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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第四章 ティトゥの海賊退治編
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その11 洋上索敵飛行計画

◇◇◇◇◇◇◇◇


 夏の日差しを浴びて草原の中を通る一本道。

 草をはむヤギ達の姿がポツポツと見えるだけの牧歌的な光景の中、その景色にそぐわない物々しい一団が走っていた。

 マリエッタ第八王女の馬車とそれを守る騎士団の騎馬隊である。

 いささか物々しい警備だが、これはメザメ伯爵の近親者や縁者の暴発から王女の身を守るためである。

 もちろん、全ては末妹の身を案じた過保護な長女カサンドラ元第一王女の暴走によるものである。

 最初はうんざりしていたマリエッタ王女だったが、今はすっかり諦めムードになっていた。


 やがて馬車は大きな屋敷へと到着した。

 ”エニシダ荘”と呼ばれる王家所有のその屋敷には今、ミロスラフ王国からやってきた竜 騎 士(ドラゴンライダー)達とそのお供のメイドの少女が宿泊している。

 マリエッタ王女は彼女達に会うためにここまでわざわざ出向いて来たのだ。



「えっ? ティトゥお姉様は今はいらっしゃらないんですか?」


 初老のメイド長マルデナに恭しく応接間まで通されたマリエッタ王女は、二人の姉、第六王女パロマと第七王女ラミラから聞かされた話に驚きの表情を浮かべた。


「ティトゥお姉様は今、海賊退治に出向いているのですわ。ねえ、ラミラ」「今朝も張り切ってお出かけになられたわよね、パロマ」


 正直に言えばこの二人の姉を苦手とするマリエッタ王女であったが、この内容はさすがに聞き捨てならない。

 マリエッタ王女は、何はともあれ先ずは姉達から情報を聞き出すことにした。


 マリエッタ王女が苦労して聞き出した話は全く驚くべき内容だった。


「カサンドラ姉上・・・他国の令嬢に聖国の治安活動を任せるなんて、一体何を考えていらっしゃるのですか」


 マリエッタ王女はすっかり呆れ果て、ここにはいない長女に恨み節をこぼした。

 ちなみに二人の姉の説明はこうである。


 現在、聖国では、例年以上に活発な海賊集団の活動に頭を悩ませている。(※これは事実だ)

 ティトゥお姉様とドラゴン・ハヤテならきっと問題を解決してくれること間違いなしである。

 そこで自分達が(・・・・)二人を王家に推薦した。

 自分達の意見を認めた宰相夫人は早速早馬で宰相府特級鑑札を届けてよこした。

 翌日から竜 騎 士(ドラゴンライダー)の二人は海賊退治に出発した。

 そして現在に至る。


「それにしても宰相府特級鑑札って・・・。そんな許可証があるなんて初めて知りました」


 ハヤテ付きのメイド、モニカがハヤテにさらりと説明した”宰相府特級鑑札書”だが、絶大な権限を持つこの札は当然、滅多な事が無ければ発行されない。

 マリエッタ王女もそういった札が存在することだけは知っていたが、あくまでも過去の事例としてしか知らなかった。


「それだけカサンドラ姉上がティトゥお姉様の能力を評価されたのですわ」「流石は聖国一の才女と名高いカサンドラ姉上ですわ。ティトゥお姉様のお力を知って最大級の権限をお与えになったのですわ」


「・・・・」


 二人の姉がティトゥのことをお姉様(・・・)と呼んでいるのがどうにも気になるマリエッタ王女。

 

 もしここに元第四王女セラフィナが居れば、元第一王女カサンドラの「マリエッタが到着するまでにどこか他所に行け、絶対にだ! もし拒否するようなら宰相府特級鑑札書に違反した罪で国外追放だ! 二度と聖国の土は踏ません!」という心の声(メッセージ)を聞き取ったことだろう。


 しかし、自分達の考えに夢中になっている第六王女と第七王女、そしてマリエッタ王女ですら、元第一王女カサンドラの才気に目を奪われ、「自分には分からない何か深遠な理由があるのかもしれない」と考えていた。


「・・・では、お二人はもうここにはいらっしゃらないのですね」


 僅かな差ですれ違ったことにガッカリするマリエッタ王女。


「? そんなことはないわよ、ねえラミラ」「遅くとも夕方には戻って来るんじゃないかしらね、パロマ」

「えっ?」


 二人の姉の言葉に、マリエッタ王女は目を丸くして驚いたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


『さあ、今日から海賊を探して空を飛びますわよ!』


 聖都から早馬で”宰相府特級鑑札”とやらが届いた翌日。

 ティトゥは朝から元気一杯に僕のところにやって来た。


 それはそうと、何で君はそんなに屋敷の使用人達を引き連れているんだろうね?

 ここに到着した直後は怯えて僕を遠巻きに避けていた使用人達だったが、いつの間にかすっかり僕に対しての警戒心が緩んでいるようだ。

 それどころか今朝は割と好意的な視線すら感じる。


 あっ。これはひょっとして、僕の見ていないところでティトゥがみんなの誤解を解いてくれたんじゃないか?

 というか、それくらいしか考えられないし。

 僕はティトゥへの感謝の気持ちで胸が温かくなるのを感じた。


 ちなみにカーチャに嫌味を言ったという王女達はこの場にはいない。

 メイドのモニカさんの話では、二人は初日の印象が強すぎてすっかり僕を苦手としているのだそうだ。

 まあ僕としても、いくら王族とはいえ、カーチャをいじめるような子達と仲良くする気は無い。

 顔を合わせずに済むなら、それならそれで別に構わない。

 気を使う必要が無くて助かるくらいである。


『ハヤテ様、ティトゥ様をよろしくお願いしますね』


 そのカーチャが少し心配そうにしながら僕に声をかけて来た。

 とはいえ、特に心配するような理由は無い事くらい、彼女にも分かっているはずだけどね。


 昨日、僕のところに報告にやって来たティトゥを交えて、僕たちはこれからの行動計画を練っていた。


 大雑把な骨子として、先ずは実際に飛ぶことになる僕からアイデアを出させてもらった。

 僕の片言の内容をティトゥとカーチャがまとめ、それにモニカさんのアドバイスを入れて形にした。

 やはり宰相府特級鑑札はかなりの優れもので、モニカさんの説明によれば、王都の上空以外なら僕が聖国中どこの空を飛んでも問題は無いだろう、とのことだ。

 モニカさんってメイドさんだよね? 何でこんなに命令書や事例について詳しいわけ?


 こうして長い話し合いの末に、今回の”洋上索敵飛行計画”が出来上がったのだ。



『お気を付けて行ってらっしゃいませ』


 初老のメイド長マルデナさんのひと声に使用人達が一斉に頭を下げた。

 慌てて周囲に倣うカーチャ。


『手柄を立てて戻って参りますわ!』


 ふんすと鼻を鳴らして意気込むティトゥ。君、ちゃんと昨日の話を覚えているよね?

 手柄も何も、今日は海岸線を飛ぶだけだからね?


 颯爽と僕に乗り込むティトゥ。

 メイドのモニカさんによって予め乗せられていた道具をあちこち点検する。

 これは昨日僕が彼女に伝えたことだ。

 忘れ物をしたからといちいち戻っていては作業にならない。だから決して事前の点検は疎かにしない事。

 そのことを彼女はちゃんと覚えていたようだ。


『準備よーしですわ!』

『マエ、ハナレ!』


 僕の声で使用人達が下がって行く。

 この辺りの段取りは昨日ティトゥに請われて二人で決めた事だ。

 なんでも彼女が言うには――


『いつもいつの間にか飛んでいては何だか格好が付かないですわ』


 とのことだ。

 僕としても、そういった拘りはいちミリオタとしてやぶさかでないので、快く彼女に協力させてもらった。


 さて、流石にここからは僕の片言の現地語では埒が明かない。申し訳ないけど日本語で行かせてもらおう。


「発動機始動準備完了! エナーシャ回せ!」


 本来であれば、ここでは搭乗員であるティトゥが切り替えコックや燃料、補助翼、方向舵のチェックなりするのだが、上手く説明出来なかったので省略。

 そもそも僕にとっては自分のボディーだ。ティトゥに確認してもらうまでもなく分かっているしね。


 また、海軍機は整備兵が手動で、陸軍機では発動機始動車を使ってエンジンを回していた。

 とはいえ、僕は自力でエンジンをかけられるからね。

 ちなみに実際は発動機始動車の数が不足していて、整備兵が手動で回していた部隊もあったようだ。

 よって僕の脳内では整備兵がエナーシャを回しているてい(・・)で進める。

 個人的には何となくその方が、激戦の最前線基地っぽくてカッコ良い気がするからだ。


「点火!」


 グオン! 


 僕のエンジンが回転を始める。

 轟音に驚く使用人達。

 本来は外からエンジンを回した後で点火開閉器を入れるんだけど、さっきも言ったけど僕の場合は全部自分で出来るからね。

 この辺りも僕と実機の異なるところだ。


 燃料の匂いが漂ってきて、僕の心はどうしようもなくワクワクしてくる。

 身も心も飛行機になってしまっているんじゃないかって? いやいや、きっと当時の搭乗員だってこの瞬間は心が躍ったに違いないって。


『ハヤテ?』


 おっと、いけない。いつまでも浸っている僕にティトゥが声をかけてきた。


「試運転を行います! 『イイ?』」

『よろしくてよ』


 段取り通りにティトゥに許可を貰い、僕はエンジンをフルパワーまで上げる。


「試運転異常なし! 離陸準備よーし!」


 実機であればここで初めて滑走路まで移動するのだが、今日はもうその位置についているので省略。

 ていうか、こうやって実際の段取りをなぞっていくと本当に僕って適当に飛んでるね。


「離陸!」


 僕はブーストをかけると庭を疾走。

 タイヤが地面を切ると僕の体はふわりと空に浮かんだ。


 この瞬間がたまらない。


 視界が大空で一杯に占められた。背後では地面がぐんぐんと遠ざかっていく。


 僕はいつも通りに緩く旋回しながら徐々に高度を上げていった。

 次第に小さくなっていく屋敷の庭では、興奮した使用人達が僕に手を振っているのが見える。


『中々良かったですわ』


 どうやら今日の演出は彼女のお眼鏡にかなったようだ。ティトゥはホクホク顔である。


『でも、リリクという言葉は少し締まらないのではなくて?』


 そう言うとティトゥは何やらブツブツと呟きだした。

 ちょっと、僕はイヤだよ! 離陸の度に『古の盟約に従いて大地のくびきより解き放たれん! 天駆龍飛翔!』なんて叫ぶのは!

 ティトゥにとっては僕のような巨体が空を飛ぶのは魔法でも使っているように思えるのかもしれないけど、飛行機っていうのはちゃんと科学的な根拠があって飛んでいるんだからね。


『イクヨ』

『ええ、分かっていますわ』


 僕が声をかけたことで、はっと我に返るティトゥ。

 全く油断も隙も無い。

 さて、目指すはランピーニ聖国の海岸線だ。

次回「マリエッタ王女との再会」

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