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その16 予想外の助っ人

 ここはティトゥの屋敷の僕のテントの中。

 ティトゥは実家から戻るや否や、早速、みんなを集めて作戦会議を開いた。


『――というのが、帰りの空の上で私達が話し合った計画ですわ』


 おっと、ティトゥの説明が終わったか。

 テントの中にいるのはいつものナカジマ家の面々。代官のオットーに、ナカジマ家のご意見番のユリウス老人。メイド少女カーチャにリトルドラゴンズのファル子とハヤブサ。更にはなぜか鍛冶屋のドワーフ親方ことブロックバスター。チェルヌィフ商人のシーロ。自称『ランピーニ聖国随一の土木学者』ベンジャミン。

 こうして数えてみると結構な人数だな。

 ティトゥは『そういえば』といった顔で、後半の面々を見つめた。


『ていうか、今更だけど、なんであなた達までいるんですの?』

『本当に今更ですな。ワシはご当主様がチェルヌィフからお帰りになられたと聞いて――まあ、御用聞きに伺った訳です。ついでに母国の話でも聞ければと思いまして』

『私の方は隣の国から帰って来た所なんですよ。商人ネットワークに帝国の虎の子の艦隊が動いたと言う情報が入りまして。その確認のために私自ら出向いていたという訳です』


 なる程。ドワーフ親方は御用聞き兼、故郷の最新情報の収集。

 チェルヌィフ商人のシーロはユリウスさんへ、戦況の報告のために来ていたようだ。

 帝国の虎の子の艦隊って、まさかとは思うけど、ひょっとしてシーロもあの戦場にいた訳?


『ええまあ。とは言っても離れた丘の上から見ていたんですが。いやあ、流石は帝国の誇る新鋭艦隊。強いのなんのって。ミロスラフ王国軍も頑張ってはいたものの、随分と押され気味でして。我々もそろそろ撤退しないとマズイんじゃないかと思っていた所に、まさかのハヤテ様のご登場。前々からハヤテ様はスゴイとは知っていたものの、まさかあれ程のものとは。ホント、おみそれいたしました』


 シーロは興奮気味に一気に語り切った。

 なんだろう。あの現場を知り合いに見られていたと思うと、ちょっと照れ臭いというかバツが悪いというか。鼻歌を歌いながら歩いている所を知り合いに見られていたような感じ――って、それは違うか。

 土木学者ベンジャミンは興味深そうな表情で鼻を鳴らした。


『それにしても、魔法物質マナの大量発生による大爆発ですか・・・。それが旧人類社会の崩壊の原因になり、大ゾルタ帝国誕生の引き金にもなっていたとは正直驚きです。確かに過去の文明の遺産は、各民族ごとの神話しかり、言葉や文字しかり、大ゾルタ帝国により一度綺麗に消し去られてしまっています。現在ではせいぜい、一部の古い都市や、地方の言葉に僅かな痕跡が残されるのみかと。歴史学者の中でも、なぜ大ゾルタ帝国がここまで徹底した浄化を行ったのか、様々な議論が交わされているものの、これといった結論は出ていない状況です。一応、統一のためとは言われていますが、宗教まで完全に否定されたにも関わらず、それを国民が素直に受け入れていたとしか思えないのはいかにも不自然。それがまさか、文明どころか人類そのものが滅びかねないほどの大災害がその背後にあったとは。これを知れば本国の学者連中はどう思いますか』


 長い! 長いよ!

 流石は学者を名乗るベンジャミン。学究の徒らしい反応、といった所か。

 ティトゥの話は彼の知的好奇心を強く刺激したようだ。

 ちなみに今日は打ち合わせのために来ていたらしい。

 焼け跡こと第一次開拓地の河川工事はまだ続いているからね。彼の仕事はまだまだなくならないのだ。

 ベンジャミン達三人は、オットーとユリウスさん(ついでにカーチャも)とは違い、大災害の話自体が初めて。完全に初耳のはずである。

 それでも多少、戸惑いの表情を浮かべたくらいで、頭ごなしの否定からは入らない。

 ミロスラフ王国軍の将軍達も彼らくらいの聞き分けの良さがあれば、ティトゥにキレられる事も無かったろうに。


『キレちゃいないですわ』


 ティトゥはレジェンドレスラー、長州力の名台詞を思わせるフレーズで僕の言葉を否定した。

 俺をキレさせたら大したもんだ。俺をキレさせたらリングから降ろしてないよ、マジで。


『何なんですのハヤテ、その変な喋り方は。ひょっとして誰かのモノマネをしているんですの?』

『それでご当主様。ハヤテ様と相談されたという計画なんですが』


 おっと。話が横道に逸れそうな気配を察したのだろう。代官のオットーが質問の形で軌道修正を図った。


『そんな事をして本当に大丈夫なんでしょうか?』


 話を整理しよう。

 本当であれば、マナの大量発生現場になると予想される帝都の北に直接調査に行きたい所だが、現状ではそれは難しいと言わざるを得ない。

 調査には何日――ひょっとすれば何ヶ月必要かも分からないにもかかわらず、その間、関係が良好とは言えない帝国に留まり続けるのは、かなりのリスクを伴うからだ。

 だから僕は次善の策を提案した。

 策と言うにも苦し紛れ。相当に厳しい方法となるその計画。

 それはスマホこと小バラクを何かに偽装させて現地に置いて来る、というものであった。


『本人も別にそれで構わないとの事ですわ。自分はあくまでも子機。親機が無事なら別に壊れても問題ないそうですわ』


 そう。あくまでも調査の中心は小バラクであって、必ずしも僕達が一緒にいる必要はない。

 というよりも、僕の役目は彼を現場まで運ぶ足と考えてもいい。

 だったら、一度彼を連れて現地に飛び、そこにある物――例えば茂みの中や岩影にでも小バラクを隠しておけば、後は彼がデータ取りをやってくれるのではないか。と考えたのである。


「こればっかりは実際に現地に行ってみないと何とも言えないけど、可能な限り誰にも見つからないような場所。そして数ヶ月に渡って雨風を凌げるような場所がベストだよね」

『――と言ってますわ』

『しかし、調査をしたとしても、小バラクは動けないんですよね? どのようにしてそのデータを受け取るんですか? あまり何度も現地に行っていると、どうしても人目に触れてしまう事になると思うのですが?』

「それなら大丈夫。小バラクはバラク本体と通信が出来るから」


 僕の説明にオットーは、『そう言えばそうだった』という顔になった。

 彼もティトゥが毎日、カルーラ達とおしゃべりをしているのは見ているはずだが、この世界にはまだ存在しない電話という存在に、ついその可能性を失念していたようだ。


『なる程。上手く隠す事さえ出来れば、我々は国に居ながらにして現地の情報が得られるという訳ですね』

『その通りですわ』


 オットーの言葉にティトゥは渾身のドヤ顔で答えた。

 ちなみにティトゥはいつも通り自信満々のご様子だが、実際にはかなりリスキーな穴だらけの計画である。

 それはそうだ。そもそも、現地の人間に見付からないように小バラクを置いて来るという所からして困難だ。

 普通、僕みたいな目立つ存在が着陸したら人も集まるだろう。

 いくら小バラクが手のひらサイズとはいえ、そんな野次馬達の目を盗んで、何ヶ月にも渡って絶対に誰にも見つけられないような場所に隠すなんて本当に可能だろうか?

 仮に隠す事が出来たとしても、次はバッテリー容量の問題が発生する。

 小バラクは今、僕に接続される事で充電されているが、僕から離れたら内蔵バッテリーの分だけしか稼働する事が出来なくなってしまう。

 必要なアプリ以外を全て停止させたとしても、一体どのくらいもつのか。それは小バラク本人にすら分からないという。

 そしてそれだけのリスクを負って観測データを集めたとしても、それが送られる先はバラク本体。僕達が知ろうと思えば、わざわざチェルヌィフのバラクの所まで行かなければならない。

 今の所、いつ十分な情報が出そろうか不明な以上、出来ればずっと向こうに詰めっぱなしで居たい所だが・・・流石にそれにティトゥを付き合わせる訳にはいかないだろう。世界が守られたその代償にオットーが過労死してしまいそうだ。


 とまあ、パッと思い付くだけでこれだけ不安要素の多い計画だが、これを実際に行うとなると、更に予想外のトラブルを覚悟しなければならなくなるだろう。

 他にアイデアが無かったとはいえあまりに厳しい。これではまるでギャンブルだ。

 せめてもの救いは、ここにいるのが僕とティトゥだけじゃないという事。

 代官のオットーやユリウスさん。それに予想外の参加者としてドワーフ親方にシーロにベンジャミンまで揃っている。

 彼らの知恵と知識、そしてそれぞれの所属する組織が合わされば、僕の不確かな計画を少しでも実現可能な物に近づける事が出来るのではないだろうか?

 ていうか、そうであって欲しい。

 国王を動かすのに失敗した以上、ここにいる人間が僕の持てる全ての戦力。最後の砦なのだ。


「だからみんなお願い。君達の力を僕に貸して欲しい」

『よろしくお願いしますわ。大陸の全ての国の命運は私達の奮闘にかかっているんですわ』


 ティトゥの呼びかけに、みんなはそれぞれの仕草で頷いたのだった。




 といった訳で翌日。

 あの後、話し合いは熱が入ったものの、残念ながらこれといった良い結果は得られなかった。

 とはいえ、それも仕方がない。

 シーロ達が大災害の話を知ったのは昨日が初めて。急に言われてもいいアイデアが出ないのも当然だろう。

 お開きになった後は、それぞれに話を持ち帰り、後日また改めて話し合いの場を設ける事になった。

 その時には少しは実のある話が出来ればいいんだけど・・・いや、そんな弱気でどうする。少しはティトゥの自信を見習わないと。


「そうとも。やれるやれないじゃない。やらなきゃダメなんだ。この大陸のみんなの命が――って、うわっ!」


 気合を入れていた僕は、突然、小バラクから流れて来た音楽にビクリとした。


「朝から誰だよ一体、って、カルーラしかいないか。はい、もしもし」


 画面に映ったのは僕の予想通り、灰色の髪の少女。小叡智(エル・バレク)のカルーラだった。

 カルーラは一瞬、怪訝な表情を浮かべた。なぜ? と思ったら、どうやら誰も映っていない画面に違和感を覚えたようだ。


「ティトゥなら今朝はまだ僕のテントに来ていないよ。もう起きている時間だから、そのうち来るとは思うけど。急ぎの用事なら誰かに呼んで貰おうか?」

『昨日は何で電話をして来なかったの?』


 珍しくカルーラの方から電話をしてくるなんて、一体どうしたんだろう? と思ったら、昨日、いつもの時間に電話をかけなかったのを心配して連絡をくれたようだ。


「あ~、そうかゴメン。昨日はちょっと色々あったから。全部終わった時には結構遅くなってたんで、そっちに悪いと思ってかけなかったんだよ」


 本当は忘れていたんだけど、正直に言って気を悪くさせる事もないよね。

 カルーラは『そう』と言葉短く頷いた。


『それでマナ爆発の件についてなんだけど』


 カルーラ達もチェルヌィフの王城でマナ爆発の危険性について訴えてくれていたのだが、あちらもこちらと同様、あまり状況は芳しくないらしい。

 主な理由として、僕達がチェルヌィフで行った行動――ベネセ当主マムスに降伏の書状を届けた事により、彼はそれを受け入れて自害。一年にも及んだ内乱が終結した事で、あちらの王城はごった返しているという。


『私達の話を聞いて、是非協力したいと申し出てくれた人が現れた』

「ホントに?! やったじゃん!」


 予想外の朗報に思わず僕の声が弾んだ。


『本当。その人がハヤテと話をしたいと言っている』


 カルーラはそう言うとチラリと背後を振り返った。えっ? まさかそこにいる訳?

 バラクのいる場所は聖域といって、小叡智(エル・バレク)と六大部族の当主しか入れないはずなんじゃ・・・


『ふむ。ハヤテ、久しぶり――と言うには最近会ったばかりだな。あの時は世話になった。おかげでアンバーディブ(ベネセ家の本領)の者達も無用な血を流さずに済んだ』


 忘れもしないこのイケボ。

 カルーラの後ろから姿を現したのは、六大部族ハレトニェート家当主、レフド・ハレトニェートその人であった。

次回「恩返し」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] あ、またモニカさんがいない! 大災害とかそういうスケールの大きい話は好きそうなのに巡り合わせが悪いというか……。
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