが、ただ1人血走った眼で俺を見て脇差しを抜いて斬りかかってくる者がいた。
孕石「もはやこれまで!お命頂戴!お覚悟!きえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」
孕石の席位置が上座から離れていたのもあり俺は宗三左文字を抜き身体が小さい為肩に背負い反動を使って一刀に切り捨てた。
家臣団はまだ成長し切っていない俺が賊を真っ二つに斬って捨てたのをみて、ある者は感服し、ある者は感動し、ある者は畏怖して、ある者は恐怖した。
「さて、まだ歯向かうものはいるか?」
家臣団は俺の事を熱い視線でみたり、下を見て俯いたりしている。
俺は岡部元信に命じてかがり火の炎を用意させる。
そしてその炎の中に今川家臣団から回収した密書を全てほおりこんだ。
その行為に、裏切ってない者、裏切った者全ての者達が驚愕した。
「よいか皆の者!我はあの密書の中身をまだ読んでいない!これは代替わりによる恩赦である!今川家、今川義元公に大恩ある者達よ!自分達がなすべきことを思い出せ!我と共に、赤い鳥と共に戦えば勝ち続けるのだ!強い今川家を取り戻せ!我はこの日の本を、いや世界を統一する!どの家より高貴で正統なる源氏の血を色濃く引いて力があるのは我が今川家なり!今ここに宣言する!我は天下統一を目指す者なり」
俺の宣言の後全ての者達が時間停止したようになっていたが、涙を流しながら大声で同意した朝比奈泰朝や岡部元信を中心に歓喜の叫びと共に今、今川家中は本当に一つになった。
俺はその様子に笑みを浮かべながら、これでしばらくは今川家がほろぶことはない、そしてこの勢いで三河を滅ぼして今川家を桶狭間の合戦の前にまで戻す時が来たのだと口角を上げるのであった。