その5 パロマとラミラ
この作品も今回で通算で89話目となりました。
そこで明後日、91話目から100話目まで、五日間に渡り100話カウントダウンとして一日二話ずつ上げようと思います。
・・・が
「今でもちょっと目を離した間に溜まってしまうのでそういうのいらない。」とか
「そんなに読む時間が無いから今まで通りでいい。」とか
「そもそも毎日更新の時点で読むのが面倒臭い。三日に一度で十分。」等
そういったご意見をお持ちの方もいらっしゃると思います。
そこで、活動報告にも同じ文章を上げておきますので、同様なご意見をお持ちの方はそちらに書き込んで頂ければと思います。
そういったご意見が多数寄せられた場合は通常の更新に戻します。
更新時間の希望等もありましたら、そちらに書き込んで頂ければご希望に沿えるよう考慮致したいと思います。
よろしくお願いします。
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聖都ランピーニ。その王城にある宰相の執務室。
マリエッタ第八王女は開け放たれた入り口の外から中の人物に呼びかける。
「失礼します。私に御用ですか? カサンドラ姉上。」
デスクに向かっているのはハッキリとした顔立ちの美女。
カサンドラ・アレリャーノ宰相夫人、元第一王女カサンドラである。
「レブロンの町の代官から報告書が来たわ。三日前にミロスラフ王国の竜 騎 士がメイドの少女とドラゴンに乗って到着したそうよ。」
「ティトゥお姉様とカーチャが!」
ぱっと笑みが広がるマリエッタ王女。
どことなく苦々しく妹を見つめるカサンドラ元第一王女。
末妹大好きな彼女である。もちろんマリエッタ王女の笑顔は嬉しい。
それを浮かべた相手に嫉妬しているのである。
「貴方の要望通り、屋敷と使用人の手配は済ませておいたわ。」
「ありがとうございます カサンドラ姉上。」
屋敷の使用を許可する書類を妹に渡すカサンドラ元第一王女。
竜 騎 士の令嬢はお姉様呼びで自分は姉上。
平然とした顔を装ってはいるものの、納得のいかない思いに頭をかきむしりたくなるカサンドラ元第一王女だった。
「・・・カサンドラ姉上?」
「どうしたのかしら? マリエッタ。」
さっきまでの笑顔を消し、ジト目で姉を睨むマリエッタ王女。
「私がお願いしていた屋敷と違うんですけど。」
「ああ、あれね。他に使う用事があるの。今回は使わせるわけにはいかないわ。」
マリエッタ王女は自分に与えられた別宅にほど近い屋敷を申請していた。
言うまでもない事だが、ティトゥ達がこの国に滞在中は自分で色々と世話をする気でいるからだ。
そして、カサンドラ元第一王女が許可したのは、マリエッタ王女と彼女の母親の住む別宅から遠く離れた屋敷である。
言うまでもない事だが、妹が手ずから客の世話をする気であることを察した彼女は事前にそれを妨害したのだ。
他国にも名の知れた才女にしては随分とセコイ策を弄したものである。
とはいうものの、ティトゥ達の招待は建前的にはマリエッタ王女の侍女ビビアナによるものである。
それを王家の所有する屋敷を使うということがそもそも筋違いなのだ。
他に使う用事があると言われては、マリエッタ王女としても無理は言えなかった。
「でもエニシダ荘は・・・他に無いんですか?」
今回、カサンドラ元第一王女が融通したのはエニシダ荘と呼ばれている屋敷だ。
春には一面エニシダの黄色い花で美しく飾られることから、エニシダ荘と呼ばれている。
だが、逆に言えばそれ以外の季節は魅力に乏しい屋敷とも言えた。
末妹の懸命な訴えにぐらりと揺れるカサンドラ元第一王女。
だが、ここは心を鬼にするとキッパリと退けた。
「ダメよ。他は塞がっているし、貴方だって広い庭のある屋敷なんてそうそう無いって知っているでしょう?」
「それは、そうですが。」
マリエッタ王女の力が抜ける。
王家の所有する屋敷は主に外国からの賓客に備えて造られてある。
そのため、あまり広い庭は必要とされないのだ。
「でも私の屋敷から遠すぎます。わざわざ遠い外国から招待しておいて、屋敷に放っておくような失礼なことは出来ません。」
「それは・・・。」
それを言われてはカサンドラ元第一王女も弱い。
そもそもこれは単なる嫌がらせであって、深く考えての行動ではないのだ。
末妹のこととなると国外にすら名の響く才女もすっかり形無しである。
「ではその役目、私達が請け負いますわ。ねえ、ラミラ。」
「私達だって王家の一員ですもの。任せてほしいですわ。そうよね、パロマ。」
突然二人の会話に割って入ったのは、金髪をロールにした双子のようによく似た二人の少女。
第六王女パロマと第七王女ラミラの二人である。
「姉上達・・・。」
「あら、どうしたの? そんな不安そうな顔をしちゃって。ねえ、ラミラ。」
「そうよ。私達だって妹がお世話になったお礼をしたいのよ。ねえ、パロマ。」
マリエッタ王女はこの四歳年上の二人の姉を苦手にしていた。
彼女達の良く言えば年相応、悪く言えば貴族らしいわがままで奔放な性格とそりが合わないのだ。
今代のランピーニ聖国王家は家族間の仲が不和が無いことで知られている。それは主にカサンドラ元第一王女の力によるものだ。この辺りも彼女が才女と褒めそやされるゆえんである。
しかし、そんな彼女をもってしても、兄弟姉妹がみんな仲良くとはいかないのが人間関係の難しさなのだろう。
「エニシダ荘なら私達のお屋敷からそんなに離れていないですし」「私達だって男爵令嬢をもてなすことくらい出来ますわ。」
ティトゥのマチェイ家は聖国では男爵位にあたる。
マリエッタ王女は二人の姉が男爵位程度と考えていることに気が付き懸念を示す。
だが、長女はそこに気が付かなかったようだ。
これは一概にカサンドラ元第一王女が悪いとは言えないだろう。
力関係に敏感な第六王女と第七王女は、長女の前ではいつも慎重に猫を被っているのだ。
もちろん、カサンドラ元第一王女はそのことにとっくに気が付いているが、流石にマリエッタ王女ほど二人のことを知っているわけではない。
マリエッタ王女だからこそ気付けた本当に微妙なニュアンスだったのだ。
「ふむ・・・二人にもいつかは王族として来客をもてなす主人の経験を積んでもらいたいとは思っていたけど・・・。」
「ならこの機会に是非。」「ええ。やり遂げてみせますわ。」
場の空気は二人を認める方向へと傾いている。
しかし、マリエッタ王女はグイグイと押してくる二人の姉を押しのけてまで自分の意見を通す事が出来なかった。
これは素直で真面目なマリエッタ王女の弱点とも言えた。
彼女は良い子すぎるのだ。
結局、ティトゥ達をもてなすのは第六王女と第七王女、パロマ・ラミラ両王女と決まった。
二人の経験不足を補うため、特別に王家のメイド長が加わる事になった。
公言はされないが、彼女は王女二人に対するお目付け役でもある。
さすがにカサンドラ元第一王女も手放しで二人の事を信用しているわけではないのだ。
(どうにか時間を作って、出来る限り私も顔を出さないと。)
マリエッタ王女は湧き上がる不安を抑えることが出来なかった。
こうしてティトゥ達に王家から案内状が送られた。
それは王家がたかが男爵位令嬢に対するには異例の早さの対応だった。
こうして舞台はレブロンの港町から聖都にほど近い王家直轄領へと移されることになる。
次回「エニシダ荘へ」