表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第十七章 ナカジマ領収穫祭編
534/785

その9 トマスの悩み

 宿舎団地で起こった騎士団同士の小競り合い。

 僕達が駆け付けた時には、既に事態は終息していた。

 事情を聞いたティトゥは、今回の騒動の関係者を連れて来るように命じた。


 といった訳で、僕らがボンヤリと待っていると、新街道を馬に乗った一団がやって来た。

 コノ村から増援に来たナカジマ騎士団員達である。

 彼らが僕の前で停まると、一団の中から二頭の馬が進み出た。

 乗っているのは大人と子供。はた目には親子のような二人だが、一人は隣国の貴族のトマス。もう一人はナカジマ家の代官のオットーである。

 ティトゥが二人に声をかけた。


『意外と遅かったですわね』

『事情を聞いていましたので』


 代官のオットーが言うには、僕が飛び立った直後に、連絡の騎士が駆け込んで来たそうだ。

 丁度、僕らと入れ違いになった訳ね。

 オットーは追加の詳しい事情を聞いていたため、出発が遅れたそうである。


『しかし、そのおかげで大体の事情は分かっているつもりです。なんにせよ大事に至らずに幸いでした』

『そうですわね』


 ティトゥは面倒な説明が省けて喜んでいるようだ。

 トマスは馬を降りるとティトゥに深々と頭を下げた。


『我々の騎士団員がご迷惑をおかけして、誠に申し訳ありませんでした』

『問題を起こしたのはバルトニク家の騎士団で、オルサーク家の騎士団員は止めようとしていたと聞いてますわ』

『それでも、リーリアの実家の騎士団がやった事ですから』


 リーリアはトマスの婚約者だ。彼は婚約者の騎士団の不始末に責任を感じているようだ。

 トマスは悔しそうに顔を伏せた。


『こんな事になるなら、リーリアの同行を許可すべきではなかった』

『・・・トマスのせいではありませんわ』


 トマスは今回の出来事を相当に重く受け止めている様子である。

 ティトゥの言葉も、彼には慰めにならなかったようだ。


 重苦しい沈黙が漂う中、宿舎団地の方から男達の一団が歩いて来た。

 今回の騒動の当事者達である。

 こうして見た所、大きなケガをしている者はいないようだ。

 剣を抜いて切り合ったと聞いていたので、その点はやや意外だった。

 彼らを呼びに行っていたナカジマ家の騎士団員が走って来ると、ティトゥに報告した。


『ご命令通り、今回の騒ぎに関係した者達を連れて参りました!』

『ご苦労様でしたわ』


 ティトゥは僕の操縦席の上で仁王立ちになると彼らを見下ろした。

 周囲は水を打ったように静まり返った。みんながティトゥの言葉を待っている。

 ティトゥは、最初にバルトニク騎士団の方を睨んだ。


『それで? 誰がそちらの責任者なんですの?』




 三人の男達が僕の前に並んでいた。


 一人は、バルトニク騎士団の代表。頬ヒゲの中年騎士。

 もう一人は、彼らと争ったナカジマ騎士団の代表。まだ二十代の若い騎士。

 そして最後の一人は、今回の事態を収めた衛兵隊の隊長。元傭兵団団長、ボルゾイ・ザイラーグ。


『大体の事情は聞きましたわ』

『剣を抜いたのはそちらが先――』

『だから事情は聞いたと言いましたわ。ナカジマ騎士団』

『は、はい』


 ティトゥに睨まれてナカジマ騎士団の若い騎士は背筋を伸ばした。


『あなた方には一先ずコノ村で謹慎を命じます。正式な罰は後程伝えますわ。そしてバルトニク騎士団』


 ティトゥは頬ヒゲの騎士を睨んだ。


『あなた達の処遇はトマスに一任します』

『分かりました、ナカジマ様。では衛兵隊の隊長。ここに彼らを収容できそうな一軒家はありますか?』


 ザイラーグは『いや』とかぶりを振った。


『ここには”団地”しかありません』

『でしたら住人の少ない建物はありませんか? 彼らをそこに収容しておきたいので』

『トマス様! 我々が拘束されてしまえば、誰があなたとリーリア様、そしてあなたの妹君を護衛するのですか?!』


 その瞬間、トマスは怒りで顔を朱に染めた。


『護衛だと?! 護衛という自覚があるのなら、なぜお前達はナカジマ家の騎士団と問題を起こした! お前が俺の護衛と言うなら、俺はなんだ?! お前達のおもり(・・・)か?! オルサーク騎士団もだ! なぜお前達が付いていながら彼らを止めなかった! もしも我々とハヤ――いや、ナカジマ家の関係が悪くなったらどうするつもりだったんだ!』


 おおう。トマスがこんなに怒る事もあるんだな。

 トマスは余程、彼らの軽率な行動が腹に据えかねていたようだ。

 日頃は大人しい少年の激怒する姿に、合同騎士団の団員達は驚きで声も出ないようである。

 とはいえ、小学生くらいの子供がガタイの立派な騎士団員達を怒鳴り付けるというのは、絵面としてはどうなんだろうね。

 正直、ちょっと引いてしまいそうなんだけど。

 身の置き所がなさそうに恥じ入る大人達を見かねたのだろう。代官のオットーが助け船を出した。


『トマス様。幸い互いに負傷者は出なかったようですし、今はそのくらいで』

『・・・オットー殿がそうおっしゃるのなら』


 トマスはまだ言い足りなそうにしながらも、この場は怒りを抑えた。

 そして彼は少し不安そうに僕を見上げた。

 ん? 何?

 あ、そうか。僕じゃなくて、僕の操縦席にいるティトゥを見てたのか。


『それにしても、騎士団同士が剣を抜いて争ったというのに、よく怪我人が出ませんでしたわね。衛兵隊が取り押さえたと聞いていますが、よくやってくれましたわ』


 ティトゥの賛辞に、この場で一番年上の鋭利な印象の騎士――ザイラーグ隊長が小さく頭を下げた。


『ありがたき言葉。幸い、血の気の多い者達の小競り合いを取り押さえるのは慣れていましたので』


 ザイラーグ隊長は、ナカジマ領に来るまでは何年も傭兵団の団長をやっていたそうだ。

 荒くれ者達を纏めていた経験が生きた、といった所だろうか。


『頼もしいですわね。そうですわ。ここにはオットーもいるし、もしも何か褒美が必要ならこの場で言ってみて頂戴』


 ティトゥはしれっとオットーに丸投げするつもりのようだ。


『では美味い聖国酒を頂ければ』


 そう言うとザイラーグ隊長は小さく笑みを浮かべた。


『無理をさせた部下に振る舞うための酒代が浮きます』


 どうやら隊長は今日の騒動の危険手当の代わりに、後で部下に酒を奢るつもりでいたようだ。傭兵団を率いていた時にはいつもそうしていたのだろう。

 オットーは苦笑すると『すぐに届けさせよう』と請け負った。

 同じ部下を持つ上司として、ザイラーグ隊長の言葉に共感するものがあったのかもしれない。

 ティトゥはオットーに振り返った。


『では私とハヤテはこれで帰りますわ。オットー、あなたは残りますの?』

『いえ、私もコノ村に戻ります。仕事も残っていますし、彼らの処遇をユリウス様と相談しなければいけませんので。隊長。彼らは君に任せる。コノ村まで引率してくれ』

『はっ!』

『そう。トマスはどうしますの?』

『私もオットー殿とご一緒します。事の次第をリーリアに伝えなければなりませんので。その後で、彼女と共にまたここに来る事になると思います』

『そうですか。ならばその時はこちらから護衛を出しましょう』

『よろしくお願いします』


 てな感じで話も終わり、僕達は帰る事になった。

 ティトゥは周囲の野次馬達に声をかけた。


『みんな前を開けて頂戴! ハヤテが飛び立てませんわ!』

『ハヤテ?』

「どうも。ハヤテです」

『『『『しゃ、喋った!!』』』』


 僕の言葉に野次馬達は驚きの声を上げた。

 そういや、着陸してから喋ってなかったんだっけ?


◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 ハヤテの姿が秋の空に遠ざかって行った。

 どよめきも収まり、野次馬達が三々五々、散っていく。

 代官のオットーはトマスに振り返った。


「それでは我々も出発しましょうか」

「はい」


 トマスはオットー達と新街道を馬に揺られながら、真剣に考え込んでいた。


(リーリアをナカジマ領に連れて来たのは失敗だったかもしれない)


 トマスはまさかバルトニク騎士団がこんな事件を引き起こすとは想像してもいなかった。


 彼らはハヤテを知らないのだ。

 もし知っていれば、ナカジマ家に対して――ドラゴン・ハヤテに対して――敵対行動など、取ろうと考えるはずはない。

 オルサークの騎士団員は、今年の冬、ナカジマ騎士団と共に帝国軍と戦っている。

 その際に彼らはハヤテの驚異の力の一端をまざまざと見せつけられていた。 


(あるいは俺の勇名――”オルサークの竜軍師”が、彼らを増長させてしまったのかもしれない)


 オルサークの竜軍師はトマスの通り名である。

 トマス本人は、中身の伴わない虚名だと思っているが、子供の自分が大人相手に話をする際、便利に利用しているという面もある。

 バルトニク騎士団員は、自分達が元々は伯爵家の騎士団であったという誇りを持っている。

 そして最近、主人の娘が、あの(・・)オルサークの竜軍師との婚約を発表した。

 彼らの自尊心は際限なく高まり、のぼせ上り、天狗になってしまったのだろう。


(下らない。そんなものは狭い小ゾルタのその一部、ピスカロヴァー伯爵領の中でのささやかな価値でしかない)


 トマスはまだ若い。幼いと言ってもいい。しかし、その分彼は既存の価値観に染まっていなかった。

 彼は大人のように常識の枠に囚われる事無く、ハヤテの力を自分の目で見たままに評価していた。

 トマスはドラゴンという遥かな高みに比べれば、男爵家と伯爵家の格の違いすらどんぐりの背比べに過ぎない、とまで考えていた。


(リーリアとの婚約は早計だったかもしれない)


 婚約するにしても、ピスカロヴァー王国がミロスラフ王国の完全に属国になってから。

 二国間の交流が深まり、貴族達の間にドラゴンの知識と理解度が高まり、その脅威がきちんと浸透してからでも遅くはなかったのではないだろうか?

 いつしかトマスはそんな事まで考えるようになっていた。

次回「ゆるキャンプ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >>互いに負傷者は出なかった >>血の気の多い者達の小競り合いを取り押さえる ザイラーグ流捕縛術って名付けて教導しましょう! 実際、割と需要はある技術ですよネ。
[良い点] トマス君の考えはもっともだけどそれで婚約を考え直すなんて言ったらますますリーリアに (やっぱりトマス様はティトゥ様のことを…) って誤解が酷くなりそうであるw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ