表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第二十一章 カルリア河口争奪戦編
699/781

その24 忘れ形見

 ベネセ家のお膝元、城塞都市アンバーディブ。

 僕達はレフド叔父さんから降伏勧告の書状を届ける仕事を任され、この町へとやって来ていた。


「・・・あれって僕達に降りて来いと言ってるのかな?」

『きっとそうに違いありませんわ』


 今は兵士の待機所として使われている城門前の大きな広場。

 そこには兵士達が整列し、空にいる僕達を見上げている。

 彼らを従えているのは、立派な鎧を着た大柄な騎士。

 ベネセ家の当主、マムス・ベネセであった。


 さて、どうしよう。このまま降りて良いものだろうか?

 僕一人なら、多分、降りているとは思うけど、ここにはティトゥもいる訳だし。

 彼女を連れて危険な事はしたくないんだけど・・・。

 当のティトゥは、降りる気満々の様子である。


『どうせ手紙を落とす場所を決めかねていたんだし、だったら本人に直接手渡した方が確実ですわ』

「そりゃまあそうなんだけど」


 ええい、仕方がない。

 マムス・ベネセとは一度チェルヌィフの王城で会っている。

 その時の印象は、一見、粗暴なように見えて、ちゃんと物事を考えている人。人の上に立つ組織のリーダー。といった感じの人物だった。

 彼なら(少なくとも部下達の前では)卑劣なマネや、だまし討ちのような事はしないだろう。

 僕はティトゥの視線にせっつかれるように高度を下げたのだった。




 ベネセ兵達の視線が僕に集まる。

 四式戦闘機の機体(からだ)に転生してからこちら、少しは人の視線に晒される事にも慣れたつもりだったけど、流石に武装した無数の兵士達に取り囲まれているとなると落ち着かない。

 ティトゥも勢い任せで決めた事を少し後悔しているようだ。さっきからずっと息をひそめて、不安そうに目を泳がせている。

 そんな彼女を見ていると心苦しいけど、仕方がない。僕はティトゥに声を掛けた。


「あ~、ティトゥ」

『(ビクッ!)』

「・・・ティトゥ、ゴメン。マムス・ベネセが近付いて来たんだけど、立ち上がって彼の相手をしてくれないかな?」


 そう。マムス・ベネセは、彼を止める将軍達に控えるように命じると、一人で僕の前まで歩いて来たのだ。

 六大部族の当主にここまでされて、放置しておく訳にもいかない。

 ティトゥも仕方なく、えいや、と風防を開け放った。


『『『『オオ~ッ!』』』』


 まさか僕のような謎存在に、こんな可憐な少女が乗っていたとは思わなかったのだろう。

 周囲の兵士達から思わず大きなどよめきが上がった。

 あちこちで指揮官らしい男達が、『黙れ!』『静かにしろ!』と兵士達を叱りつけている声が聞こえる。

 僕はティトゥが怖気づかないか心配したが、一度やると覚悟を決めたせいなのか、兵士達の声に怯んでいる様子はなかった。何とも頼もしいパートナーである。


『久しぶりだな、ミロスラフ王国の娘よ。あの時王城で会って以来だから、ざっと一年ぶりか』

『ナカジマ家当主、ティトゥ・ナカジマですわ。お久しぶりですベネセ様』


 ここでティトゥはチラリと僕を見た。はいはい。


『ゴキゲンヨウ』

『こちらはドラゴンのハヤテですわ』

『『『『喋った!』』』』


 ちなみに今度は先程と違って兵士達を叱りつける声は全く聞こえなかった。どうやら指揮官達も一緒に驚きの声を上げていたようである。




 ティトゥは少しだけためらう様子を見せたが、ここまで来れば今更、とでも思ったのか、意外とあっさり操縦席から地面に降り立った。


『こちらを。レフド・ハレトニェート様からベネセ様へ宛てた物となります』

『レフドからだと? 分かった。確かに受け取った』


 マムス・ベネセはティトゥが差し出した手紙を――降伏勧告の書状を――受け取った。

 これにてミッション・コンプリート。

 この後、彼がどう判断するかは分からないが、一先ず僕達の役目は終わった事になる。


『それと、以前にお預かりしていたこれをお返ししますわ』


 次にティトゥが取り出したのは、紋章の入った瀟洒なペーパーナイフ。

 僕達が巨大ネドマの調査に行く際、マムスから身分証代わりに渡されていた品である。

 しかし、遠目にはティトゥがナイフを取り出したように見えたのだろう。兵士達が一斉に殺気立つのが分かった。

 マムスは無頓着に手を伸ばすと、ペーパーナイフを手に取り、誰の目にも見えるように大きく目の前に掲げてみせた。


『ウチの紋章だな。確かにオレの物だ。返して貰ったぞ』


 兵士達がホッと緊張を緩めた。

 マムスはペーパーナイフを腰ひもに挿すと、ティトゥに苦笑した。


『今はこんな状況だ。多少、部下達の態度が物々しいかもしれないが許せ。おい、外国からの客人だ! もてなしの準備をしろ!』


 マムスは副官らしき部下に書簡を渡すと、客をもてなす準備をするように命じた。

 まあ、こうなるよね。

 僕は社交場嫌いのティトゥが、また断り出すんじゃないかとハラハラしたが、流石の彼女も空気を読んだらしく、余所行きの笑顔のままで大人しく黙っていた。

 それでも明らかにテンションが下がっているのが、付き合いの長い僕には丸分かりだったけど。


 馬車か何かで屋敷に向かうのかな? と思っていたら、すぐにイスとテーブルを持った兵士達が現れ、僕の前にセッティングを始めた。

 どうやらマムスはここでティトゥをもてなすつもりのようだ。

 こんな場所で? と思ったのは僕だけではないようで、周りの兵士達も戸惑いの表情を浮かべている。


『前の時もそうだったが、お前はドラゴンの側を離れるのがイヤなんだよな』

『! そ、そうですわ』


 マムスの言葉にティトゥは一年前の事を思い出したらしい。ハッと目を見開くと、慌ててコクコクと頷いた。

 あ~、あったねそんな事。あの時、マムスは僕の翼の下でティトゥとお茶をして、意外とご機嫌な様子だったっけ。


『あの、ご当主様』

『ん? おう、少し外すぞ』

『分かりましたわ』


 ここでマムスは副官に呼ばれて離れて行った。ティトゥはその間に僕のすぐそばまで下がった。


『これでマンション・コンクリートですわね』

「それを言うならミッション・コンプリートね。思ったよりすんなりいって良かったよ」


 こうしてティトゥと二人で待つ事しばらく。

 マムスはまだ小学生くらいの少年を連れて戻って来た。彼の息子だろうか? 

 一応、こんな場所に来るためか鎧を着てはいるものの、明らかに見栄え重視で実用性は低そうだ。

 少年の顔は緊張で強張っていた。


『俺の甥のオトマルだ。実の父親である兄貴が死んでからは、俺が養子にして面倒を見ている。俺の次は、コイツがベネセ家の当主になる予定だ。オトマル。ミロスラフ王国の貴族のナカジマ殿とドラゴンのハヤテだ』

『ど、どうも。オトマルです』

『ごきげんよう。ティトゥ・ナカジマですわ』

『ゴキゲンヨウ』

『しゃ、喋った!』


 目を丸くしてギョッと驚く少年に、周囲から暖かい視線が注がれた。

 マムスの兄の息子。つまりは前ベネセ家当主の子供という訳か。

 マムスは自分の息子ではなく、兄の忘れ形見を次の当主にしようと考えているらしい。

 どうだろう。他人事ながら、正直、こういうのってお家騒動の火だねにしかならない気がするんだけど・・・。

 僕が勝手にイヤな想像をしている間にも、少年はキラキラした目で僕を見上げている。


『本当にドラゴンなんだ! スゴイ! ナカジマ殿はこのドラゴンに乗って飛んで来たって本当ですか?!』

『ああ、ここにいる兵士も全員見ているからな。その話はこれからゆっくり聞かせて貰えばいい。構わねえかな? ナカジマ殿』

『ええ、喜んで』


 ティトゥは僕の話なら機嫌良く喋るからね。その結果、いつも暴走して話を盛り過ぎてしまうんだけど。

 幸い今日は僕もその場にいる訳だし、彼女が調子に乗ってある事ない事言い出さないように見張っておかないと。

 マムスは振り返ると兵士達に命じた。


『お前達も今日はもう休みだ! これから飯の仕度をして、好きなだけ飲み食いするといい! ただし騒ぎすぎるのは厳禁だぞ! 外の敵が城壁を越えて参加しに来たら困るからな!』


 マムスの冗談に兵士の間に歓声と笑い声が広がった。

 オトマル少年がマムスを見上げた。


『良いのですか父上?』

『兵士達にもたまには息抜きが必要だからな。別に構わねえよ。それにどうせ敵はこの町を取り囲んでいるだけで攻めて来られねえ。それでもレフドのヤツが指揮官なら、警戒を緩める事は出来ねえが、幸い今は前線を離れて王城に下がっているみたいだしな。ナカジマ殿――』


 マムスはここで居ずまいを正すと、ティトゥに振り返った。


『帰ったらレフドのヤツに伝えてくれ。”話は分かった。心遣いに深く感謝する。そちらの提案に従う”と』


 ティトゥがハッと息をのんだ。

 どうやらマムスはさっき席を離れている間に、レフド叔父さんの手紙を読んだようだ。

 そして降伏の決意を固めたのだろう。その表情は憑き物が落ちたように晴れやかだった。

 彼はオトマル少年の肩に手を乗せた。


『それと悪いが、戻る時にはコイツを一緒に乗せってってくれねえか? レフドには”お前に預ける”と伝えてくれりゃいい』


 オトマル少年は事前に話を聞かされていたのだろう。黙って彼女を見つめていた。

次回「ささやかな宴」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ