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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第二十一章 カルリア河口争奪戦編
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その17 腐った患部

◇◇◇◇◇◇◇◇


 オアシスの町ステージのギルド支部長マイラスは、久しぶりにバンディータの町の水運商ギルド本部へと来ていた。

 本部長のジャネタに今回の件で早急に報告書を送らなければいけない、と聞いたハヤテが、『だったら、直接本部に行って話をした方が早いんじゃない?』と、彼を本部まで送り届けてくれると言ったからである。

 ちなみにハヤテ達はその足でチェルヌィフの東、港町デンプションへと飛んでいる。

 何でもナカジマ領を出発前、鍛冶師のブロックバスターから、大事な手形を預かっているので、それを届けなければならないそうだ。

 ハヤテ達竜 騎 士(ドラゴンライダー)が、チェルヌィフに来てから大体一週間。

 大事な手形なら、一日でも早く届けに行った方が良さそうなものだが、これ程遅れたのにはとある理由がある。

 とはいっても、それはティトゥがイヤな事を先送りにしていたから――彼女がデンプションの代官のルボルト・サルートを大の苦手としているから――という、実にしょうもない物だったのだが。




 ここは本部の応接室。

 たまたま偶然だが、先日、ティトゥがここを訪れた時に通されたのと同じ部屋で、ギルド本部長ジャネタは、呆れ顔でかぶりを振った。


「やれやれ、普通はサルート家と繋がりが出来ると、小躍りして喜ぶ所なんだがねえ・・・。まあ、それが竜 騎 士(ドラゴンライダー)竜 騎 士(ドラゴンライダー)たる所以(ゆえん)なのかもしれないが」

「我々水運商ギルドが、どれだけ港町デンプションに気を使っているのか聞けば少しは・・・って、やっぱり関係ないんでしょうね。なにせ竜 騎 士(ドラゴンライダー)のお二人ですし」


 マイラスとジャネタは、竜 騎 士(ドラゴンライダー)二人の姿を思い浮かべると、同時に小さなため息をついた。

 ジャネタはカップを手に取ると、エコクーラー【カーチャ】で良く冷やされた冷たいお茶を飲み干した。


「まあ、前置きはこのくらいでいいだろ。それじゃ早速、盗賊団の件の報告をしとくれ」

「はい」


 水運商ギルドの隊商(キャラバン)を襲った一連の襲撃事件。

 その犯人は、近くを縄張りとする砂漠の部族の長の息子、ザーリが指揮する部族の若者達であった。


「襲撃犯達は全員、彼らの部族の戦士達の手によって処刑されたそうです。『誠に申し訳ない事をした』と、部族の長が直接ギルド支部に頭を下げに来られました。奪われていた積み荷の方は、襲撃犯達の隠れ家から可能な限り回収されてギルド支部へと返却されました。不足分と犠牲者に対しての賠償は、後日、こちらから請求する事になっています」

「そうかい」


 ジャネタは小さく頷いた。


「損害分はキッチリ請求するとして、あちらのメンツを立ててやるのも忘れるんじゃないよ。砂漠の部族はプライドが高い者達が多いからね」

「分かっています。その辺りの事は彼らと付き合いの長いカズダ家の当主(※カルーラの兄、エドリア)と相談しながら進めるつもりです」


 ザーリ達、隊商(キャラバン)襲撃犯は、抵抗した者はその場で即座に切り殺された。

 降伏し、捕らえられた者達は、尋問を行った上で、後日、改めてその首を刎ねられた。

 ちなみに今回の件の首魁であるザーリは降伏組の方だったそうだ。


「その事情聴取で判明した事ですが、どうも彼らに襲撃を依頼したギルド職員がいたようです」

「はんっ。どうせそんなこったろうと思っていたよ。大方、ドッズの元部下辺りか、マルクスかダイランの所の回し者ってトコだろ?」

「はい。主犯は元本部長の部下だった男だそうです。それと協力者としてダイラン副部長の派閥の者が関わっていたそうです。どちらも本人達から事情を聞いた上で、今はひとまず仕事から外しています」

「ダイランらしいこすっからいマネだよ」


 ジャネタは不快感も露わに鼻を鳴らした。

 しかし直ぐに神妙な顔つきになると、マイラスに頭を下げた。


「死んだ隊商(キャラバン)の者達と、アンタには本当にスマナイ事をしちまったね。アタシがもっとしっかりしてれば、ドッズやダイランの部下を支部に送るような事をさせなかったのに」

「頭を上げて下さい。あなたは良くやっていますよ」


 本当であれば、重要な部署は全員ジャネタの派閥の者達で固めてしまうのが望ましい。

 分かっていながらそれが不可能なのは、単純に人手不足。人数が足りていないからである。

 しかし、仮に今の派閥を全て清算する事に成功し、ジャネタの派閥のみで組織を固める事が出来たとしても、次はその中で派閥が出来、いがみ合いになる事は分かり切っている。

 人間は三人集まれば派閥が出来る、と言う。

 水運商ギルドが巨大な組織で、莫大な利益を生み出し続ける存在である以上、その内側で利権を求める争いが起きるのはどうしても避けようがなかった。


「今回の件は私の管理不行き届きでした。犬は家畜の番が出来るし、猫はネズミを獲る事が出来る。どんな人間でも使えるのが一流の商人というものですから」

「ふん。何を聞いた風な事を。アタシはそういう偉そうなことを言うヤツが一番信用出来ないね」

「今のは昔、私があなたに言われた言葉なんですが」


 ジャネタの辛辣な言葉にマイラスは苦笑した。


「それで? 今回の件を引き起こした職員達はどうするつもりだい?」

「どうすると言われても・・・本人達は否定していますし、証拠は何も残っていません。せめて証人でも生きていれば話は別なんですが、この話を聞かされたのは、襲撃犯達が全員処刑された後だったもので」

「それも計算の上って事かい。ダイランの部下らしい小賢しいやり口だよ」


 砂漠の部族は、先祖の名において交わした誓いを決して破らない。

 それは血で血を洗う激しい争いが繰り広げられて来た歴史の中で、彼らが築き上げた暗黙のルール。唯一絶対の砂漠の掟なのだが、それを分かった上で今回の件を仕組んだのだとすれば、相当に悪辣だと言えるだろう。


「――なあマイラス」


 ジャネタはテーブルに肘をつくと軽く手を組んだ。


「今回、ドッズの部下達のやった事には何の意味があったと思う? 隊商(キャラバン)が襲われて損害が出た。確かにそうだ。しかし、水運商ギルド全体から見ればそれは微々たる損害でしかない」


 水運商ギルドの本業はその名の通り水運――船を使っての貿易にある。

 一隻の外洋船に積み込める荷物の量は、ラクダで運ぶ砂漠の隊商(キャラバン)それ(・・)とは比較のしようもないほど大きい。

 チェルヌィフ屈指の巨大ギルド、水運商ギルドの本部長であるジャネタにとって、砂漠の隊商(キャラバン)がいくつか消えた所で、心が痛みこそすれ、損失としては軽視出来る程度のものであった。

 マイラスは言い辛そうに事実を口にした。


「あまり意味はなかったかと」

「そうとも。ヤツらのやった事は、アタシの地位を脅かすどころか、足を引っ張る事にすらなってやしない。つまりコイツは仕返し未満のただの嫌がらせ。自分達の悪意を満たすだけのしみったれた自慰行為でしかないんだ。勿論、ヤツらだってそんな事は百も承知だ。分かっててやりやがったんだよ。

 今回、そんなヤツらが立てた計画のせいで、隊商(キャラバン)の者達が殺された。彼らを殺したヤツらも全員死んだ。その結果何が残った? 何も残ってやしない。この絵を描いた者達が裏でこっそりチンケな満足感を得ただけだ。そんな物のために一体何人が死んだ? 何人を殺した?

 アタシらは商人だ。商人が商売で相手に損をさせる事なんていくらだってある。だがね、アタシは利益でも何でもない、自分の気分なんてあやふやなモンのために、相手を損させようなんて考えた事は一度だってないよ。ましてやそのために人を殺すなんてあり得ないね。そんなバカげた事を考えるようになったらそいつはもう商人じゃない。人を人とも思わない人間のクズだ」


 ジャネタの滅多にない強い口調に、マイラスは彼女が今回の件に心の底から真剣に怒っているのが分かった。


「それは・・・しかし、そうは言っても我々にはどうする事も――」

「戦場で兵士が腕や足に深いケガ負った時、軍医はどうするか知ってるかい?」


 ジャネタは指でトントンと二の腕を叩いた


「そういった患部は放っておくと腐って毒を持つようになる。そうなると無傷な体の方までその毒にやられちまう。内側からね、毒に蝕まれちまうんだ。だから医者はそうなる前に手足ごと患部をバッサリ切り落としちまうんだよ」

「・・・・・・」


 ジャネタはテーブルに手をつくと身を乗り出した。


「アタシは今まで少し甘かったようだ。損失を気にして――手足を失くしちまう事を恐れて――今日の今日まで傷口を放っておいちまった。・・・あっちに戻ったら今回の件に関わったドッズとダイランの部下をこっちに送りな。アタシの方でケリをつけとくよ。ヤツらには二度とこの国で商売が出来ないようにしてやるさ」

「彼らをクビにするんですか? しかしそれではダイラン副部長が黙ってはいないでしょう」

「構うもんかい。どうせすぐにダイランもそれどころじゃなくなるんだからね」


 マイラスは驚きにハッと目を見開いた。


「まさかダイラン副部長も?!」

「ダイランだけじゃないよ。この機会に全部一掃しちまうつもりさ。そう、全部ね。頭や内臓に毒が回る前に、腐った患部を切り落とすんだよ」


 ジャネタは覚悟を決めた顔でハッキリと宣言した。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 僕達はバンディータの町の水運商ギルド本部へ、マイラスを迎えにやって来た。


『~♪』


 ティトゥはさっきからずっと機嫌よく鼻歌を歌っている。

 何かいいことがあったのかって?

 ちょっと聞いてよ。

 さっき、彼女が大の苦手としているルボルトさんの所に、ドワーフ親方から預かった手形を返しに行ったんだけど、当のルボルトさんは病気で寝込んでいて、僕らと面会出来なかったのだ。


『まあ、それは大変! 季節の変わり目だから、体調には気を付けないといけませんわね。くれぐれも体をお大事にとお伝えください』

「ティトゥ、人が病気になったのをそんな風に喜ぶなんて良くないよ」

『失礼ですわね。私はちゃんと心配していますわ。今のは大事な手形を問題なく無事に届けられた事に安心していただけですわ』


 どうだか。

 明らかに喜びを隠し切れないティトゥに、二人の関係性を良く知る執事のホンザさんは、複雑な顔をしながら手形を受け取ってくれたのだった。

 ホンザさんの話では、ルボルトさんの病気は軽いカゼらしい。歳も歳だし、念のために寝室で寝て貰っているそうだ。

 だったらあまり心配するほどでもないのかな?

 一応、僕からもお見舞いの言葉を伝えてくれるようにお願いしておいた。


 そんなこんなでギルド本部に到着。

 いつものように中庭に着陸すると、ジャネタお婆ちゃんとマイラスが現れた。

 ジャネタお婆ちゃんは、エンジンが止まるのも待ちきれない、といった感じで僕の側に駆け寄った。

 相変わらず、やたらと元気というか年甲斐もなくエネルギッシュというか。

 同じお年寄りでも、こっちのお年寄りは病気にかかるどころか、殺しても死なないような感じだな。

 ティトゥが風防を開けると、ジャネタお婆ちゃんは彼女に告げた。


『ナカジマ様! 王城から返事が来ました! 明日、改めてこちらに責任者がやって来るので、詳しい事はその者と話をして欲しいとの事です!』


 あれから五日。どうやら待ちに待った王城からの返事がようやく届いたようだ。

次回「”飛魚”作戦」

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