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その99 エピローグ 深紅の竜

今回で第二十四章が終わります。

 僕の操縦席でティトゥが驚きの声を上げた。


『あれってレオミールじゃないですの! あの人、こんな所で一体何をやっているんですの!?』


 レオミール? それって僕も知っている人だっけ?




 ファル子達と共に帝国軍のサポートを行った帰り道。僕達は難民と思わしき人々の集団を発見した。

 それだけなら特に気にするような事もなかったのだが、集団の前後には武装した男達が。

 最悪の予感に、僕とティトゥの間に緊張が走った。

 イヤな話だが、この世界には未だに人間を売り買いするという習慣が残っている。

 まさかこの混乱に乗じて野盗の類がどこかの村を襲い、村人全員を奴隷として売り払おうとしているのだろうか?


『ハヤテの力であの男達をやっつけてしまえませんの?』

「う~ん、今回の場合だとちょっと難しいかな。相手は何十人もいるし、例え最初の攻撃で多少数を減らせたとしても、残ったヤツらが村人達を人質にしたら、それ以上、手出し出来なくなってしまうからね」


 近くに帝国軍でもいれば、知らせに行く所だが、残念ながら僕達はこの辺りの地理には詳しくない。

 一応、周囲を見回してみたが一面草ぼうぼうの原っぱで、騎士団が駐留していそうな大きな町などは見当たらなかった。

 僕達の不穏な空気を察したのだろう。ネドマとの戦いで疲れて眠っていたファル子達が、寝ぼけまなこで首を伸ばした。


「ギャウ?(ママ、どうしたの?)」

『何でもありませんわ。あなた達は寝てなさい』

「・・・ホントどうしよう。見つけちゃった以上、見て見ぬふりなんて出来ないし・・・」


 何か良いアイデアはないかと頭を捻ってみるものの、漫画やアニメならともかく、現実はそう都合よく良い考えなど浮かぶはずもない。

 それどころか、ずっと同じ場所を旋回していると、こちらに気付く者だって出て来る。

 ちらほらとこちらを見あげる顔が増えていき、やがて全員が僕を見上げ、完全に足を止めてしまった。


「しまったな。こんな事になるなら、考えるより先に、あの時さっさと攻撃を仕掛けておけばよかった」


 後悔しても後の祭り。僕は優柔不断な自分に舌打ちをしたい気持ちを堪えた。

 その時、急にティトゥが風防に張り付いた。


『あら!? あれってもしかして・・・。やっぱり! あれってレオミールじゃないですの! あの人、こんな所で一体何をやっているんですの!?』


 ティトゥは興奮した様子で、『そうですわ、やっぱりレオミールですわ!』と何度も頷いている。

 ていうか、レオミールって誰だっけ?

 胴体内補助席でハヤブサが大きなあくびをした。


「ギャーウ?(ママー?)」

『ああ、大きな声を出してゴメンなさいね。思わぬところでパパとママの知り合いを見かけたから、つい驚いてしまったんですわ』


 やはりレオミールは僕の知り合いでもあったようだ。ホント誰だっけ?

 多分、こちらに向かって手を振っている中の誰かなんだろうけど・・・。ダメだな。候補が多すぎて絞り切れない。


『あの様子なら、武装した男達も別に野盗などではなさそうですわね。きっとレオミールが雇った護衛か何かですわ。ハヤテ、地上に降りてみませんこと?』


 どう見ても向こうはこちらに気付いている様子だし、散々、頭の上をグルグル回っておいて、今更無視して立ち去るのも失礼か。

 レオミール(なにがし)の正体も気になる所だし。ティトゥの様子を見ている限り、それほど危険もなさそうだ。だったら軽く挨拶くらいはしておいた方が無難だろう。


「分かった。けど一応、まだここは帝国領だし、何かあったらすぐに飛び立てるよう、僕から降りないようにしておいてね」

『りょーかい、ですわ』

「ギャウギャウ?(何? 下に降りるの?)」


 僕は返事の代わりに軽く翼を振ると大きく旋回。そのまま集団のいる街道へと着陸したのだった。




 こちらに向かって走って来たのは、小太りな商人風の中年男性と、護衛というより山賊の親分といった感じのいかつい(・・・・)顔の大男だった。

 その商人の顔に張り付いたうさん臭い笑みを見た瞬間、僕は完全に彼の事を思い出していた。


「レオミール! そうだ、一年前に帝国で出会った、チェルヌィフ商人のレオミールだ!」


 今から一年と少し前。僕達が初めてチェルヌィフへと向かった時。途中で立ち寄った帝国の公爵領で、僕達は土地を荒らしていた河賊組織を退治している。レオミールはその時に会ったチェルヌィフ商人である。(第九章 ティトゥの帝国外遊編 より)

 ようやく思い出せてスッキリする僕。そしてティトゥは呆れ顔になった。


『だからさっきから私がそう言っているじゃないですの。ひょっとしてハヤテは彼の事を忘れていたんですの?』


 うん、まあそうかな。ていうか、君こそよく覚えていたね。

 (くだん)のレオミールは、一年前の記憶そのままの笑顔で僕を見上げた。


『お二方共にご健勝そうで何よりでございます。その節は大変お世話になりました。それで本日は一体何のご用でこんなへんぴな場所までやって来られたのでしょうか?』

『それはこちらの聞きたい事ですわ。あの人達は一体何なんですの?』


 ティトゥの疑問にレオミールは背後を振り返った。


『彼らですか? あの者達はこの先のカルヴァーレ侯爵領の者達です。モンスターの群れに追われて逃げて来た所を我々が保護したものでして』

「ええっ? まさかあの人達だけでこんなに遠くまで逃げて来た訳?」


 思わず会話に口を挟むと、レオミールの護衛の男が、『ギャッ!』と悲鳴を上げた。


『お、おい、レオミール! コイツ、何か喋りやがったぞ!』

『ええ、ハヤテ様はドラゴンだけが理解出来る高度な言語で喋られるのですよ。ああ、ナカジマ様、ハヤテ様、こちらの方は傭兵団【戦斧団(バトラックス)】の団長のディエゴさんです。ウチの馬車の護衛をやって頂いています』


 やはり男はレオミールの護衛だったようだ。そして僕の言葉はただの日本語で、高度な言語でも何でもないんだけど。あまりティトゥの作った設定を真に受けないで欲しいんだけど。


 レオミールの説明によると、彼らは今回の異変が発生した丁度その時、たまたま異変の中心地、カルヴァーレ侯爵領の奥地にいたんだそうだ。

 次々に湧き出る原始ネドマから辛うじて命からがら逃げられたのは、、ディエゴ達戦斧団(バトラックス)の勇敢な働きがあっての事だったという。


『いえ、ディエゴさん達に命を救われたのは私達だけではありません。戦斧団(バトラックス)は行く先々の村や町に使いの者を出し、モンスターの危険を訴えて回ったのです。これでどれだけの命が救われた事か。それだけではありません。ディエゴさん本人も逃げ遅れた人達を集め、このように安全な場所まで護衛する事までしているのです』

『へえ、それは立派な行いですわね』

『よ、よせやい。あ、いや、よして下さいませご当主様。こんなのは当然の事ですぜ』


 レオミールからティトゥがナカジマ家の当主と紹介されたからだろう、ディエゴは悪人顔を照れ臭そうに歪めると、若干挙動不審気味になった。


『お、俺はただ、昔から頼られたらイヤと言えねえ性分なだけでして。まあ、そんなだから部下の連中もこんなバカな俺に付いて来てくれるのかもしれやせんが』

『バカだなんてとんでもない。みなさん、ディエゴさんの事をとても信頼していますよ』


 いかにも粗野な山賊といった風体のこのディエゴ。

 しかしレオミールは、相当この男に惚れこんでいるようだ。それ程までにディエゴのこれまでの行動に強く心を打たれたのだろう。

 つまり、レオミールはディエゴの男気に魅せられた、という訳だ。


「傭兵団の団長だし、普通にお人好し、って事もないだろうから、多分、親分肌って感じなのかな? それにしても、ひと癖もふた癖もあるチェルヌィフ商人が、こんなに手放しで人を褒め称える事があるなんてね。中々珍しい光景なんじゃないかな?」

『そうかしら? まるでハヤテの話をしている時のシーロを見ているようですわ』


 ええっ? チェルヌィフ商人のシーロって、君から見てこんな感じなの?

 そしてドン引きなのはなぜ?


『・・・はあ。チェルヌィフ商人は日頃は利に聡い分だけ、相手に惚れる時にはバカになるのかもしれませんわね』


 ティトゥは小さくため息をついたものの、それは別としてディエゴ自身は信じて良い人物だと考えたようだ。

 改めて彼に向き直った。


『ウチでは別に傭兵は募集していませんけど、これも何かの縁ですわ。今後もし仕事が見つからなくて困るような事があったら、ミロスラフ王国のナカジマ領を尋ねていらっしゃい。今はレオミールの護衛をしているみたいですし、戦い以外のそういった仕事で良ければ何か紹介出来ると思いますわ』

『へ、へへぇ。おありがとうございますぅ』


 コネというのはいくらあっても困る事はない。それが土地の最高権力者、貴族家当主ともなればなおさらである。

 ティトゥのありがたいお誘いにディエゴは変な敬語で頭を下げたのだった。




「それはより、ティトゥ。レオミール達が異変の中心地から逃げて来たんだったら――」

『ええ、そうですわね。レオミール、あなた達、カルヴァーレ侯爵領にモンスターが現れた時、何でもいいから何か気付いた事はありませんでした?』


 レオミール達は今回の異変の発生時、たまたま現場に近い場所に居合わせている。

 だったら何か気付いた事が――例えば異変に関わるヒントか何かに気付いているかもしれない。

 ティトゥの問いかけにレオミールは申し訳なさそうに、そしてディエゴは微妙にイヤそうな顔になった。


『それなんですが・・・あくまで不確かな情報として聞いて頂きたいのですが』

『お、おい、レオミールよ、本当に言っちまうつもりなのかよ。ひょっとしたらヤツ(・・)はコイツの仲間か何かもしれねえんだぜ』

『誰もハッキリとした姿を見た訳ではありませんから。それにただの見間違いだったという可能性もある訳ですし』


 レオミールはそう言って渋るディエゴを説得すると再び僕達に向き直った。


『私達が見たのは燃えるヴラス=ベリオ館(※帝国皇帝ヴラスチミルが若く美しい皇后のために建てさせた贅を凝らした館)の姿でした。モンスターは館の建物の中から次々に湧き出しているように思えました。そして館を覆う赤い炎。その先には――』


 レオミールはここで言葉を切ると僕を見上げた。


『その赤い炎の先には、血のような赤い色をした巨大な影がありました。その輪郭は私の目にはドラゴンのようにも見えました』


 僕とティトゥは驚きに息を呑んだ。

 異変の中心(ないしはその近く?)にあると思われる皇帝ヴラスチミルの館。

 そこには巨大な深紅の竜らしき姿があったというのである。

 遂にハヤテ達がラスボス(らしき存在)の姿にたどり着いた、といった所で、第二十四章は終わりとなります。

 どうでしょう? 楽しんで頂けたでしょうか?

 今回は遅々として筆が進まず、随分と更新が遅れ気味になってしまいました。

 楽しみにしていたみなさんには本当にご迷惑をおかけしました。

 次の章は、他作品の執筆(多分、『メス豚転生』の予定)がひと区切りつき次第、開始しますので、再開まで気長にお待ちいただくか、私の他作品を読みながら待っていて頂ければと思います。


 最後になりますが、いつもこの小説を読んで頂きありがとうございます。

 まだブックマークと評価をされていない方がいましたら、どうかよろしくお願いします。

 総合評価を上げてもっともっと多くの人に読んでもらいたいですから。

 皆様からの感想も随時お待ちしております。

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