ちょっと竜の様子を見てくる2
【1】
地図を見て驚愕した。
この地下シェルターから、エルミーの飼育場まで、かなり遠い。
徒歩では、往復何日かかるだろうか?
車で行くしかない。
俺も一応免許持ってるし、
それなりに島内を運転した経験はある。
だから大丈夫だ……とは絶対言えないが、
なんとかなるだろう。
それに、竜もあちこちに闊歩してるけど、
こちらには、アヤノという制御魔術師もいるし、
なんとかなるだろう。
なんとかなるだろう。
なんとかなるだろう。
驚異的に楽観的。大丈夫か、俺。
俺はハンドルをにぎって、後部座席を見る。
アヤノは後部座席にちょこんと座っている。
「本当に出発するけどいいのか?
ここから飼育場までかなり遠いし、
簡単には引き返せないぞ」
「後悔はしてませんよ」
「……わかった」
俺は、アヤノの同意を確認すると、車を走らせた。
車さえ使えれば、一日以内に帰ってくることもできる。
その間、竜やテロリストに襲われなければの話だが……。
【2】
俺たちは幸運だった。
途中、竜とすれちがうことはあったが、
襲われることもなく、無事に通り過ぎた。
テロリストにいたっては、影も形も見えない。
飼育場にたどりついた。俺とアヤノは車を降りる。
飼育場は、不気味なほど静かだった。
多数の竜がここにいるはずだが、
1体たりとも見かけない。
それに、壁がところどころ壊れており、
竜が暴れた様子がうかがえた。
というか、よく考えると、
飼育場には多数の竜がいるはずであり、
俺たちに襲い掛かる可能性さえあった。
今考えると、相当やばいことをしているな、俺たち。
アヤノの制御魔法で抑えられるのは、
竜1体だけって言ってたな。
多数の竜相手では間に合わない。
だからといって、俺の防竜技術では、
多数の竜を相手にすることは不可能だ。
急に怖くなってきた。引き返すか?
いや、ここまで来て、簡単に引き返すことは、できない。
せっかく危険を冒してまで、エルミーの様子を見に来たんだ。
俺の決意は固い。
意を決して、俺はエルミーの飼育場に足を踏み込んだ。
「……いない」
がらんとしていた。
昨日まで元気にしていたはずのエルミーの姿はなく、
食べかけのエサが少し残っている程度だった。
エルミーはどこへ消えた?
「この飼育場、竜がまったく見かけませんね。
私たちにとっては好都合ですが……。
不気味ですね。みんなどこへ行ったのでしょう」
アヤノは、あたりを見回しながら、不安げにつぶやく。
「もっと探してみよう」
「はい」
俺とアヤノは、一緒に飼育場内を探し回ることにした。
飼育場内は自動で明かりがつくシステムになっているため、
電気系統が死なないかぎりは、明るさには困らなかった。
だが「あの曲がり角の向こうに竜が潜んでいるのでは?」
と想像すると、足取りは慎重になる。
そのときだった。
ガタッ。
曲がり角の向こうから音が聞こえた。
何かいる。
俺とアヤノは一気に緊張が高まった。
この曲がり角の向こうに、竜がいるかもしれない。
「アヤノさん、俺が見てくるよ」
「はい。き、気を付けて……」
俺は、じりじりと曲がり角のほうへ向かい、
少しだけ顔を覗かせる。
あれ? 誰もいない……。
さっきの音はなんだったのだろう。
空耳だったのだろうか。
油断はできない。
俺は、もう一歩前へ進み、曲がり角の向こうへ完全に足を踏み入れる。
何もいない。
とにかく、竜の気配はなかった。
アヤノのところに戻るか……。
俺が思ったそのときだった。
「きゃっ!?」
アヤノの声がした。
まずい。
竜がいたのは背後のほうだったか!
アヤノが危ない。
俺は道を引き返した。
「!?」
そこには、信じられない光景が広がっていた。
アヤノのすぐ隣には――少女がいた。
異様な光景だった。
その少女は、衣服を身にまとっていなかった。
つづく