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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第二十三章 カルシーク海海戦編
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その15 結果オーライ

◇◇◇◇◇◇◇◇


 ここはナカジマ家の屋敷の執務室。

 今日のティトゥは朝からあまり機嫌がよろしくない。

 代官のオットーも、そんな主人を気遣ってか、いつもよりも遠慮気味に声を掛けている。

 メイド少女カーチャは、ギスギスした空気が漂う室内から目を逸らすと、窓の外を見上げた。


(ハヤテ様、早く帰って来て下さい)


 ナカジマ家のドラゴン・ハヤテが、チェルヌィフ商人のシーロを乗せて屋敷を飛び立ったのは今朝の事。

 ハヤテはたまに言動が奇行に走り、周囲を振り回す事があるが、今回は珍しく、いつもなら一緒に行動しているはずのティトゥが蚊帳の外に置かれてしまった。

 なんでも「今日はシーロと男同士、水入らずで話をしたい」との事で、ティトゥとしてもパートナーから直々にそうお願いされてしまっては、無理も言えなかったようだ。

 しかし、理屈では理解していても感情の方は収まりがつかなかったようだ。その結果、ティトゥはこの日一日、不満顔で過ごす事になってしまったのだった。


 ヴーン・・・


 遠くから虫の羽音のような音が響いて来る。

 噂をすれば影が差す。ハヤテが帰って来たのだ。

 カーチャはパッと顔に喜色を浮かべるとティトゥに振り返った。


「ティトゥ様、ハヤテ様とシーロさんが戻って来ましたよ!」

「――そうみたいですわね」


 ティトゥは書類から顔を上げると柔らかな笑みを浮かべた。

 その様子にホッと安堵の息を吐くオットー達。


「では出迎えに行きましょうか。お前達は庭に使用人達を集めろ」

「はい」

「それではご当主様も――ええと、どうかしましたか?」


 オットーはティトゥが興味深そうな顔でこちらを見ているのに気付き、怪訝な表情を浮かべた。


「あなた達はいつもそうやって私達を出迎えていたんですのね」


 ティトゥは感心した様子で小さく呟いた。

 いつも出迎えられる側だったティトゥは、出迎える側に回った事に新鮮な感覚を思えたようだ。

 オットーは何とも言えない表情を浮かべると部屋を後にしたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 という訳でティトゥの屋敷に到着。

 いつものように使用人達が総出で僕を出迎えてくれた。

 その中でひときわ輝きを放つゆるふわヘアーのお嬢様。僕の契約者のティトゥである。


『ハヤテ、お疲れ様。思ったよりも随分と遅かったですわね』

「あ、ああうん。時間がかかっちゃってゴメン。いや、別に寄り道をしてた訳じゃなくて、普通に移動に時間が取られたっていうか、途中で燃料が心もとなくなって、増槽を出さなきゃいけなくなって、それにも時間を取られてしまったってのもあったかも」


 笑顔のティトゥに、なぜか慌てて言い訳を始める僕。

 やましい事なんて何一つないというのに、ティトゥの顔を見ているとどうしても弁明をせずにはいられなかったのだ。

 これが男の悲しい本能というものだろうか?


「ギャウ! ギャウ!(パパ! パパ!)」


 チェルヌィフ商人のシーロが操縦席から降りると、入れ替わりで桜色ドラゴンのファル子が飛び込んで来た。

 次いで緑色ドラゴンのハヤブサも飛び乗ると、床の匂いを嗅ぎ始める。

 ティトゥは、はしゃぐファル子達に苦笑を浮かべると僕に尋ねた。


『それでシーロとは上手くいったんですの?』


 あーうん。ええと、それなんだけど・・・。

 僕が言い辛そうにしていると、シーロが出迎えの中にエマールさんを見つけた。


『・・・エマール。昨日の話だが、まだお前の気は変わっていないか?』


 シーロの問いかけにエマールさんはちょっと驚いた顔をした後に、小さくコクリと頷いた。

 一体何事かと周囲が見守る中、シーロは『そうか分かった』と呟くと、彼女の前に立った。


『なら俺の方からも頼む。どうか俺と一緒になってくれ』

『――!』


 突然の求婚にエマールさんは驚きに目を見開いた。

 シーロは小さく微笑むと彼女に手を差し伸べた。


『どうだ? 受けてくれるか?』

『・・・(コクリ)』


 エマールさんがその手を取ると、シーロは彼女を引き寄せ、優しく抱きしめたのだった。




 裏庭は驚きの声で溢れかえった。

 そして意味も分からずに興奮するファル子達。

 代官のオットーが慌ててシーロに尋ねた。


『シーロ、お前それでいいのか!? 今朝までは微塵もそんな素振りは見せていなかっただろうに!』

『皆様には色々とお騒がせを致しました。俺はエマールと結婚しようと思います』


 いかなる心境の変化があったのか、シーロは迷いのない目でオットーを見つめた。

 本人がこうもキッパリと言い切った以上、外野が口出しをする余地はない。オットーは『う、うむ。そ、それならいいが』と、どこか釈然としない様子で引き下がった。

 みんなが騒然とする中、ティトゥは何かに気付いた様子でパッと笑顔を見せると僕に振り返った。


『ハヤテがシーロを説得したんですのね!』


 メイド少女カーチャが「マジで!?」とでも言いたげな顔で僕を見上げる。

 いや、それって僕のセリフなんだけど。

 確かに僕はティトゥの言うように、今日は一日かけてシーロを説得しようと考えていた。

 とはいえ、前世を通して未だ独身の僕が何を言っても、説得力はゼロ。下手をすれば余計にシーロの不安を煽るような結果になりかねない。

 そこで僕は僕の知り合いのリア充達に――もとい、結婚を目前にした幸せな人達に、僕に代わってシーロの相談に乗って貰おうと考えたのである。

 それがトレモ船長とフェブルさんの店の番頭のハントだったのだが・・・

 既婚者のオットーじゃダメだったのかって? あーうん。家庭を持っている人にはそれはそれで不満や愚痴もあるだろうし、そういう話を聞いたら余計にシーロが尻込みしちゃうんじゃないかと思ってさ。


「その点、結婚を目前に控えた彼らなら――ましてや好きだった相手と結婚が決まったトレモ船長と番頭のハントなら、きっとシーロの気持ちを後押しをしてくれるんじゃないかと思ったんだよ。だから二人の所にシーロを連れて行ったんだけど」

『うんうん。なる程ですわ』


 ティトゥは機嫌よく頷いている。カーチャもティトゥから説明を聞いて納得顔になった。

 いや、感心して貰えている所を悪いけど、実は僕の予定は完全に空振りだったんだけど。

 そう。トレモ船長も番頭のハントも、仕事の都合で会えなかったのである。

 それだけではない。丁度バーバラ島を出た辺りから、なぜかシーロの態度にいつもの調子の良さ? うさん臭さ? が鳴りを潜めてしまったのだ。

 僕に対しても何だか妙に遠慮気味になるし、会話も弾まないしで、やり辛いったらなかった。

 こうなってしまっては、僕の片言の現地語ではリカバリーも難しい。

 片言も何も、そもそもお前には冷めた場を盛り上げるような話術なんてないだろうって? うるさいよ。

 最後の方はすっかり黙り込んでしまったシーロに、僕は気まずい思いをしながら屋敷まで帰って来たのだった。

 そんな感じだったので、突然、シーロがエマールさんに求婚をした時、僕もみんなと一緒に驚いてしまった。

 一体、シーロの中でどんな心境の変化があって、急にエマールさんとの結婚を決意する事になったのだろうか?

 ティトゥは誇らしげに豊かな胸を張った。


『きっとハヤテの気持ちがシーロに通じたんですわ』


 いや、だから気持ちが通じたも何も、僕の予定は全部空振りに終わったんだってば。

 その時、当の本人のシーロがティトゥの言葉に頷いた。


『はい。今日はハヤテ様に諭されました』


 えっ? マジで?




 僕は今日一日、シーロをあちこち連れ回しただけで完全に空振りに終わったと思っていたのだが、彼は僕に諭されたのだという。一体どういう事?


『私は不安に思っていました。大災害が起きてこの世界が終わろうとしているというのに、結婚なんてしていていいのだろうか。自分なんかがエマールを守る事が出来るのだろうか、と』

『大災害なら私とハヤテがきっとどうにかしてみせますわ!』


 それを自信満々に言い切れる君ってホントにスゴイと思うよ。小心者の僕にはとても真似出来ないよ。したいと思った事も無いけど。

 シーロも同じように思ったのだろう。ちょっと困ったような顔で苦笑した。


『昨日までの私なら、今のナカジマ様の言葉にも半信半疑だったでしょう。ですが今日、私はハヤテ様の力の一端を目にしました。我々人間が船で何日もかけて移動するような距離を、ハヤテ様は苦も無く飛び越えてしまう。知識としては知っていましたが、話に聞くのと実際にこの目で見るのとでは大違いでした。自分で体験する事で、初めて驚異的な事実として実感する事が出来ました』


 シーロはここで南の空を見つめた。


『半島の南に浮かぶ島では、聖国から来た貴族と島民が協力して虫の繭から糸を作り出そうとしていました。聞いた事もないこの荒唐無稽な方法を教えたのはハヤテ様だったんだそうですね。私には説明を聞いた今でもまだ信じられない気がしています』


 あの時、現場にいたティトゥとカーチャは何とも言えない顔を見合わせた。

 カーチャは『実際に糸が作られるのを見てないと、信じられないのも仕方がないと思います』と呟いた。

 次にシーロは北西の空に視線を移した。


『レンドンでは伯爵家の当主様直々に、下にも置かないもてなしを受けましたよ。私がまだ貿易商だった頃、仕事でお世話になった大店の店主が、ハヤテ様の呼び出しを受けて直々にやって来て頭を下げているのを見た時には、あまりの現実感の無さに気が遠くなりかけましたが』


 シーロはその時の様子を思い出したのか、小さくかぶりを振った。


『何と言えばいいんでしょうかね。現実で思い切り頬をブッ叩かれて目が覚めた気分、とでも言えばいいんでしょうか? 私はこんなに凄いハヤテ様を前にして、何をくよくよと思い悩んでいたんだ。そう思いまして。ハヤテ様の大きさ、破天荒さに比べたら、小さな私の抱える悩みなんて小さなもの。そう考えたら、スッと胸の重しが取れたような気がしたんです』


 シーロはそう言うと晴れ晴れとした笑みを――いつものような胡散臭さ溢れる笑みを浮かべた。

 ええと、つまりはこういう事? 僕的には今日のフライトは完全に空振りに終わったと思っていたけど、シーロはその行程や行った先々での僕達が過去に行って来たあれやこれやに触れ、すっかり驚いてしまったと。

 それは彼の価値観を変えるような物で、結果、シーロはエマールさんとの結婚を前向きに考える事が出来るようになったと。そういう理解でオーケー?

 よし。なる程、分かった。


『ケイサンドオリ』

『絶対にウソですわね』

『私も今のはウソだと思います』


 僕の言葉はティトゥとカーチャによって言下(げんか)に否定されたのだった。

次回「明日のため」

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― 新着の感想 ―
別の意味で撃墜されたシーロ、祝。
男が状にの結婚前のリア充限定かと思っていたがそうでもなかったか。 ならチェルヌィフ王朝の船の修理工場の若社長バルトと水運商ギルドの事務員ヤロヴィナも訪ねて欲しかったが、流石に遠いし、そもそも2人の関係…
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