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第78話「エルフは、降下する」

『ははは! あそこだ、バーンズ───もうついたぞ!』

『おーおーおー……早いもんだな、飛竜ってのは』


 大型の飛竜に騎乗したドルガン司令とバーンズ達。

 彼らの眼下には赤々とした夜の光に包まれた人間の街が広がっていた。


『くくく……! 下等生物が増えに増えよってからに───……みろ、人間がゴミのようだ』

『カッ。好きだねぇ、アンタ等は───。俺は人間だろうが、エルフだろうが、ドワーフだろうが、どれも似たもんだと思うがね?』


 肩をすくめるバーンズは、ドルガン司令の考えには全く賛同できないらしい。

 彼に見られないように、虚空に向かって舌をだしてウンザリ顔。


 バーンズは元々、こういう種族至上主義に嫌気がさしていたのだ。

 だから、公の場でも一事が万事いつものこの調子だったがために、エルフ上層部には嫌われていた。もちろんドルガンにも、だ。


(なぁに)を言うか。我ら高貴な血筋の種族と、短命種の虫けら同然の下等生物を混同するな。……ほんの少し正直になれば、もっと上の受けもいいぞ?』

『充分に俺は正直だよ───っと、あれか?』


 バーンズは目を細めて街を見通す。

 すでに飛竜部隊の一部は街の上空に差し掛かっていた。


 そして、その姿を見咎めた様に、街の外縁を覆う城壁と底に詰めている兵士の影がにわかに騒がしく動き始めた。


 だが、バーンズのいうあれ───とは、兵士達のことではない。


『司令! 発行信号確認───潜入調査員の合図です!』


 バーンズの視線の先では、

 街の中心部あたりで、ひときわ明るく瞬く火がやけに目立って見えた。


 チカ、チカ、チカッ!


 その火は街の明かりとは明らかに異なるもの。どうやら、エルフの高等魔法のそれらしい。


『発行信号解読!』

『読めッ』


 飛竜に乗るエルフ兵の一人が目を凝らして発行信号を解読すると、ゴルガンに向かって大声で怒鳴る。

 そうしないと、風の音でかき消されるのだ。


『───我、目標確認す。位置情報送る。……以上です!』

『よし、先遣隊は空爆ののち、降下準備───露払いを実施せよ。私の直属は全て目標へ向かう。遅れるなよ!』


『『『ハッ!!』』』


 肩を寄せ合うようにして近くを舞っていた飛竜に部隊が敬礼をもって答える。

 そして、飛竜間で次々に発行信号と接近しての逓伝が伝わっていく。


『攻撃開始』

 『攻撃開始』

  『攻撃開始』


 さすがの練度だ。


 その見事な動きにバーンズでさえも口笛を吹いて驚きをみせた。


『ひゅ~♪ たいしたもんだ。さすが練達の空挺兵───こりゃ、俺の出番なんかないんじゃないか?』

『馬鹿を言うな……。兵力で勝てるほど、あの「遺物」は甘くはない。お前が一番よく知っているだろうに……。だから、な。お前にはたっっっぷりと働いてもらうからな』

 ニヤリと口を歪めるゴルガン司令。


 その言葉にバーンズは肩をすくめて答える。

『へーへー。せいぜい頑張らされてもらうよ、遺物にタイマーどもの相手。……こりゃ、「俺」が5人は必要だな』


 おどけた様に悲壮感を見せるも、まったく焦りも見せずにバーンズは薄く笑う。

 そして、ゴルガンもそんなバーンズに全く取り合わない。


 彼は、

 罪人でありながらも強者然としているバーンズの力は信頼しているのだろう。


 実際に、その気になればバーンズはここにいる全員を知覚する暇もなく瞬殺(・・・・・・・・・・)できる力をもっているのだ。


 それをしないのは、ひとえにバーンズにその気がない(・・・・・・)からだ。


 ゴルガンあたりは首につけた魔道具や全身の呪印を保険だと考えているが、バーンズからすれば勘違いもいい所。

 その気になれば、バーンズ単独で時空魔法を使用して何とでもしてしまえるのだ。


 それほどに、バーンズの時空魔法の技術はそれを卓越している。


 だが、そうしたところで、バーンズにはたいした益がなかった。

 だからやらない(・・・・・・・)

 エルフ社会では罪人扱いだ。

 だが、仮に脱走をしたとすれば二度と帰ることはできないだろう。


 ならば、大人しく刑期を終えた方がいい───と、バーンズはそう考えていた。


『ふっ。軽口はそこまでだ。降下地点を確認したならば、お前にも行ってもらうぞ?』

『わぁーってるよ。……これの使い方には自信がないがね』


 そう言って、身に着けた装備を指でピンピンと弾く。


『ははは。そんなものなくとも、お前ならなんとかするだろうに』

『おいおい、俺を化け物かなんかだと勘違いしてないか──────っと!』



 ひゅるるるるるるるるるるるるるるる。

  ひゅるるるるるるるるるるるるるるる。



 バーンズの耳に轟く、嫌な風切り音。

 戦争中散々聞いたあれだ───。


『お、おい、焙烙玉まで持ってきて……。まさか、ここを全部焼く気か?! いくら人間の街だからって、おまッ』

『くくく。何を気にしてる。下等生物なんぞ、ほっとけばそのうち増える。そして、100年も経てば記憶は薄れるさ、何ほどのこともない。はっはっは───』



 そう言ってゴルガンが笑ったとき、それは起こった。



 ボォォオオオオオオン!!



『っはっは………………は??』


 と、先遣隊の方で火の手が上がり、低空飛行で爆撃していた飛竜が一騎燃え上がる。

 その明かりの中で精鋭たるエルフの尖兵が次々に炎に包まれ落下していく様まで、まざまざと……。


『な、なんだと?! なにが──……!』


 唖然とするゴルガンに対して、バーンズだけは口角をゆるく上げた。

『はは。そうだろうさ……』


 時間を止めて眠っていたバーンズにとって、かつての戦場との時間差は、そう離れていない。

 とくに体感時間としては、つい先日のようにも感じるほどだ。


 だから、バーンズだけは知っていた。

 分かっていた。


 そして、気付いた───。


 …………そいつの正体に。



『ほ。来たか……!』



 そして、続く激しい銃撃の音。

 

 ドガガガガ、ドガガガガガ! と、空を染めるマズルフラッシュに浮かび上がった黒い人影。


 あぁ、懐かしい。

 エーベルン工廠製───ドワーフどもの傑作武器、重機関銃。


 その懐かしくも忌々しい調べをここで聞くことになるとは!!


 ギェェェエエエエエエンン!!


 飛竜の悲鳴。

 そして、

 そのあとには、彼がもがき苦しみながら落下していき、僚機を巻き込んでいく様が───。


『ば、バカな?! 飛竜が撃墜だと?! ありえん、どこからだ?! まさか。か、下等生物の反撃にやられたのか───』


『カッ! 舐めて掛かるからだ。ゴルガンよぉ、下等生物は強いぞ~……。さぁ、ここからが本番だ。お前も、もう逃げられん、覚悟を決めろッ』


 ニィィと笑ったその顔を、

 ゴルガンは青ざめた目で見つめるも、バーンズは笑って返すのみ。


『く! た、たかが先遣隊がやられただけだ……! 行けッ! 総員、降下準備だ!! 空で死にたくなければ、陸で死ねッ!!』


『『『はッ!!』』』


 ゴルガンの合図はあっというまに全軍に通達される。


『降下用意!』

 『降下用意!』

  『降下用意!』


 そして、ゴルガンを含む直属部隊も街の中で確認された発行信号に近づきつつあった。


『ゴルガン司令! 準備よし!』

 同乗のエルフ兵をまとめていたモルガンが敬礼をもって答える。


『うむ。では目標上空に達したら合図を送る。降下の際の開傘衝撃に気を付けろよ。街は燃えている、上昇気流を警戒───水平状態からの空挺降下』


『『『了解!』』』


 エルフ空挺兵が頭の上に乗せていたゴーグルをスチャキと装着する。


 バーンズも同じくゴーグルを装着。

 レンズが街の炎を受けてキラリと輝いて見えた。


 では、()けッ!

『ハッ! いくぞ、空挺どもッ』

『『『おう、おう、おう!!』』』


 威勢良く立ち上がったエルフ空挺兵。

 そして、彼らに合図を出すのはモルガンだった。


 目を細めて前方を注視すると、音声増幅の魔法を駆けつつ、全軍に逓伝───。


『───風速よし、高度よし、敵航空兵力…………なし。進路クリア───……コースよし』


 ザッ! と一斉に立ち上がるエルフ空挺兵。

 左右に分かれて飛竜の背中の側面に立つ。

 そして、全員が眼下の街を見下ろした。


 燃える。

 燃える、燃える。


 燃える人間の街───。


 逃げ惑う人々や、立ち向かい弓を空に向ける者。

 そして、圧倒的多数の空を見上げるだけの阿呆な下等生物ども───!


『コースよし、コースよし、コースよし……用意、用意、よーい……』


 ヒュルヒュルと風が飛竜の背中を流れていく。

 ただの空挺兵も。

 モルガンも。

 バーンズも。


 ゴルガンも……。


 ゴーグルごしに感じる、燃える街の空気を……匂いを感じた気がした。



『───…降下!!』




 降下! 降下っ!!




『『『降下、降下ッッ!!』』』


 降下ッッッッッ!!


『エントリィィィィィ───!!!』



 そして、全エルフ空挺兵が空へと身を投げた──────……まさにその時。



「わぁお、嚮導騎(リーダー)発見ッ!」


 スタンッッ!!


『んな?!』





 エリカ・エーベルトがついに到着した……。



「はぁい! 下等生物代表でぇす♪」

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