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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第十七章 ナカジマ領収穫祭編
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閑話17-3 ハヤブサの秘密

◇◇◇◇◇◇◇◇


 ティトゥ達、ナカジマ家の者達が、住み慣れたコノ村から港町ホマレに建てられた新しい屋敷に引っ越してから約半月。

 最初はバタバタとしていた屋敷内も、今では落ち着きを取り戻していた。

 ハヤテの子供達、二匹のリトルドラゴン。彼らもようやく屋敷の生活にも馴染み、ファル子は相変わらず腕白に、ハヤブサはのんびりと過ごしていた。




『あっ! くそっ! またやられた!』


 裏庭での日向ぼっこ中の事。

 ハヤブサは彼の父親、ハヤテの忌々しそうな声でまどろみから目覚めた。


「ギャーウー?(どうしたの? パパ)」

『あ、ごめんハヤブサ。起こしちゃったかい?』


 ハヤブサの眠そうな声に、ハヤテはバツが悪そうに謝った。

 ハヤブサはお昼寝の定位置――ハヤテの翼の上で小さくパタリと尻尾を振った。


「ギュウ(ううん。別にいいよ)」

「何かあったんですか?」


 二人の会話にメイド服の少女が加わった。ハヤブサとファル子の人間の姉、メイド少女カーチャである。


「ブシュン! ブシュン!」

「ファルコ様。鼻をかんで。はい。チーンして下さい」


 カーチャは顔中を土だらけにしたファル子を抱え上げると、その顔にタオルを当てた。

 ファル子は庭に穴を掘って遊んでいたらしく、鼻に入った土がムズムズするようだ。


「トリ ヤラレタ」

「鳥? やられた? ああ、鳥のフンが落ちたんですね」


 カーチャの言葉に、ハヤブサは首を伸ばして父親の体をザッと見回した。

 しかし、四式戦闘機の巨大な機体に落ちた小さな鳥フンを見つける事は出来なかった。

 あるいは彼の位置からは見えない場所に落ちているのかもしれない。


『屋敷に引っ越して来て静かになったのは良いけど、裏に林があるせいで鳥フンの被害がバカにならないんだよなあ。ホント、あの野鳥共どこかに居なくなってくれないかな』


 ハヤテは怒りを押さえきれないのか、まだブツブツと言っている。


「ギュウー?(パパは鳥がキライ?)」

『ん? そんなの当たり前だろ。毎日毎日、狙ったように人の上にフンを落としやがって。ほっとくと固まって落ち辛くなるし、塗膜を侵食してシミになるしで、誰かアイツらをどうにかして欲しいよ全く』


 余程腹に据えかねているのか、日頃は温厚なハヤテとは思えない程、その口から野鳥に対しての文句がとめどなく流れ続ける。

 カーチャは困った顔をしながら、ファル子の泥を拭った。


「ハヤテ様が何を言っているかは分かりませんが、林の鳥達に怒っているのは分かります。あの鳥に関しては屋敷でも問題になっていますからね」


 ナカジマ家の屋敷は丘の上に建てられている。

 そこから北には小さな林が広がり、更にその先はペツカ山脈に繋がっている。


 今から丁度一年ほど前に行われた”ハヤテ作戦”。

 上空から航空燃料を散布して辺りを焼き払う、という乱暴なこの作戦。

 その結果は立案者のハヤテの予想を大きく超え、湿地帯は一面の焼け野原となってしまった。

 現在、緑は蘇りつつあるが、それでも焼けてしまった木がすぐに生え揃う訳ではない。

 屋敷の北にある林は、この地に残った数少ない林なのである。

 そんな焼け残った林には、現在、住処を焼け出された野鳥が大量に集まっている。

 ある意味、彼らはハヤテの被害者とも言える。

 因果応報。自業自得。

 ハヤテを悩ませている鳥フンは、大自然の破壊者ハヤテに対して、自然の――住処を終われた野鳥達の――復讐なのかもしれない。


『いやいや、そんな大げさな話のはずないから。ただの偶然だから』

「? ハヤテ様?」


 妙な深読みをしてしまったのか、慌てて不安を振り払うハヤテ。そんな彼を不思議そうに見上げるカーチャ。


「集まり過ぎた鳥のせいで、林の木が枯れそうになっているってオットー様も問題にしていました。今度ナカジマ騎士団の人達で鳥を間引きに行く予定だそうですよ」

『へえー、そりゃいい。そうしたら今のフン害も、少しは収まるかもしれないよね』


 連日、野鳥のフンに悩まされ続けていたハヤテは、思わぬ朗報に声を弾ませた。


「キュウ(鳥を殺しちゃうの?)」

「どうしたんですかハヤブサ様? 何か気になる事でもあったんですか?」


 ハヤブサの驚いた様子に、カーチャは不思議そうに尋ねた。


「ギュ、ギュウ(な、何でもない)」

「? そうですか?」

「ギャウギャウ!(カーチャ姉! お水! お水頂戴!)」

「あっはい、ファルコ様。お水ですね。少々お待ちを」


 しかし、ファル子が騒ぎ出したため、それ以上ハヤブサに尋ねる事は出来なかったのだった。




 その日の夕方。

 ナカジマ家の屋敷の軒下に作られた換気口。細いブラインド状の板が並ぶガラリと呼ばれる箇所から、長い首がにゅうっと伸びた。

 トカゲのような頭。緑色の鱗。ハヤブサである。

 ハヤブサはキョロキョロと周囲を見回すと――「ハヤブサ様。そんな所にいたんですね」少女の声にギクリと身をすくめた。

 恐る恐る真下を見下ろすと、そこにはジッとこちらを見上げているメイド少女カーチャの姿があった。


「ギャウー・・・(カーチャ姉・・・)」

「お昼から様子がヘンだったので気になっていたんです。そこに何かあるんですか?」


 カーチャの質問に、ハヤブサは観念した様子で首を垂れたのだった。




 屋敷の使用人が高い梯子に登って、通風孔からガラリを取り外した。


「ああ、ここの板が一部破られていますね。ハヤブサ様がやったんでしょうか?」

「そうなんですの? ハヤブサ」

「・・・ギュウ(・・・僕じゃない)」


 母親であるティトゥの言葉に、ハヤブサは力無く答えた。


 ハヤブサがこの抜け穴を発見したのは、つい先日の事。

 屋根の上に登ろうと飛び上がった時に、偶然、この破れ目を発見したのである。

 そして潜り込んだ屋根裏で、彼は思わぬ遭遇を果たしたのだった。


「ギャウギャウ(その奥に巣を作っている小鳥がやったんだと思う)」


 そう。ガラリの穴から入り込んだ小鳥が、屋根裏に巣を作っていたのである。

 それはハヤブサが今まで見た事の無い珍しい姿をした小鳥だった。


「どうして今まで秘密にしていたんですの?」

「ギュウ・・・(だって・・・)」


 ハヤブサも小鳥の巣の事を父親に――ハヤテに言おうとはしたらしい。

 しかし、連日の鳥フン被害に腹を立てているハヤテを見て、どうにも言い出せなかったのだそうだ。


「言ったらハヤテに巣を壊されて、小鳥が追い出されてしまうと思ったんですのね?」

「・・・ギャウ(・・・うん)」

「そういう事だったんですね」


 ティトゥとカーチャは納得したが、実はハヤブサの考えは少々違う。

 鳥嫌い父親にバレたら、あの小鳥が殺されてしまうんじゃないかと心配したのである。

 実際ハヤテは、ナカジマ騎士団が林の野鳥を間引きに行くと知って、大喜びしていた。

 ずっと小さなコノ村で過ごしていたハヤブサは、「こんなに広い屋敷なんだから、小鳥の一匹くらい住むのを許してやってもいいのに」と考えたのだ。


「ハヤテなら、あなたが頼めば小鳥くらい、きっと飼うのを許してくれますわ」

「ギャウー(そうだといいけど)」


 ハヤブサは、ティトゥ(母親)に言われても信じ切れないのか、不安そうにしている。

 その時、換気口に体を突っ込んでいた使用人が「うわっ!」と大きな声を上げた。


「どうした?! 何があった?!」

「おい、慌てるな! 梯子を踏み外すぞ!」


 急にジタバタと暴れ始めた使用人。

 下で作業を見守っていた者達が慌てる中、換気口の隙間から小さな影がパッと飛び立った。


「ギャウー!(あっ! あれだよママ! 僕が言っていたヘンな小鳥!)」

「小鳥?! けど、あれって――」


 ハヤブサの見つけた珍しい小鳥は、パッと体を大きく広げると、スーっと空中を滑空して庭の木の中に消えたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「屋敷の屋根裏にムササビが巣を作っていたって?」


 翌日。朝からティトゥとカーチャが僕のテントに訪れて、昨日の騒ぎの原因を教えてくれた。

 マジで? 本物のムササビなんて見た事がないんだけど。


『ハヤブサが見つけたんですわ』

「それでそのムササビはどうなったの? 逃げちゃった訳?」

『軒下に巣箱を作って巣をそちらに移したから、そのうち戻って来るかもしれないそうです』


 ああ、確かに。ムササビはネズミやリスの仲間だから、家に巣を作られると柱を食い荒らされちゃうよね。

 しかし本物のムササビかあ。僕も見たかったなあ。

 ちなみに、ハヤブサはムササビの事を変わった姿をした小鳥だと思っていたそうだ。

 えっ? 何でそうなるの? とも思ったが、ハヤブサ達はこう見えても生まれてからまだ半年しか経っていない。

 ムササビを知らなければ、「空を飛ぶ生き物だから鳥」と考えても別におかしくはないだろう。


「ギャウー、ギャウー!(ハヤブサだけズルい! 私もムササビ見たかった!)」


 僕同様、ムササビを見損ねたファル子が、不満げにバサバサと翼をはためかせた。

 昨日、ファル子はその場にいたそうだが、穴掘りに夢中になっている間にムササビが逃げてしまったんだそうだ。

 うん。完全な自業自得だね。

 ハヤブサが僕を見上げて尋ねた。


「ギャーウー(パパ。ムササビを飼ってもいい?)」

『う~ん、相手は野生動物だしなあ。流石に飼うのはダメかな? けど、戻ってきて巣箱を気に行ったら住みつくと思うから、そうしたら離れた場所から観察すればいいと思うよ。僕も見て見たいし』

「ギャウ! ギャウ!(分かった! パパと観察する!)」


 バサバサと嬉しそうに翼をはばたかせるハヤブサ。そして「ギャウ! ギャウ!(私も! 私も観察する!)」と、騒ぐファル子。

 どう見てもファル子はこの場のノリで言ってるだけのような気がする。


「じゃあみんなで一緒に観察しましょう」


 ティトゥは笑顔でハヤブサの頭を撫でたのだった。




 その翌日。いつの間にかムササビは戻ってきて、ちゃんと巣箱に入っていたそうだ。

 どうやら巣箱を気に入ってくれたらしい。

 初めて見たムササビは小さくて可愛かった。

 ちなみに、使用人の中で動物に詳しい者が言うには、ムササビの繁殖期は年に二回。六月と十二月だそうだ。

 元々北の林に住んでいた所を大量の野鳥に住処を追われ、冬の繁殖に備えてこの屋敷に巣を作ったのではないだろうか。との事らしい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 実はなんでもないような話にみせかけてムササビの滑空をヒントにハヤブサが大空に羽ばたけるようになったりしてw
[一言] 再開、お待ちしておりました。 今回は料理の話かと思いきや2話目は鳥の糞害?ムササビの糞? 今回のテーマはなんだろう。この章も楽しみにしています。
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