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その25 頂上会談

 僕達は聖国メイドのモニカさんを迎えに行くために、本日二度目となる聖国王城へとやって来ていた。


「ギャウギャウ!(ママ、お城! あれお城!)」

「ギャ? ギャーウー(またあそこ? 私あそこキラーイ)」


 今朝とは違い、ファル子達リトルドラゴンズも一緒とあって、機内は随分と賑やかだ。

 そして城を見たファル子は、少し前に参加した新年式で散々退屈させられた事を思い出したらしく、イヤそうな声を出した。


「ティトゥ。着陸するからファル子が暴れないように捕まえておいてくれない?」

『はいはい。いらっしゃいファルコ』

「ギャーウ(はーい)」


 いつもは我儘を言うファル子も、苦手な聖国王城にテンションが下がっているせいか意外と素直にティトゥの言う事を聞いた。


「ハヤブサはそこでいいのかい?」

「ギャウ(うん)」


 ハヤブサはゴゾゴゾとティトゥの足元に潜り込むと、その場で丸くなった。

 僕は全員が落ち着いたのを確認すると、いつものように聖国王城の中庭に着陸したのであった。




 僕が着陸すると、華やかな女の子達が出迎えてくれた。

 三人の聖国の王女達。

 上からパロマ第六王女に、ラミラ第七王女。そして僕のティトゥ以外のもう一人の契約者――という設定のマリエッタ第八王女である。

 マリエッタ王女は、その美しく長い髪と人形のような愛らしい顔立ちから、『聖国の銀細工』と呼ばれている。

 という話だったが、二年前の海賊退治からこちら、(ちまた)ではもっぱら『吊るし首の姫プリンセス・ハンギング・ネック』の二つ名で呼ばれ、恐れられているようだ。


『ハヤテ様? 何か?』

『ナンデモ ゴザイマセンワ』


 僕の良からぬ考えを察したのか、マリエッタ王女はニッコリと笑ってこちらを見上げた。


『あっ! ファルコちゃん!』

「ギャウー!(イヤー!)」


 そしてファル子は早速ラミラ王女に見付かって確保されている。

 ええと、お手柔らかにお願いしますね。


『ティトゥお姉様。王城にいらっしゃるのでしたら、先に連絡をしてくれればよろしいですのに』

『そうです、そうです』

『今回はモニカから話を聞いてお待ちしていましたが、いつも突然来られるじゃありませんか』

『え、ええと、それはですわね・・・』


 ティトゥは王女達に取り囲まれてしどろもどろになっている。

 なる程。なんでみんなが揃っているのかと思ったら、モニカさんから僕らが来る事を聞いていたのか。

 ちなみに彼女達とモニカさんの関係だが、モニカさんのお母さんが王女達の乳母だった事。そして彼女達の姉である元第四王女セラフィナさんが、モニカさんと姉妹同然に育った事から、家族同様とまでは言わないまでも親戚のお姉さんくらいの距離感のようだ。


『皆様、それくらいになされてはいかがでしょうか? ナカジマ様が困っておられますので』


 流石にこれ以上は見ていられなかったようで、モニカさんが助け船を出した。

 いや、違うか。チラチラと僕を見ている事からも、彼女の目的は王女達を僕から遠ざける事。僕に積まれている荷物の回収――今朝、王城に訪れた時に荷物として積み込んだエルヴィン王子を、人知れず城に連れ戻す事にあるのだろう。

 あ~うん。その件なんだけどね。あ、いや、これは自分の目で直接見て貰った方が早いか。

 僕が胴体横の扉を開けると、モニカさんは待ちかねたように中を覗き込んだ。


「ギャウ?(なに?)」

『えっ?』


 そしてラミラ王女から隠れていたハヤブサと目が合った。

 そこには本来いるはずの(あるはずの)荷物はなく、空の胴体内補助席があるだけである。


『あっ! やっぱりハヤブサちゃんもいたんじゃない!』

「ギャーウ!(見つかった!)」


 いつの間にか現れたラミラ王女に確保されるハヤブサ。

 そしてティトゥは、珍しく血相を変えたモニカさんに詰め寄られていた。 


『ナカジマ様、どういう事でしょうか? 今朝の荷物は? あの荷物は一体どうなったんでしょうか?』

『あ~、それなんですけど・・・』

「ギャウギャウ(ハヤブサ、次はあんたの番よ。私と変わりなさい)」

「ギャウ~(え~。まあいいけど)」

『ハヤブサちゃーん。すりすり』

『ティトゥお姉様、荷物とは何なんですの?』

『お姉様、今日はカーチャは一緒じゃないんですね』

『ナカジマ様!』

『ご、ごめんなさい、皆様! 少しだけ! 少しだけモニカさんと二人きりで話をさせて頂けませんか?!』


 ティトゥはとりあえず人払いをしてモニカさんに事情を説明する事にしたのであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 ハヤテがティトゥを乗せて聖国王城へと飛び立った後。

 ナカジマ家の屋敷の一室では二人の男が向かい合っていた。

 片や三十代の大柄な立派な騎士。

 チェルヌィフ王朝の実質的な支配者である六大部族の当主。レフド・ハレトニェート。

 片や二十代のスラリと背の高い貴公子。

 ランピーニ聖国の王子であり次期国王。エルヴィン・ランピーニ。


 レフドはお茶で喉を潤すとエルヴィン王子に話しかけた。


「それにしても大丈夫なのか? 急に泊って行くことにして。そちらの城では大騒ぎになるのではないか?」

「ご心配には及びません。あちらには私の頼れる右腕がおりますので、上手い具合に誤魔化してくれているはずですよ」


 エルヴィン王子の想像の中で、頼れる右腕こと、補佐官のエドムンドが『冗談じゃありませんよ!』と頭を抱えているような気がしたが、王子は軽く笑みを浮かべるとその想像を頭から消し去った。


「この件に関しては私に一任されております。私がここに残るべきだと判断した以上、誰にもその邪魔はさせません」

「そうか。まあお前がそう言うなら」


 この短期間にレフドとエルヴィン王子はすっかり打ち解けていた。


「俺としてもその方が助かるしな。この国と縁もゆかりもない俺なんぞよりも、この国とつながりの深い聖国の王族の方が、ナカジマ殿もよっぽど頼りになるだろうからな」

「チェルヌィフ王朝の六大部族のご当主様が何をおっしゃいますか。それに大災害の発生元が帝国国内である事を考えれば、聖国(ウチ)よりも明らかにチェルヌィフ(そちら)向きの案件でしょう。しかもハレトニェート家は武断派で知られる戦車派の一門。頼もしい事この上ありませんよ」


 ちなみにレフドは、何一つ隠すことなく、叡智の苔(バレク・バケシュ)について話している。

 これはハヤテが気にしている程、チェルヌィフ首脳部が叡智の苔(バレク・バケシュ)に対して価値を感じていないことが原因である。

 先代の小叡智(エル・バレク)が帝国に利用された事で多少、神経質になった時期はあったものの、基本的に彼らの感覚では、叡智の苔(バレク・バケシュ)は長年の慣習で秘蔵しているだけの物でしかない。

 せいぜい『古い文化財』『王家に伝わる大事な物』に加え、『ネドマの到来を知らせてくれる便利な物』程度だろうか。

 わざわざ触れ回るような物でもないが、神経質になる程の物でもない。

 バラクの真の価値を知るハヤテからすれば考えられないような雑な扱いだが、それがレフドを始めとする六大部族の当主の叡智の苔(バレク・バケシュ)に対しての共通する認識であった。


 レフドは「ほう」と顎ヒゲを撫でた。


「つまりは軍を動かす事になる、と。お前はそう考えているんだな?」

「それをせずに済めばそれが一番なんですが・・・。帝国皇帝ヴラスチミルの人となりを考えると、こちらの調査協力を素直に受け入れてくれるとは思えませんし」

「まあそうだろうな。侵略のための方便と受け取られるのがオチか。そうそう、あそこの王城は今、カルヴァーレ将軍が牛耳っているが、勿論、知っているよな?」

「ええ。自分の一派を次々に要職に就け、我が世の春を謳歌しているみたいですね。かなり周囲の恨みを買っているとか」

「その辺りから切り崩せないものかな? 聖国ならそういう手段はいくらでも持っているんじゃないか?」


 レフドの悪意のないあけすけな言葉にエルヴィン王子は苦笑した。


「それを言うなら、チェルヌィフこそ。チェルヌィフ商人はどこにだっているじゃないですか。レフド様は帆装(はんそう)派サルート家の出身。そちらでどうにかなりませんか?」

「サルート家か・・・最近、実家の軍と折り合いが悪くてな。どうにも敷居が高いのだ。とはいえ、大陸の危機となればそう言ってもいられんか」


 つい先日、揉めたばかりのサルート軍の将軍達の顔を思い出し、レフドは男らしい顔を歪めた。


「その方法は後で相談するとして、そちらが軍を動かすなら、聖国も艦隊を出しますよ。幸い、ミロスラフ王国のおかげで帝国の秘密艦隊の全貌も明らかになりました。現在、海軍騎士団では対応策を検討している最中です。そのうち攻略の方法も見つかるでしょう」

「そいつは頼もしい。チェルヌィフ陸軍と聖国海軍による挟み撃ちという訳だ。とにかく肝要なのは、最初に大きな被害を与える事だな。小心者のヴラスチミルの事。一発かましてやれば、直ぐに股に尻尾を挟んで大人しくなるに違いあるまい」

「ええ。そうなればこちらのもの。停戦の条件としてハヤテによる調査要求をのませればいい訳ですから」


 悪い顔になる二人。帝国の膨張政策は周辺の国にとって長年に渡り悩みの種となっている。

 ましてや相手は評判の悪い皇帝ヴラスチミル。彼らが少しは悪い顔になってしまうのも仕方がないというものだろう。


 先程から二人はハヤテの話に従って、マナ爆発による大災害が起きる事を前提として話を進めている。

 レフドはハヤテ達がチェルヌィフで行った数々の功績、やらかし? を目の当たりにしているため。そしてエルヴィン王子は、ハヤテと直接話をした事による肌感覚と言うか直感で。彼らはハヤテの言葉を信じるに値すると認めていた。

 その結果として、レフドはチェルヌィフの地からはるばる何日もかけて遠いミロスラフ王国へと訪れ、エルヴィン王子は予定を延長してまでナカジマ領に宿泊している。

 彼らは――大国を代表する首脳の二人は、ハヤテ達に最大限に協力し、大陸を襲う未曾有の大災害に立ち向かおうとしていた。


 その時、部屋にノックの音が響いた。


「お茶のお代わりとお菓子を持ってまいりました」

「おおっ! 待ちかねたぞ! エルヴィン王子、話の続きはお菓子を食べてからにしよう!」

「そうですね。妹(※パロマ王女)からも、ナカジマ家のお菓子の美味しさは何度も聞かされていますから」

「ナカジマ・メイカと言うらしいぞ。昨日食べたメイカも美味かったなあ」

「いやあ、楽しみです。なにせあれだけ美味しい料理が作れる料理長が作るお菓子ですから」


 二人はいそいそとイスに座り直すと、メイド少女カーチャの運んで来たお菓子に目を輝かせた。

 そこに先程までの真面目な雰囲気は微塵も感じられない。

 もし今の光景をハヤテが見ていたら、『あれ? 僕に協力してくれるのって、ひょっとしてベアータの作る美味しい料理が目当てな訳じゃないよね? ちゃんと自分達の意志で大災害に立ち向かおうとしてくれているんだよね? 食べ物に釣られている訳じゃないよね?』などと不安を覚えたかもしれなかった。

次回「心に残った見えない棘」

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― 新着の感想 ―
やはりトップ会談は話が進むのが早いな(笑)
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