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戦闘機に生まれ変わった僕はお嬢様を乗せ異世界の空を飛ぶ  作者: 元二
第十七章 ナカジマ領収穫祭編
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その1 開通式

 僕はナカジマ家の使用人達によって、自宅兼自室のテントから運び出された。

 最近めっきり冷たくなった外の風が、四式戦闘機ボディーの表面を撫でる。

 代官のオットーが部下に指示を出した。


『よーし、それじゃハヤテ様をそこの荷車に乗せろ。ご当主様が来る前に急ぐんだ』

『ちょっとオットー! 勝手に何をしているんですの!』


 女性の怒鳴り声にオットーが天を仰いだ。

 やって来たのは、陸軍飛行服を再現した服を着たピンクのゆるふわヘアーの美少女。僕の魂の契約者(自称)のティトゥである。


「「ギャウー! ギャウー!(パパ! パパ!)」」


 それと桜色と緑色のリトルドラゴンズ。ファル子とハヤブサ。


『オットー! なぜハヤテを荷車に乗せようとしているんですの?!』


 使用人達は困った顔で一斉にオットーを見つめた。


『・・・ご当主様がハヤテ様に乗って開通式に出るとおっしゃられたからです』

『それの何がいけないんですの?!』

『いや、ダメに決まってるでしょうが!』


 とうとうキレ出すオットー。


『王都や隣のネライ領からも来客が来ているんですよ! それなのにそんな恰好(※航空服)で式に出るつもりですか?!』

『当然ですわ! これは竜 騎 士(ドラゴンライダー)の正装なのですわ!』


 まあうん。オットーの気持ちも分かるよ。

 航空服は正装じゃないから。仕事着だから。

 決してフォーマルな場に着ていくようなものじゃないから。

 ドレスコードに引っかかりまくりだから。


『ご当主様の「ハヤテ様も参加されるべきだ」というご意見は分かりました。なのでハヤテ様には荷馬車で会場に向かって貰います。これはハヤテ様にも納得して頂いておりますので』

「諦めようティトゥ」

『ホラホラ! ハヤテは私と行きたいと言ってますわ!』


 そんな事言ってないし。

 僕の話す日本語はこの世界の人達には通じない。

 とある一件でティトゥには通じるようになったのだが、彼女は周りの人間には相変わらず僕の言葉が理解出来ないのをいいことに、たまに今のように、僕の言葉を自分に都合よく捏造する事があるのだ。


『イッテナイヨ』

『・・・ご当主様』

『ちょっとハヤテ! パートナーを裏切るんですの?!』


 一秒でバレる浅はかなウソに、呆れ顔を隠せないオットー。

 そしてティトゥさん。恥ずかしいのは分かるけど、僕に八つ当たりするのは止めてくれませんかね。

 ちなみにこんな時、ティトゥの暴走を止めてくれそうなナカジマ家のご意見番、この国の元宰相ユリウスさんはこの場にはいない。

 先に現場入りして、来場した賓客達をもてなしているはずである。


『とにかく! ナカジマ家を預かる身として、ご当主様をそんな恰好で来客の前に出す訳にはいきません! 着替えて来て下さい! おい、カーチャ!』


 オットーはティトゥのメイド少女を呼んだ。


『カーチャ! お前が付いていながらなんだ! 早くご当主様の着替えを手伝いなさい!』

『は、はい! ・・・だから言ったじゃないですかティトゥ様。もう諦めましょうよ』

『ぐぬぬぬっ。ハヤテ、オットー、覚えてらっしゃい』


 孤立無援のぐぬぬなティトゥは、小柄なメイド少女に背中を押されながら渋々家に戻って行った。

 やれやれ。

 オットーはファル子達に振り返った。


『ファルコ様達はどうしますか?』

「ギャウギャウ!(パパと行く!)」

『ボクト イクッテ』

『分かりました。後でカーチャに言っておきます。おい、お前達、作業を再開するんだ』


 こうして僕は荷車に乗せられ、ティトゥが出て来るのを待つ事になった。

 ティトゥは王都で着ていた聖国風のドレスに、見事なふくれっ面を乗せて現れた。

 君は子供か。


「ギャウー! ギャウー!(カーチャ姉! カーチャ姉!)」

『ファルコ様、ハヤブサ様、ちょっと落ち着いて下さい』


 ティトゥは馬車に。カーチャはファル子達を連れて僕の操縦席に乗り込んだ。

 こうしてようやく僕達は焼け跡こと、第一次開拓地に向けて出発したのだった。




 僕が一年前に焼き払った湿地帯。当初は辺り一面、どこを見渡しても真っ黒な焼け野原だったが、今では緑が生い茂るふきっ晒しの原っぱになっている。

 そんな広大な原野に一直線に引かれた一本の線。

 現在、我々が通っているこの道こそ、工事が遅れに遅れていた新たな街道。

 今日、これから開通式が行われる、その名も”新街道”である。

 そのまんまだって? こんなのは誰にでも分かりやすい名前でいいんだよ。ティトゥに任せたら、絶対ドラゴンロードとか言い出すに決まってるんだから。


 新街道はナカジマ領唯一の町、ポルペツカからまっすぐドラゴン(ハーバー)まで続いている。

 道幅は大型の馬車が余裕を持ってすれ違えるくらい。


「いずれ交通量が増えるのは分かっているんだから、どうせなら片側二車線の四車線道路にしとけば良かったのに」

『何か言いましたか? ハヤテ様』


 この国ではかなり大きめの街道と言えるが、現代日本の道路事情を知る僕からすれば、若干、物足りない大きさである。

 僕の説明にカーチャは呆れ顔になった。


『そんなに広い道を作ってどうするんですか?』


 いや、日本では「100m道路」というのがあってだね。


 戦後、空襲で焼け野原になった日本では、戦災復興の都市計画が閣議決定された。

 その中ではいずれやって来る車社会に対応するため、主要幹線道路の幅を大都市では50m以上、特に必要な場合、緑地帯と防火帯を合わせた100m幅とする事が定められた。これがいわゆる100m道路だ。

 ちなみに実際の工事はGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)からの横やりが入るなどして、実現したのは名古屋市と広島市の二箇所だけと聞いている。

 僕も昔、友達の原付バイクで名古屋の道路を走った事があるけど、車線の多さにどこを走ればいいか分からなくなったのを覚えているよ。


 ちなみに今日の開通式は、コノ村から馬車で二時間程進んだ先。作業員の住宅地になっているドラゴン宿舎団地(ティトゥ命名)で行われる。

 大量の作業員が寝泊まりする宿舎団地は、今や彼らの懐を当て込んだ食堂や雑貨店、飲み屋から風俗店までが乱立し、ちょっとした町のようになっているらしい。

 ぶっちゃけ、コノ村なんかよりよっぽど賑やかなんだそうだ。

 その分、トラブルもやたらと多いらしく、ティトゥやオットーは団地の治安に頭を悩ませていた。


 ん? 前方から馬に乗った騎士達が現れた。

 鎧の意匠から見てナカジマ騎士団であるのは間違いない。

 彼らは馬から降り、兜を脱ぐと直立して我々の到着を待った。


『ご苦労様ですわ』


 ティトゥは馬車を止めさせると、彼らを労った。

 騎士達のリーダーは鋭利な印象の四十代(アラフォー)男性。

 若い騎士ばかりしかいないナカジマ騎士団の中では珍しいベテランの騎士だ。

 僕はこの高齢の騎士に覚えがあった。


『ご当主様。式典の会場までご案内します』

『お願いしますわ。ええと、ザイラーグ隊長』


 そうそう。ボルゾイ・ザイラーグ。

 彼は元々メルトルナ家の騎士団の団長だったけど、政変に巻き込まれて出奔。

 かつての部下を纏めて傭兵団として、何年もあちこちを渡り歩いていたんだそうだ。

 先日、メルトルナ家当主ブローリーが王家に対して反旗を翻して失脚。前当主でブローリーの父親であるハルクが当主の座に返り咲いた。

 ザイラーグはかつての主人が当主に復帰したのを聞き、晴れて領地に帰ったが騎士団には戻らなかった。いや、戻れなかった。

 ミロスラフ王家に目を付けられるのを警戒した当主が、騎士団の増強を望まなかったためである。

 行くあてを失くした彼は、つい最近、将ちゃんこと、ミロスラフ王国現国王カミルバルトの口利きでナカジマ家を訪れ、無事に再就職を果たした。

 今はかつての経験を買われて宿舎団地の治安維持を任されている。はずだったと思う。


 ザイラーグ隊長は馬にまたがると、サッと手を上げた。

 それを合図に部隊は二つに分かれ、それぞれ我々の左右に付いた。

 ザイラーグは全体が見渡せる殿(しんがり)の位置に付こうとしたのだろう。僕の前まで下がるとそこで馬を止め、ジッと僕の事を見上げた。

 え~と。何でしょうか?

 カーチャは居心地が悪そうにしながら彼を見下ろした。


『あの、ハヤテ様に何か?』

『いや、何も』


 ザイラーグ隊長は僕の横を通り過ぎると、真後ろに付いた。

 ティトゥの馬車が動き始めると、続いて僕の乗る荷馬車も動き出した。

 僕は何となく後ろからの視線を感じて落ち着かなかった。


 ちなみに宿舎団地には無事に到着して、式典自体もつつがなく終了した。

 ティトゥは式典後の挨拶攻めに辟易していた様子だったが、どうにか笑顔が引きつる前に脱出する事に成功していた。

 これで念願の新街道も完成。領内の物流の大動脈が開通した事で、ナカジマ領の開発は今後は益々、急ピッチで進む事になるだろう。

次回「港町ホマレ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ティトウは相変わらずだね…w [一言] まぁ元騎士団長さんも古巣が壊滅する原因になったハヤテに関しては複雑な心境だろうね…。
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