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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第四章 ティトゥの海賊退治編
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その13 ティトゥの人命救助

 僕達の宿泊先、エニシダ荘にマリエッタ王女が訪ねて来た翌日。

 ティトゥはどことなくげっそりとした顔つきで朝から僕のところへやって来た。


『今日も索敵飛行に出かけますわよ』


 僕は驚いてティトゥの後ろに控えているメイドのモニカさんとメイド少女カーチャを見た。

 カーチャはどことなく困った顔、モニカさんは意地の悪そうな笑顔を浮かべていた。


 僕達の計画では一日飛んだ後は一日休みということになっている。

 これは僕の燃料の回復を待つためだが、もちろんティトゥの疲労を回復させるためでもある。


 飛行自体は余裕を含んで計画を立てているため、増槽を使うなら今日飛んでも別に燃料の問題は無い。でも、せっかく会いに来てくれたマリエッタ王女を置いて行くようなことをして良いのかな?


『昨夜は何度もおトイレに行くはめになりましたわ』


 何の話やらさっぱり意味が分からないが、メイドのモニカさんは思い当たることでもあるのか、凄く楽しそうだ。

 それはともかく。何故かやたらとティトゥにせっつかれたので、僕達は今やすっかり定番になった出発前のあれこれを全て省略して、とっとと空に上がるのだった。




『やっと一息つけましたわ・・・』


 何だか知らないけどお疲れさん。

 だったら今日は索敵飛行は止めにして、観光も兼ねてのんびり遊覧飛行するかい?


『いえ、仕事を投げ出すようなことは出来ませんわ!』


 立派な心掛けの気もするけど、バカンスに来て仕事をしている今の方がおかしいと思うんだけど?

 まあ、ティトゥにやる気があるのに僕が足を引っ張るわけにはいかない。

 僕達は明日の予定を前倒しする形でこの数日の流れに沿って索敵を続けたのだった。



 おやっ?

 僕は海面の一点にふとした違和感を覚えた。


『どうしたんですの? ハヤテ』


 ティトゥが僕の挙動の変化に気が付いたのか、手元のメモ板から顔を上げて尋ねる。


『モドル』

『分かりましてよ』


 ランピーニ聖国の周りの海は結構な船が行き来しているためか、木の樽とか丸太とかいろいろと漂流物も多い。

 ていうか丸太なんて誰がどうやってこんな場所に捨てたんだろうね?

 さっき目に入ったのもそんな漂流物だといいんだけれど・・・


『人ですわ!!』


 ああ、やっぱりそうだったか。

 僕たちが見つけたのは大海原にポツンと浮かぶ木の箱と、それに縋り付いている男の姿だった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


(くそったれチコが! 無事に戻ったらケツの毛までむしり取って裸で路上に放り出してやる!)


 俺は夏の太陽にやられてぼんやりとする頭で繰り返し同じことを考えていた。

 こんなことでも考えていないと気が狂いそうになっていたからだ。

 こうして海に投げ出されてすでに三日。

 俺だってもう助かる可能性がゼロに等しいことくらい分かっているんだよ。


 俺の名前はシーロ。

 一端の商人、あるいは商人の端くれだ。

 あの日、俺は船の中で同じ商人仲間のチコと飲んでいた。

 俺はチコと口論の末にケンカになった。

 口論の原因? そんなのは覚えちゃいない。二人共しこたま飲んでたからな。下らない原因に売り言葉に買い言葉。そんな感じだったんじゃねえかな。


 俺はケンカの末、最後はアイツをぶん殴ってノシちまった。

 こうしてすっかりいい気分になっていた俺だったが、今度はその俺をアイツの取り巻きがボコボコにした挙句、海へ放り捨てちまった。


 俺は最後にしがみついていたこの木箱と一緒に落ちたおかげで、どうにかおぼれ死なずに済んだんだ。

 木箱の中身はランピーニ聖国の果実酒か何かだったみたいで、あれから三日経った今でもこうして無事浮かんでいる。

 これがもし中身が布やロープだったら、今頃、水を吸った重みで沈んでただろうからな。全く俺はツイてたぜ。この時まではな。


 最初は荒れたよ。

 あの野郎共ブッ殺してやる、ってさ。

 でも、こうして三日も飲まず食わずで波間に漂ってると、流石そんな元気も無くなってくるってもんだ。

 この時期なら一~二日も粘れば他の船が通りかかると思ったんだが、水平線にマストの先すら見えやしねえ。

 どうやら潮に流されて、いつの間にか定期航路から外れちまったみたいだ。

 くそがっ。最悪だぜ。


 いつまでも船に出会わないのをずっと不思議に思っていたが、今朝方その可能性に思い当たった時には、流石の俺も絶望に目の前が真っ暗になっちまった。

 このまま苦しんで死ぬくらいならいっそ――

 そう思って舌を噛み切って死のうとしたのだが・・・

 

 ダメだ。舌なんて噛み切れるもんじゃねえよ。


 ありゃあ創作物の中の嘘だぜ。どんなに苦しくても人間そんな方法じゃ死ねないぜ。

 俺は口の中に広がるテメエの血の味と、ズキズキと頭に響く舌の痛みを不愉快に感じながら、喉の渇きと絶望にじっと耐えていた。




 舌の痛みのせいか、照りつける太陽に俺の頭がいよいよおかしくなっちまったのか、さっきからヴーンヴーンとしつこく耳鳴りがしやがる。

 そんな俺の体にフッと影が差した。何だ? 鳥か?

 ぼんやりとした頭のまま、俺は微妙にイラつきながら顔を上げた。


「何だあれは?」


 それは空に浮かぶ巨大な翼。

 今まで見たこともない飛行物体だった。


 謎の飛行物体は俺の正面に回ると・・・

 もの凄い勢いで上空から俺に襲い掛かって来た。

 轟音と共にみるみるうちに近づいてくるそいつ(・・・)


「野郎、俺を食う気か?!」


 俺は恐怖で肝っ玉が縮み上がった。

 おかしなもんだ。ついさっきはテメエでテメエの命を捨てようとしたばかりだっていうのに、おっかねえ、死にたくねえ、って思っちまったんだよな。


 そいつ(・・・)は轟音を響かせながら、俺の頭を踏んづけるみたいに俺の上を越えて行きやがった。


「助かった・・・のか」


 まだ心臓がバックンバックンいってやがる。

 そんな時、俺はふと波間に漂う小さな筒に気が付いた。

 筒には女物のハンカチーフが巻き付けられている。


 さっきまでここにこんなものあったか?


 ハンカチーフには何か手書きの文字が書いてあるようにも見えた。


 突然現れたその筒に何となく運命的なものを感じた俺は、最後の力を振り絞ってその場所まで水をかいた。

 空中のそいつ(・・・)はまだ俺の頭上にいるようだ。

 そいつ(・・・)のたてるヴーンヴーンという耳鳴りのような音が続いている。

 手に取ったその筒はひんやりと冷たかった。酒瓶ほどの大きさの金属の筒だ。

 俺は濡れたハンカチーフを広げると・・・


「何・・・だと・・・」


――筒ノ中ハ水 水柱ノ方向ニ小島アリ――


 俺がハンカチーフに書かれた文字を読んだ途端、上空のそいつ(・・・)から光の粒が打ち出され、俺の左後方にいくつもの白い水しぶきが上がった。

 あれが水柱か? なら、あの方向に小島があるってのか?


 その時、そいつ(・・・)はくるりと俺に背中を見せた。


「女?! 背中に女が乗っていやがる!!」


 そう! そいつの緑色の背中にはピンク色の髪をした女の姿があったんだ!

 マジでぶったまげたぜ!

 しかも、今までお目にかかったことも無いような飛び切りの美人だ。チラリとしか見えなかったが間違いねえ。

 女を乗せたそいつ(・・・)は、もう一度光の礫を飛ばすと同じ方向に水しぶきを立てた。

 俺が呆けたように見守る中、そいつ(・・・)はどんどんと空高くに舞い上がって行き、やがて空のかなたへと消えてしまった。


 俺は手の中の筒を弄り回し、なんとか蓋を開けることに成功した。

 水だ! 本当に水が入ってやがった!

 俺は震える手で筒を傾けると、中の水を貪るように飲み干した。


 う、美味え!


 冷えた水の美味さは俺の舌をしびれさせた。

 酒よりも美味い水を飲んだのは初めてだ。

 本当に水なのか?!


 あの人は天使だ。

 天使が俺に生きろと言っているんだ。


 俺は僅かに回復した力を振り絞ると天使の導きに従って水をかいた。

 やがて日が傾いたころ、本当に前に小さな島が姿を現した。

 さらに翌日、島に船がやってきた。

 俺は助かったんだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇


『良かった。ちゃんと手に取ってもらえたようですわ』


 すれ違いざま、ティトゥに投げ落としてもらったメッセージ入りのハンカチは、無事に遭難者に拾ってもらえたようだ。

 ちなみにハンカチは、ティトゥのお弁当として僕が出したオニギリの水筒に括り付けられている。

 中身はお茶だ。ついでに飲んでもらえばいいだろう。


 僕は近くにある小島の方角へ20mm機関砲を斉射した。

 念のためもう一度繰り返すと、遭難者の顔はハッキリとそちらに向いていた。

 よし。これなら多分、大丈夫だろう。


 僕は遭難者に軽く翼を振るとさっき見付けた船へと向かった。




『中々難しいものですわね』


 上手くいかない苛立ちにティトゥが眉間にしわを寄せた。

 僕達は近くで見つけた船に再三に渡って急降下を繰り返していた。


 さっきの遭難者のことを記した板を投下するためだ。


 ところが、水筒の時は一発でうまい具合に投下することが出来たのに、今回は全然上手く命中させられないのだ。

 さっきは箱に掴まった人間で、今回は大きな船だ。

 標的としてはさっきよりずっと大きいはずなんだが、飛びすぎたり飛距離が足りなかったりでどうにも上手くいかない。

 何度目かのアタックをかける僕。

 ティトゥは真剣な表情でベストなタイミングを計った。


『やった! 命中しましたわ!』


 ティトゥは大声で歓声を上げた。

 確かに。彼女の手を離れた救難メッセージは、見事に船の甲板に転がっていた。

 肝の据わった水夫がおっかなびっくりそれを拾い上げている。

 そして他の乗客達は、僕の再三の急降下にすっかり怯え、物陰に隠れてガタガタと震えていた。


 ・・・・・・。


『何だか非常に気の毒なことをした気がしますわ』


 一時の熱狂から解放されたティトゥが、冷静になった頭で今の状況を判断した。


 ・・・確かに。


 ちなみに、僕たちにさんざん脅された(と思い込んだ)この船は一目散にメッセージに書かれた小島に向かい、遭難者を無事に救助したという。

 結果的にだが、人命救助の視点から見れば、僕らの行動はあれはあれで正解だったと言えるのではないだろうか?

次回「ドラゴンルール」

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