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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第二十一章 カルリア河口争奪戦編
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その32 この大陸に住む命を守るため

 さて。無事にバラクの子機であるスマホの固定も終わったし、後はミロスラフ王国に帰るだけ――っと、その前に。

 僕は人知れず、取り外されたばかりの百式射撃照準器をしまおうとしているパートナーの少女に声を掛けた。


「ティトゥ。それは僕の大事な計器だからね。別に要らなくなった訳じゃないからね。だから勝手に自分の物にしないでくれないかな?」

『(ギクッ!)そ、そんな事は考えていませんわ。こ、これは、ファルコ達が誤って壊したりしないように、あの子達が触れない所に保管しておこうと思っただけですわ』


 どうだか。

 今の反応だけでも十分、有罪判定出来そうな気もするけど・・・まあいいや。実際、僕もファル子ならやりかねないと思うし。


 ご存じの通り、僕の機体(からだ)は四式戦闘機だが、普通、飛行機に限らず車でも船でも、こんな風に整備もせずに何年も使い続けられる物ではない。

 それが出来ているのは僕が魔法生物だから――機械の体でありながらも、生物の体の特徴も持っているから――である。

 つまり、機械ならパーツが劣化したり、疲労で金属がヘタる所を、生物が体の傷を自然に治すように、自己修復しているのである。

 とはいえ、このルールがどこまで適用されるのか、正確な所までは分かっていない。

 取り外された部品が壊れた時、それが治るのかどうかは全くの未知数なのである。


「分かったよ。それじゃ、照準器の管理は君に任せるね。大事に保管しておいてくれると僕も助かるし」

『ええ、ええ! 任せておいて頂戴!』


 ティトゥはその豊かな胸を大きく張って頷いた。


「それじゃそろそろ出発するよ。カーチャ達を呼んでくれない?」

『分かりましたわ。カルーラ、ハヤブサを連れて来て頂戴。それとカーチャにファル子を捕まえて来るように伝えて頂戴』

『分かった』

「ギャーウ(分かった、ママ)」


 ティトゥがスマホに声をかけると、画面の向こうの小叡智(エル・バレク)、カルーラが頷いた。

 うっかりしていたが、さっき試しにバラクの本体と通話をして以降、ずっと通話中になっていたようだ。

 僕は一瞬、ヒヤリとした。

 あれ? これっていつから通話中だったっけ? 通話プランとかはどうなってる訳? 下手をすれば月末の通話料金が大変な事に――って、バラクは電話会社と契約している訳じゃないから別にいいのか。

 危ない危ない。とはいえ、流石に用事もないのにずっと通話しているのもどうだろう。


「バラク。通話を終えて貰っていいかな」

「分かりました、ハヤテ」

『あっ! もう。カルーラ達の姿が消えてしまいましたわ』


 ティトゥが残念そうに肩を落とした。

 どうやら彼女は、この短い間にすっかり電話にハマってしまったようだ。


「いや、すぐそこに本人がいるんだから、スマホの画面越しじゃなくて、直接話をすればいいんじゃない?」

『この小さな画面で話をするのが、不思議な感じがして面白いんですわ』


 などとティトゥと話しているうちに、カルーラとカーチャがリトルドラゴンズを抱いてやって来た。


『そろそろ出発しますわ』

『分かりました。あっ、ファルコ様! 暴れないで下さい!』

『ううっ。名残惜しい(スリスリ)』

「ギャーウ(※困ったような声)」


 ファル子はカーチャの腕から逃れると、勢いよく操縦席に飛び込んだ。

 カルーラはしばらくの間、愛おしそうにハヤブサにほおずりをしていたが、諦めを付けると翼の上に乗せた。


『――仕方がない。キルリアで我慢する』

『ちょ、カルーラ姉さん?! 弟離れしたんじゃなかったの?!』


 キルリアは急に姉に抱きしめられて驚きの声を上げた。


『カルーラ姉さん! そんな事をしてないで、皆さんを見送らないと!』

『そう。バイバイ、ティトゥ。ハヤテ様も。カーチャにハヤブサ、ファルコも元気で』

「「ギャーウー(バイバーイ)」」

「うん。カルーラとキルリアも、おたっしゃで」

『お、お世話になりました』


 ファル子達が元気よく、僕は心を込めて、カーチャはおずおずと、カルーラ達に別れの挨拶をした。

 そしてティトゥは力強く二人に宣言した。


『きっと私達でこの大陸に住む命を守ってみせますわ!』


 いや、だからまた君はそんな事をだね。相変わらず君の期待が僕には重い――と、流石に今回ばかりはそんな事を言ってもいられないか。

 なにせ僕達がやらなければ、この大陸に住む多くの人達の命が失われてしまうのだ。

 出来る、出来ないではない。やらなきゃいけないんだ。

 幸い、僕達にはここチェルヌィフで頼りになる仲間が増えた。

 僕一人ではティトゥの期待に応えられなくても、バラクの協力があれば話は別だ。

 この世界でたった二人の魔法生物がタッグを組むんだ。僕の四式戦闘機の力と、バラクの知識があれば、この未曽有の大災害だって、きっとなんとか出来るに違いない。いや、絶対に何とかして見せる。


『ハヤテ?』

「何でもない。――カルーラ、キルリア。エンジンをかけるから、プロペラの回転に巻き込まれないようにもう少し下がっておいて」

『分かった』

『か、カルーラ姉さん、一人で歩けるから。だからもう離れて欲しいんだけど』


 カルーラは心の中に生まれたハヤブサ・ロスを、弟を可愛がる事で埋めようとしているらしい。

 さっきからキルリアを抱きしめたままで離さない。

 キルリアは歩き辛そうにしながら後ろに下がった。

 僕はゆっくりと動力移動(タキシング)。洞窟の外に出ると、改めて大きくエンジンをふかした。


 ババババババ・・・


 静まり返った聖域に、ハ45誉のエンジン音が響き渡る。


『しゅっぱーつ! ですわ!』

「「ギャーウー!(しゅっぱーつ!)」

『・・・(※小声で)しゅっぱーつ』


 元気いっぱいのティトゥとリトルドラゴンズ。そしてなぜか小声のカーチャ。

 僕はエンジンをブースト。タイヤが地面を切ると、青い大空へと舞い上がったのであった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 青い空にハヤテの姿が小さくなって消えて行く。

 カルーラは(キルリア)を抱きしめたまま、ほう、とため息をついた。


「・・・行っちゃった」

「だからカルーラ姉さん。そろそろ離して・・・まあいいか」


 キルリアは困り顔で姉に振り返ったが、姉の寂しそうな顔を見て仕方が無さそうに言葉を飲み込んだ。

 その代わりに彼は姉に尋ねた。


「それより姉さん。ハヤテ様達は大災害をどうにか出来ると思う? ナカジマ様は自信満々の様子だったけど」

「――さあ? ティトゥは大体あんな感じだし」


 ティトゥは普通の娘だが、ハヤテが絡むとやけに強気というか自信満々になる傾向にある。

 それだけハヤテの事を心から信頼しているのだろうが、その揺るぎない姿はカルーラにとって眩しく映った。

 キルリアは少しだけ申し訳なさそうな顔になった。


「・・・そう。実は僕、今回の話は、今一つピンと来ていなかったりするんだ。勿論、叡智の苔(バレク・バケシュ)様のお言葉を信じていない訳じゃないんだけど、後一年以内に大陸を吹き飛ばす程の大爆発が起きると言われても、あまり想像が出来ないというか。こんな話を聞かされて、本気で理解して驚いている様子のナカジマ様とハヤテ様を見て、逆に僕の方がちょっと驚いたぐらいだよ」


 カルーラはキルリアの言葉にハッと目を見開いた。

 彼女は弟は自分よりも叡智の苔(バレク・バケシュ)の言葉を理解していると思っていたのだが・・・どうやら弟の方も自分とそれほど大きな違いはなかったらしい。

 いや、それが普通の反応だろう。後一年以内に自分達の住む世界が破滅すると聞かされて、本気で心配する事の出来る人間の方がどうかしているのだ。


 やっぱり竜 騎 士(ドラゴンライダー)は普通じゃない。


 カルーラは改めてティトゥ達の特異性を思い知り、だからこそ、叡智の苔(バレク・バケシュ)は彼らに助けを求めたのだろうと納得もしていた。


「カルーラ姉さん。それでもし、世界が叡智の苔(バレク・バケシュ)様の言った通りに――」


 キルリアの言葉は不意に鳴り出した電子音によって遮られた。

 二人が音の発生源である洞窟の奥、叡智の苔(バレク・バケシュ)の本体に振り返ると、そこにはいつものVLAC(バラク)のアイコンはなく、【着信】という文字の下に、さっき連絡先を登録したばかりの【ハヤテ】の名前が表示されていた。

 カルーラが慌てて駆け寄り、受話器マークをスワイプすると――


「あっ、カルーラ! ミロスラフ王国に戻る前に、お土産を買って帰ろうと思ったんだけど、あなたのおススメはありません?」

『さっき別れたばかりなのに、ゴメンねカルーラ。ええと、ティトゥが急にオットー達にお土産を買って帰るって言い出しちゃって。一応、水運商ギルド本部に寄る予定だから、そこで手に入りそうな物で何かあれば聞いておこうと思って』

「ギャウ! ギャウギャウ!(ママ! カルーラ! カルーラがいるよ!)」


 ティトゥにハヤテ、そしてファル子が一斉に話し出したため、何がなんだか訳が分からない事になっている。

 これがついさっき、『この大陸に住む命を守る』と凛々しく宣言していた人達だろうか?


 やっぱり竜 騎 士(ドラゴンライダー)は普通じゃない。


 カルーラは、若干の呆れ顔になりつつ、今度は別の意味で自分の考えを確信するのだった。

次回「黒竜艦隊陸戦隊」

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[良い点] 世界も守る、日常も守る、両方やらなきゃいけないのがヒーローのつらいところだぜw
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