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その11 招宴会の朝

『そんな計画があったなんて・・・』


 マリエッタ第八王女の侍女ビビアナさんは、アダム班長から一連の説明をうけて顔面蒼白になっていた。

 ちなみに昨日、僕は片言の言語をどうにか駆使してアダム班長にティトゥ達への説明をお願いした。

 かなり悩んでいたアダム班長だが、『そうですな。こうなっては頼れる人には頼るべきでしょう』と、最後は渋々納得してテントを去って行った。

 どうやらその足でティトゥ達の泊まっている宿屋に足を運んだようだ。

 仕事の早い男である。僕なら一度頭を冷やすため家に帰って一晩ゆっくり考えるトコロだ。


 事情を聞いたティトゥパパは今もあちこちに連絡を取っているらしい。

 多分ティトゥパパなりに情報の裏付けを取ろうとしているのだろう。

 ティトゥはカーチャとアダム班長を連れて朝早くから僕のテントへとやってきた。

 アダム班長は昨日は遅くまで話し込んだので、そのままティトゥ達の泊まっている宿に泊まったそうだ。

 昨日より顔色も良くなったように見える。

 多分この数日、寝れない夜を過ごしていたのだろう。


 みんなで顔を突き合わせてどうするか相談していたところに丁度ビビアナさんが顔を出した。

 いつもは午後から顔を出すのに今日に限って朝から来るなんて運が良い。

 ――と思ったけど、流石に午後からは招宴会の手伝いをするために今日は朝に来たんだそうだ。

 本当は朝から手伝いたかったが、マリエッタ王女に言われてティトゥ達の様子を見に来たらしい。

 どっちにしろ僕達にとっては好都合だった。



 アダム班長から襲撃計画を聞いたビビアナさんは驚きのあまり言葉を失っていた。

 流石に昨夜話を聞いたティトゥ達は落ち着いている。

 初めて聞いたはずの騎士団のカトカ女史も落ち着いているが、この人は単に話に付いてきていないだけだろう。

 というか、この人って本当にアダム班長と同じ騎士団員なのかね? あまりに二人の反応が違い過ぎるんだけど?


『この話を出来るマリエッタ様の味方はいませんこと?』


 ティトゥがビビアナさんに尋ねた。

 あれ? そういうことになったんだ。

 そういえば昨晩、みんなが宿屋でした相談に僕は加われていない。

 どうやらみんなの間ではそういう方向で話がついたようだ。

 言われてみればその通りだ。何も僕達だけで何とかしなければいけないなんてことはない。

 頼れる人がいるならその人に頼ってしまえば良いのだ。

 それを無理に自分で何とかしようとか考えるから、王女をさらって逃げるしかない、なんて思っちゃうわけだ。

 僕も昨日は大分焦っていたんだな。アダム班長の雰囲気にのまれてしまっていたのかもしれない。


『私には分からないわ。でも姫様なら誰か知っているかも・・・』

『ではマリエッタ様に聞いてもらえませんこと?』


 具体的に取るべき行動が見えたことで、うろたえていたビビアナさんもやや落ち着きを取り戻した。


『その上で私達にも手伝えることがあれば手伝うわ。何でも言って頂戴』


 カーチャとアダム班長が力強く頷く。つられてカトカ女史も頷いた。

 もちろん僕だって手伝うに決まっているさ。


 僕達の励ましを受け、ビビアナさんの顔色が戻った。


『私達はギリギリまでここにいます。それとも宿屋で待機していた方が良いかしら?』

『・・・いえ。ここの方が良いわ。招宴会の会場になるマコフスキー卿のお屋敷からはどちらかといえばここの方が近いの』


 ビビアナさんの話によればマリエッタ王女は、すでに招宴会の準備のためマコフスキーの屋敷に入っているそうだ。

 そしてマコフスキーの屋敷のある貴族街からは王都のあちこちに乗り合いの馬車が走っているらしい。

 それを利用するなら、下手に道の混み合う大通り沿いの宿に行くより王都の外に出る方が早いのだそうだ。

 乗り合い馬車はティトゥパパも利用する結構メジャーな交通機関らしい。

 ちなみに王都に屋敷を持つ上士位は自前の馬車を持っているそうだ。

 そういえばパンチラ元第四王子もド派手な馬車を持ってたっけ。


『そうと決まれば急いで姫様のトコロに戻らないと』

『少々お待ちを』


 アダム班長が走り出そうとするビビアナさんを止めた。


『ココなら予備の騎士団装備があります。私もそれに着替えて一緒に行きましょう』


 少しでも早く戻りたいビビアナさんは一瞬眉をひそめたが、一番事情に詳しいアダム班長から直接説明をしてもらった方が良いと考えたのか文句を言うことはなかった。


『もし、マチェイ嬢に伝えることがあるなら私が連絡役を引き受けますよ』


 アダム班長の言葉にビビアナさんの顔にパッと理解の色が広がった。

 確かに侍女であるビビアナさんが主のそばを頻繁に離れるのは不自然だ。

 今回の件にはマリエッタ王女の周囲の人間が複数絡んでいる。

 彼らに警戒されるような行動は避けた方が良いだろう。


『分かりました。お願いします』

『ではこちらに』


 勝手知ったる騎士団の施設。アダム班長がビビアナさんをエスコートして行った。

 カーチャは心配そうにビビアナさんの後ろ姿を見送っている。


『では私はハヤテのブラッシングをして待っていることにします』

『今日もするんですか?!』


 カーチャが主の言葉に驚いた。ちなみに僕も驚いた。


『どうせ待っている間はすることもないですし。それにハヤテの力が必要になるかもしれませんもの』


 え~~っ。という顔で僕を見るカーチャ。

 いや、そんな顔で僕を見られても困るんだけど。

 僕だって今となっては自分の役割があるとは思ってないし。


 テントに漂う微妙な空気に気が付かないのか無視したのか、ティトゥはいつも通りブラッシング用のブラシを取りに向かうのだった。


◇◇◇◇◇◇◇


 マリエッタ王女の侍女ビビアナが騎士団のアダム班長を伴ってマコフスキー卿の屋敷に到着した時、屋敷内は親衛隊がくまなく警備していた。

 驚きに目を見張るアダム班長。


「ランピーニ王家マリエッタ王女の侍女ビビアナ・ペンスゲンです」

「そちらの騎士団の者は?」


 驚くことにビビアナは平気な顔で身分を告げた。

 ビビアナは最初から屋敷に親衛隊がいることを知っていたのだ。

 予想外の状況に言葉を失うアダム班長。その様子に不信感を抱いたのかアダム班長を鋭く睨む親衛隊の男。


「あ・・・失礼。アダム・クリストフ。王都騎士団乙三班の班長です」


 親衛隊は端切れ(メモ)を取り出すと、書かれていた内容に目を走らせた。

 何を確認したのか親衛隊の態度が軟化したのを感じ、アダム班長は訝し気な表情を浮かべる。

 アダム班長はあずかり知らぬことだが、この端切れ(メモ)はユリウス宰相が調べた、現状で分かる限りの文律派のメンバーの名前が書かれているのだ。

 親衛隊は端切れ(メモ)に書かれた人間は絶対に屋敷に入れないように厳命されていた。

 ユリウス宰相も独自に文律派に対して手を打っていたのだ。


「ここに来た目的は?」

「騎士団団長カミル将軍が公用で本日の招宴会に出られませんので、その連絡とお詫びを告げに」


 ここに来るまでに用意しておいた言い訳をした。

 カミル将軍に案内状が来たことは事実だ。ここに来る前に同僚に確認も取っている。

 すでにお礼と断りの連絡は入っているはずだが、わざわざそれを調べたりはしないとアダム班長はふんでいた。

 しかし、国王の命を預かる親衛隊ともなれば話は別だ。

 念のために調べる、ということもあるかもしれない。

 アダム班長の背中に冷や汗が流れた。


「そうか。武器の類はここに置いていくこと」

「・・・分かりました」


 安堵を声に出さないように、努めて平静に答えた。

 アダム班長は武装を解除すると、かたわらで待っていたビビアナと共に屋敷の廊下を歩いた。


「親衛隊がいるのならそう言っておいて下さいよ」


 アダム班長の口からつい恨み節がこぼれた。

 ビビアナがキョトンとした表情を浮かべた。

 いつもは男を寄せ付けないキツイ雰囲気だが、こういうあどけない表情をすると愛嬌のある美人だと分かる。

 アダム班長は今更ながらビビアナの美貌に見惚れそうになった。

 儚げな女性がアダム班長の好みだが、ビビアナのような美女も好みではある。

 彼はストライクゾーンが広いのだ。

 惚れっぽいとも言う。

 アダム班長はビビアナに見とれていたことを誤魔化すために一つ咳をした。


「親衛隊がいるのなら心配するようなことは無いかもしれません」

「どういうことですか?」


 しかし、アダム班長がビビアナの疑問に答える前にビビアナは扉の前に足を止めた。

 ここがマリエッタ王女に与えられた控えの間だからである。 

次回「切り札(トランプ)

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