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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第二十一章 カルリア河口争奪戦編
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その30 テザリング

「ギャウギャウ! ギャウギャウ!(スゴイ、スゴイ! なにココ?! スゴイ!)」

『コラ、ファルコ! 騒いだらダメですわ!』


 聖域の奥、叡智の苔(バレク・バケシュ)の姿を見た途端、ファル子とハヤブサのテンションはMAXになった。


「ギャウ! ギャウ!(物凄い魔力で眩しいくらいだ! これパパよりスゴイ!)」


 ハヤブサは首を伸ばすとキョロキョロと辺りを見回している。

 ・・・なんだろう、この気持ち。まさかバラクがここまで一瞬で子供達を夢中にするなんて。

 正直、無茶苦茶ジェラシーなんだけど。

 これはアレか? この電気回路のような幾何学模様がいいのか? そこが子供心をくすぐるのか?

 だったら四式戦闘機だっていいじゃない。色だって同じ緑系だし、強いし空だって飛べるし、なによりカッコいいと思うよ?


『ハヤテ、あなたさっきから何を訳の分からない所で張り合ってるんですの?』


 ティトゥが呆れ顔で振り返った。

 どうやら僕はショックのあまり、考えていた事がそのまま口から出ていたようだ。


「いやだってティトゥ、ハヤブサがパパよりスゴイとか言うからさ」

『子供の言葉を真に受けてどうするんですの? それより、ハヤブサは私達には見えない物が見えているんですわね』


 それは前から僕も思っていた。

 昨年の秋頃、僕はヤラという少女に意識を囚われ、彼女の頭の中に精神だけが同居していた事があった。(第十八章 港町ホマレ編 より)

 その時ハヤブサは意識を失くした僕の機体(からだ)を見て、「体と心が離れている」と言ったそうである。

 どうやら彼の目には、眠っている生き物は、体と心の繋がりが弱くなっているように映るらしい。


「ハヤブサは探し物を見つけるのも得意だし、人より優れた特別な感覚を持っているのかもしれないね」

『・・・あなたってやっぱり親バカですわね』


 機嫌を良くした僕に、ティトゥは呆れ顔でため息をつくのだった。




『オーケイ・バレク』


 小叡智(エル・バレク)のキルリア少年の呼びかけに、ホコッという電子音と共にスマホの画面が点灯。VLAC(バラク)のアイコンが現れた。


「こんにちは、エルバレク。ようこそ、ハヤテ」

「ギャウッ! ギャウギャウ!(喋った! ママ、コイツ言葉を喋ったよ!)」


 ファル子はティトゥに抱きかかえられたまま、興奮でジタバタと暴れた。うんうん、喋ったね。

 ちなみにティトゥはバラクと会うのは今回で三度目、メイド少女カーチャも二度目とあって、特に驚きはないようだ。


「ファル子、パパ達は今から大事な話をするから、少し静かにしておいてね。――バラク、色々と聞きたい事があるから、直接リンクをお願い出来るかな?」


 直接リンクとはバラクの使う魔法? 技術? で、互いの脳をリンクして、言葉を介さず、直接、生のデータのやり取りを行うというものである。

 残念ながら、その原理上、脳の作りが同じ相手としか――つまりは魔法生物同士でしか行えないのだが、僕とバラクなら問題無し。

 僕は前回の時のように、バラクの体が光り出すのをジッと待った。


「バラク?」

「申し訳ありません、ハヤテ。現在、その機能は使用不可能です」


 えっ? どういう事?

 僕は手っ取り早く、バラクとの直接リンクで情報のやり取りを希望したのだが、バラクに今は行えないと否定されてしまった。


「ええと、これがスマホなら、OSの更新でアプリの不具合? とか考える所だけど、まさかそんな訳はないよね?」

『あの、ハヤテ様』


 ブツブツと呟いている僕に、小叡智(エル・バレク)キルリア少年が声を掛けた。

 彼が手に持っている小さな黒い板。まさかあれって――


『? キルリア、それって何ですの? ツルツルした板? 石? 黒い手鏡かしら?』

『ティトゥ様! あちらを! これってあの岩の黒い石と瓜二つじゃないですか?!』


 カーチャの指差した方向――叡智の苔(バレク・バケシュ)の中心となる大岩には、本体であるスマホが埋め込まれている。

 そう。キルリアが持っているのは、叡智の苔(バレク・バケシュ)の本体と同型のスマホだったのである。

 どうやらカルーラも知らなかったのか、驚きの表情で、弟の手の中のスマホと叡智の苔(バレク・バケシュ)を交互に見比べている。


「何でこの世界にスマホが? あっ! ひょっとしてバラクが自分に似せて作らせたとか?!」


 キルリアはかぶりを振った。


『いえ。これは叡智の苔(バレク・バケシュ)様がご自身でお創りになった物です。見ていて下さい。――オーケイ・バレク』


 彼が手の中のスマホに呼びかけると、ホコッ、という電子音と共に、アプリが立ち上がった。

 画面に揺れるVLAC(バラク)のアイコンに、カルーラがギョッと目を見開いた。


『えええっ! 叡智の苔(バレク・バケシュ)様がもう一人?!』

『キルリア、これは一体、どういう事なんですの?!』

『はい。今から説明致します。今、カルーラ姉さんが言った、叡智の苔(バレク・バケシュ)様がもう一人という言葉。あれはその通りなんです。これは叡智の苔(バレク・バケシュ)様と同じ存在。叡智の苔(バレク・バケシュ)様は”てざりんぐ”のような物だとおっしゃっておられました』


 てざりんぐ・・・ああ、テザリングの事か?


「ええと、バラク。つまり君は、自分の体と同じ型のスマホをもう一つ作って、そっちにも同じOSをインストールしたって事?」

「その通りです、ハヤテ」


 ええっ?! マジで?! 今、サラッと言ったけどスゴイなバラク! そんな事まで出来るんだ!

 ふと気が付くと、ティトゥがペシペシと僕の主脚を叩いていた。


『ハヤテ、ハヤテ! 自分だけで納得していないで、私達にも分かるように説明して頂戴!』

「ああ、ごめんごめん。ええと、どこから説明すればいいのかな・・・」


 まず大前提として、僕達は魔法生物の種に外部の精神が宿ったものだ。

 僕の体が四式戦闘機なのも、バラクの体がスマホなのも、宿った精神の意思(意向?)が反映されている。

 どうやらバラクは、洞窟の壁中に張り巡らされた自分の体の一部を使って、自分の核となるスマホを複製したようだ。

 だったらお前だって魔法生物なんだから、同じ事が出来るんじゃないかって?

 いやいや、無理無理。自分の体の複製だよ? そんなのどうやって作れって言うのさ? そもそも、手のひらサイズのスマホならともかく、四式戦闘機は十メートル超えの巨大な機械だ。そんな物質を構成する素材なんて、一体どこにあるんだよ。


『――と言ってますわ』

『ええと、それじゃあ、今、キルリア様が持っているのは叡智の苔(バレク・バケシュ)ではなく、叡智の苔(バレク・バケシュ)が操っている偽物って事でいいんでしょうか?』

『いいえ、叡智の苔(バレク・バケシュ)様は、こちらの叡智の苔(バレク・バケシュ)様も同じ叡智の苔(バレク・バケシュ)様だとおっしゃっていました』

「そうだろうね。そこがテザリングに関わって来るんだけど・・・う~ん、これってインターネットが無いからどう説明すればいいんだろう?」


 テザリングとは、スマホをアクセスポイント(親機)として、ゲーム機やパソコンなど(つまり子機)を、インターネットにつなげる機能の事を言う。

 つまり独立して動いている機械があって、そのうち、直接、自分でインターネットと繋がっているのが親機で、その親機を介して間接的にインターネットに繋がっているのが子機となる訳だ。

 まあ、バラクは別にインターネットに繋がっているという訳ではないので、本体と複製の関係を『テザリングのようなもの』という意味で言ったんじゃないだろうか。


「あっ! ひょっとして直接リンクが出来なくなったのもそのせいとか?!」

「はい。テザリングが原因となります」

『どういう事ですの?』


 これはスマホのテザリング機能の話だが、普通に使っている時よりもバッテリーの消費量が増えるらしい。

 また、通信量が増えるせいでパケット料金もかかるとか。

 まあ、要はテザリングは親機に負担がかかってしまうという訳だ。


「だから、膨大なデータをやり取りする直接リンクが使えなくなった訳か。そう考えていいんだよね? バラク」

「はい、ハヤテ。その通りです」


 なる程。便利な直接リンクが使えなくなったのは残念だが、こうして会話をする分には特に差し障りはないようだ。

 だったら別に問題はない、のかな?

 ここでカルーラが疑問を挟んだ。


『それより、なんで叡智の苔(バレク・バケシュ)様が増えたの?』


 そう、それだ。

 テザリングの説明をしているうちにすっかり忘れていたけど、そもそも、バラクが複製を作らなければ直接リンクも使えていたのである。

 一体、なぜバラクは今になって、自分の複製なんて作るつもりになったのだろうか?

 この疑問に答えてくれたのは、キルリア少年だった。


叡智の苔(バレク・バケシュ)様はハヤテ様に連れて行って貰いたいとおっしゃっておられました』




 バラクは昔、初代の小叡智(エル・バレク)から、『自分が死んだ後もこの国の力になって欲しい』と頼まれていたそうである。

 時は過ぎ、この国が安定して、叡智の苔(バレク・バケシュ)などという得体のしれない存在の力を必要としなくなっても、彼はネドマの襲来を警告する事で、細々とだが初代との約束を果たしていた。

 そしてバラクは、マナの大量発生、その予兆を検知した。

 五百年前にこの惑星上の生物を死滅させかけた未曽有の大災害。マナの大量発生が再び起きようとしている。

 とは言っても、あの時の大量死の直接的な原因は、大気中に大量に蔓延した新物質、マナによるものである。

 今まで自然界には存在しなかったマナという物資が、既存の生物達にとっては毒となったのだ。

 だが、今の生き物達は(※ティトゥ達人間も含む)、体内にマナを克服する器官を備えている。

 よって今回は、二次災害における被害はあまり考えなくてもいいだろう。

 今回、問題にすべきは、マナの大量発生に伴う大爆発。

 かつて大陸を二つに引き裂いたという、巨大な爆発による直接的な被害である。


『そう、それですわ! それを私達も聞きに来たんですの! 叡智の苔(バレク・バケシュ)はそれが世界のどこで起きるか、知っているんですの?!』

『はい。叡智の苔(バレク・バケシュ)様は、厄災はこの大陸で起きると予想しております』

『なっ?!』


 ・・・やはりそうか。

 一連の話の流れから、多分、そうなんじゃないかと思っていたけど・・・


「それでバラク。正確な場所とかは予想出来ているのかな?」

「はい、ハヤテ。観測によると、マナの発生地点は、高確率で大陸の中央よりやや北。現在のミュッリュニエミ帝国の帝都より北北東に数十キロメートルの地点の上空であると予想されます」


 最悪だ。

 よりにもよってなんだってそんな場所に。

次回「スマホデビュー」

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― 新着の感想 ―
[一言] そういやデザリングって使ったことないな…。 ハヤテくんならワンチャンファンネルみたいな子機ぐらいは生み出せそうではあるw
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