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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第二十一章 カルリア河口争奪戦編
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その13 隊商護衛

◇◇◇◇◇◇◇◇


 チェルヌィフの南に広がるザトマ砂漠。

 我々日本人は、砂漠という言葉に、映画で見るような見渡す限りの砂の海を想像しがちだが、実際には荒れた岩場――いわゆる岩石砂漠の方が多いという。

 そんな岩場を、背に荷物を積んだラクダの隊列が進んでいた。

 隊列のやや後方。ラクダの背に揺られながら地図を広げていた男が、険しい表情で呟いた。


「事前の情報によると、先月、水運商ギルド(ウチ)隊商(キャラバン)が姿を消したのはこの辺りのはずだが・・・」


 広大な砂漠は、法の監視の行き届かない無法地帯でもある。

 自分の身を守れるのは自分だけ。その覚悟のない者が足を踏み入れて良いような場所ではないのだ。

 とは言ったものの、普通は隊商(キャラバン)道を外れない限り、襲撃を受けるような事は滅多になかった。

 砂漠に住む者達にとって、外からの物資を運んで来る隊商(キャラバン)は、自分達の生活を支える命綱でもある。

 そのため彼らは自分達の縄張りの中で、隊商(キャラバン)を襲うような存在を決して許さない。

 だから隊商(キャラバン)道を通る限り、道中の安全はほぼ約束されている。

 そのはずであった。


「それがこの一年で五件もか。その全てを事故と考えるには多すぎる。やはり野盗の類か」


 水運商ギルドの隊商(キャラバン)には護衛が付けられている。

 運んでいる荷物の価値を考えれば当然の事だが、それでもせいぜい五~六人程度。

 自衛だけならともかく、隊商(キャラバン)を守ると考えるならば心もとない。

 勿論、単に増やすだけならこの何倍でも可能なのだが、ここは砂漠。水も食料も毛布も――炊事のための薪すらも全て外から持ち込まなければならない。

 これ以上、護衛の人数を増やすのは、採算の上から現実的ではなかった。


「隊長!」


 部下に呼ばれて、男は――隊商(キャラバン)リーダーは地図から顔を上げた。


案内人(ガイド)が気になる事を言っています! 至急、隊の前方まで来てください!」

案内人(ガイド)が?」


 一瞬、隊商(キャラバン)リーダーは、賊の襲撃を予感し、ヒヤリと肝を冷やした。

 しかし、それにしては部下に緊張感がなさすぎた。だが安心するのはまだ早い。あるいは案内人(ガイド)は、直接、襲撃者の姿を発見したのではなく、その前兆――痕跡のような物を見つけたのかもしれない。


「分かった。全隊停止! この場で待機しろ!」


 隊商(キャラバン)リーダーは大声で周囲に命じると、部下を連れて隊列の先頭へとラクダを走らせたのであった。




 案内人(ガイド)は四十がらみの小男で、案内人(ガイド)としてはベテランに入る男である。

 長年、砂漠の強い日差しに晒された事で目をやられ、あまり視力は利かないそうだ。

 しかし、そのハンデを感じさせない程、男は驚く程細かく周囲の変化に敏感だった。先日も数キロ先の砂嵐の発生を事前に察知し、リーダーに隊商(キャラバン)のルートを変更するように進言した程である。

 そんな男が隊商(キャラバン)の進行方向の先にある、小高い丘をジッと見つめていた。


「どうした? 何か気になる事があったという話だが」


 隊商(キャラバン)リーダーは案内人(ガイド)に近付くと声を掛けた。


「さっきからずっとあの丘を見ているが、あそこに何かあるのか?」

「分からん」


 案内人(ガイド)の返事はぶっきらぼうだったが、別に怒っている訳でも機嫌を損ねている訳でもない。元々、必要な時以外には口も開かない男なのである。


「さっき空から奇妙な音が聞こえた」

「奇妙な音だと?」


 案内人(ガイド)は後方を振り返ると、自分達が今朝、通り過ぎて来た場所を二箇所、続けて指差した。


「一度目はあの辺りを通っていた時だった。その時は、音もかすかだったしすぐに消えたから、わざわざ報告しなかった。だが、今考えると、二度目は一度目よりも近くから聞こえた気がする。そしてついさっき、音は――」


 男の指は真上を指し示すと、そのままグルリと動いて前方に――彼らの進行方向の先にある丘を指差した。


「俺達のすぐ真上を通ってあそこに消えた。今まで一度も聞いた事がない変な音だった」


 案内人(ガイド)の男は、余程音の原因が気になるのだろう。その視線は再び丘に釘付けとなった。


「隊長、どうします?」


 部下は案内人(ガイド)の異常とも思える反応に、不安そうな表情を浮かべた。


「このまま進んでも大丈夫なんでしょうか?」


 そんな事を聞かれても、リーダーにだって分からない。

 水も食料も余裕を持って持ち込んでいるし、食料に関しては本当にいざとなれば商品に手を付けるという手段も残されている。

 だから、様子を見てこの場でキャンプをする事も可能ではある。

 しかし、気になるのは、ここが先月、別の隊商(キャラバン)が消息を絶った場所だという点だ。

 ベテランの案内人(ガイド)すら戸惑わせる奇妙な音と、連続で消えた隊商(キャラバン)

 この二つの点に何か共通点でもあるのだろうか?


(誰か先行させて調査に向かわせる? だが、もし、近くに我々を狙う賊が隠れていた場合、戦力を分けるのは明らかに自殺行為だ。だからと言ってどんな危険が潜んでいるかも分からない場所に、隊商(キャラバン)を連れて向かう事も出来ん。どうする?)


 しかし、隊商(キャラバン)リーダーに迷っている時間は残されていなかった。


 ドーン・・・


 突然、腹に響くような低い爆発音が丘の彼方から鳴り響いて来たのである。


「な、何だ?! 何だ、今の音は?!」

「た、隊長、あれを見て下さい! 砂嵐――いや、違う?!」


 続いて丘の向こう側から土煙が立ち上った。

 ベテランの案内人(ガイド)も、こんな状況は初めてなのだろう。驚きと戸惑いで言葉も出ない様子だ。


「一体、ここで何が起きているんだ?」


 隊商(キャラバン)リーダーの疑問に答えられる者はこの場には誰もいなかった。




 隊商(キャラバン)リーダー達、水運商ギルドの隊商(キャラバン)から丘を挟んで反対側。

 丁度彼らからは死角になっている場所は、現在、混乱の只中にあった。


「ヒイイイ! 化け物だ! 逃げろ! みんなやられちまうぞ!」

「死んじまった! みんな死んじまった!」

「何だ今のは?! 一体何が起きたんだ?! あっという間に仲間が何人もやられちまったぞ!」


 男達は二十人程。全員がラクダに乗り、マントで顔を隠し、武装している。

 見るからに襲撃者然とした姿だが、そんな彼らがみっともなく算を乱して逃げ惑っていた。

 それは――


 ゴオオオオオオ!


 大きな影が空から舞い降りると、男達に襲い掛かった。


「また来たぞ! 逃げろーっ!」

「オアアアーッ!」

「ギャッ!」


 逃げ回る男達。たまたま怪物の進路上にいたラクダが、岩場に足を取られたのか、悲鳴を上げて転倒した。

 その背から男が転がり落ち、岩の上に投げ出される。

 次の瞬間。巨大な影の翼にパパッと光が瞬くと――


 ドドドドドドドドド


 真っ赤な光が尾を引きながら、倒れた男とラクダに襲い掛かった。

 男とラクダの姿はあっという間に土煙に覆われて見えなくなった。


「ろ、ロッジがやられた! ヤツのラクダもだ!」

「バカ野郎! 後ろなんて振り返っている場合か! 今は全力であの化け物から逃げるんだよ!」


 恐怖に怯える青年を若い声が怒鳴り付ける。

 この集団のリーダーだろうか? 明らかに周囲の者達よりも服や装飾品に金がかかっている――裕福な家に生まれている――のが分かる。

 良く日に焼けた顔は日本で言えば高校生くらいか。年齢で言えば十六~七。まだ少年の面影を残していた。


「全員バラバラに逃げろ! 固まってたらまとめてやられるぞ!」


 ヴ――ン


 怪物は甲高い唸り声を上げながら急上昇。

 青い大空にキラリと陽光を反射した。


(チクショウ! チクショウ! なんだってこんな事に!)


 リーダーの少年は恐怖に血走った目で上空の怪物を見つめた。


(簡単な――簡単な仕事だったはずだ。ロクに護衛も付いていない隊商(キャラバン)を襲うだけの楽勝な仕事。今まで何度も成功して来た仕事のはずだった。それがなんで今日に限ってあんな化け物が出て来やがる。あんな化け物、見た事も聞いた事もねえ。今までどこにいやがった。一体アイツは何なんだ?)


 しかし、彼がそんな事を考えられていたのはそこまで。

 少年達を襲った怪物は――四式戦闘機・疾風は――翼を翻すと、再び彼らへ襲い掛かって来た。

 彼らは逃げ回るのに必死になり、怪物の正体を考える余裕などなくなってしまったのであった。

次回「砂漠の盗賊団(仮)」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 初手で双炎龍覇轟黒弾が炸裂してて吹き出しました 襲撃犯たちは本当に何が起きたか分からないでしょうね [気になる点] >良く日に焼けた顔は日本で言えば高校生くらいか。 >年齢で言えば十六~七…
[気になる点] 何故盗賊団はよりにもよって水運商ギルドの隊商を襲ったのか? 物資の運送が滞れば街にとっては死活問題でしょうに……。集団のリーダーっぽい少年は別に食うに困ってやむを得ず、といった感じでも…
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