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その27 進撃のラダ叔母さん

『時間があるなら是非寄った方がいい。』


 マリエッタ王女の頼れる叔母さん、ラダ叔母さんの鶴の一声で僕達はミロスラフ王国の国境の砦へと向かった。

 帰りのフライトがすこぶる順調だったこともあり、時間にはまだ少しだけ余裕がある。

 そういうわけで僕達は現在、元第二王子・将ちゃんことカミル将軍が視察中の国境の砦の空にいるのだった。


◇◇◇◇◇◇◇


「マチェイ嬢のドラゴンがこちらに向かってきているだと?」


 部下からの報告を受け、カミル将軍は目を通していた書類から顔を上げた。

 今日はマコフスキー卿の屋敷でランピーニ聖国マリエッタ王女の主催する招宴会が開かれる予定だ。

 数日前、部下のアダム・クリストフからその招宴会にまつわる陰謀を聞かされていたカミル将軍は、王都を発つ際に可能な範囲で手回しをしていた。

 しかし、ドラゴンがこちらに向かっているということはきっと何か予想外のことがあったに違いない。

 最悪の事態も想定し、カミル将軍は急いで砦の門へと向かった。




「久しぶりだねカミルバルト!」


 笑顔で告げる最悪の事態はカミル将軍の想定を遥かに超えた最悪中の最悪だった。


(なんで他国に嫁いだはずのラディスラヴァ様がここにいるんだーーっ!!!)


 聡明な彼の頭脳をもってしても予想しえない――いや、予想することさえ脳が拒む恐ろしい悪夢がそこには存在していた。

 ちなみにラディスラヴァはラダ・レブロン伯爵夫人がまだミロスラフ王国の第一王女だったころの名前である。

 そしてなぜ同じ王族であるカミル将軍が彼女を様付けで呼ぶのかは謎である。


 ガクガクと震える足を気力で支えることが出来たのは、多くの部下が見ているという将軍としてのプライドによるものだった。

 周囲の騎士団員の中にも、彼同様に真っ青な顔をして小刻みに震えている者がいることが分かる。

 彼らは例外なく古株の団員達だ。

 若い団員は日頃は強面の上司達のいつもにない姿に訝し気な表情を浮かべていた。


「ちょっと話があるんだよ」


 借りてきた猫のように大人しいカミル将軍と肩を組むと、ラダ・レブロン伯爵夫人は将軍と連れ立って砦の中へと歩いて行った。

 話は本当にちょっとだけだったようだ。少しの時間の後、にこやかに砦から出てきた伯爵夫人はそのままティトゥの待つドラゴンに乗り込むと空のかなたへと飛び去って行った。

 若い騎士団員達はあっけにとられてそれを見送るしかなかった。

 その後、騎士団の中核を占める古株の騎士団員達がダウンしたため、明日まで全ての訓練と作業が免除された。

 さっぱり事情が呑み込めない若い団員達だが、それでも突然降ってわいた休みをそれなりに満喫した様子だった。


◇◇◇◇◇◇◇


『よし、次は王城へ行くぞ!』

『ええっ!』


 この宣言には流石にティトゥも驚いたようだ。

 考えてみれば日本で言えば皇居に飛行機で乗り付けるようなものだ。そりゃあティトゥが驚くのも無理はない。


『王城の裏に丁度ハヤテが降りられそうな広場がある。そこに降りよう』


 ああ、そういえば王都に到着した日に確かそこに向かえとか言われた気がする。

 だったらいいのかな?


『そんな滅茶苦茶な!』


 良くなかったようである。


『なに、問題ないさ』


 一体どっちなのさ。

 ラダ叔母さんの説明によれば、王城の裏の広場は、王都が敵に攻め込まれて「いざ王城に立てこもって戦うぞ」、という時に兵士を入れるための場所なんだそうだ。


『だから問題ない』

『・・・そんなものでしょうか?』


 何だかティトゥが言いくるめられているような気もする。

 けどかなり時間も押しているし、ここは手っ取り早く行こう。

 僕達はラダ叔母さんの提案通り王城へと向かうことにした。




 てなわけで帰ってきました王都ミロスラフ。

 僕は爆音を響かせ王都の空を突っ切った。

 そこそこ低空を飛行したせいで多くの王都民が僕を見上げて騒ぎ出している。

 ラダ叔母さんは空から見た王都の景色にご満悦だ。

 何でも彼女は生まれも育ちも王都の生粋の王都っ子だったのだそうだ。

 派手な凱旋帰国に血がたぎるとまで言っていたよ。

 レブロンの港町の上空を飛んだ時にはあんなにしんみりしていたのに、この温度差は一体なんなんだろうね?



 近くで見た王城は、何というかまあ王城だった。

 僕らが想像するヨーロッパのお城、といった感じだ。

 詳しい人が見ればどこの国の何年ころの何様式だとか分かるんだろうけど、僕に知識がないためそういった説明が出来ずに申し訳ない。

 メルヘンチックな城じゃなくゴツイ系の城でした。しょぼいけどこの説明で勘弁して下さい。


 僕は王城の上空を旋回するとラダ叔母さんの指示にあった広場に着陸。

 ここに四式戦闘機で王城に単騎で着陸するという前人未到の快挙を成し遂げたのだ。


『お前達は一体何をしているか分かっているのか!!』


 王城の警護の騎士達が遠巻きにする中、彼らをかき分けて仕立ての良い服を着た品の良いおじいちゃんが額に青筋を立てて走ってきた。


『変わってないな、ユリウス!』

『ひいっ!』


 おじいちゃんいきなり死にそうな顔になってるし。

 ていうかさっきの将ちゃんもそうだったけど、ラダ叔母さんこの国にいたころ一体何やったのさ。


『こここここにななな何のごごごよごよごよよ』

『おいおい、何を言っているのかさっぱり分からんぞ』


 ラダ叔母さんは呆れ顔だ。


『お前に用は無い。この中で王都騎士団の者はいるか!』


 お前に用は無い発言に明らかに安堵の表情を浮かべるおじいちゃん。そんなおじいちゃんはほっといて、ラダ叔母さんは周りにいる騎士達の方へと呼びかけた。


『は・・・はい! 私がそうです!』


 その呼びかけに勇気ある青年が名乗り出た。ラダ叔母さんは腰の小物入れ袋から何やら丸められた紙を取り出す。

 おや? このドラゴンはあれを知っていますぞ。あれはおそらく命令書ですな。

 この王都行きの旅のきっかけとなった王城からの召喚状が丁度あんな感じだったはずだ。


『貴様らの騎士団長からの正規の命令書だ。急ぎ詰め所に戻り、そこに書かれた指示通りに動くがいい』

『はっ!』


 やはり命令書で合っていたようだ。

 ということはさっきはこれを手に入れるためにラダ叔母さんは将ちゃんのところに向かったんだな。

 青年はラダ叔母さんから恭しく命令書を受け取ると、踵を鳴らして挨拶をする。そして彼はキビキビとした動きで振り返るとお城の中へと走り去って行った。


『ここですべきことは済んだ。行くぞ!』


 そう宣言するとラダ叔母さんはひらりと操縦席に飛び乗った。

 慌ててラダ叔母さんに続くティトゥ。

 僕がエンジンを吹かすと周囲の騎士からため息が漏れた。


『あれが今、城下で噂の姫 竜 騎 士プリンセス・ドラゴンライダー


 操縦席でティトゥが何とも言えない顔になる。

 あー、これってラダ叔母さんの方が姫 竜 騎 士プリンセス・ドラゴンライダーって思われちゃったな。

 そんな周囲の言葉にまんざらでもない様子のラダ叔母さん。


『よし、飛べ! ハヤテ!』


 なんだか本人もその気になってるし。ティトゥはすっかり涙目だ。

 僕はブーストをかけると広場を滑走。タイヤが大地を切ると僕達は空の上へと飛び立つのだった。


 ちなみに後で聞いたけど、さっきのおじいちゃんはこの国の宰相なんだそうだ。へー、そーなんだ。

 将ちゃんの話だと確か宰相は僕を警戒しているとかなんとか。

 これって初対面の印象、最悪なんじゃない?

 いや、案外ラダ叔母さんの印象が強すぎて僕のコトを覚えていないかもしれない。

 だったらいいな。




 王城の上を旋回中、暮れ六つ(午後6時)の鐘を知らせる鐘が三度王都に鳴り響いた。


 今更だけど説明すると、王都では二時間ごとに時間を知らせる鐘が鳴る。

 それらは時間ごとに決まった回数鳴らされる。

 六時だと六回。四時だと七回。そんな感じだ。

 四時なら四回でいいじゃない。そう思うのは我々の時間が12時間刻みだからだ。

 それにそれだと一時は一度しか鐘が鳴らされないことになってしまう。聞き逃す人が大勢出るのは間違いないだろう。

 話を戻すが、いきなり時間を告げる鐘を鳴らすと最初の方の鐘を聞き逃し、今の時間があやふやになってしまう人が出る。

 そのため鐘を鳴らすことを知らせる鐘を鳴らすことになっているのだ。

 その鐘が今三度鳴った鐘というわけだ。


『少し寄り道するぞ』


 ラダ叔母さんはそう言うと僕に細かく指示を出し始めた。


『そら、そこの路地裏だ』


 僕が路地裏の上空を飛ぶと、そこには目を丸くして僕を見上げる数名の男達がいた。


『レブロン伯爵夫人、今の人達は?』

『ふん。やはり居たか』 

次回「ダイナミック着地」

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