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その29 三ヵ国対策会議

 一度ティトゥの屋敷に戻った僕達は、そこでハレトニェート家当主ことレフド叔父さんを乗せると、再度――ええと、何だったっけ? の町へと帰って来た。


『テツネの町ですわ。そしてヘルザーム伯爵家の屋敷がある町はアルピナですわ』


 若干のドヤ顔のティトゥ。

 先程エルヴィン王子にサラリと答えられたのが微妙に悔しかったようだ。

 別に勝ち誇る程のものでもないと思うけど? 頑張って覚えた名前を披露出来る機会があって良かったね。


『ほう。ここがミロスラフ王国軍が占拠している町か』


 レフド叔父さんは眼下の光景を見下ろしながら、訳知り顔で頷いた。


「何か気になる事でもあった?」

『――と言ってますわ』

『ああいや、大きくて豊かな町だというのに略奪の跡がまるで見えんと思ってな。どうやらミロスラフ王国の国王は兵をきちんと御しておられるようだ』


 ああ、なる程。軍の指揮官はそういう所が気になるものなのか。

 流石に占領下という事もあって、人の姿こそほとんど見かけられないものの、壊れた家や焼けた家、放置された死体なんかは見当たらない。

 どうやらレフド叔父さんの中で、密かにミロスラフ王国国王カミルバルトの評価が上がったようだ。


『それよりもそろそろ着陸するので、安全バンドを締めて下さいません?』

『おっと、分かった』


 ティトゥはどうでも良さそうに、レフド叔父さんに安全バンドを締めるように指示した。

 う~ん。ティトゥには伝わらないのかな。同じ業種の人間が、他人の仕事の出来を認めるこの感じ。

 男にとってこういう場面って、結構、気分が上がるものなんだけどなあ。


『ハヤテ?』

「何でもない。さっきと同じ場所に着陸するよ」


 僕は翼を高度を下げるとタッチダウン。町の外の街道に着陸したのであった。




 街道で待つ事しばし。やがて国王カミルバルトが姿を現した。

 そこから何やかんやあって、国王カミルバルトはレフド叔父さんの名を聞くと、まるで悲鳴のような大声を上げた。


『やはりチェルヌィフの【双獅子】! レフド・ハレトニェートだったのか!』


 【双獅子】? ナニそのカッコイイ通り名。

 同じ事を思ったらしいティトゥが、物欲しげな顔でレフド叔父さんに振り返った。

 君、僕よりこういうのが好きだからね。

 その様子を見ていたエルヴィン王子が、レフド叔父さんに代わって説明をしてくれた。


『チェルヌィフの【双獅子】というのは、チェルヌィフ王朝を代表する二人の若き英雄の事を言います。一人はサルート家の騎士団長、今はハレトニェート家当主のレフド殿。もう一人はベネセ家の騎士団長、こちらも今は同家の当主になっておられるマムス殿。この二人を称して民が名付けた名となります』


 なんと。

 いやまあ確かに、レフド叔父さんは連合軍の指揮官を任されていたくらいだから、かなり偉い人なんだろうなとは思っていたんだけど。

 あのマムス・ベネセと二人で、チェルヌィフを代表する指揮官に並び称されていたとは。

 確かにマムスも、仕事出来そう感を感じさせる人間だったけど。

 しかし、そうか。レフド叔父さんとマムスがねえ。

 ティトゥも驚きの表情でレフド叔父さんに振り返った。


『――若き(・・)英雄』

『・・・昔の話だ。聞いたであろう? 俺がまだ結婚する前。実家の騎士団団長をやってた頃にそう呼ばれていたという話だからな』


 いや、気にするトコそこ?

 レフド叔父さんは仏頂面でティトゥに答えた。


『チェルヌィフの【双獅子】・・・』

『あの方が【双獅子】の・・・』


 ハレトニェート家にはピンと来なかった兵士達の中にも、【双獅子】の二つ名を知っている者はいたようだ。

 熱を帯びた憧れの視線がレフド叔父さんへと注がれた。


『チェルヌィフの六大部族の当主というだけでも想像の埒外なのに、よりにもよって【双獅子】って・・・』

『俺達は悪夢を見せられているのか?』

『酷すぎる。あまりに酷すぎる・・・。ドラゴンには情けという物が無いのか』


 そして兵士とは対照的に、将軍達は今にも死にそうな顔でこちらを見ている。

 この温度差は何?

 レフド叔父さんが興味深そうに将軍達を見つめると、彼らは親に叱られる前の子供のように居心地悪そうに顔を伏せた。


『サルート、あ、いや、ハレトニェート様。お初にお目にかかります。ミロスラフ王国国王、カミルバルトです』


 レフド叔父さんの登場にフリーズしていたカミルバルトだったが、ようやく再起動がかかったようだ。


『その方がミロスラフ王国国王カミルバルトか。ナカジマ殿から話は聞かされておる。それはそうと、そちらは一国の国王。俺に対して”様”付けで呼ぶ必要はないぞ』

『な、ナカジマ殿から話を?! そ、それは一体どのような――あ、いや、何でもありません』


 カミルバルトは反射的にレフド叔父さんに聞き返したが、周囲の目を考慮したのか、慌てて言葉を取り消した。

 レフド叔父さんは『なあに』と片方の眉を上げた。


『その話は後でゆっくりする機会もあるだろう。それよりも先ずは来るべき大災害に対しての話し合いをせねばならん。エルヴィン殿もよろしいな?』

『勿論です。カミルバルト殿。陣中お忙しい中とは思いますが、事は急を要します。少々時間を頂けますでしょうか?』

『――よ、喜んで』


 片や大陸一の海軍力を持つ国の次期国王。片や大陸一の大国の実質的な支配者の一人。

 その二人がこうしてわざわざ足を運んで来ている以上、例えカミルバルトに時間がなかったとしても、無理やりにでもある事にしなければならないのだろう。

 哀れカミルバルトは若干上ずった声で了承したのであった。

 お前がこの二人を連れて来ておきながら、他人事みたいな顔をするんじゃないって?

 いやまあ、そうなんだけど、カミルバルトを説得するって言い出したのはレフド叔父さんの方だし、エルヴィン王子に至っては、そもそも密航みたいな形で僕に乗り込んで来た訳だし。

 だから僕らも巻き込まれたようなものだし。むしろ被害者? みたいなものだし。


「――という事にならないかなあ、ティトゥ」

『――それはムリ筋ですわね、ハヤテ』


 またムリ筋とか、君はどうでもいいような僕の言葉ばかりを覚えて。

 僕とティトゥは、今にも仲良く肩でも組みそうな三人組(レフド叔父さん、エルヴィン王子、カミルバルト国王)の背中を見つめながら、軽い現実逃避をするのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 場所を移して、カミルバルトが接収しているテツネの町の代官屋敷。

 その一室に各国を代表する三人の男達が向かい合っていた。


 年齢順に上から、チェルヌィフ王朝、六大部族ハレトニェート家当主レフド。

 ミロスラフ王国国王カミルバルト。

 ランピーニ聖国第一王子エルヴィン。

 

 議題は勿論、ハヤテが(正確に言えば叡智の苔(バレク・バケシュ)が)警告して来たマナ爆発。この未曽有の大災害の発生場所を調査するための調査団の派遣とその協力についてであった。


「というよりも、いかにそれを帝国皇帝ヴラスチミルに認めさせるか。要はその一点についての相談と言ってもいいがな」

「・・・そうですか」


 カミルバルトはようやく働き始めるようになった頭で目の前の異国の騎士を観察した。

 ハレトニェート家当主レフド。

 だが、カミルバルトの認識では、チェルヌィフの【双獅子】という印象の方が強い。


(しかし、まさかあの(・・)【双獅子】と、こうして直接話す日が来るとはな・・・)


 この世界では、何かの技術を学ぼうと考えた場合、その技術を持つ者の所に出向き、その人物に師事するのが普通である。

 商人しかり、大工しかり、鍛冶屋しかり。

 あるいは親から子、子から孫へと、代々継承していくか。

 カミルバルトが王族から臣籍降下し、騎士団の団長を任された時、彼はその技術を他国の有名な指揮官に求めた。

 先ずはミュッリュニエミ帝国の【二虎】。ボリス・ウルバン将軍とコバルト・カルヴァーレ将軍。

 次いでチェルヌィフ王朝の【双獅子】。レフド・サルート将軍とマムス・ベネセ将軍。


 勿論、直接他国に出向き、彼らに師事したという訳ではない。

 カミルバルトは可能な限り、彼らの戦闘記録や彼らについて書かれた記述を読み漁り、それらを資料として自分なりの手引き書を作ったのである。

 つまりは四将軍の行動を自分の教科書代わりにしたのだ。

 そう書くと随分と簡単なように思えるが、端的に書かれた記述から指揮官の思惑や行動を推測するのは普通では上手くいかない。

 ドイツの哲学者ヘーゲル(いわ)く、天才を知る者は天才である。

 カミルバルトの卓越した軍事センスがあってこそ、初めて可能となった方法だったのである。


(その中でも俺が参考にしたのは、チェルヌィフの【双獅子】。帝国の【二虎】、ウルバン将軍の用兵は堅実ではあるものの、戦力で遥かに劣るミロスラフ王国で真似出来るものではない。また、カルヴァーレ将軍の用兵はウルバン将軍よりも柔軟だが、策に偏り過ぎているため、周囲に余計な敵を作り過ぎてしまう。結局、帝国の【二虎】のやり方が通用しているのは、帝国の強大な軍事力を背景にしてのもの。力のない者が真似出来る方法ではなかったのだ)


 こうして選ばれた、チェルヌィフの【双獅子】。レフド・サルート将軍とマムス・ベネセ将軍。

 二人のうち、カミルバルトが最も共感したのは、レフド・サルート将軍の方だった。


(ベネセ将軍は確かに強いが、やや攻めに偏重しているように感じられた。その点、サルート将軍の記録からは攻守のバランスが非常に取れている感じが伝わって来る。国力に余裕のない我が国では、勝利を目指す戦いよりも、より犠牲を少なくする戦いを目指すべきだ)


 こうしてカミルバルトは、レフド・サルート将軍のやり方を取り入れたのだが・・・


(まさかお手本にしたその本人、いわば俺の師匠のような人物がやって来ようとは。まさかハヤテはそれを知っていて、レフド将軍を連れて来たのか?)


 言うまでもなくそんなはずはない。

 ハヤテがレフドを連れて来たのはただの偶然。あるいは奇縁が重なった結果。

 昨年、ハヤテ達がチェルヌィフ王朝に訪れた際、たまたまドラゴンの噂話を聞きつけたレフドがハヤテを見に現れたのがきっかけで、なぜか勝負をする流れになり、その結果レフドが完敗。

 その後、マムスに降伏を勧める書簡を届ける役目を引き受け、それを恩に感じたレフドが協力を申し出た流れは既に語った通りである。

 そんな事を考えてしまう辺り、どうやらカミルバルトは、頭が働くようになったようで、まだショックから抜け切れていなかったようだ。

次回「同盟締結」

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