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その24 再びミロスラフ王国へ

 僕が港の人達と交流を深めている間に、マリエッタ王女達の話は済んだようだ。

 王女の叔母さん、ラダ叔母さんがみんなを引き連れて建物から出てきた。

 彼女の通り道を開けるために割れる群衆。

 う~ん、なんだか妙にカッコいい。まるで映画のワンシーンみたいだ。


 ラダ叔母さんはニコニコ顔で歩いて来る。

 建物に入る前は抜け殻のようになっていんだけど、一体中でどんな話をしていたんだろうね?

 逆にラダ叔母さんの後ろに続く王女と、パシリの伊達男君はどこか疲れた様子で元気がない。

 ちなみにティトゥはちょっと困った顔をしている。

 本当にどんな話をしていたわけ?


『やあ、あんたハヤテだって? 今日はよろしく頼むよ』

『ハヤテ、レブロン伯爵夫人にご挨拶をして頂戴』


 ・・・えっ? アレ(・・)をやるの?


 僕がうろたえていると、ティトゥが僕の方を軽く睨んで来た。


 くっ・・・。やるしかないのか?


 不思議そうに見守るギャラリー達。

 くそう、こんな大勢の前でやらせることないじゃないかティトゥ。


『ハヤテ!』


 ティトゥの催促に仕方なく僕は以前ティトゥに教えられた挨拶をすることにした。


『ゴキゲンヨウ』


 集まったギャラリー達がポカンとする中・・・

 ぷふっ。大きなドラゴンが貴婦人のような言葉で挨拶をしたことに吹き出す者がいた。

 途端にあちこちからクスクスという忍び笑いが聞こえて来る。

 この様子にマリエッタ王女も少し困り顔をしていた。


 くそう! だからイヤだったんだよ。

 でもこの挨拶しかティトゥが許してくれなかったんだよ。


『こちらこそごきげんよう。本当に人間の言葉が分かるんだね』


 ラダ叔母さんは機嫌よく僕に挨拶を返した。満足そうなティトゥの顔が腹立たしい。




 どうやらみんなで話し合った結果、帰りはティトゥとラダ叔母さんを乗せて帰ることになったらしい。

 流石に三人は乗れないということでマリエッタ王女はこの町に残るそうだ。


『私はアンタとは契約できないけど、マチェイ嬢が一緒に乗るなら大丈夫なんだろう?』


 どうやら僕の設定はそういうことになっているようだ。

 というかティトゥの中ではちゃんと設定の整合性は取れているんだろうね?

 最近マリエッタ王女相手に結構吹かしているので少し心配だ。


『すいません、ハヤテさん。そういうことになってしまいました』


 マリエッタ王女が申し訳なさそうに僕に謝ってきた。

 僕はそれでも良いけど、招宴会の主賓である王女が帰らなくても大丈夫なんだろうか?

 まあそっちの方が王女の安全が確保できるから、僕としては願っても無い話ではあるんだけど。


『なあに、格としては王家のマリエッタ王女殿下には劣るが、私だってレブロン伯爵家の第一夫人だ。それにミロスラフ王国にはまだまだ私の顔も効くだろうしね』


 そう言うとラダ叔母さんはニヤリと笑った。

 マリエッタ王女がドッと疲れた顔になったのが気にはなるが、まあみんながそうするのが良いと判断したなら反対することもない。


『イイヨ』

『違うわハヤテ、”大変好ましいと存じますわ”よ』


 すかさずティトゥが僕の返事にダメ出しをした。って、そんな言葉使いしたくないよ!

 君は僕をオネエドラゴンにでもしたいのかい?!

 ラダ叔母さんはカラカラと笑うとパシリの伊達男君にあれこれと指示を出し始めた。


 おっと、今度は忘れずに増槽を付けておかないとね。

 僕の翼の下に突然現れた丸い塊に周囲からどよめきが起こった。


『今度は何を吹き飛ばすつもりだ?!』

『もう船は壊さなくてもいいんだよ?!』


 どうやらさっきの爆弾と思ったようだ。まあ形は似ているからね。




 流石に女性二人が乗ると操縦席の中はキツキツだ。

 長身のラダ叔母さんがイスに座り、その膝の上にティトゥが乗っている。

 ティトゥは非常に座り心地が悪そうにラダ叔母さんの膝に乗っているのだが、乗られたラダ叔母さんの方はそんなことはお構いなしにワクワクとした様子であちこち見渡している。


『ではティトゥお姉様、よろしくお願いします!』

『なあ、なんであの子はアンタのことをお姉様って呼んでるんだ?』


 ・・・・


 誰も答えられない質問に黙るティトゥと僕。そういうことは本人に聞いてくれないかな?


『トブ』

『ええ、よろしくてよ』


 とっとと飛んでこの場は誤魔化すことにしよう。


 バルン! ドドドド


 僕はエンジンをかけるとゆっくりと走り出した。

 ラダ叔母さんがソワソワするのでティトゥの頭がぴょんぴょんと跳ねて今にも風防にぶつかりそうだ。

 さっき僕が飛んだのを見ている人達が後から来た人達を誘導して下がらせている。

 あの男の子も大声を上げながら走り回ってそれを手伝っているね。

 港の人達のグイグイと詰めてくる距離感に最初は戸惑ったものの、今では別れるのが何だか少し寂しいよ。

 どうやら僕はこの人達のことが好きになりかけていたようだ。

 出会いと別れは旅のだいご味。思いもしなかった良い出会いに僕の心はグッとくるのであった。


◇◇◇◇◇◇◇


 ハヤテさんは唸り声を上げるとゆっくりと動き出しました。

 彼の頭の部分に付いている羽根が回ることで起きる風が私の銀色の髪を跳ね上げます。

 港の人達がその通り道を開けるように移動して行きます。


「叔母様に全て任せてしまって良かったのでしょうか・・・」


 私は誰にするでもない問いかけをポツリと呟いてしまいました。

 レブロンの代官メルガルが耳ざとく私の呟きを拾い、こちらに目を向けました。


「ミロスラフ王国はあの方の故郷でございますよ? 何を心配することがありましょうか」

「しかし、危険な場所ですよ。それに私は自分の責任を投げ出してしまいました・・・」


 代官メルガルはキザな格好に相応しい、芝居がかった態度で私に微笑みかけました。


「あの方がご自身で行くと決められた事です。王女殿下が気に病むことなど何もありませんよ」


 そう言われてもなかなか割り切れるものではありません。


「ハヤテ様は明日にでもまたすぐに戻られるのでしょう? 王女殿下の仕事は式典に参加されること。ほら、きちんと責任は果たせるではないですか」


 メルガルの言葉に私は一つため息をつきました。確かにここでくよくよしていても仕方がないのです。

 叔母様に相談すると決めたからには叔母様の判断に従ってみせるのも王族としての度量というものです。


「それより王女殿下は何故マチェイ嬢のことをお姉様とお呼びになられるのですか?」

「あ、ほら、ハヤテさんが飛び立ちますよ」


◇◇◇◇◇◇◇


『オイオイ、どうやって走っているんだこれは! ハヤテは手も足も動かしていないじゃないか!』

『レブロン伯爵夫人、落ち着いてください!』


 操縦席の中は大騒ぎだ。

 僕はブーストをかけるとひとっ走り。タイヤが港の大地を切った。


『ひょっ』


 フワリと浮き上がる感覚にラダ叔母さんの口から変な声が漏れた。

 機首を上げると目の前に広がるのは一面の青空。

 自分が飛行機の身体になっているからだろうか? 大地から解き放たれるこの瞬間はいつも何ともいえない解放感を感じるのだ。


 少しの間上昇して高度を取ると僕は機首を水平に戻した。

 意外なことにラダ叔母さんはぼんやりとイスに座っていた。


『す・・・すごい。空だ』


 なんだか呆けたようになっているけど大丈夫?

 もっと大騒ぎするかと思っていた。


 僕は機体を傾けると、いつものように高度を取りながらぐるりと港の上を回った。

 いや、真っ直ぐ上昇してもいいんだけど、そこは僕のこだわりというか何というか。

 戦闘機ってこうするもんじゃない?


 港の人達が僕に向けて大きく手を振っている。

 こういうトコロは異世界でも変わらないんだな。

 世界は変わっても人間は変わらない。そんな当たり前のことに僕は喜びとちょっとした郷愁を感じた。

 子供達が僕を追いかけて走っている。その中にはあの男の子もいる。

 僕は彼らに軽く翼を振って応えた。


『これがレブロンの町。空から見るとこんな風になっているんだ』


 ラダ叔母さんが嬉しそうに微笑んだ。


『あれが教会の鐘塔。あれが町の大通り。あの家は嵐で屋根が傾いているな』


 ラダ叔母さんは町のあちこちを指差しながらひとつひとつ確認していく。


『これがレブロンの町。夫と私の町』


 そう呟くと感極まって言葉を失くした。

 その目には涙が浮かんでいる。

 彼女が何を感じているのかは僕には分からない。僕の知らない多くの苦労をしてきたのだろうか?

 ティトゥもラダ叔母さんの気持ちを察して息をひそめている。


 どのくらいたっただろうか。

 ラダ叔母さんは気持ちを切り替えるようにティトゥの肩を両手で叩いた。


『さあ、ミロスラフ王国へ向かってくれ! グズグズしている時間はないよ!』


 確かにその通りだ。タイミング的には日没と同時に到着できるかどうかギリギリのトコロだ。


『ええ! ハヤテ!』


 ティトゥの指示に僕は東南東へ機首を向ける。ここからは時間との戦いだ。

 行きのフライトの反省だろう。ティトゥが保温のため重ね掛けしたマントをギュッと握っている。


 いざミロスラフ王国へ!





『へえ~、空から見るとミロスラフ王国ってのはこう見えるんだね』


 到着しましたミロスラフ王国!


 早いって? 実際に早かったんだから仕方がない。

 いわゆる”持っている人”っているもんだよね~。

 行きの苦労は何だったんだと思うほどすこぶる順調なフライトだったよ。

 偏西風なのかな? とにかく始終追い風参考状態で、その上行きにあれだけ僕達を苦しめた嵐もどこにいったのか影も形も見えなかったよ。

 この調子なら暮れ六つの鐘が鳴る前、一日の終わる前に余裕を持って王都に到着できそうだ。


『騎士団の壁外訓練場からマコフスキー卿のお屋敷まではどのくらいかかったかしら・・・』

『何言ってんだい?』


 ?

 ティトゥの呟きにラダ叔母さんが胸を張って答えた。


『直接ハヤテで空から乗り付ければいいじゃないか』

次回「招かれざる客」

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― 新着の感想 ―
[良い点] >『これがレブロンの町。夫と私の町』 ラダおばさんが街のひとつひとつを空から眺めて 感慨深そうにするこのシーン大好きです
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