その29 竜を継ぐ者
「ティトゥ。早速で悪いけど、ファル子達の援護に向かうよ」
『りょーかい、ですわ。行って頂戴、ハヤテ』
高速飛行種の数は五十。いくら空中機動ではファル子達の方に分があると言っても、この差は侮れない。
少しでも早く助けに行ってやらないと。
ティトゥの返事を受けて、僕は機体を180度横回転。グルリと天地がひっくり返ると同時に機首上げ。高度を下げながら今度は縦方向に180度ループするとUターンを行った。
縦方向の空戦機動、【スプリットS】である。
ファル子とハヤブサは・・・いた。
二人は大きく左右に分かれ、そろぞれ数十匹のネドマを引き連れている。
『ハヤテの見立て通り、高速飛行種はあの子達の速さに追いつけないみたいですわね』
よしよし、二人共僕の言いつけを守って回避に専念しているようだ。取り囲まれないように上手く空間を使いながら、ネドマの群れを分断する事に成功している。
いくら相手が知恵の回らない虫とはいえ五十匹もの数、そして初めて経験する空中戦とはとても思えない。
どうやら僕はファル子達の力とやる気をかなり見誤っていたようだ。
「とは言え、今のままだと逃げ回っているだけで数を減らす事は出来ないからね。早くサポートしてやらないと」
その時、ハヤブサがチラリとこちらに視線を向けた。
そして僕の姿を認めると、大きく翼を羽ばたかせ、ファル子の予想進路上へとコースを変えた。
ファル子はいきなり近付いて来た弟に――というよりも彼が誘導して来たネドマの群れに――一瞬、ギョッとしたが、すぐに後方に僕の姿を見付けて納得の表情を浮かべた。
その直後、丁度、僕の正面で二つのネドマの群れが合流。狭い空間の中に大量のネドマ達がひしめき合う形となった。
「上手いぞ二人共、ナイスアシスト! 正に理想通りの状況だ!」
僕はすかさず二十ミリ機関砲を発射。
ドドドドドド!
唸りを上げて赤い光の棒が渋滞中のネドマの群れに吸い込まれていった。
「ギエエエエエエエ!」
機関砲の重低音をかき消すように、高速飛行種の甲高い断末魔の悲鳴が響き渡る。
いつもなら素早くこちらの攻撃を躱して来る高速飛行種も、今は周りの仲間が邪魔をして逃げる余裕がない。
彼らはなすすべもなく鉛の弾丸に体を引き裂かれると、大空に無残な屍を散らしていった。
グオオオオオオオ・・・
僕は高速飛行種の群れを通過。背後を振り返って戦果確認を行った。
相手の数は・・・ぱっと見、あまり変わっていないようにも見える。
しかしそれは元々の数が多いためで、確実に減ってはいるはずだ。
ティトゥも今の攻撃に手ごたえを感じていたのだろう。後ろを見ながら興奮を隠せない様子で僕に尋ねた。
『ハヤテ! ハヤテ! 今のは凄かったですわよね!?』
「うん。僕の見立てでは、五~十匹かな? 撃墜確実が四から五。致命傷を負わせた数がほぼ同数といった所? 一度の攻撃で高速飛行種相手に上げた戦果としては、過去最高なんじゃないかな」
『やっぱり! 高速飛行種を相手にこれは凄い成果ですわ! ファルコ達が上手く相手をおびき寄せてくれたおかげですわね!』
そうだね。この戦果は二人が上手くやってくれたおかげなのは間違いない。
「まさか、一緒に手伝ってくれる存在がいるだけで、ここまでネドマとの戦いが楽になるなんてね・・・」
これなら危なくない範囲で手伝って貰うのもいいかもしれない。
現金なもので、僕の心からは二人を戦いに参加させたくないという気持ちはすっかりなくなっていた。
それだけ二人の上げた戦果は大きく、驚く程戦いが楽になったからである。
僕は今後の期待を込めた視線で子供達を見つめたのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ネドマの群れを切り割くように、巨大な翼が猛烈な速度で通過していく。
ゴオオオオオオオ!
空気を切り割く轟音。圧倒的な破壊者。
先程まで自分達を追い回していた巨大な虫達が、今ではなすすべもなく右往左往している。
薄緑色のリトルドラゴン、ハヤブサは、ようやく落ち着いて周囲を見回す余裕が出来た。
「ギャウ! ギャウ!(スゴイ! パパ、スゴーイ!)」
能天気な声に振り返ると、彼の姉(※自称)ファル子が大喜びではしゃいでいた。
その気持ち自体は良く分かるし、自分も父親の勇姿には心躍るものがあるのだが、今はまだ戦闘中である。母親からも絶対に油断はしないよう、きつく言われている事だし、落ち着きのない姉の面倒を見るようにも言われていた。
「ギャウギャウ!(ファル子、喜んでないで、次は僕達の番だよ!)」
「ギャウ!(アンタ生意気!)」
ハヤブサは少しムッとしたが何も言い返さなかった。
どうせ姉は人の話を聞かないし、今は言い争っている時間もない。
ハヤテの攻撃に動揺していたネドマ達も、ようやく混乱から立ち直りつつある。
隙を突くなら今しかない。
ハヤブサは素早くネドマの群れを回り込んだ。
「ギャウギャウ!(ファル子はそっちから! 僕はこっちからやるよ!)」
「ギャウ!(私に命令しないで!)」
「ギャウ!(ファル子! ママに言いつけるぞ!)」
「ギャーウ!(あーもう、分かったわよ!)」
日頃から叱られ慣れているとはいえ、叱られて平気という訳ではない。それにせっかく念願かなってこうして戦いに参加出来たというのに、我がままを言ったせいで次からは連れて来て貰えなくなってはたまらない。
ハヤブサは姉が渋々頷いたのを確認すると、目の前のネドマを標的に定めた。
「ギャウギャウ!(それじゃいくよ! ドラゴンブレス!)」
「ギャウ!(ドラゴンブレス!)」
二人は同時にパカリと口を開いた。
ギチリッ、ギチリッ・・・
その口があり得ない程大きく押し広げられていく。
さすがにもう限界か――と思われたその瞬間、二人の口内に小さな光の点が現れると、その光が真っ直ぐに前方へと伸びた。
高圧縮化した魔力によって生み出された熱線。
二人の母親、ティトゥ命名のドラゴンブレスである。
パウッ!
青い空に定規で引いたような一筋の光はネドマに着弾。その甲殻を真っ赤に燃え上がらせた。
「ギャイイイイイ!」
生きながら焼かれる痛みに、ネドマの口から悲鳴が上がる。
やがて神経を焼き切られたのか、体を丸めると地面へと落下して行った。
ハヤブサは自分達の戦果を見届けると、口から細い煙を吐いた。
「・・・ギャウギャウ(ふう。やっぱりパパみたいにはいかないか。一体何が悪いんだろう)」
「ギャウ! ギャウ!(やった! やっつけた!)」
攻撃の威力に残念そうなハヤブサに対し、ファル子は自分達で敵を倒したという事実に浮かれている。
元々ドラゴンブレスは、父親であるハヤテの二十ミリ機関砲の攻撃をハヤブサなりにマネたものである。
それがなぜ、こんな形になったのか?
今朝、初めて二人からドラゴンブレスを見せられた時、ハヤテは興奮して息子に尋ねた。
「凄いじゃないか二人共! 今のは一体どうやったんだ!?」
ハヤテはその攻撃が魔力を介して行われたものである事を知ると、しきりに感心した。
「なる程。確かにこの世界には魔法が存在するのは知っていたけど、こうして見える形で目にしたのは初めてだ。魔法を攻撃に利用する方法を独自に生み出すなんて、ハヤブサは魔法の天才なのかもしれないな」
『相変わらずハヤテは親バカですわね』
ティトゥの呆れた様子も、ほくほく顔のハヤテには気にならなかった。
「一つだけ分からないのは、これって僕の二十ミリ機関砲のマネをしたものなんだよね? だったらこうはならないんじゃないかと思うけど、どうしてこうなったのかな?」
「ギャウ? ギャウギャウ(どうしてって何が? パパと同じようにしたつもりなんだけど?)」
言うまでもなく機関砲の攻撃の本体は鉛の弾。機関砲弾の弾頭である。
しかし銃の仕組みというものを全く知らないハヤブサは、機関砲の攻撃を自分の目で見た通りの物だと勘違いしたらしい。
つまり、目に見えない速度の弾丸が飛んで敵を破壊するのではなく、赤い光の棒――その正体は弾帯の中に混じっている曳光弾によって発生する光の線――が飛んで敵を破壊する。そう解釈したのである。
「あ~なる程。銃の原理を知らなければそう思い込んでしまうのも無理はないのか」
「ギャーウ?(何か違ったの?)」
ちなみにファル子はハヤブサからやり方を教えて貰ったらしい。
弟が出来るのに姉である自分が出来ないのは悔しいから、出来るようになるまで絶対に人に見せないように念を押していたそうだ。
「なんだかなあ。ファル子らしいっちゃあらしいけど」
『それでその技はなんて名称なんですの?』
「ギャウギャウ?(パパのと同じ名前なんじゃないの?)」
「う~ん。でも機関砲とは全く原理が違うし、魔法というこの世界ならではの攻撃方法だからね。それにせっかく、ハヤブサが頑張って作り出したものなんだし、ここはオリジナルの名前を付けた方がいいんじゃないかな」
父親からべた褒めされてハヤブサはこそばゆそうに顔を掻いた。
ちなみに技名を決めるに際しては、ハヤテとティトゥの間でひと悶着があった。
『ドラゴンブレスの何が悪いんですの?』
「いや、悪くはないし、むしろドラゴンの技らしくていいと思うんだけど、なんで僕の二十ミリ機関砲『龍咆哮閃光枝垂れですわ』そうそれ。僕の二十ミリ機関砲は龍なんちゃら枝垂れなんて中二な名前なのに、ハヤブサ達の技には普通にドラゴンっぽい名前を付ける訳?」
『それはそれこれはこれ、ですわ。にじゅうみりなんちゃらなんて覚えづらい名前より、龍咆哮閃光枝垂れの方が絶対にいいじゃありませんの』
「いや、絶対におかしいだろ。カーチャもそう思うよね?」
『そうなのかしら? カーチャ。あなたは私とハヤテ、どっちの言い分が正しいと思いますの?』
『ええっ!? ここで私に来るんですか!? ええと、私はティトゥ様と違ってハヤテ様が何と言っているのか分からないので・・・』
突然話を振られたメイド少女カーチャは、助けを求めて周囲を見回した。
「じゃあオットーでもいいよ」
『オットー、正直に言いなさい』
『オットー様お願いします』
『・・・勝手に私を巻き込まないで下さい』
ナカジマ領の代官オットーは、渋い顔で迷惑そうに答えたのだった。
次回「三匹のドラゴン」




