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その14 クリオーネ島飛行計画

◇◇◇◇◇◇◇


 屋敷を抜け出し、乗合馬車に乗った時には疲労困憊だった。

 幸い親衛隊が屋敷を出る際のゴタゴタに紛れて抜け出すことが出来たが、一歩間違えれば成功しない賭けのようなモノだった。

 マリエッタ王女は今はメイド姿で特徴的な銀色の髪も帽子で隠している。

 メイドが屋敷を出る際に帽子を被るのは良くある事だ。

 とはいうものの誰かに見咎められて帽子を取るように言われたら一巻の終わりだった。

 騎士団のアダム班長はこっそりと安堵の息を吐いた。

 隣に座るビビアナ。

 馬車は王都の門へと走る。


◇◇◇◇◇◇◇


『ハヤテさん! どうか私を乗せて飛んで下さい!』


 息を切らせながら走りこんできたのはマリエッタ王女だった。

 いつものようにメイド服を着ている。

 続いて騎士団の髭班長、じゃなかったアダム班長と侍女のビビアナさんが続いた。

 一気にテントの中の人口密度が倍になったな。

 おっと、今はそんなことを考えている場合じゃなかった。


『マリエッタ様、どうされたんですか?!』


 ティトゥが慌てて立ち上がった。

 騎士団のカトカ女史が鋭く入り口を注視した。

 王女の様子に追手を警戒したのか? まさか騎士団演習所にまで入って来るとも思えないけど・・・

 カトカ女史は素早く入り口に向かうと顔だけ覗かせて外の様子を窺った。

 その途端走り去る複数の男達。

 はっ。まさか追手が?!


 ・・・いや、あれは騎士団の人達だね。見覚えがあるし。

 どうやら三人の剣幕に何事かと様子を見に来ただけのようだ。

 カトカ女史はため息をつくとそのまま入り口で見張りを続けることにしたようだ。


『叔母上ですか?』


 おっと、マリエッタ王女とティトゥの話が進んでいるようだ。


『はい。叔母様ならこの事態を収める知恵を授けてくれると思います』


 マリエッタ王女の叔母。母親の兄の妻はこのミロスラフ王国の王家の出だそうだ。

 後で知った話も交えて説明すると、彼女は元々はこの国の第一王女だったんだそうだ。

 もっとも正妃の子ではなく、前国王――パンチラ元王子のパパが若かりし頃やんちゃをしてこさえてしまった、いわゆる落とし子らしい。

 そのこと自体も問題があると言えばあるのだが、この時は幸い子供が女だったのでまだなんとかなった。

 ところが、前国王はこのことが認められたことで調子に乗ってしまったのだろう。

 公の場で若かりし頃の男女の武勇伝を認める発言をしたもんだからさあ大変。

 王城には「我が子こそは第一王子である」と称する女性が次々と現れるようになったのだ。

 それが本当に過去に国王とチョメチョメしたことのある女性だったりするもんだから話がややこしい。

 子供の歳と国王がアレした年の相互関係を調べたり、相手の女性の男性関係を調べたり、と、ユリウス宰相は大変な苦労をさせられたらしい。

 前国王の話はこんなのばっかりなんだそうな。

 はたで聞いてる分には面白いけど、当事者としてはたまらないよね。

 それはそうだろう。僕だって、もし自分の勤めている会社の社長がこんなにやんちゃだったらイヤだと思うし。


 まあ、そんなこんなで結局、正式に王の子として認められたのはマリエッタ王女の叔母さんだけとなったそうだ。

 名前をラダさんと言う。

 本当は王族に入った時にもっと立派な名前をもらったそうだが、臣籍降下して他国に嫁に行った際に母親からもらった名前に戻したんだそうだ。



 それから数年後。ランピーニ聖国のレブロン伯爵の長男が、船で遊覧していた時に海賊に捕まってしまうという事件が起こった。

 実家に身代金の要求が来たことでそのことが判明して、レブロン伯爵家はハチの巣をつついたような大騒ぎになった。

 その時はまだ第一王女だったラダさんが、たまたまランピーニ聖国に訪れていた。

 彼女は勇敢にも自ら先頭に立って海賊の本拠地へと乗り込んだ。

 最後は海賊の頭との一騎打ちを制し、無事にレブロン伯爵の長男を助け出すことに成功したのだ。

 その時のラダさんの凛々しい姿に惚れたレブロン伯爵の長男はラダさんに求婚。

 なんだかんだあって二人はめでたく結ばれたということだ。


 いや、いい話だけど、これって男女の役割が逆じゃない?


 ラダさんはそんな豪快な性格だったので、ミロスラフ王国の王家の人は今でも彼女に頭が上がらないのだそうだ。

 向かうところ敵なしに見える将ちゃんことカミル将軍も、彼女の声が聞こえただけで走って逃げだすほどらしい。

 一説によると彼女を苦手としたユリウス宰相に体よく追い出されたとも言われているそうだ。

 マリエッタ王女の話を聞く限り、夫の方が夫人にべた惚れなのは間違いないので、多分根も葉もない噂なんだろうけどね。


『確かに・・・ラディスラヴァ様ならなんとかしてくれるかもしれませんが・・・』


 ラディスラヴァはラダさんが臣籍降下する前、第一王女だったころの名前だそうだ。

 ラダさんはティトゥも知ってる有名人のようだ。


『はい。そのためにはクリオーネ島へと戻らなければなりません』


 クリオーネ島へは船で4日かかるらしい。

 往復するだけで8日はかかる計算か・・・。

 それでは当然招宴会には間に合わない。

 招宴会の日程が決まったのが10日前だったそうだから、その時に行動を起こしていればひょっとしてギリギリ間に合ったのかもしれないが・・・。


『我々人間の常識だと確かにそうなります。ですが――』

『! そうですわ! ハヤテの力を借りれば!!』


 全員がパッと僕の方を見た。

 え? それってまさか・・・。


『どうでしょうハヤテさん。クリオーネ島まで飛ぶことはできるでしょうか?』


 マリエッタ王女が僕に尋ねた。

 ビビアナさんは祈るように僕を見ている。

 さり気なくアダム班長がビビアナさんの肩に手を乗せているのがすごく気になる。

 二人に何があったんだ?


 いや、そんなことよりマリエッタ王女だ。



 ・・・正直に言おう。行ける気が全くしない。


 

 僕が弱気なんじゃない。冷静に考えた末の結論だ。

 先ず正確な地図が無い。当然GPSなんて無いから自分の位置も分からない。

 そして僕には洋上飛行の経験も航法計算の知識も無い。

 大雑把な方向を頼りにヤマカンで飛ぶしかないのだ。

 そんなのはフライトじゃない。ギャンブルだ。

 陸地沿いならそれでもいいが、もし洋上で島を見つけられずに燃料が切れれば墜落するしかない。


 僕には無理だ。


 僕はどう説明しようか悩んだが結論は出せなかった。

 彼女達に航空機の知識が無い以上、僕の片言の説明で分かってもらえるとは思えない。

 沈黙するしかない自分が情けなかった。


◇◇◇◇◇◇◇


 ハヤテさんは何も返事をしてくれません。

 やはり無理なのでしょうか?

 私の隣ではビビアナが祈るようにハヤテさんを見ています。


 ・・・こんな時になんですけど、アダム班長がビビアナの肩に手を乗せているのが気になりますね。

 二人に何かあったんでしょうか?

 ビビアナは婚約者がいて、年内に結婚する予定だったはずですが・・・

 浮気でしょうか? だとすれば私はどうすればいいんでしょう。

 相談に乗るべきなんでしょうか。


「ハヤテ」


 ティトゥさんがハヤテさんの体を撫でました。


「迷っているのね? なら可能性はあるのよね?」


 ハッとしました。

 確かに、無理なら無理と言えば済む話です。

 それが言えないということは、可能性はあるものの非常に困難ということなんでしょう。

 ティトゥさんはそんなハヤテさんの葛藤が分かっていたのです。


 竜 騎 士(ドラゴンライダー)の絆に私は胸を突かれました。

 私のような仮初ではない、本当の絆が二人にはありました。

 ティトゥさんはハヤテさんに語りかけます。


「私も一緒に行きます。二人ならきっとやれますわ!」


◇◇◇◇◇◇◇


 最悪だー!!


 僕は頭を抱えて蹲りたくなった。

 もちろん四式戦ボディーでそんなことはできないんだけど。

 僕がどう説明すればいいか悩んでいる間にティトゥは自分も行くと結論を出してしまったのだ。


 いやいや、それって犠牲が二人に増えるだけなんだって!


 そう言いたいけど僕には語彙が足りない。

 こんなことならもっと真面目に言葉の勉強をしておくんだった。

 ティトゥの目は真剣だ。

 ・・・でも不思議だ。


 なんだかやれそうな気がしてきた。


 クリオーネ島は島と言ってもかなりの大きさの島らしい。

 あまり詳しくはないが日本で言えば四国くらいの大きさはあるのだろうか?

 だとすればむしろ見逃す可能性の方が低いのかもしれない。

 僕は初めての洋上飛行にネガティブな部分にのみ目がいってしまったのかもしれない。

 冷静に考えたつもりで冷静ではなかった可能性もある。


 ティトゥに触れられた場所から力が流れ込んでくるようだ。

 ひょっとしてこれが竜 騎 士(ドラゴンライダー)の絆パワー!


 はい、そこ、非モテが美少女に頼られてその気になっただけとか言わない。

 分かっていても口には出さない。思いやりの心を持とうよ。


『私も一緒に行きます!』


 何故かマリエッタ王女まで立候補した。

 なんて無茶を。

 ビビアナさんが眼を剥いて主人を見ている。


『ティトゥさんだけでは島にたどり着いても叔母様の屋敷が分かりません!』


 ・・・確かに。もし島が本当に四国くらいの広さがあるなら、ポツンと一軒家を探しあてることは不可能だ。

 そもそも叔母さんの顔も知らないしね。


『それに私だって竜 騎 士(ドラゴンライダー)ですから!』

『はあぁ?!』


 マリエッタ王女の宣言にアダム班長が奇声をあげた。

 ああ、班長は知らなかったのね。そういやそうか。

 あ、ビビアナさんがアダム班長の声に驚いて、肩にのせられたアダム班長の手に気が付いたようだ。すげなく払いのけている。

 結局二人はどういう関係なわけ?

 ティトゥはマリエッタ王女へと振り返った。


『どんな危険が待ち受けているか分かりませんわよ』

『覚悟は決まっています。連れて行って下さい』


 見つめ合う二人。


 え~、何なのこの雰囲気。

 もう二人の中では島に向かうことが決定しているじゃん。


 ・・・分かった。分かりました。飛びますよ。

 無事に二人を乗せてクリオーネ島までたどり着いてみせますよ。


 僕は何だかなし崩し的に二人を乗せて飛ぶことになるのだった。女の子怖い。

次回「ティトゥ、棒を抜け!」

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― 新着の感想 ―
はい、そこ、非モテが美少女に頼られてその気になっただけとか言わない ⬆( ゜∀゜)・∵ブハッ!! 素敵な小説ありがとうございます(((o(*゜▽゜*)o))) 応援してます♡
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