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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

奴らのくる場所

作者: おしぼり

「日が出ているうちは、ここから出るな」


この世界で生きていく為に、守るべき掟だ。

僕の記憶の中で、最も古く、最も強いものとして根付いている。

僕は父に、父はその父に、さらにその父に・・・。

これは、僕が生まれる遥か昔から語り継がれてきた。


「奴らは、私たちをを見つけたら、すぐに捕まえて、食べてしまうらしい。お前なんか一瞬で食べられてしまうだろうね」


小さな頃によく言われては、その度にトイレに行けなくなってしまった。

二本しかない手足に、異常に長い触角。

僕たちの何十倍もの大きさ。

奴らは、大きな声で叫んだり、暴れたり、僕たちを殺そうと襲いかかってくるらしい。

罠を仕掛けてきた事もあるし、毒のガスを吐いてくるものもいたという。

何人もの人が死に、奴らに捕まった。


それでも僕たちが生き残って来れたのは、奴らが襲って来れない場所を見つけたからだ。

僕が数百、数千居ても入り切れるであろう、広大な箱の中に、僕らは住んでいる。

僕たちだけが住んで、僕たちだけが出入りできる。

たまに出て行っては、奴らから食料だったり、様々な道具を盗む。

それが一番名誉で、一番かっこいい仕事だ。

死の危険性はとても高いけど、彼らは死をも恐れず、奴らの本拠地に向かっていく。

僕らは、そんな彼らを敬意を込めて、勇者と呼ぶ。

そんな勇者たちのおかげで、あまり大人数ではないとはいえ、豊かな生活ができている。


この楽園を奴らが襲って来ないのは、奴らの体では入って来れない、って父が言っていた。

出入口は、奴らには通り抜けられないみたいだ。


と言っても、僕は奴らを見た事がないんだけどね。

まだここの「外」に出た事ないし。


さて、これは掟を破ったとある二人の物語。



ーーーーーーー



今日の昼下りのこと。

まだまだ暑い真っ只中。


「おーい!あっそぼうぜー!」


ん?

玄関で、声がする。

この声は、ガーナーか。

いっつもうちに来ては、遊ぼうと言って僕を誘ってくれる。

家にいる方が好きなんだけど、みんなと遊ぶのも、僕は好きだ。


「いいよ、ちょっと待ってて!かあさーん!」


僕は、ゴタ。

小さな家に、母と二人で暮らしている。

父は、ある日「外」に行ったっきり、帰ってこなかった。

物心もついていない頃だった。

ずっと昔のことなので、もう悲しくはないが、ただ、泣きじゃくる母の背中だけが目に焼き付いていた。


「母さん、ちょっと遊びに行ってくるね」


キッチンで何やら晩ご飯の支度でもしている母にそういうと、僕は家を出て行った。



ーーーーーー


「今日は何をするの?」


少し歩いて、僕たちは広場にやって来た。

まだまだ昼真っ盛りだが、今日は暑い事もあり、あまり僕たち以外の姿は見えなかった。


「まあ待て。今日はお前に頼みがあるんだ。」


頼み?彼からそんなこと言われたのは初めてで、少し驚いた。

そういえば、僕以外誰も誘っていないなんて珍しいと思ったが、そういうことだったのか?

他の奴らに聞かれたくない事、、、なんだろう。


「お前さ、将来、外に出てさ、勇者になりたいって言ってたろ?」


そりゃあ、男なら誰でも憧れる。


「でさ、頼みってのはさ、」


ゴクリ、、、


「俺と一緒に、今から「外」に行かないか?」


何言ってるんだこいつ。

先ほども言ったように、「外」には常に死の危険性が有る。

奴らに見つかったら、即死だろう。


「考え直せよ、さすがにまだ僕らには無理だよ」


「そこを、頼むよ。お前しかいないんだよ」


「、、、何か、理由でもあるの?」


「やっぱり、かっこいい勇者は、若い頃から活躍してただろ?俺も、そんなふうになるんだ!」


「無理なものは無理だよ。掟にもあるだろ?来てすぐで悪いけど、もう帰るね」


背を向けて歩き出した僕に、彼は何かを言いたそうだったが、無視した。

現実を見ないと、死んでしまうなら、勇者ではなく蛮勇なんだよ。



ーーーーーーー


その日の晩


私は、彼のことが、気がかりで仕方がなかった。

彼は昔から、やると決めたら止まらない男だった。

日は既に落ち、微かな光が辺りを包んでいた。


ふと、彼の家に行ってみようか、という考えが浮かんだ。

幸いなことに、大した距離はない。

もし、僕がついていかなかったから、一人で行く、なんてことになっていたら大変なことだ。

嫌な予感がする。

しょうがない。

母に気づかれないように、僕は静かに家を後にした。



ーーーーーー


家に、いない。

彼は、居なかった。

嫌な予感は的中したようだ。

最悪だよ。


「あー!もう!馬鹿野郎が!」


僕は一目散に、「外」への出口へと向かった。



ーーーーーーー



出口にも人影はなかった。

運良くなのか、いつも見回りに来ている警備員の姿もない。

もしかしてあいつ、今日は警備員がいない事知ってたんじゃないか?

考えても仕方がないのだが、怒りが込み上げてくる。


「くそっ!行ってやるよ!」


僕は、「外」に出たのだった。

こんな形で夢を叶えるだなんて思ってなかった。



ーーーーーーー



広大。

ただただ、広い世界が、そこには広がっていた。

思わず、口の端から驚きの声が漏れ出てしまった。

奴らが整備したのであろう、美しい地平線。

まず天然の物ではないだろう。

こんな綺麗な景色が見られるなら、死さえ怖くないかもしれない。


と、感傷に浸っている時間はない。

はやくガーナーを探さなくては。

幸い、奴らの姿はない。

いくら夜とはいえ、奴らはいつくるか分からない。

警戒をしつつ、僕は前へと進み始めた。



ーーーーーー



[視点変更・ガーナー]

ゴタが帰って少しした後の事。


「くっそー!臆病ものめ!」


まさか断られるなど、微塵も考えていなかったガーナーは、ゴタの帰った後の広場で、一人、地団駄を踏んでいた。

今日、いつも出口にいる警備員がいないということを知ったガーナーは、100%の善意でゴタを「外」へと誘った。

ゴタが「外」への憧れを抱いていたのは知っていたし、自分も「外」の世界を見てみたかった。

その一心で誘ったのに、あんな冷たいあしらわれ方をしたので、彼は傷ついたらしい。


「もういい!一人で行ってやる!」


怒りのあまり、掟を忘れてしまったガーナーは、まだ日も高いというのに、「外」へと走り出してしまった。



ーーーーーーー



「うわぁ!」


「外」は、彼の想像の遥か上だった。

広く、美しい。

世界は、いつも自分たちが生活していた世界が無色に見えるほど輝いていて、煌びやかだった。


そうか!

今まで帰ってこない人がいたのは、ここに住みたくなったからだ!


まだ幼いガーナーがそう考えてしまうのも、無理はなかった。

奴らはここにはいなかった。


怒りはとっくに消え去っていた。

いくら走り回っても、無限に続く世界。

横になれば、美しい世界が広がっていた。

どこからか、いい匂いもして来た。

ふらふらと、吸い寄せられてしまう。

彼はこの世界の虜になったらしい。



ーーーーーーー



どのくらい経過しただろうか。

少し昼寝をしていたガーナーは目を覚まし、日が沈んでいることに気がついた。

いい加減、奴らがくる前に帰らなきゃ。

そう考えたガーナーだったが、体に違和感を感じた。


「ん?あっあれ?」


体が、地面からピクリとも動かないのだ。


「だ、誰か!助けてくれ!」


そうか。

これが奴らの罠か。


「頼む!誰かいないのか!」


手足が千切れんばかりに力を込め、思い切り暴れようとするが、一切動く気配がない。

ああ、ゴタが正しかったんだ。

ゴタの言う通りにしておけば、そんな後悔が次々と頭に思い浮かんだ。


その時、遠くから、小さく、されどはっきりと、声が聞こえた。


「ガーナー!どこだー!」



ーーーーーーーーー



[視点変更・ゴタ]


「ガーナー!どこだー!」


しばらく探したが、こんな広い場所で人探しだなんて、とてもじゃないが無理だ。

奴らに見つかる危険性が高いが、とにかく叫ぶしかないだろう。


しばらく叫んでいると、微かに声が聞こえたような気がした。

俺はここだ、と。


「!ガーナーか!?思い切り声を出してくれ!助けに来たぞ!」


今度は、はっきりとここだ、と聞こえた。

よかった。

無事だったんだ!


急いで走っていくと、不意に日が明けた。


急激に明るくなった世界。

見えていなかったものが鮮明に見えるようになった。

だが、感動などは出来なかった。


僕の、視線の先には、異常なまでに肥大化した頭部、奇妙に発達した触角。僕たちより、二本も少ない四肢。

そう、奴らがいた。



ーーーーーーー



奴らは、僕の方を見るや否や、僕のほうに向かって走って来た!

その動きには、確かに殺意に溢れていた。


逃げなきゃ。

逃げなきゃ!


僕は、恐怖で支配されてしまった。

一目散に、来た道を引き返した。

全力で、今までのどんな時よりもはやく走った。

後ろからは、奴らの奇声が聞こえるが、無視して走り続けた。


「ゴタ!おい!裏切り者おおおおおお!!!」


うるさい!

お前が勝手なことしなければこんなことにはならなかったんだ!


やった!

もう入り口は目の前だ!

逃げ切れる!

僕は生き残れるんだ!


パンッ


かるい、何かが弾けた音がした。


「えっ?」


おかしいな、足が急に動かなくなった。

はやく、逃げなきゃなのに。


ゆっくり僕は後ろを向いた。


僕の下半身は無くなっていた。


「は、あははは、、、なんで、、、?」


体から、何かが抜けていくのがわかる。


「や、やめろ、来るなあああああああ!!!」


どこかからか聞こえてくる叫び声は、とても遠く感じた。


それが、僕が考えた最後のことだった。



ーーーーーーーー



ゴタは死にました。

ガーナーも、同様に。

彼らの母親達は、村で彼らを探しています。

見つからずに、泣いています。

彼らをかわいそうだと思いますか?



ーーーーーーーー



[視点変更]


「ふー」


どくどくと鼓動する音が、聞こえる。


「あーびっくりした」


危ないところだった。

もう少しで、排水溝に逃げ込まれるところだった。

もしかして、排水溝に巣があるのかな?

今度、薬を撒いておくか。

やっぱり、潰せるうちに潰しておかないと。

奴を叩いた雑誌をゴミ箱に捨てると、手早く処理を始める。

今日もホイホイには小さなゴキブリが捕まえられていた。


さて、そろそろ始発の時間だ!


駅は常に、清潔にしておかないとね。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

あまり、自分でもうまくドキドキ感を表せておらず、単調になったと反省しています。

また、テーマである駅もほぼ出て来ず、申し訳ありません。

駅の排水溝とその外というテーマで私は作りたかったのですが、うまく表現できませんでした。

最後に、一寸の虫にも五分の魂、と言うことわざを、たまには思い出していただけたらと思います。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

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