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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第四章 ティトゥの海賊退治編
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その2 水着イベントの告知来ました

『手紙はペンスゲン小男爵令嬢――ビビアナ嬢から来ましたが、招待状はマリエッタ様からのものですわ。』


 ビビアナさんはマリエッタ王女のお付きの侍女だ。

 ティトゥより少し年上の、赤い髪の女子大生風の女の子である。


 ちなみに今、ティトゥは屋敷のテラスで冷やしたお茶を飲んでいるところだ。

 かたわらにはメイド少女のカーチャ。

 二人はマリエッタ王女からの手紙がよほど嬉しかったのだろう。楽しそうにあれこれと語り合っている。


『マリエッタ様のお屋敷からは海が見えるそうですわ』

『良いですね! 私まだ海を見たことが無いんです』


 招待状はカーチャにも送られているそうだ。

 そう言えば、王都でマリエッタ王女を乗せて飛ぶ時に、王女は「今度はカーチャを自分の国に招待する」とか言っていた気がする。

 偉い人に良くあるリップサービスだとばかり思っていたが、ちゃんと約束を覚えていたらしい。

 まだ小学生くらいの年齢にもかかわらず、相変わらず良くできた王女様である。


 ちなみにすぐ隣に座っている弟のミロシュ君はそんな姉を羨ましそうに見ている。

 そしてミロシュ君の勉強を見ていた家令のオットーが迷惑そうに僕を見ている。

 というか、何故に僕を見るし。

 僕は気温を感じないけど、今はもう夏だし、日頃は真面目なミロシュ君だって暑い中勉強してれば気が散っても仕方が無いよ。


 ん? 待てよ。さっきティトゥ達は何て言ってたっけ?


ーー『マリエッタ様のお屋敷からは海が見えるそうですわ』

ーー『良いですね! 私まだ海を見たことが無いんです』


 夏。

 そして海。

 ・・・美少女。


「水着イベントかー!!」


『急にどうしたんですの? ハヤテ』

『ハヤテ様がこんな風に大声を出すなんて珍しいですね』


 突然叫んだ僕に驚くティトゥ達。

 だが僕は、言うまでもなくそれどころではない。当然だ。


 水着イベントの告知が来たからである。


 夏とくれば水着イベント。異論は認めない。

 僕も日本にいた頃は課金石を突っ込んで、期間限定ガチャを回したものである。


 水着イベント。それは、日頃は剣に鎧、もしくはドレスを装備しているキャラクター達が、この時ばかりは華やかな水着に身を包み、キャッキャウフフするイベントである。その肌色過多の限定ガチャイラストは我々ユーザーの目を楽しませてくれるのだ。

 もちろん僕も例外でない。言うまでもないだろう。


 だが、我々ユーザーは決してエロい目線で水着レアを求めるわけではない。

 ・・・いや、中にはそういう人もいるだろうが、ここはあえて違うと言おう!


 いつものキャラクターが、海といういつもと違う場所でさらけ出す解放感。

 あくまでも水着はそれを表現するためのアイテムに過ぎないわけですよ。

 ある種のコスプレ、非日常をロールプレイするための制服なんですよ。

 偉い人にはそれが分からんのですよ。


 もちろん、肌色成分が多い方が目に優しいのは言うまでもない。


 というわけで、あるであるで、ティトゥの水着SSレア、ワンチャンあるで。


『ハヤテ様、変にソワソワしていませんか?』


 ふむ。カーチャの水着はイベントに参加したら貰えるレア辺りかな。


『どうせ何か変なことを考えているのですわ』

『・・・私もそう思います』


 少女達が白い目で僕を見るが、今の僕はそんなことなど気にならないほどハイテンションだ。


 ・・・いや、まあ、いくら僕でも彼女達がビキニを着るとまでは思ってませんよ?

 今も暑そうにしながらもティトゥが着ているのは七分袖のワンピース、くるぶしまで隠れる長いスカートだし。

 多分、この世界では女性が人前で肌を晒すのははしたないと考えられているんだろうね。

 だから水着といっても、肌はさほど露出しないタイプなんじゃないかな。


 でも、それでも良いんですよ。


 さっきも言ったけど、夏の海というシチュエーションにおける非日常。いつもと違う彼女達。それが水着イベントのだいご味なんですよ。


 それにひょっとして・・・本当にひょっとしてだよ? 本当にひょっとしたらだけど、この世界の水着も地球のようなデザインの可能性だってあるかもしれないじゃないか。

 確かに低い、ほんのわずかの可能性に過ぎないかもしれない。

 でももし仮にその可能性がほんの1%だったとしても、僕は迷わずその可能性に賭けるね。


 1%で諦めてたらF〇te Gr〇nd Orderのガチャを回せないぜ!


 僕は回す! SSRの可能性を目指して!

 そしてSSRのティトゥが僕の操縦席に座ったりしたら、もう、あれだ。


 ヒャッホーイ!!


『あの、ハヤテ様。聞いてますか?』

『もういいですわ。それよりさっさと旅行の準備を済ませてしまいましょう』


 屋敷の中に去っていく少女達。

 いつの間にか家令のオットーとミロシュ君もいなくなっていたようだ。


 勉強にならないのでさっさと諦めたのだろう。


 そして、そんなことにも気が付かないほど僕は一人で盛り上がり続けたのであった。




 日が傾いたころ、屋敷の奥からいい匂いが漂ってきた。

 

 ふむ。今日は鳥肉とキノコのホイル焼きだな。


 この世界(国?)にはアルミホイルは無いみたいだけど、この屋敷の料理人テオドルが僕が教えた料理方法をこの世界なりに再現したのだ。

 今頃はカーチャが待ちきれずに涎を垂らしているに違いない。


 ちなみに僕の四式戦闘機ボディーはかなり匂いにニブいが、全く鼻が利かないというわけではない。

 匂いにニブいというよりは、匂いを処理する能力が低いのかもしれない。

 まあ食事を必要としない体だから、どっちにしろ困らないんだけどね。


 屋敷の玄関が開くと誰かが裏庭に歩いてきた。

 見た目少し冴えないオジサン。

 マチェイ家の当主、ティトゥパパである。


『君の方から止めてもらいたかった・・・と言っても仕方がないことかもしれないね』


 ? 何の話だろう?


 話を聞くと、どうやらティトゥパパはティトゥと大分揉めたのだそうだ。


『私は時間はかかっても船で行くべきだと説得したんだけどね。あの子がマリエッタ王女殿下もハヤテに会いたいだろうと言って聞かなくてね』


 ティトゥはカーチャと二人で僕に乗ってランピーニ聖国に行くつもりらしい。

 ティトゥパパは、自分も一緒に船で行くべきだ、と説得したけど無駄だったそうだ。

 結局、強引に押し切られ、ティトゥは明日出発することになったのだそうだ。


 ていうか明日かよ、早いな。



 確かにティトゥパパの気持ちは良く分かる。

 未成年の娘が娘より年下の少女と二人だけで外国に旅行に行くと言うのだ。

 心配しない親はいないだろう。


 けど、僕はティトゥの気持ちも分かってしまうのだ。

 僕で行けばその日のうちに着くのが分かっているのに、わざわざ何日もかけて乗り物に揺られるだけの退屈な旅をするのがイヤなんだろう。

 

 ティトゥパパは少しの間僕に愚痴った後、屋敷に戻って行った。

 そして僕はティトゥパパのために、二人の保護者としての役割を果たそうと固く決意したのだった。




 まあそれはそれ。

 快晴の青空の下。出発の朝が訪れた。

 正に絶好のフライト日和だ。僕は高まる気持ちを抑えきれずに今か今かと出発の時を待っていた。


 ちなみに現在、僕の胴体左の脱出用のハッチから屋敷の使用人達がティトゥ達の荷物を詰め込んでいる最中だ。

 すでに現場監督の家令のオットーには、荷崩れしないようによく固定しておくように伝えてある。


 おっと、そう言えば島についたらすぐにでもティトゥ達が海で泳ぎたいと言いだすかもしれない。

 水着は取り出しやすい位置に入れておく方が良いだろう。

 決して待ちきれずに早く見たいというわけではない。

 あくまでも彼女達のことを思ってのことである。


『オットー、オットー』

『何でしょうか? ハヤテ様』


 僕は自分の片言の会話にもどかしい思いをしながら、彼に用件を伝えた。

 そして、あっけにとられるオットー。

 何故に?


『貴族の令嬢は泳いだりしませんよ?』


 ・・・えっ?

 ゴメン、良く聞こえなかった。もう一度プリーズ。


『というか、村の娘でも普通泳ぐことはありませんよ』


 オットーの説明によると、少なくともこのあたりの国では男の漁師や船乗りくらいしか水で泳ぐことはないらしい。

 ちなみに彼らが泳ぐ時にはほとんどマッパだ。まあ男だからね。


 つまり女性用水着など存在しないんだそうだ。

 女性が泳がないなら水着も存在しないよね。なるほど納得。


「って、ふ・ざ・け・ん・なああああーーー!!」

『ど・・・どうされたんですか?! ハヤテ様?!』


 何だよそれ! 夏・海・美少女と三拍子揃って水着無しイベントってなんじゃそりゃあああ!

 誰トクだよそんなイベント! ユーザーなめんな! 運営どこ行った! プロデューサー出て来い!


「あんまりだよオットー! なんでそんなヒドイこと言うんだよ! 僕に何か恨みでもあるわけ?!」

『? あの、何をおっしゃっているのか・・・』


 僕の剣幕にうろたえるオットー。ついでに使用人達。



 ・・・はあ・・・もうどうでもいいや。

 黙り込み、ため息を漏らす僕。


『あの、ハヤテ様、ティトゥ様がいらっしゃいましたよ? ハヤテ様』


 オットーが何か言っているようだが、厭世的な気分になった僕の耳には一言も届いていなかった。


 ・・・全てが空しい。


 深く悲しみに沈み込む僕を、夏の太陽が照らすのだった。

次回「クリオーネ島へ」

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