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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第二十一章 カルリア河口争奪戦編
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その8 砂漠の町、再び

 僕達がナカジマ領を出発してから今日で三日目。

 前回のような事故に遭う事もなく(第九章 ティトゥの帝国外遊編 『その2 バードストライク』参照)、旅は順調に進んでいた。

 そして現在は帝国の上空。予定だとお昼過ぎにはチェルヌィフ王朝との国境が見えて来る頃である。


「あれっ?」

『どうしたんですの? ハヤテ』

「ああ、いや。今、ふと何かが心に引っかかったような気がしたんだけど・・・」

『ハヤテ様、どうかしたんですか?』


 ティトゥは、膝の上に乗ったメイド少女カーチャに、今の会話を説明した。


『心に引っかかった・・・。それってひょっとして忘れ物か何かでしょうか? 昨日泊まった町に何かを忘れて来たのを思い出したとか?』


 う~ん、多分そういうのじゃないな。ていうか、僕は町には入ってもいないからね。いつものように町の近くにみんなを降ろした後、ひと気のない場所まで飛んで、そこで一夜を明かしただけだから。

 それにしても、思い出せないとなると、妙に気になって仕方がない。何だろう。ここまで出ている感じなのに・・・


『そんなに悩んでも思い出せないなら、きっと大した事じゃないですわ』

『そう言えば、そろそろチェルヌィフ王朝との国境が見えて来るんですよね? あの国の内乱ってまだ続いているんでしょうか』


 あっ! それだ!

 僕はカーチャの言葉に声を上げた。


「カルーラ。このまま真っ直ぐ行くと、帝国から出てベネセ領に入っちゃうよね。今って僕らが行っても大丈夫なの?」


 僕は小叡智(エル・バレク)の姉弟のカルーラに尋ねた。


 帝国からチェルヌィフ王朝に向かった際、最初に現れる場所がベネセ領。

 実はチェルヌィフはちょっと変わった政治形態を持つ国で、現在ではほぼ滅んでしまったチェルヌィフ王家に代わって、実力のある六つの大部族が、協力し合って国を治めている。

 その六大部族の中でも、領地が西に位置している(※つまりは帝国に近い)三つの部族が【戦車派】。東に位置している(※つまりは帝国から遠い)三つの部族が【帆装(はんそう)派】と呼ばれている。

 ああ、ちなみに戦車と言っても、馬で駕籠を引く戦闘用の馬車――つまりはチャリオットの事であって、僕らが想像する大砲の付いた装甲車両ではないので念のため。

 で、昨年、僕達がチェルヌィフに訪れた時、この戦車派の筆頭ベネセ家が、政権奪還を狙ったクーデターを起こしたのである。


 ティトゥは不思議そうに小首を傾げた。


『それがどうかしたんですの? 例え地上で戦いが続いていたとしても、ハヤテは空の上を飛んでいるんだから、関係ないですわよね?』

「そりゃそうだけど、休憩の時は地上に降りないといけないだろ? ずっと飛んだままでいいならそれでもいいけど、それだとカルーラが辛いんじゃない?」


 乗り物に弱いカルーラは、今も青い顔で胴体内補助席でグッタリしている。

 これでも旅行の初日に比べたら、かなり慣れた方だけど、それでも長時間の飛行はキツイみたいだ。

 メイド少女カーチャは、ティトゥから今の話を聞くと、操縦席の窓枠を見回した。


『せめて窓が開けられればいいんですけど。こんな風に締め切っているよりも、外の風が入った方が、少しはカズダ様(※カルーラの家名)も気が紛れるとおもうんですが』


 君の言っている事は分かるけど、それはちょっと・・・

 現在、僕は高度二千メートルを時速380キロの巡航速度で飛んでいる。

 もしも風防を開けたら、吹き込んで来る猛烈な風で、あっという間にみんな凍えてしまうだろう。


『オススメシマセンワ』

『そうですよね』


 どうやらカーチャも本気で言った訳ではなかったようだ。まあ、この子も何度も僕に乗って飛んでいるからね。

 ティトゥは首をひねると、後方のカルーラに話しかけた。


『それでカルーラ。どうなんですの?』

『・・・え? 何が?』


 カルーラは僕達の話を聞いていなかったようだ。

 気分が悪いのを堪えながら、ティトゥを見つめた。


『休憩するの?』

『誰もそんな事言ってませんわ。ベネセ家との戦いはまだ続いているのかを聞いたんですわ』

「いや、いいよティトゥ。ここらで降りて休憩しよう。カルーラ、地上に降りたら、ちょっと聞きたい事があるから教えてくれない?」

『分かった』

『何だかハヤテは、カルーラにだけ妙に優しい気がしますわ』


 ティトゥはそう言って軽くむくれたが、辛そうにしている人に気を使ってあげるのは普通の事だと思うけど?

 ホラ、そんな事よりファル子を捕まえておいて。

 いつも騒がしくしているわんぱくドラゴンが、さっきから妙に静かだと思ったら、胴体の奥に首を突っ込んで、荷物の匂いを嗅いでいる。

 どうやら、ファル子達がむずがった時用に持って来た”おこし”を狙っているようだ。


『ファルコ、着陸しますわよ。こっちにいらっしゃい』

「ギャーウ(はぁい、ママ)」


 ファル子は未練がましく荷物を振り返りながら、ティトゥの足元にやって来た。


『カルーラはハヤブサをお願いしますわ』

『コクコク(※黙って頷いている)』


 ちなみにファル子の弟、ハヤブサは、ずっとカルーラに抱きしめられたままでいる。

 これでも旅の最初の頃は文句を言ったりしていたのだが、今ではすっかり諦めたらしく、されるがままになっている。

 すまんなハヤブサ。休憩中はカーチャに言って、おこしを出してくれるように頼んであげるから。

 僕はゆっくりと高度を下げながら、ひと気の少ない着陸出来そうな場所を探すのだった。




 僕達は寂れた街道に降り立った。

 荒れた路面にタイヤが取られ、機体が大きくガタガタと揺れる。

 割とヒヤリとさせられる状況だが、ティトゥ達は平気な顔である。

 彼女達が言うには、「これでも馬車よりもマシ」だからだそうである。

 そりゃまあ、僕も最初に荷車に乗せられた時は、あまりの振動に機体のボルトが緩んでしまうんじゃないかと思ったけどさ。

 そういえばいつの間にか何とも思わなくなっていたなあ。慣れとは恐ろしいものである。


『はい。ファル子様、ハヤブサ様、どうぞ』

「フウウウ」

「ウウウウ」


 ファル子とハヤブサは、カーチャからおこしを貰うと、ガリガリゴリゴリと大きな音を立てながらかじりついた。


『・・・スゴい音』

『二人の歯が欠けたりしないか心配ですわ』


 カルーラはハヤブサを手放して少し手持ち無沙汰そうに、ティトゥは若干の呆れ顔で、リトルドラゴン達のおやつタイムを眺めている。


「それでカルーラ。さっきの話なんだけど、チェルヌィフの内乱は今、どういう風になっているのかな?」

『私も詳しい話は知らないんだけど』


 カルーラは自信なさそうに言ったが、新聞もネットも存在しないこの世界では、ニュースは基本、人伝である。

 そう考えると、カルーラ達小叡智(エル・バレク)が住んでいるのはチェルヌィフの王城――国中の最新情報が最も集まる場所と言ってもいいだろう。


『何だか上手くいっていないみたい』


 ん? どういう事?

 カルーラの説明によれば、バルム家が早々に降伏した事で、残っているのはクーデターの主犯、ベネセ家だけになっているらしい。

 確かにベネセ家は六大部族の中でも最大の軍事力を持ってはいるものの、こうなってはいつまでも抵抗する事は出来ない。

 内乱の終結は時間の問題。

 誰もがそう考えていたそうだ。

 しかし、ここからベネセ家は思わぬ粘り腰を見せる事になる。


『あの人ってそんなにスゴイ人だったんですの?』


 ティトゥはベネセ家当主、マムス・ベネセの事を思い出して、思わず呟いた。

 カルーラは首を左右に振った。


『違う。どっちかと言うと、この原因は帆装(はんそう)派側にある』

帆装(はんそう)派側に? 帆装(はんそう)派の方が勝っているんじゃないんですの?』


 カルーラの説明によると、帆装(はんそう)派の中で、ベネセ家への対処を巡って意見が割れているそうだ。


『サルート家はベネセ家に報復をしたがっている。ハレトニェート家は帝国に対しての備えとして、これ以上ベネセ領に被害を出したくないみたい』


 なる程。

 ベネセ家が王城でクーデターを起こした時、サルート家は当主を含めて多くの犠牲者を出している。

 そんなサルート家の者達がベネセ家に対して復讐しようとしたがるのは当然だ。

 それに対して、ハレトニェート家はベネセ家と同じ戦車派。今回は敵味方に分かれてしまったが、一緒に帝国と戦った者達も大勢いるだろう。

 それにもし、ベネセ家が潰れてしまうような事があれば、残される戦車派は自分達とバルム家の二つになってしまう。

 そのバルム家は水運商ギルドの悪辣な仕手筋、ジャネタお婆ちゃんによって、領地の経済を自力回復不可能なレベルでボロボロにされている。(第十一章 王朝内乱編 『その6 X-DAY』参照)

 つまり、ハレトニェート家は、このままベネセ家がなくなると、実質自分達だけで帝国に備えなければならなくなってしまうのである。

 このサルート家とハレトニェート家の方針の違いに、他の六大部族、ベルキレト家とアクセム家が絡み、足並みが乱れているのだそうだ。

 ティトゥは呆れ顔になった。


『世界の危機がそこまで近付いているというのに、人間同士で、しかも味方同士で仲たがいをしているなんてどうかしてますわ』


 まあ、ティトゥの気持ちも分からないではないけど、人間ってそういう物だから、仕方がないと思うよ。

 ティトゥは『人間というのは、ホントにどうしようもないですわね』とため息をついた。


『いっそハヤテが全人間の王になったら、こんなバカな事もなくなるのに』

「いや、何言ってんの君。僕が国王になるとかあり得ないから」


 確かに、異世界転生作品では、チート主人公がその世界で領主になったり、国を興して王様になったりするけど、あれはあくまでもフィクションだから。

 僕は物語の主人公じゃないし、現実はそんなに簡単じゃないから。そもそもこんな謎存在に従う国民なんていないから。


『ナカジマ領の者達なら従いますわ! むしろハヤテに領主になって貰いたいですわ!』

「いや、それって君が自分の仕事を僕に押し付けたいだけだろ。そんな話、オットーとユリウスさんが許す訳ないからね」


 ティトゥの現実逃避はさておき。

 やはり現状ではベネセ領に近付くのは止めておいた方が良さそうだ。


『それで言うなら、王城だって危ないですわ。あそこは今、サルート家が治めているんですわよ』

「確かにそうだね・・・このまま直接、王城に行くのはちょっと危ないかな」

『だったら実家(うち)に来る?』


 ふむ、一度カルーラの実家にお世話になるのもいいか。

 安全な拠点を確保した上で、水運商ギルドのジャネタお婆ちゃんなりルボルトさんなりに連絡を取って、王城への口利きを頼んだ方が問題がなさそうだ。


「じゃあそれで行こうか。カルーラ、お願い出来る?」

『よろしくってよ』

『あっ! 今のってハヤテの物真似ですわね?!』

『言い方が良く似てました!』


 カルーラの軽いおふざけに、ティトゥとカーチャがキャッキャと喜んだ。

 そんな訳で、僕達は予定を変更。再び砂漠のオアシスの町ステージへと向かう事にしたのであった。

次回「オアシスの町での再会」

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― 新着の感想 ―
[一言] 馬車で思い出したけど異世界物でお馴染みの馬車のショック対策にサスペンションの商品化も良いかもしれませんね、国を作るのは良いけど実際は優秀な部下がいても身を粉にして働いても報われない魔王や魔族…
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