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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第十七章 ナカジマ領収穫祭編
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その14 委員長

 やる気を見せてくれているティトゥのためにも、少しでも多くのチームがドラゴン(カップ)に参加して、盛り上げてくれますように。


 そんな事を思っていた頃が僕にもありました。

 綱引き大会ことドラゴン(カップ)は、僕の想像を超えた高い反響があった。

 特に盛り上がったのはナカジマ領唯一の町、ポルペツカ。

 参加希望者が殺到し、急遽ポルペツカだけで予選が行われるようになった。

 単純に町の人数が多い、という事もあるが、僕はこの世界の娯楽の少なさを甘く見ていたようである。


「参加チーム数を考慮して、ポルペツカからは上位二チームを本戦出場枠にしようか」

『――と、言ってますわ』

『分かりました。各村ですが、参加希望チームはこのようになっております』

「こうして見ると結構バラつきがあるんだね」

『――と、言ってますわ』

『王都など、他からナカジマ領に来る者達も増えましたからね。程よい距離にある村は、旅人の宿泊も増え、かなり発展していますから』

「なる程。村の規模に差が出来始めているのか。そのうち町になる村もあるかもしれないね」


 僕達が何をしているかって? ドラゴン(カップ)運営委員会の打ち合わせだよ。

 僕が思い付きで始めた綱引き大会ことドラゴン(カップ)

 実際に動いてくれているのはオットーの部下達だけど、なんと発案者の僕がトップとして祭り上げられてしまったのだ。


『ドラゴン(カップ)なのに、ハヤテがやらないでどうするんですの』


 とはティトゥの言葉だが、いやいや、ドラゴン(カップ)って名前にしたのは君だよね。

 なんでそれで僕がトップに立たないといけない訳?

 ところが意外な事に、このティトゥの発案はオットーの部下達にも好評だったのだ。


『すみませんハヤテ様。ハヤテ様のお名前で我々が助かっているのも事実ですので』


 急遽(というか思い付きで)開催が決定された、このドラゴン(カップ)

 オットーの部下達も頑張ってくれているが、色々と足りていない所や、関係各所への連絡不足、不備なんかも多いらしい。

 しかし、僕が主催という事で、表立って大きな文句は言い辛い空気になっているそうだ。

 要は「ガバガバだけど、ドラゴンに文句を言っても・・・」みたいな感じなのだろう。


 だったら・・・仕方がない、のか?

 むしろ、僕の名前でみんなの仕事がスムーズに行くなら、利用してもらうべきなのでは?


 といった訳で、僕はドラゴン(カップ)運営委員会を発足。その委員長に就任したのであった。

 ちなみにティトゥは副委員長兼、僕の通訳係である。


「多分、各村の代表はナカジマ騎士団で占められちゃうだろうな。それだと本戦がナカジマ騎士団だらけになって、実質、ナカジマ騎士団のナンバーワンを決める大会になりそうだし・・・。よし、各村の代表チームだけで二次予選を開く事にしよう。村全部で本戦出場枠はひとつで」


 ナカジマ領には八つの村があるが、各村ごとに出場枠を与えてしまうと、本戦の枠を八つもナカジマ騎士団が埋めてしまいかねない。ていうか、多分そうなる。

 それにあまり予選通過枠が多いと、一日では全ての試合が終わらないかもしれない。

 少し出場枠を絞っておこう。


「本戦はシード枠でトマスのオルサーク騎士団チームとバルトニク騎士団チーム。予選突破枠としてポルペツカの町から二チーム。コノ村とアノ村を合わせて一チーム。港町ホマレから一チーム。宿舎団地から一チーム。各村を合わせて一チームの、合計八チーム。丁度、二つのリーグに分かれてトーナメント戦が出来る数になったな」


 六試合(ゲーム)プラス決勝戦と三位決定戦。これなら、多すぎもなく適当な数なんじゃない? やってみないと分からないけど。

 本戦開催日はまた後日、正式発表するという事で。


『――と、言ってますわ』

『分かりました。各所にはそのように連絡致します』


 よろしく。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 こうしてドラゴン(カップ)の概要が告知された。

 ハヤテ的には、あくまでも収穫祭を盛り上げるための企画のひとつ――領民参加型のイベントのつもりだった。

 しかし、彼は知らなかった。

 実はこの国ではこういった催しは初めての試みだったのである。


 あえて似たような物を挙げるならば、騎士団の総合演習や王城で開催される武術大会があるだろうか?

 しかし、そのどちらも根本に根差しているのは”騎士団の武力の誇示”であり、”国威高揚”であり、ドラゴン(カップ)とは明確に目的が異なっている。


 ハヤテの思い付きは、この国で初めて行われたスポーツイベントとなったのである。

 この国初のスポーツイベント(※まだこの世界にそのような言葉は存在していないが)。しかも主催者があのドラゴン・ハヤテとあって、領民の注目度は非常に高かった。

 更にハヤテは、「誰にでも分かる」ルールと大会の仕組みを告知していた。

 ハヤテとしては「大会ならルールが必要だろう」と考え、発表しただけに過ぎない。しかし、これもこの世界では異質なものであった。

 この世界でルールというのは――特に勝敗に関わる部分は――曖昧に作られるのが当たり前。

 貴族や豪商など、権力を持つ者達の利害や面子で、白い物も黒くなるなど珍しい事ではなかった。

 要はどんなに勝負の行方が明らかでも、負けている方が地位も立場もあればそちらが勝ちと言えるように、最初からルールに織り込まれている――ないしはルール自体を明らかにしない事が多かったのである。


 しかし、ハヤテの決めたルールは誰の目から見ても単純明快。誤魔化しの効かないものだった。

 これでは仮に騎士団チームが平民のチームに敗れても、判定を覆す事などは出来ないだろう。

 そもそも、この大会を主催しているのはドラゴン・ハヤテである。

 人間の権力や武力ごときが、ドラゴンに通じるとは思えない。

 権力者の力に勝敗が左右されない大会。これほど公平な大会は他に無いだろう。

 そういった意味でも、ドラゴン(カップ)はこの国で――いや、この世界でも――初めて開催される真のスポーツ大会だったのである。


 こうして参加の申し込みが殺到――という程ではないが、なかなかの数が集まり、各地では大会の話題で持ちきりになった。


『やはり本命はナカジマ騎士団のコノ村チームだろう。日頃ご当主様をお守りしているんだ。メンツにかけても負けられないはずだぜ』

『いやいや、ポルペツカの商業区には有名な力自慢がいるんだ。あいつの腕の太さを知ってるか? 女の腰くらいあるんだぜ。本当だって』

『宿舎団地の衛兵隊を忘れちゃいけない。あそこの隊長は先日、隣国ゾルタの騎士団を取り押さえた凄腕なんだぞ』


 各チームの情報が飛び交い、あちこちで優勝チームの予想が行われた。一部では賭け事も行われていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


 どうやらドラゴン(カップ)の勝敗が賭け事の対象になっているらしい。


「ナカジマ家主導でトトカルチョとかやったら儲かったかもね」

『ととかるちょ、ですの?』


 おっと、考えがうっかり口に出ていたようだ。

 僕の言葉にティトゥが食い付いてしまった。


「トトカルチョはイタリアって国のサッカー賭博――試合の勝敗を予想する賭けの事だよ。けど、自分で言っといてなんだけど、せっかくのお祭りなんだから、賭けの対象なんかにしないで純粋に勝ち負けを楽しんでほしいかな」

『そうですわね』


 賭けが悪いとは言わないけど、あまり熱くなられても困る。

 それにお金がかかるとどうしても不正を行う者達が出て来てしまう。

 さっき説明したトトカルチョ。イタリアサッカー界でも八百長疑惑が明るみに出て大問題にまで発展した事がある。

 大人気リーグ、セリエAのスキャンダルとあって、当時は日本でも結構ニュースに取り上げられていたから、覚えている人もいるんじゃないかな?

 発覚したのは2006年。この事件は、イタリアサッカー界の超名門クラブ、ユヴェントスが、イタリアサッカー連盟や審判協会を買収、圧力を掛け、自分達に有利な判定を行うように指示していたというものだ。

 ユヴェントス以外にも、ACミラン等、複数のクラブが同様の工作を行っていたそうだ。

 その結果、多くの関係者が辞任に追い込まれ、ユヴェントスもセリエAからセリエC1へ降格。他の関連チームも勝ち点を奪われたり下部リーグに降格させられたりしたそうだ。

 この騒動で実力のあるスター選手の多くが国外に去り、イタリアサッカー界はかつての輝きを失い、低迷の時期に入る事となった。


 いやまあ、たかが綱引き大会にこんな例えを持ち出すのも大袈裟だとは思うけど、要は、遊びの範疇を超えたお金が動くのは危ないよ、と言いたかった訳だ。

 まあ、こんなのは僕が心配しなくても、代官のオットーやナカジマ家のご意見番、元宰相のユリウスさんにお任せしておけば問題無いんだろうけどさ。




 そんなこんなで、あっという間に日にちは過ぎ、いよいよ明日は収穫祭当日。

 この数日、ティトゥはそわそわしどうしで、仕事もロクに手に付かない有様だった。

 ユリウスさんは怒るし、オットーは悲しむし、カーチャは呆れるしで、パートナーとしてはハラハラし通しだったよ。

 ティトゥに憧れを抱いているトマスの婚約者リーリアも、急にポンコツ化したティトゥに戸惑いを隠せない様子だった。

 まあ、そんなダメダメなティトゥも今日まで。

 さすがに収穫祭が終われば落ち着きを取り戻すだろう。

 というか、取り戻してもらわないとオットーに気の毒過ぎる。

 ちなみにそのオットーだが、ナカジマ家使用人チームを率いてドラゴン(カップ)に参加の予定だ。


『コノ村騎士団チームには負けても、アノ村漁師チームには勝ちたいですね』


 などと、普段は見せない闘志をみなぎらせていた。

 まあアノ村漁師チームを率いているのは、村長のロマ爺さんだからね。

 オットーとしても、老人の混じったチームには負けられないのだろう。


『あなたももう若くないんだから、ムリはしないでね』


 オットーの奥さんが、やる気に溢れる旦那さんに困り顔になっている。

 そうそう。つい先日、オットーの奥さんがマチェイからコノ村に引っ越して来たのだ。

 前々からティトゥパパに『そろそろ奥さんをそちらに呼んだらどうだ?』と打診されていたらしい。

 代官の仕事も、ユリウスさんが手伝ってくれるようになってから、以前のような殺人的なスケジュールではなくなっているからね。

 ようやくオットーも奥さんを呼ぶ余裕が出来たのだろう。

 ちなみに彼の息子、エリアスは、ティトゥの実家マチェイ家の家令となるべく、一人であちらに残って頑張っている。

 僕の感覚ではまだ働くような年齢じゃないと思うんだけど、ティトゥのメイド少女カーチャなんて、まだ中学生くらいなのに立派に働いているしね。

 こういう時、現代日本の常識をこっちの事情に当てはめるのは良くない、と思いはするんだけど・・・。

 未だにちょっと割り切れない部分だ。


 そんな訳で、明日はいよいよ収穫祭。

 そしてドラゴン(カップ)の開催日だ。

次回「予選始まる」

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― 新着の感想 ―
[一言] >>この世界の娯楽の少なさ ここは現代文化の娯楽チートの時間ですな! ……身振り手振り無しの言葉だけで伝えられる娯楽って割と難しいですね。 >>白い物も黒くなる オセロ広めなきゃ……。(違…
[一言] 8村か……これは「やきう」を普及させねばな!
[一言] 観光の目玉として綱引きに続いてサッカーを根付かせて行くのも良さそうですね、用意する物のハードルが低いですし
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