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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第四章 ティトゥの海賊退治編
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その10 宰相府特級鑑札

本日2話目です。読み飛ばしにご注意下さい。

次回は明日の朝7時に更新します。

◇◇◇◇◇◇◇◇


 聖都ランピーニ。その王城にある宰相の執務室。

 その開け放たれた入り口から銀髪の人形のような愛らしい少女が入って来た。

 第八王女マリエッタである。

 その姿に思わずほっこりする宰相夫人こと元第一王女カサンドラ。


「カサンドラ姉上! 一体いつまで私は待機していなければいけないのですか!」


 しかし、マリエッタ王女は彼女にしては珍しく、厳しい態度でカサンドラ元第一王女を詰問した。

 それもそのはず。現在彼女はカサンドラ元第一王女の要請で、もうこうして何日も王城に待機させられていたのである。


「仕方が無いのよ、メザメ伯爵の件は今が佳境なの。そのことは貴方だって分かっているでしょう?」


 先日、マリエッタ王女は、友好使節団の代表としてミロスラフ王国の戦勝式典に参加するべく、かの国に赴いた。

 メザメ伯爵は同使節団副代表であった。

 その時に彼がしでかした身勝手な陰謀によって、危うくランピーニ聖国はミロスラフ王国と取り返しのつかない関係になるところだった。

 かく言うマリエッタ王女も、一連の陰謀に巻き込まれて危うく命を落とすところであった。

 しかし、すんでのところで王女は、式典に参加するために王都に来ていた竜 騎 士(ドラゴンライダー)、ティトゥとハヤテによってその命を助けられ、無事に役目を果たし帰国することが出来たのであった。


 現在、王城ではそのメザメ伯爵の処遇を決める裁判が佳境に差し掛かっていた。

 もちろんマリエッタ王女だってそのことは良く分かっていた。


「もちろん分かっています。でももう何日も何もせずにただ王城で待機しているだけじゃないですか!」


 そう。実のところマリエッタ王女に対する聞き取りは一番最初の段階で終わっていたのだ。

 今は過去の判例を参考にどういった刑罰を与えるかを決めたり、関係各所の調整に奔走している最中であった。


「それはそうなんだけど・・・。いや、でも、まだ聞きたいことが出てくるかもしれないし・・・」


 歯切れも悪くゴニョゴニョと口ごもるカサンドラ元第一王女。


「もう私が知っていることは全部話しました! これ以上は何もありません!」


 そもそも、マリエッタ王女は、渦中にあっても直接メザメ伯爵の陰謀を知っているわけではない。

 全ては周囲の人間から知らされた情報でしかないのだ。

 詳しい話が聞きたければ、むしろ王女の叔母であるラダ・レブロン伯爵夫人辺りに聞いた方が良いだろう。

 ならばなぜ、マリエッタ王女はこうして王城で待機しているのか?

 全ては末妹が大好きなカサンドラ元第一王女の指示によるものであった。


 今、聖都にほど近いモンタルボに竜 騎 士(ドラゴンライダー)の二人が来ている。

 全ては、マリエッタ王女をティトゥに会わせたくない。というカサンドラの我儘から出た命令だったのである。


「とにかく、明日からしばらく私は王城を離れます。連絡があればエニシダ荘によこして下さいね」


 おとなしいマリエッタ王女は、日頃はともすれば優柔不断な態度を取ることも多い。

 だが、この数日のことは余程腹に据えかねたのだろう。

 マリエッタ王女はキッパリと言い切ると、姉の返事も待たずに部屋を後にした。

 残されたのは絶望のあまり真っ白になったカサンドラ元第一王女だけだった。



 しばらくして、カサンドラ元第一王女の部下がこの部屋に入って来た。


「失礼します。えっ・・・ゴホン。エニシダ荘からの報告書と両王女殿下からの申請書をお持ち致しました」


 椅子の上で燃え尽きたように黄昏る上司に一瞬かける声を無くした青年だったが、すぐに自分の職務を思い出し、報告書を上司の机の上に置いた。

 カサンドラ元第一王女は、エニシダ荘という単語にピクリと反応すると、死んだ魚のような目で機械的に報告書に目を落とした。

 日頃は頼もしい上司の何とも言えない姿に気後れした青年は、黙って部屋を後にしようとしたが・・・


 クワッ!


 いきなりカサンドラ元第一王女は目を見開くと食い入るように報告書を見やった。

 青年は切れ者上司の真剣な表情に、部屋を出るタイミングを逃してしまった。


(さっき自分でも一通り目は通したけど、そんなに問題のある報告だったっけ?)


 内心彼は訝しく思った。

 報告書の内容は、「当日に不手際でいくつかの物資を失ったので追加の予算を求む」というものだった。

 とはいえ、彼の上司がこれほど過敏に反応するほどの金額とも思えなかった。


 青年がより詳しく上司を観察していれば、彼女が手にしているのが報告書ではなく、二人の王女からの申請書であることに気が付いただろう。

 だが、残念ながら青年は申請書の内容に価値を見出していなかった。

 現実を知らない王家の箱入り娘達の、ふわっとした思い付き。その程度にしか捉えていなかったのである。

 そのくらいその申請書はメルヘンな内容だったからだ。


 彼がそう思ったのも仕方が無い。

 それは、「客人である竜 騎 士(ドラゴンライダー)に海賊退治をしてもらおう」という内容であった。

 

 だがしかし、この王女達の思い付きは(嫉妬に狂った)宰相夫人の命令で、最上級の形で実現することになるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「海賊退治? 僕達で?」


 ここはエニシダ荘の中庭。

 すでに綺麗に片付けられた庭の一角には嬉しいことに僕用のテントも建てられていた。

 とはいえそこを利用するのは夜だけで、日中は今みたいに庭に出て夏の日差しを浴びている。

 何故かって? 昼間のテントの中は馬鹿みたいに暑いからに決まっているだろう。

 僕自身は暑さ寒さをろくに感じないけど、僕を訪ねて来たティトゥやカーチャを熱中症にするわけにはいかないからね。


 そして今、僕の前に立つのは僕付きのメイドであるモニカさん。

 ふわりとした笑顔の美人さんだけど、実は結構黒い人っぽいんだよね。

 でも彼女の場合、そのミスマッチが不思議と魅力的に感じたりもする。

 メイド長のマルデナさんの孫でもあるし、色々と属性が盛り沢山の女性なんだよね。


 さて。モニカさんの話によると、今日早馬で、”宰相府特級鑑札”という何だか大層な名前の札が書類と共にここに届いたのだそうだ。

 そもそも鑑札とは何ぞや? という話だが、これは国が保証する許可証の事を言うらしい。

 中でも宰相府特級と言えば、これ一枚あれば大抵のことなら何をやっても許されるほどの権限を持つ、最上級の許可証なんだそうだ。

 なるほど。大層な名前の札は名前に負けない大層な札だったというわけか。


 ええっ。何それ怖い。


 要はあれかな? 水戸黄門の葵の印籠みたいな感じなのかな?

 ええい控えい、控えおろう! この鑑札を何と心得る! みたいな。


 もちろん、そんな権限を持つ札には当然それに相応しい厳格な義務も付随する。

 これを手にした者は、何を差し置いてでも与えられた任務を果たさなければ厳しい罰が与えられるのだそうだ。


『とはいえ、今回の場合はそこまで難しく考える必要はありませんよ』


 ふんわりと微笑むモニカさん。

 今回、僕達に与えられた任務は、海賊退治に協力することなんだそうだ。

 とはいうものの、そもそも現時点では海賊がどこにどれだけいるのかも分からない。

 モニカさんが言うには、海賊捜しのパトロールが実際の僕達の任務になるだろう、とのことだ。


 なるほど。それなら僕にだって協力出来る。

 ティトゥは今、王女達と一緒に札を持ってきた使者から詳しい話を聞いている最中だそうだ。


 あれっ? だったらなんでモニカさんはこのことを知ってるの?


 そんな疑問を抱く僕に対して、うふふ笑いではぐらかす(・・・・・)モニカさん。

 う~ん。魅力的だけどやっぱりちょっと苦手かな、この人。

 とはいえ、悪い人にも思えないんだよね。


 ふと気が付くと、隣のカーチャが心配そうに僕を見ていた。


『ダイジョウブ』


 僕がいる限り海賊なんかにティトゥに指一本だって触れさせるものか。

 僕の意気込みを感じたのか、カーチャに少し笑顔が戻った。

 例の笑みを浮かべながらそんな僕たちを興味深そうに見つめるモニカさん。


『一体何をしでかしてくれるんでしょうね? 期待していますよ』


 いやいや。何でそんなイヤな期待に応えなきゃいけないのさ。



 こうして僕達は何だか分からないうちに、ランピーニ聖国からの依頼で海賊退治の手伝いを求められたのだった。

 最初はバカンスに来たはずが、どうしてこうなったのやら。

 まあ、ティトゥがイヤがるなら、二人を乗せてミロスラフ王国まで飛んで帰れば良いだけだけどね。

 だが、ティトゥはノリノリでこの依頼を請け負ったという。

 知ってた。

 彼女の性格なら、多分こうなるんだろうなぁ、とは思っていたんだよね。

次回「洋上索敵飛行計画」

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