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竜の飼育員、竜に襲われる  作者: 朝吹小雨
2/22

初めての戦い

【1】


「ユート、起きろ! やばいことになってるぞ!」


夜深い時間。

俺の寝床のすぐそばに置いてあった電話から、

危険を訴える内容の連絡が届いた。


「なんだよ」


眠いところを起こしやがって。ただじゃすまないぞ、この野郎。

内心、俺はキレてたが、相手は僚友なので、やわらかく答える。


「制御室で異常があったらしい。

 従業員の緊急招集がかかっている」


制御室?

いま、制御室と言ったか?

どんな異常が起きたのだろうか。

俺は気になって確認する。


「制御室で異常とはなんだ?」


「俺もよくわからないんだ。

 制御室で異常が起きて、警備員たちが向かったらしいんだが、

 警備員たちの連絡もすぐに途絶えてしまった。

 銃声が聞こえたという連絡もあったらしい」


警備員の連絡が途絶えた? 銃声が聞こえた?

俺は自分の耳を疑った。

制御室が、何者かに占領された、ということだろうか?


非常にまずい。


リューランド園内の竜たちは、制御魔法によって、おとなしくなっている。

もし制御室が占領・破壊されるようなことがあれば、

竜たちは制御から解かれ、自由に動き出してしまう。

そうなれば、完全に異常事態であり、リューランドの破滅である。


一番いやなのは、俺の飼育竜エルミーまで暴走してしまうことだ。

エルミーに何かあれば俺は生きていけない。


「……制御室に行こう。このままじゃまずい」


「危険だ。行かないほうがいい。

 従業員たちは、地下の緊急避難シェルターに逃げるよう言われている。

 ユート! 一緒に逃げよう!」


「だめだ」


俺は、そのまま電話を切り、立ち上がった。

すばやく乱暴に、従業員用の制服に着替え、制御室の方向へ走る。



【2】

従業員寮と、制御室はかなり離れている。


あまり行ったことないし、地図を片手に、とにかく前へ前へと走る。

めちゃくちゃ走れば、どうにかたどりつけるだろう。

到着するときは、ヘトヘトになっているだろうけれども。


夜の闇の中を、俺はランニングし、コンクリートの従業員寮を脱し、

木々を抜け、川を越え、坂道を突っ切っていく。


ん?

前方に車の姿が見える。

大人数乗れそうな、少し大きな車だ。

ライトを照らし、夜の闇を切り裂きながら、俺に向かってくる。


従業員の乗っている車だろうか。

おそらく緊急避難シェルターに逃げる途中かもしれない。

俺は車を無視し、制御室への道を進もうとした。


そのとき、車が止まり、俺に声がかけられる。


「ユート君!?

 あなたいったい何をしているの!」


車から人が降りてくる。


「シオン先輩!?

 ……俺は、これから制御室へ向かうんです。

 異常が起きたんですよね?

 このまま放っておいたら、俺、心配で」


「心配なのはわかるけど、今は緊急避難が大事よ。

 もうすでに一部の竜が、人を襲ったという情報もあるわ。

 お願いだから、勝手な行動をしないで。

 私たちと一緒に逃げよう。ね?」


「シオン先輩の頼みでも、聞くことはできません。

 俺、制御室に行きます!」


「ユート君! 待って!」


俺とシオン先輩が、「行く」か「逃げる」かで押し問答していると、

それを中断せざるを得ない状況が発生した。


咆哮。


すぐ近くだ。


聞き覚えがある。


この咆哮は、飼育しているときに何度も聞いた。


近くにいる。


竜が、いる。



【3】


「ユート君。もしあなたが竜を倒せるというのなら、

 私たちの車に乗らず、制御室に行きなさい。

 今の咆哮、聞こえたでしょ?

 かなり大きな竜よ。

 あなたが訓練のときに何度も殺されたかもね」


「シオン先輩! 俺は……」


「で、丸腰に見えるけど、どうやって戦うというの?」


シオン先輩は挑発するように言う。


俺は、従業員寮から抜け出すとき、

ろくに装備も確かめずに飛び出してきたのだった。


つまり、竜と戦える装備は無い。

こんな状態で竜と遭遇したら、逃げるしかない。


俺はがっくりと肩を落とした。


「ようやくわかったようね。

 さあ、一緒に逃げま……」


「シオン先輩! あぶない!」


シオン先輩の背後から、巨大な影が見えた。

夜の闇にまぎれて見えにくいが、

象のような大きさのうごめく「何か」がすぐそこに迫ってきていた。


「うしろ!?」


シオン先輩は振り向くことなく、俺を強烈な勢いで突き飛ばし、

シオン先輩自身もはるか遠くへ跳躍した。


俺とシオン先輩は、背後に迫ってきた影の正体をとらえる。


象のような大きさ。赤い皮膚。鋭い爪。

口からは、小さな炎がぼうぼうと噴きあがっている。


火竜。


俺が防竜訓練で何度も殺された相手だ。


「どうやら、この竜は……私たちに友好的には見えないわね」


シオン先輩は、腰に下げている銃を抜くと、火竜めがけて構えた。

この銃は、特殊な光線銃で、竜の皮膚も貫通する威力を持つ。


「シオン先輩!」


「ユート君、そこで黙って見てて。邪魔しないでね」


火竜は咆哮をあげ、突進してきた。

地面が激しくゆれ、俺はこれまでにない恐怖を感じた。


シオン先輩がやられるかもしれない恐怖。

自分自身の命も失いかねない恐怖。


だが、その恐怖はやがて晴れた。

シオン先輩の放った光線銃は、火竜を貫通した。

貫通した……と言っても、火竜の顔のはじっこを少し痛めた程度だが。


「……」


固唾をのんで見守る。

シオン先輩のわずか数メートルまで火竜は迫ろうとしていた。

が、急に方向を180度変えた。

火竜は生命の危機を感じたのか、退散し、夜の森の中へと消えていった。


俺は腰が抜けて、そのままヘナヘナと座り込んだ。

シオン先輩は、無表情だ。


「やれやれ。逆上して炎を吐かれてたら今頃死んでたわね。

 本来、竜は臆病な動物よ。

 でも機嫌が悪いと大暴れもするわ。

 今はそうでもなかったみたいね」


「シオン先輩……俺……」


「これでわかったでしょ。

 ろくな装備もないと、今ごろ命は無いわ。

 とにかく、これ以上あなたが進むのは危険よ。

 私たちと一緒に避難しましょう」


俺は、しぶしぶ、シオン先輩の車に乗り込んだ。


車内には、数人の人影が見える。

おそらく俺と同じ従業員と思われる。

暗くて、顔はよく見えなかった。


「走らせるわよ」


車が動き出した。


シオン先輩の説明では、

近くの緊急避難シェルターまで、少々距離があるようだった。

それまでに、竜に襲撃されなければいいが……。

と思った矢先、俺たちはまたしても危険な目にあうのだった。




つづく


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