第26話「【タイマー】は、認定される」
「え?!」
突然振られた話題に、ルビンの思考が硬直する。
「いえ、その───ギルドマスターの引継ぎなどもあり、あのハゲの記録などを調べていたのですが……」
そっと示された報告書の一つ。
それはかなりの献金とともに、転職神殿に書かれた紹介状の写しであった。
内容は至ってシンプル。
「たしかに、エリックさんの献金を受けてギルドマスター経由で転職神殿に話が通っています」
「うん」
それは知ってる。
エリック達もルビンの転職に期待していたからね。
「ですが、……これは通常の献金よりも明らかに額が多すぎます」
「え?」
そう言って、示された金額は金貨換算にして、約2000枚。
白金貨なら20枚のそれだ。
「ど、どういうことですか?」
「えぇ、詳細は私もわかりかねますが、……通常の転職のための献金が1000枚です。神殿への渡航費を考えてもそれを多少上回る程度かと思います」
うん……。
バカ高い交通費を踏まえても2000枚は考えられない。
「ですので、最初はあのハゲによる横領か、賄賂を疑ったのですが、その形跡はありませんでした」
「うん??」
じゃあ、誰が金を……??
「───この多めに支払われた額のうち、1000枚。これは全て転職神殿が受領したようです」
「は?」
え?
なんで、倍近い金をエリックが払ってんだ?
ルビン一人の転職の金を出すのも苦労したというのに、どういうことだ?
「私が調査できたのはここまでです。ですが……」
声をさらに落とすセリーナ嬢。
ここから話すことは神への冒涜に繋がりかねないという。
「……ルビンさんが転職神による『誤字』によって転職を失敗したというのは、おそらく偶然ではありません」
「ッ」
セリーナの衝撃の一言。
たしかに。ギルドマスターも同じようなことを言っていたけど……。まさか真実なのか?!
「まさか……エリック達が?」
「……推測の域は出ませんが、転職神殿に働きかけるほどの金額を支払ったのは間違いありません」
ばかな……。
何のために??
皆でドラゴンを使役するんだって、言って…………。頑張って貯金したんじゃないのか?
なぁ、エリック──────。
どうして?
なんでなんだ…………?!
(なんでだよ、エリック……!!)
ガクリと力なく椅子にもたれるようにして崩れ落ちるルビン。
「る、ルビンさん?!」
「だ、大丈夫です……。大丈夫……」
「は、はい。どうも混乱させたようで申し訳ありません……」
「いえ、ある程度は予想がついていましたので……。ただ、まさか───」
まさか、転職させてまでルビンを貶めたかっただなんて……。
何がそうさせたんだ?
「……なんでもありません。それより、天職についてはなにか?」
無理やり疑問を飲みこむと、意図して笑みを作りセリーナ嬢に問いかける。
その笑顔を痛ましそうに見ながらも、
「は、はい。ルビンさんの天職───【タイマー】でしたか? についても記録をしらべました」
ごくり……。
「まず結論として、【タイマー】に関する天職の記録はゼロです」
「ゼロ?!」
嘘だろ?
まったく記録がないなんてありえるのか?
「はい。それらしき記録はありませんでした。古書のほうも照会しておりますが、目録が整理されているため寧ろ検索は容易だったのですが……。現在のところそれらしき記録はありません。今は係に言って他の書物も漁っておりますが、おそらく目ぼしい情報は出てこないかと……」
「そんなバカな……。だって、俺は現に───」
そう、現にルビンは【タイマー】なのだ。
『タイム』を操る、時使い……。
「一応、王都の方や別の支部には問い合わせはしております。王都の方ならばもう少し情報があるのでしょうが、ここで全く見つからない以上、かなり情報は限られるものと思われます」
「はい……。お手数ですが、引き続きお願いします」
「もちろんです。我々ギルド側としても、新情報ゆえ、この手の調査は無償かつ……場合によっては調査協力として報酬が支払われる案件です」
つまり、重要案件ということらしい。
「───そして、現状を鑑みて、ギルドはルビンさんの転職【タイマー】を新しい天職と認定し、」
「に、認定……?」
すぅ……。
「───SR……超々希少職と認定いたしました」




