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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第十七章 ナカジマ領収穫祭編
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閑話17-1 憧れだった執務室

ブックマーク登録者数が1,900件に到達していたので、急遽、閑話を更新する事にしました。

いつもこの小説を読んで頂き、ありがとうございます。

 港町ホマレ。

 今は区画整理されたばかりの、いかにも”新興住宅地”といった光景だけど、いずれはこの国を代表する巨大港町に発展するだろう。

 というか、そうなったらいいな。


 さて、そんなホマレを見下ろす丘に、ティトゥの新居、ナカジマ家の屋敷は鎮座ましましている。

 ――そう聞くと、なんだか偉そうに聞こえるかもしれないけど、実際にティトゥは偉いんだから仕方がない。

 みんなも知っていると思うけど、ティトゥはこのナカジマ領の領主様。

 その上、この国の七大貴族に次ぐ、八人目の列侯でもあるのだ。

 ちなみに、この国の貴族家が数ある中で、直接、列侯の称号を授かっているのはティトゥただ一人である。

 他の上士位当主は、ご先祖様が貰った称号を受け継いでいるだけなのだ。

 ティトゥはそれほど偉い貴族様なのである。

 日頃、代官のオットーやナカジマ家のご意見番、ユリウスさんから叱られて不貞腐れている姿からは想像もできないけど。


 さて。そんな訳で港町ホマレに新たに建てられたティトゥの新居。

 僕達が一年間、すっかり住み慣れたコノ村から、コノ屋敷――じゃなかった、この屋敷に引っ越して今日で五日となる。

 最初は随分とパタバタしていたものの、ようやく屋敷内も落ち着きつつあった。




 僕が屋敷の裏庭で日向ぼっこをしていると、ティトゥがメイド少女カーチャを連れてやって来た。

 足元には二人のリトルドラゴンズ、ファル子とハヤブサがまとわりついている。


「ギャウー、ギャウー(ママ、ママ! 遊んで!)」

『ハイハイ、後でね。御機嫌ようハヤテ』

「御機嫌よう。随分とお疲れみたいだね」


 家が立派になっても、それで仕事が減る訳ではない。

 むしろティトゥとしては息苦しさが増しているようだ。

 それというのも――


『これならハヤテの天幕で仕事をしていた頃の方がマシでしたわ』


 ティトゥはチラリと僕の背後――お馴染みの僕のテントを、恨めしそうに振り返った。

 コノ村にいた時は、ティトゥは主に僕のテントで仕事をしていた。

 その時のメンバーは、テントの家主こと僕。そしてティトゥ。代官のオットーとその部下達、ナカジマ領を運営する官僚達。ここにたまにご意見番としてこの国の元宰相、ユリウスさんが加わる。

 ぶっちゃけ、人数が多過ぎで狭くて仕方がなかったんだけど、コノ村には他に適当な場所がない――要は小さな家しかない以上、仕方がなかったのである。


 そして現在。ティトゥはこの屋敷に引っ越して、自分の執務室で仕事をするようになった。

 メンバーはティトゥとオットー。そしてユリウスさん。

 ティトゥにとっては、”口うるさいトップスリー”の上位二人に囲まれて仕事をしている事になる。(ちなみにトップスリーの三人目はカーチャだ)

 おかげで彼女は連日、息の詰まるような時間を過ごしているのだった。


『どうにかして、もう一度ハヤテの天幕で仕事をするように出来ないかしら』

『ティトゥ様、流石にそれは無理だと思います』


 ティトゥの表情から、彼女が結構本気で考えているのを察したのだろう。メイド少女カーチャがすかさずバッサリ切り捨てた。


『最初は立派な執務室が出来たと喜んでいたじゃないですか』

『――あの時に浮かれていた私をひっぱたいてやりたいですわ』


 君にひっぱたかれたくらいで、聞くようなティトゥとは思えないけど。

 それはさておき。ティトゥの実家のマチェイの屋敷では、当主のティトゥパパは子供達を執務室に入れないようにしていたそうだ。

 そのため、ティトゥは昔から執務室というものに、独特な憧れを感じていたらしい。

 とはいえ、ティトゥパパの気持ちも分からないではないかな?

 多分、彼は執務室を完全に職場と決める事で――家族と切り離す事で――仕事のオンオフを切り替えていたんじゃないだろうか?

 自分の家が職場だと、そういう気苦労もあるよね。きっと。


 さて。この父親の命令に、彼の長女は――ティトゥの姉は素直に従っていたそうだ。

 しかし、ティトゥは「ダメ」と言われればやりたくて仕方がなくなる、困った性格の持ち主だった。

 彼女は手を変え品を変え、何度も執務室に忍び込もうとしては両親に叱られていたという。


 カーチャが僕に振り返った。


『私がマチェイのお屋敷に勤め出して最初の頃、執務室のドアに二つ鍵が付いているのが不思議だったんです。あれってティトゥ様のせいで付けられたんですよね?』

『・・・父がオットーに命じて作らせたのですわ。まだ幼い私の手が届かないような高い場所に鍵を付けておけば、私が部屋に入れないと思ったんですわね』


 ティトゥとしても、今となっては親に迷惑をかけていた、自分のわがままだった、という自覚があるようだ。

 恥ずかしそうに仏頂面でハヤブサをくすぐった。


「ギャウ?! ギャウ! ギャウ!(ええっ?! 何で僕?! くすぐったい! ママ、くすぐったいから!)」

「ギャウー! ギャウー!(私も! 私も!)」


 自分も構って欲しくなったファル子が無理やり頭をねじ込むと、二人はもみくちゃになった。


『はいはい、ケンカしないの。ファルコもくすぐってあげるから』

「ギャウ! ギャウ!(くすぐったい! イヤ、止めて止めて! ママの意地悪!)」

『――いや、あなたがやって欲しいって言ったんじゃないですの』


 流石はファル子、数秒前の事すら忘れているとは。見事な鳥頭である。

 姉に庇ってもらった(?)ハヤブサは、無事にカーチャの後ろに逃れると、彼女のスカートを引っ張った。


「ギャーウ(カーチャ姉。喉が渇いた)」

『そうですわね。カーチャ、私にもお茶を淹れて頂戴』

『かしこまりました』


 カーチャはハヤブサを抱き上げると僕の翼の上に乗せた。

 そして自分はお茶の準備をするために屋敷に戻って行った。


「ギャウ! ギャウ!(私も! 私もパパの翼に乗る!)」


 何でも真似をしたがるファル子は、ティトゥの手から逃れると翼をはためかせた。

 最近ではファル子もハヤブサ同様、ちょっとした高さなら飛び上がれるようになっている。

 彼女は弟のすぐ横に飛び乗った。


「ギャウー(ハヤブサ、あんた邪魔だからあっちの翼に行きなさい)」

「ギャーウー(ええ~。別にいいけど)」


 いいのかい。

 ハヤブサは一旦僕の翼から降りると、隣の翼に飛び乗った。

 そのままゴロンと横になる。


「キュウ(パパの翼、暖かい)」

「ん? ああ、ずっと日向ぼっこしてたからかな?」

「ギュウウ(いいね、日向ぼっこ。僕も日向ぼっこする)」

「ギャウ! ギャウ!(私も! 私も日向ぼっこする!)」

「いや、ファル子には無理だろ。落ち着きないし」

「ギャウ!(するもん!)」


 ファル子は不満げに尻尾で僕の翼を叩いた。

 塗膜に悪いから止めなさい。


「ギャウー(パパ。翼の赤い大きな丸って何?)」

「日の丸マークの事かい? そうだな、何だと思う?」

「ギャウ! ギャウ!(分かった! 擦りむき傷だ!)」


 いや、ファル子。それはない。

 日の丸マークは胴体にもあるのが見えるだろ? それだと僕は全身擦り傷だらけになってしまうじゃないか。どんな腕白坊主なんだ僕は。

 ティトゥが僕を見上げた。


『今まで何となく、そういう模様だと思っていたけど、そう言えばファルコとハヤブサには無いですわね』


 ティトゥに言われて、ファル子達は体をよじって自分の翼を見つめた。


「ギャウー(ホントだ)」

『大人のドラゴンになったら出来るのかもしれませんわね』

「ギャーウー(ええ~っ)」


 こら、ファル子。何だそのイヤそうな声は。

 日の丸に何か不満でもあるのか? 日出る国(ひいずるくに)のマークだぞ。シンプルでカッコいいじゃないか。


 ここでカーチャがお茶の道具を持って戻って来た。

 ファル子はパッと跳ね起きると、翼の上から飛び降りる。


「ギャウー! ギャウー!(カーチャ姉! おやつ! おやつは?!)」

『きゃっ! ファルコ様、お茶の道具を持っている時は飛びつかないで下さいって、いつも言ってますよね!』


 まあ、ファル子がのんびり日向ぼっこなんて出来るはずないと思っていたけど。

 そしてゴメンねカーチャ。ウチの娘がいつも迷惑かけます。


 僕は落ち着きのないファル子を見ているうちに、ふとさっき二人から聞いたばかりの話を思い出した。


(多分、ティトゥの小さな頃はこんな感じだったんだろうなあ)


 その瞬間、僕の想像の中では、今のファル子の姿は小さなティトゥの姿に完全に重なっていた。

 ていうか、違和感なさすぎなんだけど。怖いぐらいハマってるんだけど。

 今度、昔のティトゥを知ってる人に――例えばオットーあたりにでも聞いてみようかな?


『ハヤテ』


 おっと、いけない。

 僕の良からぬ考えを敏感に感じ取ったらしく、ティトゥが不機嫌そうな顔で僕をジッと睨んでいた。


『サヨウデゴザイマスカ』

『あなたはいつもそう言って――はあ。まあ別にいいですわ』


 ティトゥはため息を一つついた。


『今はそんな事よりも、少しでも息抜きに集中しておきたいもの』


 息抜きに集中するって。

 おかしな表現だとは思うけど、まあ、言いたい事は伝わらないでもないかな。

 ティトゥはしばらくの間、僕と話をしながらお茶を飲んでいたが、やがてオットーの部下が呼びに来ると、力の無い足取りで屋敷に戻って行った。


「ギャウー(ママ可哀想)」


 そんな彼女の小さな背中を見て、ハヤブサは心配そうな声で呟いた。

 カーチャは優しくハヤブサの背中を撫でた。


『ティトゥ様が戻って来たら、お二人で慰めてあげて下さいね』

「ギュー、ギュー(カーチャ姉、分かった。ママを慰める)」

「ギャウー! ギャウー!(カーチャ姉! 私も! 私も撫でて!)」


 カーチャの言葉に頷くハヤブサ。

 そして相変わらず構って貰いたがりのファル子。この子はこれで大丈夫なんだろうか?


 ちなみにこの後、ティトゥはオットーを相手に懸命な説得を行い、『流石にハヤテ様の天幕で仕事をする訳にはいきませんが、我々の仕事場も部下のいる大部屋に移しましょう』との言葉を引き出す事に成功したんだそうだ。

 こうして彼女の心労は幾分か軽減される事になるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大人になったら自然と翼に赤い丸印が浮かび上がってくる……蒙古斑みたいですね。
[一言] めちゃくちゃ面白くてこの4日間、寝るまも惜しんで読み進めてました!ようやく最新話に辿り着きましたがこれからも楽しみです いじられカーチャが可愛すぎる
[良い点] おめでとうございます!
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