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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第二十一章 カルリア河口争奪戦編
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その10 砂漠の盗賊団

◇◇◇◇◇◇◇◇


 オアシスの町、ステージの目抜き通りに面する瀟洒な建物。

 それなりの敷地面積を持つこの屋敷は、元々はカズダ家の先々代当主がこの土地を買い取り、建てさせたものである。

 先々代が亡くなった後、しばらく使われていなかったが、昨年、水運商ギルドに貸し出され、今ではギルド支部として使用されていた。


 その建物の中庭に面した一室。

 来客用の応接室に、カズダ家当主エドリアは通されていた。

 良く冷えた飲み物に喉を潤しながら待たされる事少々。

 支部長のマイラスが、砂にまみれた旅装を解いて小ざっぱりとした恰好となって現れた。


「すみません、お待たせ致しまして。ああ、君。私にも同じ物を持って来てくれ」


 マイラスはギルドの事務員に飲み物を頼むと、エドリアの正面に座った。


「いやあ、それにしても、リリエラから戻って来た途端、まさかミロスラフ王国の竜 騎 士(ドラゴンライダー)のお二人に会うとは思いもしませんでしたよ。相変わらずあの方達は神出鬼没というか、フットワークが軽いというか。ドラゴンの飛行能力があれば、船で隣の港町に行くような感覚で国から国へと移動出来るのかもしれませんが」


 マイラスの言葉にエドリアは何とも言えない顔になった。

 ちなみに話題のドラゴン・ハヤテは、今頃、テントの中で翼を休めているはずである。

 エドリアはハヤテのテントの準備をさせると、妹のカルーラにティトゥの案内を任せ、自身はマイラスと一緒にこのギルド支部へと向かったのであった。


「そうですな。こちらに来るなら、先に知らせておいて欲しかったが、ナカジマ殿とドラゴンにそれを言っても仕方がないのでしょう」


 なにせティトゥは、「事前に相手に連絡を入れるより、ハヤテで直接出向いた方が早い」などと思っている節がある。そしてこの世界では実際にその通りなのだから困ってしまう。

 ナチュラルにハタ迷惑な竜 騎 士(ドラゴンライダー)達であった。

 マイラスは事務員が持って来たカップを受け取ると、中身を一気に飲み干した。


「――ふう。生き返る。こうして家で冷えた飲み物が手軽に飲めるようになったのは有難いですね」

「”カーチャ”ですな。ウチの屋敷でも使っていますよ。使用人達の話では、これもあのドラゴンが考え出した物だとか」


 カーチャは、カーチャに相談を受けた(ややこしいな)ハヤテが彼女にアイデアを授けた物である。

 その正体は気化熱の原理を利用したエコクーラー、ポットインポット・クーラー。勿論、ハヤテが考えた物ではなく、元々地球に存在していたものである。

 お手軽かつ、エネルギーいらずのこのエコクーラーは、登場と共に瞬く間に町中に広まり、今や町の人々の生活に密着し、必要不可欠な物となっていた。


 その後、エドリアとマイラスはしばらくの間、ハヤテ達竜 騎 士(ドラゴンライダー)の話を続けていたが、エドリアはそろそろ空気が解れた頃合いと見て本題に入った。

 元々彼はマイラスが今日、リリエラから戻って来る事を聞いて、彼に話をするためにギルド支部へと向かっていたのである。

 その途中で町の上空を飛ぶハヤテを見付け、慌てて現場に駆けつけたのだった。


「そちらの採掘現場で働いている人員ですが、今後は増やす予定はあるのでしょうか? これから春になると農作業で男手が必要となります。もし足りなくなるようなら他の町でも募集をかけねばならなくなるのですが」


 ハヤテが空から行けばアッサリたどり着けるリリエラだが、普通の方法で行くとなると、砂漠を渡り、山を一つ二つ越えなければならない。

 そしてたどり着いた先でも、過酷な自然環境に物資不足。更には慣れない採掘という作業も相まって、作業員達の事故やケガは絶えなかった。

 採掘開始からこちら、支部長のマイラスが未だに現場に張り付いて指揮を執っているのを見ても、いかに採掘作業が困難であるかがうかがわれた。


「それでしたら大丈夫です。今後は少しずつ人数を減らしていく予定ですから。今まではベースキャンプ作りにそれなりの人員が必要となっていましたが、そちらも落ち着きましたので」


 厳しい環境にある現場とはいえ、流石に一年も経てば安定して来る。

 物資も十分に貯えられ、作業員の宿泊所や生活施設、運搬用のトロッコ等、作業現場の環境も整い、作業のフォーマットも確立されつつある。

 マイラスも、今後は時々顔を出すだけで、基本的な作業はあちらの監督に任せ、自分はこのギルド支部で全体を統括するつもりでいた。


「そうですか」


 エドリアはホッと安堵の息を吐いた。

 採掘作業のおかげで町は空前の好景気に沸いているとはいえ、現場に働き手を取られている事実には変わらない。

 外からお金が流れ込み、町が裕福になるのはいいが、それによって生活の基盤がないがしろになるのは痛し痒し。いや、為政者にとってはむしろ困るのである。

 この辺りの事情は、かつて黄金都市と呼ばれたリリエラも、同じだったのかもしれない。

 塩の輸出で莫大な収入を得ていたリリエラは、目先の利益に踊らされ、生産という自分達の生活の下支えをないがしろにしてしまった。

 そんな彼らに、ある日突然、不幸が襲い掛かる。山崩れによって塩の採掘現場が塞がれてしまったのである。

 ハヤテが(ちょっとした勘違いが元で)250kg爆弾で破壊した大岩だが、当時の技術では破壊する事も取り除く事も不可能だった。

 全てを塩の輸出のみに頼っていたリリエラは、その唯一の収入源を断たれてしまい、滅びてしまうしかなかったのである。

 もしもこの話をハヤテが聞けば、「やっぱり異世界でも、モノカルチャー経済(※単一の一次産品や輸出に依存した経済)が上手く行く訳はないよね」とでも言ったかもしれない。




 二人の打ち合わせはしばらく続いた。

 そしてそろそろ話も終わろうとしたその時、その問題が話題に上った。


「また水運商ギルド(ウチ)隊商(キャラバン)が盗賊に襲われたのですか?」


 それは町に物資を運んで来る隊商(キャラバン)が、何者かに襲われたというものだった。

 荷物は荒らされ、生き残った者はいなかった。

 マイラスは険しい表情を浮かべた。


「この一年だけで五件。この辺りはそんなに賊が良く出るのですか?」

「いえ、部族同士で争っていたような大昔ならともかく、今はほとんど。実際、私がここの当主になってからは、二~三度あったくらいでしょうか」


 エドリアが父親の跡を継いでから二十年近く。その間に明らかに盗賊に襲われたと見られる隊商(キャラバン)の例は三件。しかもそのどれもが今回とは違い、被害者は小規模な隊商(キャラバン)だった。

 それ以外の場合はルートを外れて道に迷ったか、砂嵐等の自然災害に遭遇したか。彼らは死体も残さず、荷物もろとも砂の海に消えてなくなっていた。


「? それら行方不明になった商人や、消えた隊商(キャラバン)の中に盗賊に襲われたと考えられる例はないのですか? 死体もないのなら、証拠も別に残っていないんですよね?」

「ええ、ありません。何もかも消えてなくなっているのですから」


 広大な砂漠は、法の目が行き届かない無法地帯でもある。

 仮にそこで何があっても全ては自己責任。砂漠を行く者達は自分の身は自分で守るしかないのである。

 マイラスは、過去に行方不明になった商人や消えた隊商(キャラバン)の中にも、実は盗賊に襲われた者達もいたのではないか、と言いたいようだ。

 疑いの表情を見せるマイラスに、エドリアは「ですが――」と言葉を続けた。


「ですが、その可能性は低いでしょう」

「それは一体なぜ? 砂漠の部族は――あ、いえ、失礼。何でもありません」


 マイラスは何かを言おうとして言葉を濁した。

 しかし、エドリアは彼が何を言いたかったか察したようだ。

 彼は小さく苦笑した。


「気にする事はありません。砂漠の外の人達が我々の事をどう思っているかは知っていますから。それにあながち的外れな偏見という訳でもありませんし」


 砂漠を移動しながら生活している部族の中には、略奪で――つまりは町や隊商(キャラバン)を襲って――生計を建てている者達もいる。

 つまりは大規模盗賊団である。

 実際、エドリアも、カズダ家の先祖も、このオアシスに定住する前はそういう生活をしていたと聞かされている。

 現在では物も豊かになったため、そういった荒事を専門にしている部族は少なくなっているものの、それでも小遣い稼ぎ感覚でルートを外れた隊商(キャラバン)を襲う例は多々あった。


「ですが、そういった周辺の部族には話を通しています。おそらく犯人は他所の土地から流れて来た盗賊団でしょう」


 カズダ家では、この近隣を縄張りとしている部族に顔を売って、町の周囲と町を行き来する隊商(キャラバン)のルート上では略奪をしないよう、彼らと約束を交わしている。

 だから彼らの仕業とは考えづらい。

 かと言って、付き合いのない他の土地の部族が、こちらにやって来て隊商(キャラバン)を襲ったとも思えない。

 砂漠の部族であれば、他の部族が縄張りとしている場所で仕事をするはずはないし、仮にそんな事をしたとすれば、今頃、地元の部族がメンツにかけて全力で彼らの事を排除しているはずである。

 だから犯人は、砂漠の部族とは別の存在。部族の仁義を知らないならず者達しかあり得なかった。


「彼らには既にこの件を伝えております。ウチも町の周辺の警備を強化していますし、近いうちに盗賊団を討ち取ってみせますよ」


 自信満々に胸を張るエドリア。

 だが、マイラスの顔に浮かんだ疑いの表情は消えなかった。


「そうでしょうか? 採掘作業の関係で、町に入って来る人間の数も物の量も以前の何倍にも増えています。彼らがそれを見て、欲に駆られてそちらとの約束を反故にしたという事は考えられませんか?」

「周辺の部族とは毎年数回、交流を持っています。少なくとも今の当主達が先祖代々の約束を破るとは思えません。彼らがこの町に来る隊商(キャラバン)に手を出す事はないはずです」


 周辺の部族の当主と付き合いのあるエドリアには自信があるようだが、マイラスは彼らの事を知らなかった。

 そしてマイラスは、人間は大金を前にすれば容易く人を裏切る事を良く知っていた。


水運商ギルド(ウチ)隊商(キャラバン)ばかりが連続して五件――それ自体は、水運商ギルドの隊商(キャラバン)が一番大規模で数も多い以上、獲物として狙われやすい、と考えるならば理解出来なくはないが・・・。何だか悪い予感がする。この件は出来るだけ早急に本部長(※ジャネタお婆ちゃんの事)に報告しておいた方がいいかもしれん)


 確か、ハヤテ達ミロスラフ王国の竜 騎 士(ドラゴンライダー)もジャネタに相談があると言っていたはずである。

 彼らに手紙を託せば、この世界の誰に頼むよりも安全確実に、しかも最速でジャネタの元に届けてくれるだろう。


(そう考えれば、あの二人がこの町にやって来た場に居合わせる事が出来たのは、またとないタイミングだった)


 なにせ国をまたいで移動する事すら気にかけない竜 騎 士(ドラゴンライダー)である。

 一度チャンスを逃せば、次はいつ会う事が出来るか分からない。


 機会を逃すようなボンクラは三流だ。機会ってのはこっちの都合に合わせちゃくれないんだよ。


 これは彼がまだ駆け出しだった頃、ジャネタから言われ続けて来た言葉である。

 そしてマイラスはジャネタの良き弟子だった。

次回「本部長ジャネタ」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんか塩騒動でババをひいて没落した人達が盗賊に身をやつしてそう…。
[良い点] この話でポットインポット・クーラーが日常的に使われているシーンは感慨深いものがありました。 私が300話のエピソードを好きということもありますが、一般人でしかないカーチャでも世界をより良い…
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