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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第二十一章 カルリア河口争奪戦編
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その28 聖域再び

 ベネセ領の領都、城塞都市アンバーディブから帰って来たその翌日。

 メイド少女カーチャと小叡智(エル・バレク)カルーラが、ファル子達リトルドラゴンズを連れて僕のテントに現れた。


「ギャウ! ギャウ!(パパ! パパ!)」

「カルーラ、今日はティトゥが一緒にいないけど、何かあったの?」


 そう。そこには僕のパートナー、ティトゥの姿がなかった。


『昨夜から部屋でふさぎ込んでる』


 そうか。昨日あんな事があったんだ。彼女が落ち込むのも無理はないか。

 そういうお前はどうなんだって? そりゃあ、何度か話しただけとはいえ、知ってる人が死んだんだ。僕だって当然、ショックだったさ。

 でもそれが戦争というものだし、ある意味仕方がないと言うか。

 実際、この僕ですら、四式戦闘機の機体(からだ)に転生して以来、やむを得ない状況だったとはいえ、何度か人を殺しているくらいだし。

 言い方は悪いけど、その時に比べたら、直接自分が殺した訳じゃない分だけまだマシ――って、あー止め止め。こんな事を考えてたら僕まで気が滅入ってしまいそうだ。考えても意味がない事で、くよくよして悩んでいても仕方がない。


「そうか。今日はティトゥは来ないのか。出来れば水運商ギルドの本部に行きたかったんだけどなあ」


 今日の所は諦めるしかないか。




 昨日、僕達は水運商ギルドに立ち寄ると、マムスの副官から託された品をレフド叔父さんへと渡した。

 レフド叔父さんは壺を見た瞬間に、全てを察したのだろう。神妙な面持ちで蓋を開けると、ためらいなく中の物を掴み上げた。


『・・・っ!』


 ティトゥは思わず目を逸らしたが、僕はハッキリと見てしまった。

 それは僕達の予想通り、塩漬けにされたマムス・ベネセの切り落とされた頭部だった。


『――バカが。このように死に急ぎおって』


 レフド叔父さんは首を壺に戻すと、死者に対して黙とうを捧げた。


『ナカジマ殿、ハヤテ。お前達の働きには感謝の言葉もない。おかげでこれ以上、無駄な死者を出さずに済んだ』

『でも、ベネセ様は? あの方だって死なずに済んだはずではないんですの?』

『ナカジマ殿。これはマムスがベネセ家の当主として決めた事だ。この件について、俺達、他家の者達がどうこう言える立場にはない。あなたは俺の頼みを受けて、マムスに書簡を届けただけ。これ以上あなたが出来る事は何もないのだ』

『そ、それは――』


 ティトゥは反射的に反論しかけたが、結局、何も言えず、そのまま黙り込んでしまった。

 僕達はこの国の人間ですらない、余所者なのだ。そんな僕達が何を言っても、無責任な感想でしかない。ティトゥにもそれが分かっているのだろう。


『ご当主様。馬の用意が出来ました』

『うむ。俺達はこれからこの旗を持って王城に戻り、兵を率いてベネセ領へと向かう。そうなれば、当然、サルート軍も俺達に付いて来るだろう。王城からは大幅に人が減り、一時的に手薄になるはずだ。小叡智(エル・バレク)が聖域に戻るなら、このタイミングが良いのではないかな』


 レフド叔父さんは、丁度手薄になった所で、水運商ギルドに使いを送ると約束をしてくれた。

 これでどうやら叡智の苔(バレク・バケシュ)と会う目途が付きそうだ。

 僕は内心でホッとした。

 というか、前回もそうだったけど、叡智の苔(バレク・バケシュ)に会う時は、毎回やたらと苦労させられている気がするな。


『サヨウデゴザイマスカ』

『・・・ありがとうございますわ』

『では。小叡智(エル・バレク)の娘にもよろしく伝えておいてくれ』


 こうしてレフド叔父さん達は、慌ただしく水運商ギルド本部を後にしたのであった。




 と、いうような事があった翌日。

 冒頭でも触れたように、ティトゥは前日のショックが尾を引いたのか、一日中、屋敷でふさぎ込んでいたそうだ。

 しかし、翌日には気を取り直したらしく、僕の前に元気な姿を見せてくれた。


『私達には世界の危機を救う使命があるんですわ! いつまでも落ち込んでなんていられませんわ!』


 いや、いつ僕達が世界の危機を救う事になった訳?

 僕達って叡智の苔(バレク・バケシュ)に呼ばれただけ、叡智の苔(バレク・バケシュ)からマナ災害の情報を得るためにやって来ただけだったよね?

 まあ、使命感を奮い立たせる事でティトゥに元気が戻るのなら、あえてツッコミは入れないけど。

 だからカーチャ、『あれ? そんな話でしたっけ?』という顔をするのは止めようか。君の主人だってこうして頑張っているんだからさ。


『という訳で水運商ギルド本部に出発ですわ!』

「了解。前離れー」

「ギャウー!(はなれー!)」


 ちなみにファル子とハヤブサは当たり前のような顔で操縦席に乗り込んでいる。

 一昨日にあんな事があったから、結局、昨日も一昨日も二人を乗せて飛ぶ事は出来なかった。

 相変わらずファル子はジャネタお婆ちゃんを苦手としているが、今日の彼女は苦手な相手に会いたくない気持ちよりも、僕達と一緒にお出かけしたい気持ちの方が勝ったようだ。

 僕としても、賑やかなファル子が一緒にいた方が、ティトゥの気持ちが紛れて助かるというものだ。

 てなわけで、僕はティトゥとファル子達リトルドラゴンズ、そして彼女達のお世話係としてカーチャを乗せ、水運商ギルド本部へと向かったのだった。

 しかし、王城からの(レフド叔父さんの部下からの)連絡はまだ届いていなかった。


「あれからまだ二日だし、仕方がないのかもね。それで今日はどうする? このまま真っ直ぐステージの町に帰る? それとも、二日前に話をしていた、リリエラの塩採掘現場を見に行く?」

『勿論、リリエラに行きますわ。ファル子達もリリエラを見てみたいですわよね?』

「ギャウギャウ!(※意味のない鳴き声 興奮している)」

「ギャウー(金で出来た家、見てみたい)」


 多分、ファル子は雰囲気ではしゃいでいるだけだと思う。そしてハヤブサは何か勘違いしているようだ。


「ハヤブサ。リリエラは別に建物が金で作られている訳じゃないから。普通に石造りの家だし、その家すらも砂に埋もれていて屋根くらいしか見えないから」

「ギーャウ(えー、そうなんだ)」

『ハヤブサは黄金都市リリエラと聞いて、町中が黄金作りの都市を想像したんですわね』


 そんなこんなで僕達は砂漠を渡ってリリエラに到着。

 思っていたよりも周辺の開発が進んでいて、僕はビックリしてしまった。

 確かに、最後にここに来たのは一年前だし、あの時はまだ採掘作業がロクに始まってもいない状態だった。

 そりゃあ、あの頃と同じに考えちゃダメだよね。

 例の大岩を見たファル子は大興奮。上まで飛んで行って、ちょっとした騒ぎになってしまった。

 連れ戻そうにも、巨大な丸い大岩なので、誰も登る事すら出来ないのだ。


『ハヤテ、あなたならどうにか出来ませんの?』

「ムチャ言わないでよ。こんなのの上にどうやって着陸すればいいのさ」

『だったらどうしましょう? 呼びかけても遠すぎて聞こえないみたいですし』


 う~ん。押してもダメなら引いてみるしかないんじゃない?

 という訳で、僕考案の『天の岩戸作戦』が実行された。

 と言っても、みんなに協力して貰ってワイワイ飲み食いするだけなんだけど。

 すると案の定、ファル子は楽しそうな雰囲気に釣られて岩の上から降りて来たのだった。


『そら捕まえましたわ! ファルコ! 心配を掛けてはダメですわ! ちゃんとみんなに謝りなさい!』

「ギャーウー(ゴメン)」


 本当にウチのワンパク娘がお騒がせして申し訳ない。

 作業員達は「いやいや、こっちもいい骨休めになったよ」と笑って許してくれたのだった。




 そんな事があった翌日。

 僕は昨日と同じメンバーで水運商ギルド本部を目指していた。


「今日もレフド叔父さんからの連絡がなかったら、どうしようか?」

『今度は少し足を延ばして、南の海まで行ってみるのはどうかしら? 久しぶりにヤシの実のジュースが飲みたいですわ』

『あっ、いいですね。カズダ様とお屋敷の人達にもお土産に買って帰りましょう』


 なる程、それいいかも。ヤシの実の殻ならファル子達のいいおもちゃになりそうだし。

 じゃあ、今日の予定はそれで。

 僕はティトゥ達とそんな事を話しながら、水運商ギルドの本部に着陸したのだった。


 流石に連日、お邪魔しているだけあって、今では野次馬の数も寂しいものである。

 たまたま仕事で来ていたらしいオジサンが、驚きにポカンと大口を開けているのが目についたくらいである。


『ナカジマ様!』


 僕がエンジンを止めると、本部長のジャネタお婆ちゃんがこちらに駆け寄って来た。

 あれ? これってひょっとして――


『王城からの使者が来ております! 中で待って頂いておりますので、応接室までご案内致します!』


 どうやら南の海への出発はお預けになったようだ。

 こうして僕達はようやく聖域に――叡智の苔(バレク・バケシュ)に会いに行く事が出来るようになったのであった。

次回「AIの見る夢」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] あれ、あの大岩爆弾で2つに割れたんじゃなかったっけ…
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